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『料理に対する感情と知識のせめぎあい』
瀧澤・直生8946)&天霧・凛(8952)

●お願いと不本意
 瀧澤・直生(8946)はウイスキーチャーハンの後、天霧・凛(8952)と対峙していた。
 直生は言いたいことがあるが、どう伝えればいいのか迷う。
 一方の凛も言いたいことはあった。料理の味付けについてのあれこれを。
 ただ、互いに口を開くきっかけが途絶えていた。
 そこに、凛の弟たちが帰ってくる。
 重い沈黙の漂う部屋に踏み込む直前に一旦足を止める。弟たちは何があったかをさとうろうとしていた。無言の中で意識だけで会話する。むろん、テレパスとかではなく、持つ情報が同じだから目線で会話が成り立っていただけである。
 テーブルの上に目が留まり、弟たちは凍り付いた。まず、見た目は問題ないそれらを見て、真っ先にチャーハンに手を伸ばした。
 直生は止めようとしたが手遅れで、凛の弟たちはぱたりと倒れた。
「え、ええっ! おいしすぎて倒れたのですか」
「でないことはわかるだろう!」
 凛の前向きな言葉に、直生が怒る。そして、弟たちを介抱した。介抱といっても水を渡すくらいだけれども。
 助かったとホッとする弟たちは、直生に礼を述べ、謝罪する。
「え、ええっ! どこに謝罪する点があるんですか!」
 凜は困惑した。
 一方の直生は状況から察した。弟たちは姉の料理について知っていると。
 弟たちは涙ながら、ではないが、姉を気にしつつ直生に説明する。
「姉さんの料理は途中まではいいんだけど、余分な手間をかけるんです」
 その上で、弟たちは凛の料理を食べて寝込んだことがあり、どう告げるか悩み、根本を止めるという手段に打って出ていたというのだ。
「……そ、そんな! 私、皆においしいご飯を食べてもらいたくて……」
 凛はしおれる。余分な手間が問題だとは思いはしなかった。
「それはいいことだ。そもそも……サラダは問題ないし、スープは物足りないけど飲める」
 直生は先ほど食べたのがこの家庭の味ではなく、味見しない凛の結果ということを理解し、ほめられそうなところをほめておいた。
 弟たちはそのコメントにうなずいていた。
「素材そのものは的確に用意している。そして、煮るだけなら味付けは足りなくてもできる。複数の要素が加わるものが問題ってわけだな」
 直生の分析に弟たちは「問題点がわかりやすいです!」と喜ぶ。
 一方の凜はふてくされている。
 弟たちは直生に頭を下げた。
「姉さんに料理を教えてください!」
 弟たちの声はきれいに重なる。
「なんでですか! 私、料理知ってます!」
 凜が反論する。
「お願いしますっ」
 弟たちは聞く耳を持たず。直生は一人暮らしが長く、料理ができる。さらに、腕もいいと見込んでのことだ。弟たちは直生を口説き落とそうと必死だ。
 その必死さを見て直生は大きく息を吐く。
「わかった、乗りかかった船だ。食生活は重要だからな」
 弟たちは両手を天に掲げ、喜んだ。
 凛は「なんでこうなるんですか」とむくれた。

●見守る人、作る人
 休みの日、凛の家にて、料理教室が行われる。
 サラダは問題ない。
 複数の物がかかわる物に問題が生じる。
 チャーハンで試すにしても、手間がかかる。白飯をどの程度用意するかが実は問題だ。
「ナポリタンを作ろう」
 これはシンプルでありながら、複数要素がある。何より、一人前が作りやすい。
 凜は「できますよ」と微笑む。
「試しに、一人前、作ってみろ」
「はい」
 凜は材料を選び、調理にかかった。

