▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『怪奇と生きる、道』
海原・みなも1252

●干からびたもの
 海原・みなも(1252)は草間・武彦(NPCA001)と共に、不動産屋の物件調査に来ていた。ハードボイルドからほど遠い地道な仕事で、武彦は渋っていたが、色々あって引き受けたのだ。
 すぐに終わる簡単な仕事のはずだった。
「草間さん、干からびた何かがありますね」
 みなもは物件の庭にある小屋の中の隅っこに、大きな物を見つけた。古木のようなそれは衣類をまとっている。
 みなもは確認しようと小屋の奥に入ろうとした。
「あぁ?」
 不機嫌な武彦が返事とともに、小屋の入り口に立ったが、すぐにみなもの肩を引く。
「うああああああ」
 うめき声が聞こえた瞬間、みなもは外に引っ張り出された。
 それは、バネ仕掛けで飛び上がるおもちゃのように、みなものいたところに飛びかかっていた。
 外に引っ張り出されていたみなもだが、手の甲を引っかかれ、痛みを覚えた。
 皮膚が切れ、血が飛ぶ。
 それはたった一滴の血を受け、歓喜にも聞こえる声を上げていた。
 武彦は小屋の扉を閉め、押さえた。扉は中から激しく叩かれている。
「壊す気かっ! 枝、探してこい!」
「え?」
「何でもいい、頑丈で、突き刺せる物だ! 早くしろ」
 みなもは「はいっ」と答えると、庭を走った。
 適宜掃除がされているらしく、頑丈な枝は落ちていない。
 落ちている枝は、みなもが簡単に折れるようなものしかない。それでも、目に付いたものを拾っていく。
「これくらいしかありません」
「しかたがない!」
 武彦が頼りない枝を持った直後、扉が壊され、それが飛び出してきた。
 勢いよく飛び出したそれは、自然と枝に刺さった。
 断末魔を発し、灰色なる。サラリと崩れ落ち、地面に散らばった灰と衣類。
「あれ?」
「ん?」
 みなもと武彦は拍子抜けした。
 武彦は空を見る。薄雲はあるが太陽があった。
「吸血鬼でしょうか?」
 みなもの問いかけに武彦は「そうかもな」と同意する。
 ひからびていたのはエネルギー切れの状態で、突然の襲撃は目の前に食料が来たからだろうか。
「さて、無事討伐したし、小屋を確認して帰るか」
「はい」
 灰が舞い上がった。
「くしゅっ」
 みなもはくしゃみをした。灰は小さくなっていく。
「吸血鬼がいるなんて、この家、何があったんでしょうか」
 みなもの問いかけに、武彦は立ち止まる。
「これは……危険手当……いや、怪奇現……暴漢……」
 ハードボイルドではないつぶやきが武彦から漏れていたけれども、みなもは聞かなかったことにした。

