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『背の君へ』
桜小路 ひまりla3290)&ユウジ・ラクレットla3983

●彼女の呟き
「ユーくん、もう……寝たん?」
 呼びかけた声は夜の闇に消えていった。三拍、呼吸を置いてから指を背につと這わせる。自分と同い年で、後輩で、そして彼氏(仮)であるユウジ・ラクレット(la3983)のうなじから僧帽筋を伝って広背筋へ。指先に伝わる感触は張りがあり、瑞々しく活力に満ちている。自分にはない硬さを感じて、桜小路 ひまり(la3290)はトクリと胸を高鳴らせた。
(体験……期間、げんてい)
 いややわ。もう……調子が狂ってしまう。だが、狂っていく自分が嫌いじゃない。厳しく縛めた糸の玉が解けるようにゆるゆると、花綻ぶ温かさを感じていた。先だって彼と交わした言葉の一つ一つを思い返すと顔から火が出そうなぐらいに恥ずかしい。傍から見る限りにはさぞや浮かれた様子であったに違いない。誰かに見られてたらいややわ。それとも、いつも通りだった? 普段の自分がどんな顔をして、どんな声で笑っていたのか思い出すことが出来ない。それ程までに、彼の言葉は衝撃的だった。形ばかりとはいえ旧家の令嬢として育てられてきたひまり自身の殻を、外から叩き割ってしまう硝子の槌。
 放課後の夕焼けに浮かぶ朧月は、しかし存在を認めてしまえば明々と昏い夜空に光を放っていました。月鏡は冴え冴えと全てを映し出す。無垢なるが故に飾り気のないその光は真っすぐに私へと届いていました。醒めない夢は無いといいます。ならばこの日々はいつか泡沫の夢と消えるのでしょうか。それとも、この千々に乱れる心のさざ波さえもが予定調和だというのかしら。
(は──ふ)
 そのため息は、自らの胸の奥に蟠る滓が漏れ出る名残か。それとも深々と宵闇が深まる静けさの音でしょうか。うちは、少しばかり心細くなって目の前の背へと自らを重ねてしまう。返事がないからには、きっと彼は寝ている事でしょう。だから、これはうちだけのちょっとした気の迷い。声を上げられない小さな自分が出来る、精いっぱいの背伸び。指先から掌へ。そして腕を回してそっとその厚い胸板を抱いてみる。掛けた毛布の隙間から、ふわり。嗅ぎ慣れぬ男性の汗の匂いがした。トクリ。もう一つ、鼓動が高く鳴りました。

●彼の呟き
「ユーくん、もう……寝たん?」
 背中越しに、声がした。そ──と雪を解かすような柔らかさで首筋に彼女の指が伝う。自分と同い年で、そして可愛い彼女(仮)であるひまりが自分の背を撫でる、その優しい感触が途切れかけた意識を辛うじて繋ぎとめている。既に時刻は夜半を過ぎただろうか。さらりと慈しむように触れてくる指先は自分にはない繊細さがその先端に籠められており、鍛えた筋肉の境目をなぞって腰へと降りてくるその温かさにユウジはコクリと唾を飲み込んだ。
(は──ふ)
 零れた吐息は自分の物か、それとも彼女の物か。寝入りかけた頭に鞭を入れて覚醒へと追い立てる。応えなければ。起きてるよ──と返そうとしたその声は、背中に当てられた温かさに包まれて霞のように消えてしまった。恋というものを経験してみないか。思えば随分と気障な言葉を吐いたものである。自分だって決して百戦錬磨の色男という訳では無い。むしろ、恋らしい恋をした記憶など今も昔も無かったと言うのに。それでも、陽だまりに一筋陰る表情をみた時には自然と言葉が口から漏れていた。それ以上、彼女の物憂げな表情を見ていたく、無かったのだ。膝を抱えるひまりの事を、受け止めたいと──そう考えていた。
(ひまりちゃんパイセン……か)
 平均よりも随分と背の高い自分から見れば、胸元まで程しかない小柄な身体。その中にいっぱいの元気を詰め込んで、周囲の人々を暖かく照らす春の木洩れ日。そんなひまりのことが、何時から好きだったのだろうか。恐らくは、最初から。ユウジはひまりの事が気になっていたのだ。年明けのお年賀も、その前の忘年会も、ずっと、ずっとその前から。その桜色の瞳に、ユウジは虜になっていたのだろう。
 いま、彼女はどんな顔をしているのだろうか。俺は、どんな顔をしているのだろうか。背中に感じられる柔らかさと、温かさに意識をかき乱されながらユウジは考える。喉がカラカラに乾いている。いつかの仄かに差す紅の血潮とふくらや柔けき頬の膨らみをユウジは思い出していた。日頃は照れ症なひまりの顔を、灯りの下でまじまじと見つめたのはあれが初めてだったかもしれない。砂糖菓子のような甘さを期待して瞳を閉じたひまりの表情は、とても恋を知らない少女とは思えぬほどに蠱惑的で──。首筋をそっと撫ぜるひまりの細糸のような髪の感触が、少し高い体温がユウジの鼓動を高く、トクトクと早鐘のように攻め立てる。

●再度、彼女は想う
「ん……おやすみなぁ」
 もう一度、返事がないのを確認してからひまりはそっと身体を起こした。ベッドサイドの時計は三時を回っている。そろそろ明け方の鳥が鳴くころだ。明日もまた、やる事は山ほどに積みあがっている。そろそろ休まねば。朝の音が聞こえる前に、月を雲が隠さぬようにその顔をしっかりと瞼に焼き付けて。ジワリと、宵闇の黒いインクが瞼の裏に広がっていく。その陰を払うように、月の輝きをもう一度見ておきたかった。
 顔に掛かる髪を手で払って、恋人の顔を改めて覗き込む。寝ているのであれば、遠慮も照れもなく正面からユウジの顔を見据えることが出来た。穏やかに、寝息を立てる青年の顔がそこにはあった。窓から差し込む月の光が、その表情を詳らかに照らしていた。

●最後に、彼は想う
「おやすみなさい、ひまり」
 背中の気配が丸まって、寝息を立て始めたのを確認してからユウジは身体を起こした。気の早い鳥が窓の外で鳴き始めている。彼女の不安に寄り添って共に在りたいと、心の底から思う。穏やかに不安の陰さえ見せずに眠るひまりの姿を見ていると、そんな感情がふつふつと湧き上がってきた。彼女の歌が高らかに春を告げる様に、新たな季節を齎す祝福の華が開くように傍に在ってそれを支えていたい。
 くうくうと穏やかに上下するひまりの身体をそっと抱き返し、髪を払ってはその頬にそっと羽毛のように口づける。天真爛漫で、少し臆病な自分だけの姫を逃さぬように。透明な秘密の印を彼だけの方法で刻むのだった。

──了──

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
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かもめ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月18日

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