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『こういう服も似合うと思うの。』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 知人から菓子を頂いた。
 綺麗なお菓子の缶に詰められた物二つ。片方が普通に美味しく食べられる特に悪戯の要素は無いお菓子で、片方が――魔法菓子職人である当の知人が作った、悪戯用の魔法菓子が詰められている代物である。

 そんなお菓子を頂いたシリューナ・リュクテイア(3785)としては、取り敢えず後の楽しみに、自室の棚へとその菓子の缶を置いておく事にする。
 普通のお菓子の方はお茶会用に。悪戯菓子の方は――後でちょっとした悪戯をさせて貰う時の為に。

 と。

 そうそう、肝心のお茶の葉っぱが切れていた。
 つまりお茶会をするにはまず補充しなければ如何ともし難い。

 そんな訳で。



 こだわりの茶葉の買い出しに出たシリューナを見送り、ファルス・ティレイラ(3733)は留守番をする事になる。

 ティレイラはシリューナの魔法の弟子にして同郷の同族――別世界から来た紫の翼を持つ竜族であり、シリューナが妹の様に可愛がっている対象でもある。なお竜族だとは言っても、この世界で普段生活する分には竜型ではなく人型を取っている事が多かったりする。
 本性が別にあるとは言え、それで特に嫌な訳でも無い。

 いや、それどころか。

 楽しい楽しいお茶会を開いたり、可愛い服や装飾を身に付けたり、可愛い物を愛でたりするには、人型で居る方が都合がいいのだ。
 そう、勿論、部屋の掃除をするのにも。

 留守番となれば、ただ待っているのも仕事だろうが――どうせなら、とお掃除などを言い付けられる事も多い。言い付けられれば言い付けられた通りに、はい! とばかりにティレイラも元気に受ける。元々、言い付けられなくともある程度勝手に掃除はしている程であり――そんな中、特に言い付けられるとなると、シリューナの私室についてもフリーパス、と言う事になる。それはつまり、シリューナの――お姉さまの部屋にある興味深い品々を間近で鑑賞出来ると言う事にもなり。

 何にしろ、部屋を綺麗にするのは気持ちがいい。

 掃除機を掛けたり、箒やはたきを使ったり、布巾や雑巾で拭き掃除をしたり。場所によって適した掃除の仕方は変わって来るから、一つ一つ気を遣い、ティレイラは掃除を進めている。好奇心に負けさえしなければ手慣れた物。掃除をするそれだけなら、最早プロの領域と言っていい。
 ただその好奇心を刺激しまくる品々が多いのが、この場所でもあるのだが。

 例えば、今も。

 お姉さまの――シリューナの部屋にある物は、どうしたってそんな物が多い。魔法道具や美術品の類はティレイラの目にはどれも魅力的で、率先して掃除をするのはある意味、そんな品々を見る事で目の保養をしていると言う面もあったりする。
 そして今日もまた、棚の拭き掃除をしていて――綺麗な缶が置かれているのを見付けてしまった。お菓子が入っていそうな凝った作りの缶。造形が綺麗だと思うのと中身の有無が両方気になり、気になった時には――もう、手に取っていた。いつもの成り行き(つまり迂闊に触っただけで封印されたとか良くあるから)を考え、反射的にひやりとするが――その時点では特に何も起きず、ティレイラは取り敢えず安堵する。
 安堵の後、改めて手の中に意識が向く。持ち重りの感じからして、缶に中身は入っている。やっぱりうずうずと疼く好奇心。これまた先程同様殆ど自動的に缶の蓋を開けると、同時に甘い香りが湧き上がり、ふわりと舞う。そして肝心の缶の中には――可愛らしい焼き菓子が。思わず抓みたくなる様な、誘惑に満ちたお菓子が沢山。
 おお、と思わず感嘆の声が上がってしまう。その時にはもう菓子の方に手が伸びている。これだけ沢山あるなら一つ位と頭の中に言い訳が響く。伸ばした手が、その指先が沢山の焼き菓子の中から一つを拾い出す。誘われる様にして口の中に放り込む――もぐもぐ、咀嚼。

 ちょっとびっくりした。

 美味しいのである。殆ど反射的に次の手が伸びる。……これだけ沢山あるのならもう一つ位。頭の中で更なる誘惑の声が響く。ついつい従う。もう一つ。いや、もう一個……って、流石にもうこれ以上はいけない。バレる――と言うか、わかりやすく減っちゃう。それは拙い。お姉さまに悪い。
 このお菓子、もう味見には充分な位に貰っちゃった訳だから、ここまでにして――ちょっと名残惜しいながらもそれなりの満足は得た訳で! とお菓子缶の蓋を閉める――閉めようとする。

