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『ダンスバトル!』
la1158

 ある都市の街中にナイトメアが出現。侃(la1158)達ライセンサーはSALFから依頼を受け現場に急行した。
 避難指示によって人気がなくなったビル街に1体のナイトメア。
 背丈2メートルほどの人型をしている。全体的に鋼鉄製のロボットのような外見で、特徴的なのは両肩に大きなスピーカーと思われる構造物があること。そこからロックミュージックが大音量で流れている。

 ナイトメアは悠々と道を歩いている。
 ビルの陰に隠れたライセンサー達は奇襲を仕掛けることとした。
 味方とタイミングを合わせ、侃もスナイパーライフル「ドロレス」で狙撃。一気呵成の攻撃により一瞬で片が付くかとも思われたが――。

「Oh! 手荒な歓迎だ! でも効かないぜミーは無敵だぜ!」

 ロックミュージックのリズムに合わせ、そのナイトメアは喋った。
 攻撃はどれも命中したが、ナイトメアの体には傷一つできていない。リジェクション・フィールドを突破できていないのだ。

「こいつ、エルゴマンサーか?!」

 驚愕してライセンサーの一人が言う。
 知性を獲得したナイトメア、エルゴマンサー。その強さはピンからキリまでと言われているが、概して人類の大きな脅威である。

 距離を詰めて奇襲攻撃したスピリットウォーリアに対し、エルゴマンサーは拳を振るう。
 決して速い攻撃ではなかったが、不意打ちが効かなかったことに動揺していたそのライセンサーは回避しきれない。
 重い一撃に吹き飛ばされ、ビル3階の壁に叩きつけられた。

 退くべきか。戦況を見て侃は考える。
 敵は1体だがエルゴマンサー。その能力は未知数。動きは鈍いが攻撃力が高く、防御力は異様なほど。
 ゼルクナイトがエルゴマンサーと対峙し敵の拳を盾で防いでいるが、1撃1撃が重く長くは耐えられまい。
 侃も銃をLMG-バジリスクに替えて再度弾丸をお見舞いしてみたが、全く攻撃が通っている感じがしない。

「無理無理マジ無駄、無駄骨だ! そんなシケた攻撃は効かないぜ」

 ロックミュージックにノって喋り、エルゴマンサーは片腕を上げてポーズを決める。
 何か特殊能力を使うのかと身構えたが、ただ単にかっこつけたかっただけのようだ。

 そのとき、侃は閃いた。

「……『シケた攻撃』ね」

 今までのが『シケて』いるから効果がなかったとしたら。
 他に状況を打開する方法も思い付かないので侃は賭けに出ることにした。幸いにも得意分野だ。

 銃をしまい、両手に装備した篭手・バトルアクターの調子を確認してから侃は敵前に飛び出した。
 ただ飛び出したのではない。エルゴマンサーの流すロックミュージックに合わせて3連続でバク転をしながら。
 一流のダンサーである侃がEXISによる身体能力強化を受けているのだ。その動きの切れは他のライセンサーが目を見張るほど。
 あっという間に距離を詰め、攻撃――するのではなく、両手を地面について長い脚を回転させる。ブレイクダンスだ。
 音楽のリズムに合わせて次々とブレイクダンスの技を披露する。

「Wow……」

 エルゴマンサーから小さく感嘆の声が漏れた。
 それを聞き逃さず、音楽とタイミングを合わせて侃はブリッジをして、跳ね起きる。
 その勢いを殺さずにエルゴマンサーへ肉薄し、バトルアクターのクローで斬り付けた。
 ヒット・アンド・アウェイ。すぐさま距離を取る。

