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『あの日見た夢が正夢になる日』
カイン・シュミートka6967

 石造りの部屋の中、眩い光が全てを覆う。
 目が焼かれないように咄嗟に瞑ったが、カイン・シュミート(ka6967)は油断せずに魔導銃を構えていた。
 一時的に視力を失ったとしても気配を感じ取って戦い続ける為に――。
「……目は大丈夫のようだ」
 光が落ち着き、ゆっくりと目を開くカイン。
 敵は十数歩離れた位置から変わっていない。金属のような質感の皮膚を持つ、嫉妬(ピグマリオ)に属する歪虚だ。嫉妬王がハンター達に倒されて久しいが、残党はまだまだ存在していた。
 女性を模した顔がクルリと回ると後頭部……ではなく、男性の顔が姿を現す。この歪虚に背面は存在せず、男女が背中合わせのような形となっているのだ。死角が存在しない為、包囲戦を挑めなかったが、それでも、カイン達は嫉妬歪虚を追い詰めていた。
「ククク……」
「何が可笑しい!」
 カチャっと音を立てて、魔導銃の銃口を定める。
 ハンターオフィスからの討伐依頼。嫉妬歪虚の残党を古屋敷の一室で発見した末での戦闘は、いよいよ佳境に入ろうとしていた。
「カイン様、大変です!」
 後ろから同行しているハンター兼受付嬢である紡伎 希(kz0174)の叫び声。
 何事かと振り返るとそこに居たのは“美少年”姿の希。ヒラヒラと受付嬢の制服スカートが揺れており、一見、女装している男の子のようにも見える。
「うわぁぁぁぁ!」
 両手を頭に当てて驚いているのは“美少女”へと変わってしまった星加 孝純(kz0276)。
 先程の謎の光を浴びたせいなのだろう……という事は……。
「お、俺もかっ!?」
 カインは胸元に目を落とす。
 そこには驚くくらい豊かな双丘。肩が急に重くなったと思ったら、この仕業だった訳だ。
 咄嗟に壁に掛けられていた鏡をチラっと確認すると、そこにはカインによく似た“美女”の姿があった。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」
「これこそ我が秘術よ。貴様らのマテリアルに浸食し、性別を入れ替えるのだ!」
 それが何の役に立つか、よく分からないが、少なくともこの場に集っている3人のハンターにとっては衝撃的な事であったようだ。
「どうしましょう、カイン様。これでは本当にカイン様が“姫”になってしまいます!」
「その記憶は消してくれ……だが、慌てる事はない。性別が変わった所で戦闘には影響ないはずだ」
 受付嬢である希はハンターの活動報告書の閲覧も可能だ。恥ずかしい過去を頭の隅に追いやり、カインは体内のマテリアルを高める。
 事態を解決する為には、まずは目の前の敵を討伐しなければいけない。それも早急に。これ以上、恥ずかしい事を増やさない為にも。これが彼奴らに知られたら笑いのネタになってしまう。
「いいのかな。我を倒せば、浸食したマテリアルは固定される……つまり、貴様は一生“姫”なのだ!」
「てめぇまで、その名で呼ぶんじゃねぇ!」
 嫉妬歪虚の挑発に叫び返すカインの裾をクイクイと引っ張る二人。
「これは、まずいです。カインさん、倒せない以上、僕達はこのままでしょうか?」
「カインさんが、ものすっごい美人さんになってしまった事が色々と心配です」
「孝純は狼狽えるな! それと、希は変な心配するんじゃねぇ!」
 俺は少年少女の保護者かッと内心思いながら、二人を庇うようにカインは敵前に立ち続ける。
 ハンター達の状況を楽しんでいるのか、嫉妬歪虚はその場から動いていない。ハンター達の隙を狙って攻撃できたはずなのだが……。
「我と取引といこうではないか、ハンター共」
「知らないようだな。取引ってのは、信用があるから成立するんだぜ」
 カインは油断なく銃口を向けつつ、言い返した。
 敵がこの状況で取引を持ち出してくる理由があるはずだが、そこまではカインも読めない。
「強がってもしらんぞ、貴様らの性別が変わったままになってしまっても……想像してみるといい。貴様は今後、女性として生きるのだ。貴様を愛する者達は貴様の変わった姿に失望し……去っていくだろう!」