 凛としては見られているのは腹が立つし、屈辱も感じる。
(直生さんは、私の行動にだめ出しをするためにいるんですよね!)
 しかし、凛がお題の物を作れば、見返すことはできる。
 冷蔵庫を見ると、材料が実は限られている。
(……そういえば、今日、買い物に行くとか行っていましたっけ)
 弟たちがいないのは今まさに買い物に行っているからだ。
 料理教室をすると言っているのになぜか?
(材料がなければ買いに行くところからでしょうか? それとも直生さんが持ってくること前提だったとか?)
 ナポリタンを作るには問題はなかった。
 ピーマン、にんじん、タマネギにベーコン。
(シーチキンも捨てがたいです。あ、コーンの缶詰もあります? トマトの水煮)
 材料を選択し終え、パスタを取り出す。パスタは一種類しかなかったので、迷わない。
 鍋に水を入れ、湯を沸かす。その間にパスタを計っておく。
(そういえば、パスタも全部いれてゆでるというのもあるんですよね)
 凜はどの手順で作るか、材料を切りながら悩む。
 結局、湯が沸いたところに塩とパスタを入れた。
 さらに野菜類を切り、フライパンを用意した。
 徐々に、直生のことが脳裏から外れて行っていた。
(そういえば、シメジもあったような……)
 材料を切り終えたところで思い出した。シメジも合うのだ、ナポリタンに。せっかくだから入れたいと考える。

 直生は凛の行動を見ていた。
 最初は非常に固い動きをしている上に、直生の視線に気づくのかちらちら見てきていた。
 材料を選び終えて、鍋に水を入れたあたりから、凜は直生を意識しなくなっているようだった。
(手際はいいな。それに……楽しそうに作っている)
 料理は知っているのになぜ今回の料理教室か、と凜が反論していたのは理解できた。
 できる事なのに、横から口を出される状況になるとなると、いささか不本意に感じるだろうから。
(ただ、余分な手間が問題なんだよな?)
 今のところ、何も発生していない。
(そもそも、材料切って、パスタをゆでているだけで問題が起こるようならば、作ってみろと言ってみた俺が見る目ないってことになるな)
 直生は内心溜息をつきながら、凜の料理を見ている。
 このまま何も起こらず終わった場合、ほめて伸ばすべきかと考える。
(余分なひと手間……手間はかかるんだ、料理は……が……)
 直生はおいしい料理店である手間の話を思い出す。氷水を使ったり、油を肉に塗ったりさらには丸一日生地を寝かせたり時間がかかることもある。
(余分なひと手間……いや、酒にウイスキーを使うのはっ!?)
 手間という考えについての相違があるのではないかと気づく。今回のことを見て、どう説くか考えないといけないのかも知れない。

 そうこうしているうちに、パスタはゆであがる。
 パスタはざるにあげられ、湯切りされる。
 フライパンの上で野菜たちはパスタを待っている!
 途中でブナシメジも投入されていた。でも、石突きも取っていたし、作業は問題はなかった。
 直生にとってはちょっとしたどっきりポイントだったとしても、問題なく過ぎそうだ。
 フライパンからは肉と油のにおいが漂う。
 あと一息で何も起こらず完成するかどうか……。

 凛は火の通った野菜たちを見て、味付けを考え始める。トマトケチャップで基本はいい。
(トマトの水煮がありました。あれで味付けすると、濃厚なパスタになるんですよね)
 パスタを投入して、そこにトマトの水煮を投入した。
「量、多いっ」
 直生が声を掛ける。
「えっと、そうでした、一人前ですよね? これは……どう取ります」
「ちょっと火にかけて水分飛ばそう。ナポリタンからそれるが、トマト味のパスタにはなるし」
 凜は「そうですよね」とうなずいた。
 火を弱めて、考える。
(そういえば、チーズもあるといいですね。このままだと薄味になりそうですし、鷹の爪を入れてピリ辛に……あ、追いオリーブオイルも必要ですね)
 凜はプロセスチーズのブロックを取り出し、必要そうな量を切り出す。それを皿に削っておき、タイミングを計る。

 直生は凛が勢いよくざるにパスタを上げたとき、声を掛けようかと思った。
 時間通りにやっても、パスタに芯が残っていることもある。問題がないレベルならば良いが、必要なら、煮る時間を延ばす必要が出てくるのだ。
 トマトの水煮の影響で、若干トマトスープになっていた。
 火をかけて水分を飛ばすとともに、パスタが吸い取ってくれるだろう。
 そうなれば、もしも、パスタに芯が残っていても問題はない。まあ、柔らかかったらどうなるかは考えないことにする。
 食べられるものを作るのが重要だ。
 前向きに考えることにしていた。
 チーズを用意しているのは、粉チーズ代わりにするのだろうと考えた。
 しかし、鷹の爪とオリーブオイルはどこにかかわるのだろうか?

