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『不器用な兄弟分の休息』
更級 翼la0667)&暁 大和la3248

 日本の四国地方某所、早朝。
 ある森の中でナイトメア・ロックの巨体が轟音を立てながら倒れた。
 赤い目に宿っていた光も消え、ロックの死が確認される。

 ロックの正面で大きな盾を構え、その攻撃を引き付け続けていた更級 翼(la0667)はふぅと息を吐いた。

「終わりましたね、大和さん」

 倒れたロックの起こした砂煙の中から、暁 大和(la3248)がぬっと現れる。その手にはロックの体液で汚れた片刃の斧。

「ああ。世話になったな、翼。おかげでこっちには攻撃が来ず、思う存分攻めに集中できた」

 今回、翼と大和は2人で依頼に臨んでいた。負傷しながらも逃走したロック1体を追いかけ、トドメを刺すという依頼だ。
 手負いながらも手強いナイトメアを、翼と大和は攻守の役割分担をして見事討ち取った。

 信頼する大和に褒められ、翼の口元がほんの少しだけ持ち上がった。



 それから2人は近郊の地方都市に戻り、SALF支部にてロックの討伐完了を報告。
 報告は滞りなく受け付けられ、依頼は終了した。

 さて、と大和は考える。
 翼は依頼が終われば早々にグロリアスベースへ帰ろうとするが、大和は翼を休ませたかった。
 翼が養父母と兄弟弟子達を失ったショックで心に大きな傷を負っていることは分かっている。
 その傷は未だ癒える兆しもないし、ひょっとしたら永遠に癒えないのかもしれない。
 しかしずっと張り詰めているままではいつか折れてしまう。強くなるためには休息を取ることも必要なのだ。
 そういうわけで、大和は翼を休ませようと考えている。だが何と言って休暇を提案すればいいのか分からない。

 うんうん唸っている大和の様子に、翼は小首を傾げた。

「大和さん、何か悩み事でも?」

「い、いや! 何でもない!」

「そうですか。ところで、今日はこの街で遊んでいきませんか?」

 表情のない顔で淡々と翼は言う。

「いやすぐに帰るのは――ん? 遊ぶ?」

「はい。……嫌でしたら断られても構いません」

「まさか。今日は遊ぶぞ!」

 なぜ翼がそんな提案をしてきたのか大和の脳内は疑問符で満ちていたが、向こうから転がりこんできた好機を逃がす手はない。
 大和は気合いをこめ、今日は遊び倒すと宣言をした。



 大和は放浪者である。
 戦闘種族の出身であり、地球に来てから穏やかになったとはいえ、その思考の大部分を占めるのはどうすればより高みを目指せるかだ。
 つまり、世間一般に言う遊びについてはとんと知らない。

「大和さんはボルダリングに興味ありますか?」

 現代っ子らしくスマートフォンを操作し、近隣のアミューズメント施設を調べている翼が言う。

「ボ、ボルダ……?」

「岩壁を模した突起のある壁を登るスポーツです。近くにできる所があるようなので」

「なるほど……? 翼がやってみたいなら行こう」

 大和はいまいちどういうものか分かっていなかったが、ひとまず行ってみることとなった。



 EXISを使わなければ、ライセンサーであろうと身体能力は一般人とそう変わらない。
 とはいえ、日々修行に励んでいる翼と大和はEXISなしでも抜群の運動能力を発揮した。

 初心者向けの低い壁を難なく攻略し、中級者向けのものも労せずして登り切った2人が次に挑むのは、この施設で最も難易度が高い壁。

 他の客もルーキーの躍進を興味深そうに見守る中、まず壁に挑むのは翼。

 慎重に突起の場所を見て、一つずつ上へ登っていく。
 徐々に手足の筋肉に乳酸が溜まっていくが、それでも力強く上へ。
 あと少しでゴールだが、壁には反り返るような傾斜がついており行く手を阻む。
 それに次の突起は左上方。左目が義眼である翼にはどうしても距離感が掴みにくい。
 疲れて握力が落ちる前にと伸ばした左手は突起を掠るも、狙いがわずかにそれ、指が体重を支えきれなかった。
 翼の体が床へ落下する。
 施設の床は柔らかいマットとなっており、翼も受け身を取ったためかすり傷一つないが、それでも彼はしばらく起き上がらなかった。

