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『もふもふ・パニック!』
不知火 仙火la2785)&不知火 楓la2790


 ※楓と仙火は別々の家で暮らしている設定です。そういう設定です。



 気がつくと俺、不知火 仙火(la2785)は兎になっていた。
 ……何を言っているのかわからない? 安心しろ、俺にも何が起こっているのかさっぱり分からない!
 だが、大学の帰り。雨が降ってきたなー、家に急ごうと思った所までは間違いなく人間だった……と思う。
 家まであと少しという所で急な目眩に襲われて、気がついたら世界が大きくなっていた。
 否。俺が縮んでいた。
 水たまりに映った自分は何処からどう見ても兎で、俺は前脚でピシャピシャと水たまりを波立たせてもその姿が変わることはなかった。
 ――なんでやねん!
 思わず関西弁で裏手ツッコミしてみるが、兎の前脚がズビシィと空を切っただけだった。
「……え? 兎……? 何でこんなところに?」
 聞き覚えのある声が頭上から聞こえ、振り返り見上げれば、幼馴染みの不知火 楓(la2790)がそこに立っていた。
 ……やべぇ。兎の背丈から見上げると楓めっちゃでけぇ。……本人には口が裂けても言えないが。
「野良兎……? いや、まさか。どっかの家から逃げ出しちゃったのかな……?」
 しゃがみ込み、楓はじっと俺を見てくる。
「ほら、おいで。コワクナイヨ」
 手のひらを上に向けて俺に差し出してくる。
 いやいや、怖いよ。楓だって分かってるけど、この、身体の底から湧き上がってくる恐怖心は多分兎の本能的なものだと思う。
 俺は思わず駆け出そうとして……
「あ、こら。良い子にしなきゃダメだよ?」
 ライセンサーならではの素早い動きで両脇の下に手を入れられ、あっさりと抱きかかえられていた。
 ――〜〜〜〜〜〜〜!?
 さらしで抑えられている胸はガッチリと硬い。
 ……いや、期待したわけではない! だって楓だし!!(パニック)
「こら、暴れない。ほら、こんなに濡れて……寒かっただろう? 今家に行くからね?」
 額の中央を撫でられると、ふわぁっと良い気持ちになって思わず力が抜けてしまう。
 それにしても優しい声だ。楓はこんな優しくて心地よい声をしていたのか。
 やわやわと撫でられているうちに、気がついたら楓の部屋へと連れ込まれていたのだった。

「どうしようかな……とりあえずきみが休めるところを準備しないと……」
 わちゃわちゃとタオルで濡れた毛を拭いて貰った後、楓が持って来たのはダンボール。
 そこへ俺をそっと下ろすと、満足そうに頷いた。
「ちょっと色々準備があるから、そこで良い子にしててね?」
 ジャンプすれば飛び越えられそうな気がするが、それよりも現状について考えたくなった俺は大人しくダンボールの隅で丸くなる。
 「もしもし……突然なんだけど、野良兎拾っちゃったんだけどどうしたらいいかわかる?」という声が徐々に遠ざかっていく。

