▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『“黄金の騎士”ジャック・J・グリーヴ』
ジャック・J・グリーヴka1305

(……見れば見る程、サオリたんじゃねぇーか……)
 遠い世界の女性を追い駆け続けるジャック・J・グリーヴ(ka1305)の視界の中に、目を瞑ったまま座る一人の女性。物静かにただ座っているはずなのだが、ジャックの目には、それは図書館で静かに本を読み続けるサオリたんのように映った。
 ここは、アルテミス王国支部。先日、発生した事案の事務処理で訪れた訳ではあるが、事務手続きに時間が掛かるという事で案内された応接室に、この先客が居たのだ。
 女性は僅かに顔を挙げて、顔を少し左右に振る。美しい長い髪が微かに揺れた。
「……お迎えの時間でしょうか?」
「あん?」
 女性が唐突に言葉を発した事。その意味が分からない事以上に、女性の声がサオリたんと全然違った事の方がジャックには衝撃的であった。
 先入観とは怖いものだ。長年見慣れた容姿と声、雰囲気が刷り込まれた結果、違和感を覚えるのだろう。これで声も仕草もサオリたんだったらどうなっていただろうか。
「事務処理が終わるまで邪魔するぜ」
「それは……失礼致しました」
 正面に向かって頭を下げる女性。
 しかしそれは、応接室の入口に立つジャックの方向ではない。
「……目が見えないのか」
「はい。ご無礼お掛けします」
「無礼でもなんでもねぇだろ」
 ぶっきらぼうに応えながら、ジャックは女性の正面に回るとソファーに腰を下ろす。
 なるほど……顔の造形は確かにサオリたんである。だが、声や何気ない仕草は、全く別の女性だ。
(――というか、あれだ……見放題だな……)
 女性と真っ向から話すと緊張してしまう性分であるが、不思議と今の状態は普通だった。
 相手がサオリたんに似ているからか、あるいは、自分が見られていないという安心感かは分からないが。
 しかし、ジロジロと生身の女性を眺めるのも、盗み見しているようで恥ずかしくなる。
「あの……」
「ぉ、おぉう」
 ずっと見たいた所に声を掛けられたので慌てるジャック。
 取り繕うように咳払いをすると声のトーンを落として応え直した。
「なんだよ?」
「わ、私……ずっと屋敷で暮らしていたので……屋敷の者以外の……殿方とご一緒なのは、は、初めてで……こういう時、どうすればいいか……」
 不安そうに指先をちょこちょこと動かしながら可愛いなクソが――と内心思いながら、ジャックは女性が見えていないというのに、わざとらしく髪をかき上げてカッコつける。
「こういうのはまずは自己紹介からだ。基本だぜ」
「そうなのですね……私は、ムディアと申します」
「俺様はジャックだ」
 互いに名乗ったのはいいが、そこで話が止まってしまい、訪れる沈黙。
 こういう時、どんな風に切り出すべきか……ジャックは長年に渡る“修行”の記憶を呼び起こした。
(会話のヒントとかあれだ。直前の台詞とかに伏線が張っているパターンが多い。確か……)
「ムディアはこれから迎えが来るのか?」
「はい……色々な都合で屋敷に居られなくなり、これから修道院に……」
 気まずそうな空気に選択を間違えたかとジャックは思ったが、こうなった以上、ここで止める訳にもいかない。
「こんなご時世だ。行ける場所があるだけ、いいんじゃねぇ」
「……そう、ですよね。ジャック様は教会には行かれる事はありますか?」
「俺様は何処にでも行くからな」
「敬虔な信者なのですね」
 女性はニッコリと笑みを浮かべた。きっと、彼女は熱心なエクラ教信者なのだろう。
 もっとも、彼女は一つ勘違いしている。ジャックが教会に足を運ぶのは祈りの為ではなく、商売の為なのだが……。
「ジャック様は、教会以外にも色々な所に行かれるのですか?」
「まぁな。俺様は商人だからよ。東西南北だけじゃねぇ、リアルブルーだって行くぜ」
 何気なしに応えたジャックの台詞にムディアはグッと姿勢を前かがみにする。
 衣服の隙間から見える豊かな双丘がチラっと見えて、思わず視線を逸らすジャック。
「リアルブルーに行かれた事があるのですね! どのような所なのですか?」
「お、おぅ……そうだな……色々と眩しい所だ」