 が。

 閉めようと動かすその手指の動きが、妙に鈍った様な気がした。
 途端。
 体の中から、何か不思議な魔力がふつふつと湧き上がって来る様な錯覚を覚えた。いや、錯覚じゃなく、何か、自分の物では無い不思議な魔力が湧き上がり、全身隅々にまでじわじわと満ちて行くのを感じる。
 その時点で、あっ、と驚きの声を上げると共に、さぁっ、と血の気が引いている自分が居る。声と同時に何がどうなったか察した物の、もう遅い。後悔先に立たず。いつもの事と言えばいつもの事なのに、どうしてうっかりしてしまうのか――その好奇心旺盛さと迂闊さがティレイラなのだと言えばそうかもしれないが。
 つまり、今ティレイラが食べたお菓子が封印魔法系の何かが掛かった魔法菓子で、その効能は――いつもの如く、と言う事だ。
 察した通り、己の身に異変を感じる。対処を考えるより、動けなくなる方が早い。魔力がじわじわ満ちるのと体が強張って行く感覚が同時並行。意識までもすぐに遠退いていく。あれ? と思ったのが最後の意識。その時にはもう、全く動けなくなっていた。

 その場に残されていたのは、まるで等身大マネキン人形の如きティレイラの姿。



 新しいこだわりの茶葉を無事予定通りに調達出来、揚々とシリューナは帰宅する。すぐに必要な分だけ出して残りはきちんと仕舞い、いそいそとお茶会の準備を始める――始めようとする。
 その場にはティレイラは居ない――その様子からして、ここの掃除は済んでいる。と言う事は。今は他の場所で掃除をしているのだろう。ごくごく自然にそう思い、シリューナはやや声を張って、呼ばわった。

「ティレ。切りのいい所で戻って来なさいな。お茶会にしましょう?」

 ……。

 返事が無い。

「ティレー?」

 ……やっぱり返事が無い。
 そこまで広い家でも無いのだから、この位まで声を張りさえすれば、どの部屋に居たとしても聞こえない訳は無い。その筈なのだが――不思議な事に反応らしい反応がさっぱり無い。

「……全く。一体、何処に行ったのかしら?」



 お茶会の用意はさて置く事にして、シリューナはティレイラを探しに出る。そこまで広い家でも無い――探すべき場所は絞られる。居間、店表と店裏、倉庫、他の幾つかの部屋、シリューナの部屋――入った所で、佇んでいるティレイラの姿をすぐに見付けた。

「なんだ、居るんじゃないの。ティレ。……ティレ?」

 やっぱり、返事が無い。
 訝しく思い、その佇んでいる背に近寄りシリューナは手を伸ばし、触れる。……部屋に入った所から見えるのは背中だけだったのだ。正面からは見えない。

 つまり、今のティレイラが「どうなっている」のかまでは、見た時点ではわからなかった。
「それ」がいつも通りのティレイラの背だと仮定して、こちらの呼び掛けを存在を気付かせる為に触れた手は――「今の」ティレイラに触れるには、力が籠り過ぎていると気付かなかった。

 纏っている服の中、触れた感触はまるで硬いプラスチックの様で――更には内側が空洞ででもあるかの様な異様な軽さがシリューナの指先に届く。それだけで、押し倒してしまいそうになる――体自体が軽過ぎる。咄嗟に抱え、そのまま押し倒してしまうのを回避。何とか態勢を立て直し、自分だけでなくティレイラもそっと立たせ直した。
 そして、見直す。

 一見すれば普段通りのティレイラ。けれど――どうもまるっきり、マネキン人形と化している。

 続けて、周辺を確認――するまでもなく、棚に置いてあった筈の缶の蓋が開いているのが自動的に目に入る。考えてみればそもそもこの場所は、貰い受けた魔法菓子を置いておいた棚――の前だった。
 更には蓋の開いた缶の中身を見れば、数個減っている。

 つまり。

 ティレイラが何個か食べた形跡がある、と言う事だ。
 後で悪戯に使おうと思っていた魔法菓子の方を。

「……あらあら。掃除の途中でも我慢出来ない程なの?」

 相変わらずの食いしん坊。呆れながらも――今のこの状況に納得は出来た。マネキン状態はこの魔法菓子の効力。作った本人から試作だとも聞いているから、きっとこの状態も長くは続かない。

 なら。

 シリューナの方の悪戯心も、むくむくと湧き上がる。
 長くは続かないのなら、今の内に。

 じっくり遊ばせて貰うわよ。ティレ?