 何故、どうして、どうやったら元に戻れるのかと答えの出ない悩みに苛まされているうちに……気がついたら俺は眠りに落ちていたらしい。
 そっと額を撫でる手の感触に気付いて目を開けると、「あ。起きた」と笑う楓が居た。
「とりあえず、きみの家を借りてきたんだ。気に入ってくれると嬉しいな」
 そういって連れて行かれたのは、兎用ゲージ。……おいおい、誰から借りた、こんなもん。
「本当は元の持ち主探すためにも警察に届け出なきゃ行けないらしいんだけど、とりあえず今日は遅くなったから明日行くよ。しかし、きみ、実際どこから逃げてきたんだい?」
 額から耳の後ろへと撫でられる。あ。だめ。そこめっちゃ気持ちいい……
「この毛艶の良さ……絶対飼われてたんだろ? ……ホント、仙火の髪みたいな綺麗な色だな」
 自分の名前が出たことに吃驚して楓を見る。
「ん? 仙火っていうのはね……僕の……特別な人だよ。きみと同じ色の髪をしているんだ」
 やわらかで優しい声が俺を語るのは、なんだかくすぐったい。
 ……と、突然引き寄せられて、背中に顔を埋められた。
 ――!?
 驚きすぎてジタバタと空中を掻くが、楓はそんな俺の様子は意に介さず、スーハーとか……まさか……匂いを嗅いでる……!? バッ、止めろ! 変態かお前は!? 止めて、止めろ下さい! 恥ずかしい!!
「匂いまで仙火と同じだ」
 ――!?
 ……え、待って。待って下さい楓さん。何? 俺ってば普段から獣臭い感じなんですかね……?
 普段、体臭なんて気にしてなかったが、これは由々しき事態かもしれない。
 俺が衝撃に身を凍らせている間に体臭を存分に堪能したらしい楓は、そっと俺を膝の上に戻し、背を撫でて零した。
「……お日様の匂い。“私”の好きな仙火の匂いだ」
 その声が、あまりにも切なげに聞こえて、俺は動き出すタイミングを見失って撫でられるがままになっていた。

 ご飯だよ、と出されたのは人参とキャベツだった。
「本当は牧草とか食べるんだって? でも流石に牧草はうちにないからね……明日買ってくるから今日はこれで許してくれないかな?」
 そんな。俺がまるで本当に兎になってしまったみたいじゃないか……まぁ、ドウシテモって言うなら、一口ぐらい食べてやらんでもないけどさ。
 とか思いつつ一口囓ったら、これが吃驚するぐらい美味しかった。
 ……え? マジ? 今まで俺が食べてきた人参とかキャベツって何だったの??? ってぐらいマジで美味しい。
「おぉ? 良い食べっぷりだね。まだあるよ? 食べるかい?」
 差し出されたキャベツの葉を黙々と食べる。
「あはは。ホントに、口元可愛いな〜」
 そんな俺の食べっぷりに気をよくしたらしい楓が両目を細めながら俺を見つめている。
 ……その、なんだ。そんなに見ないで欲しい、恥ずかしいから。
「3ヶ月、飼い主が現れなかったら……きみ、僕の子になるかい?」
 そう問われ、俺は思わず楓を見返した。
 ……3ヶ月? もしも人間の姿に戻れなかったら、俺は行方不明ということになるだろう。
 そうなったら家族は、楓はどう思うだろう? ナイトメアの仕業を疑って飛び出して行ってしまいそうな気がする。
 っていうか、俺。何、しれっと兎のままでいる前提で今考えたよ!?
 元に戻る方法を考えなくては。……そうだ、それこそ何らかのナイトメアの仕業とか考えられないだろうか!?
「……おや? もういいのかい? じゃぁ、僕もご飯にしようかな……いいかい? トイレはあっちだからね」
 衝撃に身を凍らせるという体験を一日に二回もすることになるとは思わなかった。
 食欲の失せた俺を優しくゲージ内に入れると、カシャンと棒状の鍵を閉めて楓は去って行った。