 凜は鷹の爪を叩き割り、フライパンに投入した。
 オリーブオイルのふたを開けると、そのまま投入しようとしている。
「待て、何をしようとしているんだ」
 直生はさすがに声を掛けた。
「追いオリーブオイルです」
 凜はきょとんとして答える。
「鷹の爪は」
「ちょっとした刺激を」
「追いオリーブオイルは十中八九やめてくれ。味がという以前に、水気が増える」
「……そうですか?」
 凜は不服でもあるが、水気が増えるのは今問題なのは理解できた。
「さっきから思ったんだが、味見もパスタの火の通りも全くみてないな」
「え? 味見ですか? しませんよ」
 凛はきょとんとする。
「いやいや、味見はしろよ」
「どうしてです? トマトにはチーズが合います」
 凜は用意していたチーズを投入した。
「だから! 鷹の爪を入れて、その刺激はどうなった? 味を見ないでなぜわかる? それに対して、チーズはどの程度いるかとか考えながら徐々にいれろ。味を見ながら少しずつ」
 直生は説く、味見について。
「だって、おいしいとわかっているものを足していっているんですよ? おいしくないわけがないじゃないですか」
「なら味見して確かめろ」
「おいしくできたら食べ過ぎてしまいます」
 直生は凛の言葉の意味をとらえられず、硬直する。
「……は? まずいものを作りたいのか?」
「違いますよ! 味見した時点でおいしかったら、私がつい食べ過ぎたら、料理を待っている人が困ります」
「……気をつけて口に含め。そして、味は見ろ! 前回のウイスキーチャーハンを忘れたかっ!」
 グサッと凛の胸に刺さる物があった。
 ウイスキーを紅茶に入れるとおいしかった。だから、チャーハンに入れれば足し算でおいしくなるに違いなかった。
「おいしいかどうかはものによるんだ。冒険はしていいが、味見しろ」
「なんでですか! 追加で材料を投入するのはひと手間です。おいしくなるための」
「手間を惜しまないのはいい。だがな、投入するだけが手間じゃない! 味見だって手間だ。例えば……」
「味見、味見ってこだわるんですか! 大体、味見して、私が食べきったら食べる分が無くなりますよ!」
「なら、多めに作れっ! それに、食べきるのは味見じゃない! つまみ食いの上の食事だ」
 一瞬、凜は納得しそうになったが、味見することに対する反論が止まってしまう。
「でも、一人前って言ったじゃないですか」
「確かに言った。なら、次から多めに作ればいいだろう」
 正論過ぎて凜は硬直する。
 意見が互いに同じところをうろうろ始めていた。

「もう、好きにしろっ!」
 直生はそっぽを向く。
「好きにします!」
 凜はナポリタンに向き合う。思うままに調味料や味付けに良さそうな物が投入される。
 水分が飛んで、ずいぶんとナポリタンらしくなっていた。
 においは大変いいし、見た目も良い。
 最後にパセリを散らし、ナポリタンXはできた。
 一応食べられるものではあった。しかし、調味料や味付けに添加した物で、かなり濃厚で、考えると恐ろしい物になっているかもしれない。

 直生は「好きにしろ」と言ったが、このままでは誰も幸せではないと頭を抱える。
 なぜ、凛はそこまで意地になるのか、考えるのだった。

 凛は好きにしたが、直生の様子を思い浮かべるとなんとなくむなしさも漂う。
「別に、直生さんに食べてもらわなくていいんです!」
 意地を張り味見を連呼している直生がしばらく脳裏を駆け巡るのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 発注ありがとうございます。
 ナポリタンの手順、適当に作る人間なので、結構適当です。
 いかがでしたでしょうか?
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2020年05月13日

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