「眩しい……のですか?」
 首を傾げるムディア。
 そういえば彼女は目が見えないと言っていたかとジャックは思い出した。
 どんな風に説明すべきか悩む。
「魔法も火も使わない灯りが普及しているから、昼間でも明るい所がある」
「いつでも明るい場所……それは素敵ですね」
 目が見えない分、感性は良いのだろうか。そんな陳腐な疑問を脳裏に浮かべつつ、ジャックは得意気になって胸を張る。
「そうだろ。俺様はな、この国をリアルブルーよりも輝かせるつもりだ」
「ジャック様なら、きっとできますよ」
「当たり前だ!」
 自信が溢れるばかりのジャックの言葉にムディアは楽しそうに笑った。
 だが、それも束の間、女性は寂し気な表情を浮かべると俯く。
「……私は、ただ、お祈り申し上げておりますね」
「目が見えなくても、出来る事はあるだろう。好きな事とかねぇのか?」
 ジャックからの返しに女性は少し悩み――
「えと……色々な物語の本を、聞くのが好きでした。屋敷の者が時々、語り聞かせてくれて」
 修道院に入ると聞かされるのは限られてくるだろう。
 それこそ大衆が手にするような俗物的な本はまず、置いてないはずだ。
「……だから、やっぱり、私は祈りたいと思います。ただ……ひたすらに」
 天井を仰ぐムディア。
 彼女の瞳は、哀し気な心と共に閉じられたままだ。これから先、一生、開く事はないのだろうか。
 もし、ジャックがこの国を輝かせた時――そんな日が来たとしても、彼女はきっと……。
「だったらよ……てめぇが、描けばいいだろう。物語をよ」
「わ、私がですか!?」
「目が見えなくても、声は出るだろ。誰かに書いて貰えよ。てめぇが思い描いた物語で、誰かを輝かせられるだろ」
 力強く言われた言葉が、ムディアの閉じられた瞼を叩く。
「でも、私は、見えないから。皆様にご迷惑ばかりおかけてして」
「ただ祈るだけでも変わらねぇだろ。なら、やれる事はやってみやがれ」
「……それは商売の秘訣ですか?」
「まぁ、そんなところだ」
 その時、事務処理が終わったようで、ジャックに声が掛かる。
 スッと立ち上がると同時に、ムディアが彼の名を呼んで引き留めた。
「ジャック様……私、実は……少しだけ世界が見えるのです」
「あん?」
「見える……というか、その、光は感じられるのです」
「それは良かったな。じゃぁな」
 立ち去ろうとするジャック。
 しかし、彼女は言葉を紡ぎ続ける。
「ジャック様が部屋に入った時、私、分かったのです。世界が急に明るくなって……その後も、ずっと、ジャック様が太陽のように輝いて……」
「俺様は“黄金の騎士”だからな」
「“黄金”……?」
 宙を探ろうとする彼女の手をジャックは確りと掴む。
 暖かく柔らかい手だった。
「これが“黄金”の光だ。俺様はいつでも輝いているからな。この輝き、忘れんじゃねぇぞ」
「……はい、ジャック様。私、ずっと忘れません。これから、ずっと!」
 赤らめる乙女の顔を正視できず、ジャックは別れの言葉を告げると踵を返す。
 感謝の言葉を背に受けながら、“黄金の騎士”は堂々と歩く。彼の輝かしい日々は止まる事がないのだから。

 後年、ある修道院で多くの童話が生み出される事になった。その中でも代表的な作品である“太陽の騎士”は、病や障害で苦しむ人々に、沢山の輝きと勇気を与えたという。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ギャグに走るか、サオリたんとの甘い日々を描くか悩んだのですが、やっぱり、めちゃくちゃ弩カッコいいジャック様が描きたい!
という事で、自身の欲望()のままに描かせていただきました! 私もジャック様の輝き、忘れません!
輝いていたのは鎧とか、そんなオチも一瞬、考えたのですが、やっぱり、ジャック様自身が輝いているという事で!


この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
おまかせノベル -
赤山優牙 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年05月12日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.