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『そして、時は巡る。命は永久に紡がれる。』
Uisca=S=Amhranka0754

 邪神ファナティックブラッドが倒されて数年が経過。
 その間に様々な出来事があった。
 かつての仲間と再会。別れを経て、また新たなる出会いに恵まれる。
 クリムゾンウェストの地に住む人々は、それを繰り返していく。
 命が尽きる――その時まで。

「遅い。何処で何をやっているんだい」
 辺境の大巫女ディエナ(kz0219)は、一人苛つきを隠せずにいた。
 今日という大事な日にUisca=S=Amhran(ka0754)の姿が見えないのだ。
「大巫女。焦っても仕方ないのではないか?」
 龍園から訪れた青龍の遣いが、ディエナを宥めようとする。
 しかし、それに対しても大巫女は心のざわめきを隠す気配もない。
「そんな事、頭では分かっているんだよ。あんたも知ってるだろ? 龍が卵から孵る瞬間っていうのは、とても大事だって」
 逸る感情に引かれたのか、大巫女の口がいつも以上に早く回る。
 無理もない。
 大巫女はUiscaが今日まで努力した事情をすべて知っているのだから。
「キルト、あんたも緑龍の巫女なんだろう? さっさとUiscaを連れてくるんだよ!」
「は、はいっ!」
 キルトと呼ばれた緑龍の巫女は、大巫女の指示を受けて足早に走り出す。
 その後ろ姿を青龍の遣いが黙って見つめていた。
(あの娘が緑龍の巫女……)
「そうだよ。あの子が元契約者で、今は緑龍の巫女だ」
 青龍の遣いが何を考えていたのかを察したのか、大巫女は少しだけ語気を強めた。
 辺境には白龍が、龍園には青龍がいるように、その傍らには龍を世話する者が存在する。
 白龍には巫女と呼ばれる者達が、常に付き従って日々の世話を行っている。
 一方、すべての世話を焼かれない龍もいた。
 それが緑龍――ナーランギだ。
 幻獣の森で幻獣達を守る為に結界を張り続けたナーランギであったが、歪虚の侵攻によりその命を落とした。その際、ナーランギを守る巫女のような存在はいなかった。巫女の存在がいればナーランギは死ななくて済んだのかもしれない。
 Uiscaはナーランギが残したと思しき龍の卵を入手してから、緑龍の為に働く事を誓った。緑龍の巫女を創設し、幻獣の森だった場所に神殿を建設して緑龍が育つ環境を構築していったのだ。
「Uiscaは緑龍の為に必死にここを作ったんだ。白龍の巫女を辞めて契約者となっていたキルト達を説得して緑龍の巫女として再出発の機会を与えて。時間はかかったが、ようやく今日を迎える事ができたんだ」
「…………」
 ディエナの言葉に、青龍の遣いは沈黙を守った。
 元契約者ならば、人間を裏切った事がある。人間の滅亡に加担しようとしていた。そうした過去の経緯は、歪虚の恐ろしさを嫌というほど知っている。元契約者であっても風当たりは強い。まともな職に就けない者の少なくは無かった。
 Uiscaが緑龍の巫女を集める際にも、Uiscaに対する心ない言葉が投げつけられた。
 それでもUiscaは挫けなかった。だからこそ、大切な日を迎える事ができたのだ。
「すいません」
 キルトに連れられて、Uiscaが姿を見せる。
 座っていた大巫女は思わず立ち上がる。
「何やっているんだい!」
「黒龍の遣い方が東方からいらっっしゃったのでお迎えにあがってました」
 Uiscaの後方から和服姿の男がいる。
 どうやら東方からやってきた黒龍の遣いを迎えに行っていたようだ。
「迎えはキルトに任せればいい。あんたは早く広間へ行きな。時間がないよ」
 大巫女はUiscaの母親のように世話を焼いていた。
 それもすべて緑龍の為に尽くす姿を見ていたからだ。
 周囲の誰もが否定して、首を横に振ったとしても諦めずに歩み続ける。
 その真摯な態度が、周囲を変えていった。
 少しずつ緑龍の巫女が増え、協力者が増えていった。
 気付けば辺境や龍園だけではなく、東方の黒龍に関わる者達ともパイプを構築するようになった。
「巫女の存在意義……少しは分かるようになったのかもねぇ」
 大巫女は今日の日を迎える事ができた最大の功労者を見送る。
 Uiscaは息を切らせながら、神殿の奥へと走って行った。


「……ど、どうですか!?」
 Uiscaは広間へ駆け込むと同時に、叫びのような声を上げる。
 それを受けて広間にいた緑龍の巫女が口に人差し指を立てる。
 その様子を見て、Uiscaは待ちわびた瞬間が訪れていた事に気付いた。
(ついにこの時が、来たのですね)
 Uiscaは衣擦れの音に気を付けながら、静かに広間の中央へと向かう。
 そこには大きな台座の上に置かれた大きな卵があった。見れば、卵の表面に複数の皹が入っている。
 その卵こそ、緑龍の転生体が宿った物。Uiscaはそう考えていた。
 六大龍はマテリアルを巡らせて再びこのクリムゾンウェストの地へ戻ってくる。歪虚の攻勢を知っていたナーランギは密かに自らの転生体を準備。ハンターが保護する事を期待していたのだろう。

 そして――今日。
 その卵が孵る日を迎えたのだ。
 それは、Uiscaにとって待ちに待った日だ。
(ようやく、再会できます)
 少しずつ近づいてくる卵。
 触れば冷たい表面だった殻は破られ、中から暖かみのある生物が姿を見せる。
 幻獣の森が滅んでから、本当に沢山の事があった。
 本当なら、あの日に無くなったナーランギにすべてを話したい。だが、転生体であるが故に話しても理解はできないだろう。
 ――それでも。
 Uiscaは話したい。
 あの日から止まった時間が動き出す。
「Uisca様。そろそろです」
 緑龍の巫女が小声で知らせる。
 それに合わせて殻は大きく割れる。
 殻から顔を出したのは小さな龍。その体躯は見事なエメラルド色に染まっていた。
 真っ先にUiscaの姿を見つけた小さな緑龍。クリムゾンウェストの大地に生じた命は、藻掻きながらもUiscaに呼び掛ける。
「ケー」
 それは言語にもならない言葉。
 だが、間違いなくUiscaに向けられた言葉だ。
 Uiscaは、生まれたばかりの龍をそっと抱き寄せる。
 そして、別れてからずっと心に留めていた言葉を口にする。
 心から、その言葉を言える瞬間がようやく訪れる。
「……おかえりなさい。ナーランギ様」


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近藤豊 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年05月13日

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