「……まさかビビった仰天だ」

 エルゴマンサーの鋼の胴には切り傷が付いていた。

「Yeah! 僕のダンスをなめるなよ!」

 侃はウインクをして、エルゴマンサーに不敵な笑みを向ける。

「ユーに敬意を表して教えてやる」

 と、エルゴマンサーは今までのロックなリズムに乗った喋り方を止めて言う。
 何やら不穏な雰囲気。侃は音楽に合わせてステップを踏みながら敵を注視する。

「ミーのリジェクション・フィールドは独特だ。ミーの音楽にノっているやつの攻撃しか通さねえ」

 ロックミュージックの音量が次第に小さくなっていく。
 代わりに違う音楽が聞こえ出す。
 侃はステップを一旦止めた。

「だがミーの音楽の幅を甘く見られちゃ困るねえ。ユーのブレイクダンスはすごかったが、こっちはどうだ?」

 エルゴマンサーの両肩にあるスピーカーから流れ出したのはクラシック音楽。
 先程までとは打って変わってしっとりと落ち着いた曲だ。

「君こそ僕を甘く見ない方がいい」

 侃の雰囲気ががらりと変わる。快活でやんちゃな顔から、凜として芯の通った顔へ。
 そうして踊り始めたのはクラシックバレエ。
 指先・足先までピンと張り詰めた美しい所作でくるくると回る。
 異聞「冥土☆服」のスカートがふわりと開く。チュチュでこそないが美しい。

 まるでプリマ・バレリーナが相手役にするかのように、侃はエルゴマンサーの傍へ歩み寄って腕を差し出す。
 そして音楽に合わせてまた旋回し、優雅かつ強かにバトルアクターで殴りつけた。
 エルゴマンサーの右腕がひしゃげる。

「痛えー! クソッ、何で対応できるんだ?!」

 ブレイクダンスもクラシックバレエも両方を完璧に踊れる存在がいるとは予想外だったようだ。エルゴマンサーは痛みにうめいている。
 なおもバレエを踊りながら侃は攻撃を続けたが、クラシック音楽の音量は急速に小さくなっていった。
 侃は手を止め、澄ました顔で余裕たっぷりにバレリーナのお辞儀、レヴェランスをする。

 代わって流れ始めた音楽は、ポップでキュートな明るい曲。
 特殊な戦闘形式に適応できず侃に全てを任せるしかないライセンサーの1人は、秋葉原のゲリラアイドルライブで聞いたことがあるような曲だと感じた。

 侃の表情が再度変化。人気沸騰の可愛い女性アイドルのように満面の笑みを浮かべる。

「みんなー! 今日は僕のライブを聴きに来てくれてありがとう! 精一杯歌うから、いっぱい楽しんでいってね!」

 見えないファンに呼びかけるかのように、元気たっぷりな侃の声。
 今は異聞「冥土☆服」が異様に似合っている。

「さあ 歌おう 踊ろう 魂で!」

 即興で思い付いた歌詞を歌いながら、侃は音楽に合わせた振り付けを披露。
 エルゴマンサーを可愛くボコボコと叩いた。なおEXISによる攻撃なので威力は全く可愛くない。
 エルゴマンサ−も反撃をするが、侃は可愛く跳ねながら身軽に回避。そして反転攻勢。

 激しい攻撃を受け最早満身創痍といった様子でエルゴマンサーは地面に片膝を付いた。
 ポップな曲の音量が小さくなる。

「こ、これなら……」

 うめきながらエルゴマンサーが流したのは、ゆったりとした中華風ヒーリングミュージック。
 しかし侃は敵を逃がすつもりはなかった。
 引き締まった表情でスローに体を動かし始める。太極拳の動きだ。

 エルゴマンサー自身もそれを想定していなかったが、侃の太極拳は今の音楽にぴったりフィットしていた。
 ゆっくりとバトルアクターが前に突き出され、エルゴマンサーの頭部を掴み、ひねる。
 金属が折れる音。

「ユー……何者だ……?」

 それが最期の言葉となり、エルゴマンサーは事切れた。

 固唾を呑んで戦闘を見守っていたライセンサー達が侃を称えるべく近寄ってくる。
 侃は平和が戻った街の空を見上げ、ふうと息を吐いた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 この度はおまかせノベルのご発注、誠にありがとうございました。
 侃さんのキャラクターシートを拝見し、役者・ダンサーらしさを活かしたノベルを書きたいと思いました。
 しかし舞台で演技をしたり踊ったりするのもいいですが、一捻り加えたいと考えた結果、このように特殊な戦闘をするお話ができました。
 侃さんでなければ倒せなかったであろう敵とのバトルです。
 少しでも心に響くノベルとなっておりましたら幸いです。
おまかせノベル -
錦織 理美 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月21日

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