 勝ち誇ったような尊大な口調で告げる嫉妬歪虚。
 男性として今まで生きてきた人生が突然、終わりを迎え、女性としての人生が始まる。これまで築いてきた人間関係も変わ――。
「……」
 カインは自分が女性となった人生をちょっと想像してみた……だが、浮かんだのは、お姫様抱っこされるという変わらない姿だった。
「あー。なるほど。“結果的”には同じな訳だ」
 つまり、カインが男性であっても女性であっても、彼を取り巻いている環境に変化はない。
 あるとすれば、それは自分の気持ちの在り方だけ。
 そう思い至ると、カインは銃口を嫉妬歪虚へと向けたまま、ツカツカと近づく。
 合わせるように後退っていく嫉妬歪虚。ビュっと負のマテリアルを飛ばしたが、カインは僅かに首を傾けて避ける。
「こ、これ以上近寄るな!」
「こんな“美女”に近寄るなとは酷い台詞だぜ!」
 後ろから「ヤダ、カイン姫カッコいい!」「流石、強者のハンター。現実をすぐに受け入れるなんて」などと声が聞こえたが、右から左に聞き流した。
 壁際に追い込んだ嫉妬歪虚の頭に銃口を突き付けるカイン。
「……いいか、一つ教えてやる。人ってのは、変わらない部分が存在するんだ。つまり、てめぇの姑息な力は、この場では意味がないって事だ!」
 ありったけのマテリアルを込めて引き金をひく。
 嫉妬歪虚の頭は文字通り粉砕し、残った身体も塵となって消えていく。
「カインさん……良かったのですか? 倒してしまって」
「まぁな……どうせ、追い詰められて苦し紛れにホラを吹いただけだろう。それに、マテリアルに作用させている話が本当なら、元に戻す方法も必ずあるはずだ」
 完全に塵となって歪虚が消滅した事を確認しつつ、カインは孝純の問い掛けに力強く答えた。
「あ……そうだったのですね。私、カイン様が女性として生きる覚悟をしたと思いました」
「まぁなんだ……覚悟じゃねぇが、開き直ったというべきか、彼奴らに感謝したという事だな」
「?」
 爽やかな表情を浮かべて部屋の天井を仰ぎ見たカインの言葉に、希は首を傾げる。
 その時、再び光が部屋に満ちた。他にも残った敵が居たのかと一瞬、警戒するが、新手が出現した気配は感じない。恐らく、嫉妬歪虚の術の効果時間が消えたのだろう。
「も、戻った! カインさん、戻りました!」
「……ちゃんと、パルムは観察していたでしょうか……」
 喜ぶ少年の姿と、何やら不穏な言葉を発している受付嬢の姿が、視界に映る。
 次にカインは視線を自身の身体に落とした。豊かにあったカインの胸は、いつもの見慣れたものだ。推測通り、嫉妬歪虚の嘘話だった訳だ。どうにか逃亡する時間や隙を作ろうとしたのだろう。
 一安心したカインは、ペタペタと自分の胸の辺りを服の上から触り、戻った事を実感する。今日の依頼の事は彼奴らには黙っておこうと心の中で誓う。
 微妙な表情を浮かべるカインを見て、希がポンっと手を叩いた。
「カイン様、やっぱり名残惜しいのですか!?」
「違うってのぉぉぉぉ!」
 “姫”の全力なまでの叫び声が響き渡るのであった。


 ちなみに依頼の一部始終はパルムが確りと観察し記録していたので、報告書には台詞までバッチリと記載された上に『今月の優秀依頼』に選定されてしまい、新たな“姫”伝説がまた一つ生まれたとか生まれなかったとかあったそうな。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
どんな話を描こうかなとギャラリーを確認していたのですが、お姫様抱っこの破壊力凄いですね。そんな訳で、某大明神の性別入れ替わりネタを使わせて頂きました。
もちろん、イケメンな所も好きですので、歪虚との戦いで活躍するシーンも入れてと、もう自分の妄想を詰め込んでいるようになってしまい、ほんと、申し訳ないというか、ご馳走様でした(
それと、もう1回言わせて下さい――「ヤダ、カイン姫カッコいい!」


この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2020年05月14日

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