 これで、すべてめでたし、で終わるはずだった。

●まさかの
 武彦と別れ家に帰ったみなもは予兆を感じ取っていた。
 意識遠のくというか、目の前が赤く変化しているようなことが何度かあったのだ。
(これは、病気です!?)
 貧血で倒れる前触れかもと自室に戻ると座る。
 頭がくらくらするし、目の前が赤く点滅する。
 吐き気とかはなく、むしろ、喉が渇いた感覚が強かった。
 熱中症かという思いで、這いずるように台所に行く。
 水道水を飲み、スポーツドリンクを探す。なければどうすればいいのか考える。
(生理的食塩水……えっと、10パーセント? 違います)
 みなもは必死に考えるが、意識が遠のいた。
 すると「ひどい目にあったわっ!」という声を聞いた。
 みなもはどこから聞こえるのかと思った。隣の家や外からか、だろうか。家には自分一人しかいない。
「足りないわ、足りないわよ!」
 みなもは自分の口が動いていると気づいた。
「早よう、人の血を得ねば」
 体は勝手に外に行こうとしている。
「いえいえ、待ってくださいっ! なんで外に行こうとしているんですかっ!」
 思わず突っ込む、自分自身に。
 動きは止まる、自分の体なのだから当たり前であるが、何かが変だ。
「……あれ?」
 声は重ならないが、意識が重なった。
「……我は狩りにいくのじゃ!」
「行かないでください」
 自分の口で会話が成り立つ。
「我は古より生きしモノであり……なんで、我は人間になっているんだー!」
「知りませんよ! 誰です、あなたは」
「我は……はっ、人間! これを食せばよいっ!」
「やめてください!」
 ガブリ、とみなもは手首をかんだ。
 痛かった。
 しかし、痛いだけで、皮膚を食い破るということはなかった。
 みなもはやめてほしいと脳で訴え、みなもの中の何かは噛もうとする。双方の意志により、噛むことはそれ以上なかった。
(まさか、干からびていたものっ!)
「誰が干物じゃ!」
 みなもは強く思ったことが伝わったらしく、某はかむのをやめた。
「干物でないなら何なんです」
 本人の意見を尊重して干物と表現しておく。
「吸血姫じゃ!」
「あ、あー」
 みなもは物件調査のことを思い出す。
 飛び出して、枝に刺さって、日にあたって灰になった物があった。
「えっと、とりあえずこうしてみます」
 みなもは造血してみる。水はあるのだし、血液らしくすることはできるはずだと考えた。
「ふむ、致し方がない」
 みなもの口から洩れた声は大人しくなっていた。どうやらうまく血液は増えたらしく、飢餓は収まったらしい。
 しかし、みなもの体に吸血姫を名乗る存在がいるのはよろしくはない。
 吸血姫にとってもこのままはよろしくはない。
 それぞれがどうしようかと首をひねる。
「そうです! 灰があればもとに戻れるんですよね? 先ほどの様に水を血液の様にしてもとに戻れます?」
「できるぞ」
「灰を取りにいかないといけませんね」
「足下をみよ」
 みなもは足元を見た。そこには影とは別に灰色のものがある。
「ついてきているんですね」
 みなもがくしゃみをしたとき、一部を吸い込んだため、灰はまとまって来ていたらしい。
「便利機能です」
 みなもは自身の血液を元にして、増やして作ったものを灰にかけた。
 まずはちょっと。それではだめで一リットルくらい、二リットルという具合に徐々に増やす。
 たらした元で水の血液は流れていかず、その灰でとどまる。灰が徐々に粉っぽさがなくなり耳たぶくらいの柔らかさのまとまりになる。
 結構な量を掛けたあたりで「ふふふっ、我、ふっかーつっ!」とうれしさを示す声が響いた。灰だった物は人の姿となり動いている。
「ふむ、では、そなたを吸い尽くしてくれようぞ」
 姫は微笑む。
「待ってください! 人間をむやみと襲うのは却下です」
「なぜだ!」
「事件となるからです。またあなたは、干物になるんですか?」
「うっぐ」
「それで、また、飢えて飛び出して、灰になるんですか」
「ああああ」
 姫は頭を抱えた。
 よほど嫌だったんだろうとみなもは思う。
 武彦と戦ったわけでも何もなく、ただ、灰になったに等しい。
 吸血姫はしばらく動かなかった。
「そうだのう、合法的にもらうことにする」
「そうですか」
「ふむ、よろしく頼むぞ」
「はい?」
 先ほどの技術を当てにしているらしい。
「え、えええ?」
 みなもは困惑するが、事件が起こらないならそれでいいのかもしれないと思う。
 異界の物であっても、この世界では共存できるかもしれないのだから。
 その手伝いができれば、素敵なことであると、目の前の人物を見て考えるのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 発注ありがとうございます。
 色々あって情けない吸血鬼になりました。
 いかがでしたでしょうか?
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年05月12日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.