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『仕組まれた別離』
黒の姫・シルヴィア8930)&真紅の女王・美紅(8929)&黒の貴婦人・アルテミシア(8883)&紅の姫・緋衣(8931)

 美紅の住まう城。

 その一角に闇に包まれた教会を模した部屋がある。

 祭壇の奥にあるステンドグラスが月明かりを吸って色鮮やかな影をヴァージンロードの如き道に落としていた。

 普段なら、背徳の愛を囁く場として使われ甘い美紅の香りに包まれているこの1室だが、今日は厳かな空気に包まれている。

「…………」

 ワインレッドのドレスを纏った黒の姫・シルヴィア(8930)は、深紅のドレスを纏った深紅の女王・美紅(8929)と共にその道を歩いていた。

「では、別離の儀式を始めるわ。二人とも良い?」

 祭壇の前に立つのは、黒の貴婦人・アルテミシア(8883)。

 傍らには紅の姫・緋衣(8931)の姿もある。

 シルヴィアと美紅は一度視線を交わし、こくりと頷いた。

  ***

 美紅とアルテミシアが交わした約定に従い、仮初の主、アルテミシアのもとから本来の主、美紅のもとへ戻った後の生活は苦痛でしかなかった。

 昼夜を問わず贈られる囁きも、口づけも、愛も、シルヴィアの心には嫌悪感しかもたらさない。

 以前はこれこそが最上の愛であったと思っていたのが嘘のように、ただ情欲を貪る浅ましい行為にしか感じられなかった。

 だが、姫である以上、主の求めには応じなければならない。

 彼女は吐き気に似た嫌悪感を抱いたまま、快楽に身をゆだねる日々を送っていた。

 心がどれほど拒絶しても、快楽を貪ろうとする身体がこれほど恨めしいと思ったことはない。

(アルテミシア様……)

 せめて心だけはと、アルテミシアと彼女の城で過ごした日々のことを、本当の姫と花嫁の誓いを捧げてからのことを思い出し、快楽の日々を過ごしていた。

(……気持ち悪い……)

 初夜ならぬ最後の夜も、アルテミシアに捧げた身体を汚されたようでただただ気持ちが悪く、終わった後、何度も何度も丹念に身を清めた。

 シルヴィアの目には、美紅はもうドレスを纏った娼婦にしか映らない。

 そして、その全てに侮蔑と嫌悪感を感じてしまう。

(これでやっと……)

 包み込むような愛で自分を包み込んでくれた女王。

 本当の姫と花嫁の誓いを立てたあの時、初めて自分の心が満たされた気がした。

 身体の快楽の世界に浸りきった淫猥な娼婦とのつながりを断ち、身体を重ねなくても、幸せを感じられることを教えてくれた愛おしい方のものにこれでなれるのだと思うと自然に笑みがこぼれる。

「別離の誓いの口づけを」

 アルテミシアの声に、美紅がシルヴィアの頬にそっと触れる。

 心から名残惜しそうにシルヴィアの絹のような肌に触れながら美紅は内心ゾクゾクとした愉悦を感じていた。

 かつてはあんなにも忠誠と愛を捧げていた彼女の心がここまで冷え切るものだろうか。

 それこそがアルテミシアとのはかりごとであったとしても、ここまでの心の変わりようを見るのは楽しくて仕方がない。

「本当に行ってしまうの?」

「申し訳ありません」

 恭しく敬意を向ける様な振る舞いをしていても、美紅には分かる。

 向かい合うその瞳には、嫌悪感と侮蔑しか浮かんでいないことが。

「決意は変わらないのね……」

 哀しそうに目を伏せ、シルヴィアの唇に触れるだけの口づけを落とす。

 婚姻の時とは真逆の冷え切った心を抱きながら軽蔑する女との口づけ。

 外見上は口づけが出来なくなることを惜しむかのように唇を重ねるシルヴィアだが、内心はやっと解放されるのだという安堵にも似た気持ちに包まれていた。

 その一方で、美紅に刻まれた悦びが疼きだし、もっと口付けをして欲しいと強請る。

 そんな浅ましい自分に嫌気がさした。

(アルテミシア様のもとへ行けばきっとこれもなくなるわ)

