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『サバイバル能力の秘密』
セシア・クローバーka7248


 セシア・クローバー(ka7248) はサバイバル能力が高い。この日も、他の同行ハンターたちと自由都市同盟の森に出た歪虚の討伐を依頼されて向かっており、
「木に目印を付けていこう」
 と、事前に提案し、木にくくりつける紐まで用意していた。コンパスと、木漏れ日からわかる太陽の位置で方角を確かめながら先に進む。
 時折、もしかして、その辺で妹が寝てるんじゃないか……という想像にもとらわれたが、幸いなことにそんなことはなかった。いや、確か今日は辺境の方でハンターの仕事があると言っていた。同盟の森にはいないだろう。

 本日同行しているのは、グラウンド・ゼロの掃討作戦で一緒だったハンターたちで、元はもうすぐ夫となる男性と同じ軍人の経歴を持つ。そうであるから、多少のサバイバルは履修済みである。だから、どう見ても軍属経験などなく、その上アウトドア系にも見えないセシアがてきぱきと森歩きの準備をしているのを見て、最初はぽかーんとしていたのだが、
「よろしく」
 最終的には親指を立てて頼りにした。
「まあ、ハンターなんて最終的には身体能力でどうにかできるから、サバイバル知識なんてなくたってやろうと思えばできると思うけどね。あんた真面目だね」
 と、猟撃士のナンシーが言うのを聞いて、
「いや、私は別にハンターになるから覚えた訳ではない」
 首を横に振った。
「するとお前さん、そりゃ趣味か? 良い趣味だな。リアルブルーに行くなら良い店紹介してやるよ」
 と、符術師のヴィクターも顔を綻ばせる。セシアはふるりと首を横に振った。
「私の趣味は読書だ」
「テントで本を読むのも楽しいのでは?」
 機導師マシューが目を瞬かせる。セシアは三人を見て、言った。

「妹が行方不明になるんだ」

 行方不明。

 その物騒なワードに、アメリカから来た三人のハンターは真顔で顔を見合わせた。
「違う、そうじゃない。皆が思っているような物騒なことは起こっていない」
 掌を突き出して三人の誤解を止める。
「え、じゃあ何だって言うのさ」
「あの、行方不明に『なる』っておっしゃいました?」
「つまり、頻繁に起こるんだな?」
 ナンシーが怪訝そうな顔をし、マシューが首を傾げ、ヴィクターが片目をつぶる。
「そうだ。頻繁に起こる。割と」


 セシア・クローバーの両親は芸能関係、三姉妹の長女たる姉も服飾職人、本人の趣味も読書と立派な文化系一家である。
 三姉妹だからもう一人いるだろうって? その通り。セシアは三姉妹の次女で、その下にもう一人妹がいる。趣味は昼寝。昼寝とは習慣であり、習慣とは文化である。文化系一家と言って差し支えない。
 という理屈はクローバー家の誰も唱えていないのでこの辺にしておくとして、この妹の趣味「昼寝」というのがミソだった。
 昼寝。これを聞いたあなたは、子どもたちが並んでタオルケットにくるまっているところを想像しただろうか? 穏やかな日差しから窓から差し、すやすやと寝息を立てる子どもたち。
 そして、昼寝とセシアのサバイバル能力、どう関係があるのかと疑問に思っているだろう。

 ある。

 この妹、窓のない所すなわち屋外で燦々と日を浴びながら寝る。出先で寝る。そして帰って来ない。セシアが探しに行く、という流れである。切り株にもたれてすよすよと眠り、その周りを野生動物が囲んで暖を取っていたとかいないとか。
「リアルブルーの知人から聞いたことあるぞ」
 と、頭を抱えても彼女を責めるべきではないだろう。

 ということで、森の中だろうが川の傍だろうがお構いなしに寝てしまう妹の捜索を通じて、読書が趣味の文化人一家三姉妹次女のサバイバル能力は自然と高くなったのである。

 おかしいだろ、と言うなかれ。本人だって「これは平凡じゃない気がする」と思っているのだから。


 と、言う感じで、かくかくしかじかと妹が頻繁に昼寝でいなくなってしまうことを話すと、三人のハンターたちは、「ほぁーん……」と驚きと納得と呆然の混ざったような嘆息を漏らした。
「そう言うことで、私はサバイバルというか、悪路の行き方を心得た」
「人生、何がどう影響するかわかりませんね……」
「ハンターになる前どうしてたの? と聞かれたら、平凡な日々を過ごしていたよと答えるんだが、正直自分でも『平凡じゃない気がする』とは思っている」
「そうだね……平凡じゃないね……」
「でも、毎度出先で寝落ちてご無事な妹さんも、結構な強運の持ち主ですよね」
「うん、そうだな」
「動物に襲われそう」
「動物と寝てた」
 三人はまた顔を見合わせた。
「でも、何かセシアの妹って感じはするね。似てるとかじゃなくて、上手く言えないけど、セシアの下の姉妹って言うか……」
 ナンシーが笑いを堪えながら言う。
「そうかな?」
「でも大事なんだろ?」
「それはもちろん」
「良いことだよ」


 その後、無事森の歪虚を倒してオフィスに帰還すると、窓口が騒がしくなっていた。数名のハンターと、C.J.(kz0273)が何やら話し込んでいる。C.J.はセシアを見つけると、手招きして、
「ああ、セシア、良かった。こちら、君の妹さんと今日一緒に仕事していたハンターなんだけど、ここに戻る途中で妹さんがいなくなったって言うんだ」
 セシアは頭を抱えた。ナンシーが頭を掻き、
「昼寝だ」
 呟く。
「昼寝!? そんなわけなくない!?」
「いいや、CJ、多分昼寝だ。うん、探しに行ってくる。君たち」
 セシアは慣れた様子で同行ハンターたちに向き直った。クリムゾンウェストの地図を広げ、
「今日の現場と、妹を最後に見たところ、帰還ルートを教えて欲しい。それと、装備品についても詳しく」
「装備についてならオフィスにも資料あるよ。いる?」
「ああ、ありがとうCJ、頼みたい」
 てきぱきと聞き取るセシアの姿を見て、ナンシーが呟いた。
「ほんとに慣れてんだねぇ……」
「じゃあ、行ってくる。皆、今日はありがとう。では」
「あ、俺たちも手伝い……」
 しかし、ヴィクターが申し出る間もなく、セシアは疾風の様に去って行った。
「……ほんとにもうルーチンじゃねぇか……朝のジョギングのテンションだぞ」

 数時間後、セシアから妹が見つかった。やっぱり寝ていた、という連絡が入り、三人のハンターとC.J.は顔を見合わせたのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
セシアさん、彼氏さんとの印象も強いんですけど、何回設定拝見しても妹さんの昼寝行方不明のインパクトが強すぎて……! ということで実際どうなんだろうと書かせていただきました。反省はしておりますが楽しかったです。色々捏造しました。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
おまかせノベル -
三田村 薫 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年05月18日

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