 どうしたら良いんだろう。
 どうやったら元に戻れる?
 どうしたら楓に俺が『仙火』だと伝えられるだろう。

 なんとかの考え休むに似たり。
 そんなツッコミの声が聞こえた気がした。
 仕方ないだろ、今、俺の脳みそは兎大しかないんだ。このちっさな脳みそで考えるしかないんだよ!
 ……そんな1人ツッコミにも飽きた頃、俺は気付くと毛繕いを始めていた。
 何て言うか、なる程。毛繕いってこうやるんだなって感じ。慣れてくると気持ちいいところが分かってくるからそこは念入りに撫でる。
「……可愛いなぁ」
 ――!?
 食事を終えたらしい楓がそっと扉の隙間から俺を見ていたらしい。
 吃驚するから、出来れば堂々と見て欲し……いや、それはそれで何やら恥ずかしいのであまり見て欲しくはないが。
「遠慮せずに続けてよ」
 すんげー期待に満ちた眼差しでそう言われましても。俺はゲージの柵に近寄って、“開けて”と扉を前脚でテシテシと叩いた。
「遊んでほしいのかい? 仕方が無いなぁ」
 嬉しそうに近付いて来た楓はTシャツにハーフパンツというラフな格好だった。
 どうやらシャワーを浴びてきた後らしい。石鹸とシャンプーの香りがする。
 鍵を開けて、俺をゲージから取り出した。
「この慣れっぷり……やっぱり飼われていたんだろうなぁ……飼い主さん、今頃心配してるぞ、こら」
 ツン、と俺の眉間を押して小さく笑う。
 身を屈めた楓の、その、普段ならさらしが、無くて、胸元が……っ!?
 慌てて視線を逸らして、とりあえず、招待されてお邪魔したことこそあれど、そう入り浸った事も無い楓の部屋を散策することにする。
 ……兎ビジョンだと、全部がデカイせいか、全部が物珍しいし、もしかしたらどこかに抜け道みたいなものを見つけられるかも知れない。
「おや、“へやんぽ”ってやつかな? いいよ。運動は大事からね」
 楓の視線を感じつつ、俺はぴょこぴょこと部屋の中を歩く。
 しかし、人なら1歩の距離をこの身体だと5回は跳ねないといけない。小さいというのは不便だ。
 俺が部屋の入口側へ行くのを見て、楓がベランダの扉を開け、網戸を閉めた。
「雨は止んだみたいだね。ちょっと空気入れ替えておこうか」
 漂う、外の香り。
 人間より、多分兎の方が嗅覚が優れているんだろう。
 そして風が運ぶ、楓の香り。
 その瞬間、先ほどの胸元がフラッシュバックして、俺は慌てて首を横に振る。
 ――思春期のガキか俺は!! って、世間的にはまだ青春真っ盛りではあったわ、俺! でも相手は楓! 失礼にもほどがあるだろう!?
 俺は俺に幻滅して、とぼとぼとゲージの前へと戻った。
「あれ? もうへやんぽはいいのかい? もう休む?」
 楓は俺の頭を撫でて、そしてゲージを開いてくれたので、俺はその中へと戻る。
「うん、じゃぁ、お休み。ゆっくり休むんだよ?」
 楓に促されて、俺は頷く代わりにドテッと身体を横倒しにして寝る事にした。
 そんな俺を見て、楓は小さく笑うと「本当に仙火みたいだな」と呟いて部屋を出て行った。


 電気の落ちた部屋で、今後のことについて悶々と悩んでいるうちに気がつけば俺は再び眠りに落ちていった。



「って、夢オチかーい!」
 裏手でツッコミを入れたは良いが、壁に勢いよく右の手の甲をぶつけて声も無く身を縮めた。
 いつも通り朝の準備をして家を出る。
 前を歩く楓を見つけて、「おはよ」と声を掛け……
「どうしたんだ? 酷い顔色だぞ……?」
「昨夜、兎を拾ったんだけど……その子が逃げてしまってね……探したんだけど見つけられなくて……」

 全身が硬直したのが分かる。サクヤ、ウサギヲ、ヒロッタ?

 その後、楓がその兎が俺の髪色と同じ毛並みだったとか色々教えてくれたが、俺は多分、楓と同じぐらいの顔色の悪さとなっていて、その殆ど聞いていない。


 ただ一つ。

 ……人間に戻れて良かった……

 その思いだけが切実に俺の胸中を占めたのだった。






━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【la2785/不知火 仙火/男/外見年齢21歳】
【la2790/不知火 楓/女/外見年齢21歳】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。
 楓ちゃんの言動にドキマギする仙火君が見たい一心の犯行です。
 仙火君の前では見せないような、素の楓ちゃんの可愛さを少しでも出せていたらいいなぁ……
 そして仙火君は終始ギャグ仕様で書かせて頂けて楽しかったです。

 またグロリアスドライヴの世界で、もしくはOMCでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。

おまかせノベル -
葉槻 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月12日

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