 根拠はないが、そう思えば心の平穏は保たれるような気がした。

「お姉さま……」

「緋衣……」

 目に涙を浮かべ、駆け寄る緋衣にも別離の口づけをするシルヴィア。

(かわいそうに……)

 娼婦の愛しか知らないがゆえに、その娼婦に心酔する女。

 そんな彼女をシルヴィアは軽蔑と憐憫の目で見つめる。

 彼女のアルテミシアのような女王に見出されれば違っただろうに。

 そう思うと、彼女が哀れで仕方なかった。

 美紅の愛を受けていた時は、親愛の情を持ち、本当の妹として可愛がってきたが、今では美紅同様、嫌悪感と軽蔑しか感じない。

 シルヴィアの口づけを受けながら、緋衣もまた別のことを考えていた。

(せいせいする……)

 美紅の前、今だ名目上姉姫であるからこそこんな態度をとっているが、緋衣の中で、シルヴィアが己が主の愛を裏切り、一時的に仕えていたにすぎないアルテミシアに心奪われ、深い仲になったことは疑いようのない真実になっている。

 美紅を最上の女王として崇める緋衣にとってそれは許されざる罪。

 それを犯したシルヴィアは見下し軽蔑することはあっても親愛の情を抱くに値するはずもなかった。

 それに、彼女がいない間、美紅の愛は緋衣だけの物だった。

(これで美紅様は私の物)

 主の香りを独占することのなんと甘美なことか。

(私の方が、いいえ、私こそが美紅様の姫として、花嫁として相応しいのだもの)

 アルテミシアに植え付けられた甘美な毒は彼女の全てを侵し、緋衣はこの儀式に暗い喜びを感じていた。

 それぞれの思いを抱きながら、別れを惜しむように抱き合う姫たちを見ながら美紅は小さく微笑んだ。

 無論、美しい姉妹愛にではない。

 内心、軽蔑し合っている2人が、表面上仲睦まじそうにしているというのが愉快でたまらないのだ。

「では、互いの指輪をここへ」

 その声にシルヴィアと美紅は互いの指から指輪を外し、祭壇に用意されたリングピローに置く。

 そして、美紅がシルヴィアのティアラを外すと、美紅の呪縛が少し軽くなったような気がシルヴィアはした。

「シルヴィア、別離の誓いを」

「はい……私、シルヴィアは……」

 恭しく首をたれ、シルヴィアは美紅への愛と忠誠の放棄、緋衣への別れを誓う言葉を捧げる。

「儀式は成ったわ」

 アルテミシアの宣言と共に、シルヴィアのドレスが色をなくす。

 純白のそのドレスは、彼女が美紅の物では、いや、誰のものでもない証。

 誰の色にも染まらず、誰の指輪もティアラも身に着けていない彼女は姫でも花嫁でもない。

 背徳の社交界にデビューする前の『令嬢』と呼ばれる姫より1段下の身分だ。

「次の女王が決まるまで、ここにいるといいわ。寝室もそのままにしておくわね」

 令嬢となったシルヴィアに美紅が微笑む。

「美紅様。どうしてそのようなことを……」

 その刹那、緋衣が異議を唱える。

 寝室をそのままにしておくということは、愛を交わし合おうという誘いに他ならない。

「シルヴィアは自分から至高であらせられる美紅様の契りを捨てた女ですわ。そのような慈悲かける必要はないかと思います」

 汚いものでも見るかのような高圧的な態度の緋衣に、美紅はまあまあ、と微笑む。

「行き場がないのは困るでしょう? 解消が彼女の意思だったとしても、契りが過去の物であったとしても、私の可愛い子であることに変わりはないわ。せめて、次の女王が決まるまで世話をしたいと思うのは当然ではなくて?」