 軽く軽くなってしまったティレイラの体は、抱きかかえるのもとても簡単。驚いたみたいなぽかんと口を開けた可愛らしい表情に、プラスチックで模ったみたいな質感と適度な硬さの心地良さ。指先でそっと触れては滑らせ、撫でる。首筋から胸元、腰から脚にかけて。形は人型、でも感触は全然別。硬い肌の感触とティレイラの造形が相俟って、感嘆の声が出る。もっとこの感触を味わっていたくなる。
 いつものオブジェとはちょっと違うこの感じ。今になって新しい発見でもしたかの様。まるで可愛いお人形さん――こういうのも、悪くない。

 一頻り堪能した後、暫し思案する。今ティレが身に着けている普段通りの私服も勿論ティレらしくて可愛らしい。可愛らしいけれど――今は、マネキン状態な訳だから。

 いっそ、色んな服を、着せてみてしまいたい。



 ワードローブを開けて眺めて、中身の服と相談する。このワードローブの中身はシリューナが普段着用しているのとは別の物。そもそもサイズも――実を言えばティレイラにこそ合っている。事ある毎についつい選んで集めてしまったコレクション。でもサイズの合う当人には着て貰う機会が中々無い物でもある。魔法ドレスや普段のティレでは余り着用しなさそうなタイプの可愛い服。そんな中には普段ティレイラには見せない様な、ちょっと刺激的かもしれない露出の高い物も含まれる。

 ……可愛いティレには、こういう服も似合うと思うの。

 ごめんなさいねと悪戯っぽく謝り、シリューナは折角だからとマネキン状態なティレイラの服を脱がせてしまう。軽くなった体なら、結構、簡単。脱がせ終わると代わりに適当な服を見繕って、丁寧に着せ付ける。
 まずは、ふんわりとしたフリルがふんだんに使われた、天使みたいな、魔法ドレス。所謂魔法少女的な趣味かもしれない、普段から着用するにはちょっと憚られる様な派手さがある代物だ。着る機会が無いから、ずっと仕舞ったままだった。それでもここにあるのは、似合うと思ってつい手に入れてしまったからでもある。

 うん。可愛い。

 着せ付けた後に少し離れて見て、見栄えを確認。それから頬に触れて可愛さを確認。髪飾りも付けようか――思いながら見つめ、額同士をこつんとぶつけてみたり、感触を確かめてからまた離れて、服に動きを付けさせてみたり。……うん。似合う。
 一頻り愛でてから、今度は次の服。シリューナ自身の普段着とも近い、大人っぽく露出度の高いデザインの――魔女らしい服になる。お揃いもたまにはしてみたい。これはそんな感覚で選んだ服だった。
 胸の辺りが心持ち足りない感じになってしまうのは御愛嬌。それでも、それこそがティレらしくて可愛いと言ってしまったら悪いかしら。スカートの丈も短め。素肌との対比が綺麗な色。でもその肌の方に触れてみれば、独特の硬さがお人形さんらしさを強調する。その感触も勿論、素敵。
 フリルとレースが満載の、ゴシックドレスに着替えさせてみる。これまたアンティークドールみたいな趣きが新鮮。年甲斐もなくお人形遊びをしている実感が湧く。ティレが可愛過ぎるのが悪いのよ。ふふ。
 次は清楚なワンピース――似合うのだけれど、ティレ自身が選びがちな好みからはどうしても外れてしまうタイプの服。次は、動物の着ぐるみめいたパジャマ。これは渡したら普通に着てくれそうな気もするが――ちょっと渡しそびれて今に至るから、折角だから着た所が見てみたくなった。

 まだまだ、服はたくさんある。
 愉しい時間は、まだまだこれから。……お茶会をするのは、その後で。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 紫の翼を持つ竜族な御二人にはいつもお世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。お待たせしました。

 内容ですが、着せ替え人形部分中心……になっているかが微妙な気がするのがまず気になっております。ティレイラ様はよく色々な姿に着替えてらっしゃる様に見受けたので、あまり着なさそうな服がいまいち思い付けなかったのが理由かもしれません。あと菓子缶絡みを読み違えてないかとか。
 他細部もイメージから逸れてないと良いのですが、如何だったでしょうか。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
 残り期間も少なくなってしまいましたが、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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2020年05月22日

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