「翼、どうした?」

 心配そうに側へ寄った大和の手を掴み、ようやく翼は起き上がる。

「……悔しくて。もう少しでしたのに」

「いや、あんなに高くまで登って見事だった。見てろ、俺が敵を取ってやる」

 俯いたままの翼の黒髪を、大和はわしわしと撫でた。
 それから職員に声をかけ、了解が得られるやいなや最難関の壁に手をかける。

 翼も日本人として決して小さい方ではないが、大和は2メートル近い巨体を誇る。そして大和の体には筋肉がぎっちりと付いているため、体重もそれなりに重い。
 自分の手と足の力だけで体を支えなければならないボルダリングにおいて体重の重さは負担となる。けれども大和はそのハンデを物ともせず軽々と壁を登っていく。
 もっと疲労困憊した状況できつい断崖絶壁を登る特訓をしたこともある彼にとって、競技用の人工的な壁は楽なもの。
 壁の反り返りも筋力で強引に乗り越え、一番高い突起まであっという間に登り切った。
 見ていた他の客から拍手が沸き起こる。

 上から飛び降りマットに着地を決めた大和を翼が迎えた。

「やはり大和さんはすごいです。僕はまだまだ及びそうにありません」

「ふっ、なあに、翼も練習すればこんな壁程度、すぐに登り切れるようになる」

「ありがとうございます。でももうそろそろ昼時ですから昼食に行きましょうか」

 周囲からの喝采覚めやらぬ中、次の目的地は料理店と決まった。



 店の前を通りかかった大和が「うまそうな匂いがする」と言ったので、昼食はラーメンとなった。
 屋台風の店構えの中に入り、それぞれ好みのラーメンを注文。
 配膳されたラーメンは予想通り美味しく、麺が伸びる前に2人とも黙々と食べた。

「次はどこに行きたいですか?」

 綺麗な仕草でラーメンを食べ終えた翼が話しかける。

「翼が行きたい所でいいぞ」

 大盛りラーメンを完食した大和は、特に行きたい場所を思い付かないのでそう返事をした。

「それでは困ります」

「困るのか?」

「大和さんが楽しめる場所に行くのでなくては、せっかくの――」

 翼が急に押し黙る。
 どうしたのかと心配そうな顔をし始めた大和を見て、翼は仕方なさそうに口を開いた。

「今日は5月15日ではないですか」

「ああ、そうだな? それがどうかしたか?」

「つまり大和さんの誕生日です。お誕生日おめでとうございます。……本当は今日の最後に伝えようと思っていたのですが」

 祝意を表し、翼は大和に頭を下げた。
 礼を終えて顔を上げた翼は、大和がポカンとした顔をしているのを見付ける。

「誕生日か。俺の。自分が生まれた日を祝われるのは奇妙な感覚だな」

「祝われたことがなかったのですか?」

「子供の時から特訓に明け暮れていたし、誕生日はまた1年生き延びられたという感慨くらいしかなかったからな。……しかし、翼に祝われるのは嬉しい。ありがとう」

 大和は左頬の十字傷を指で掻きながら、照れ臭そうに礼を述べた。
 祝われるのが嫌ではなかったようだと認識し、翼もほっとする。

「こちらこそいつもありがとうございます」

「いや俺こそ――」

 感謝の言い合いが起き、大和はそれがおかしくなってふっと笑った。
 翼も心持ちいつもより穏やかな顔をしている。

「これからの1年もよろしく頼む」

「それは僕の台詞です。よろしくお願いします」

 今度はよろしくの言い合いかと、大和はまた朗らかに笑った。

 ナイトメアとの戦いに身を投じる彼ら2人にとって、5月15日の休息は特別な思い出に。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 お2人でのおまかせノベルのご発注、誠にありがとうございます。
 キャラクターシートを拝見したところ、ちょうど大和さんのお誕生日が今ということで、このようなノベルを書いてみました。
 お気に召しましたら幸いです。
おまかせノベル -
錦織 理美 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月15日

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