(私だけの美紅様なのに……)

「…………かしこまりました」

 己が女王がそう言っている以上、口出しはできない。

 シルヴィアのを方を睨みつけながらしぶしぶ緋衣は引き下がる。

「お心遣いありがとうございます。ですが、緋衣が……」

「未熟な令嬢の身分でその口の利き方は何? 身分相応に振舞うのが当然ではなくて?」

 シルヴィアの言葉を緋衣が遮った。

 その言葉はどこか命令めいて、先程別れの口づけをした時に見せた親愛の情はかけらもない。

「失礼いたしました。……緋衣様がおっしゃる通り、今まで通りというわけにも参りません。客間をお貸し願えますか?」

(私たちを繋げる者がなくなってもなお寝所に誘うというの)

 その淫乱さに嫌悪感を強めながら、丁寧な口調は崩さずにシルヴィアは断る。

 この城にいることすら嫌ではあったが、行き場がないのは事実であったし、完全に断ってしまうのは失礼にあたる。

 礼節を重んじる彼女にそれはできなかった。

「そうね、純白の令嬢に少し失礼だったかもしれないわ。客室を1つ用意させるわ」

 気分を悪くしないでね、そう言って、美紅は緋衣を伴って教会を出ていった。

 残されたのは、アルテミシアとシルヴィア。

「アルテミシア様……」

「駄目よシルヴィア。貴女は正式に私のものではないんだもの」

 抱き寄ろうとするシルヴィアを制止して、アルテミシアは微笑む。

「もう少しの我慢よ。もう少しだけ……ね」

  ***

「花嫁として迎えいれる準備が出来たら迎えるわ」

 正式にシルヴィアのものになりたいと告白した夜、シルヴィアにアルテミシアはそう告げた。

「でも、美紅様が許してくださるでしょうか?」

 不安そうに尋ねるシルヴィアを安心させるように彼女の頭をなでながら、アルテミシアは言葉を続ける。

「そう言ってくれると思って、美紅には私から説得してあるわ。大丈夫よ。名目上、一時的に美紅との契りを破棄するということにすることになったし、その後も私のもとへうまく来れるように取り計らってあげる」

「……ありがとうございます!」

 歓喜に震えるシルヴィアに、でもね、とアルテミシアは続ける。

「本当に貴女の心次第でいいのよ。美紅との契約を破棄して私のところに来れるようにしてはあるけれど、別の貴婦人のもとへ行くという選択肢もあるし、やはり美紅のもとがいいのなら戻るという選択肢もあるわ」

「そのようなことは……! 私はアルテミシア様に仕えたいのです!」

「ありがとう。迎えいれるまで少し時間が空いてしまうと思うわ。その間に考えてみてちょうだい。私は貴女に無理強いはしたくないの」

 花嫁としてシルヴィアを迎えるつもりなのは本当だ。

 だが、迎えようと思えば、儀式の直後に迎えいれることも可能であった。

 だが、わざと時間をあける。

 そして、美紅の城に逗留させる。

 儀式を終えたシルヴィアが美紅とどう過ごすのか。

 また、それを見た緋衣はどんな反応を示すのだろうか

 それが女王2人の今の一番の楽しみなのだ。

 忠実な姫の愛と忠誠を侮蔑と嫌悪にまで完全に塗り替え楽しむ罪深き遊戯はまだ終わらない。





━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8930 / 黒の姫・シルヴィア / 女性 / 22歳(外見) / 呪縛からの解放 】

【 8929 / 真紅の女王・美紅 / 女性 / 20歳(外見) / 遊戯は続く 】

【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳(外見) / 全ては企みの上 】

【 8931 / 紅の姫・緋衣 / 女性 / 22歳(外見) / 女王は私のもの 】
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東京怪談
2020年05月22日

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