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『紅蓮の猟犬、約束の白』
cloverla0874



 ラーイカっ、クロ君と友達になろうよ


 厳しい冬が終わりを告げ、シロツメクサの咲く春が来た。
 街を歩く人々の表情は明るく、行き交う車の音も軽やか。
 淡い色合いの服装が目立つ街中で、黒いブーツ・黒いハーフコートの裾を揺らす紅蓮の髪の少年が、マイペースに歩いていた。
 感情の読みにくい表情に、はっきりと疑問符が描かれたのは目的地に着いてから。


 駅前の広場、整備された花壇。レトロデザインの街路灯とベンチが並ぶ。
 その一つが、指定された場所だった。  
「ライカー、待ったー? 俺は今きたトコ!!」
 肩より少し上で揺れる真白の髪。
 華奢な体つき。
 待ち合わせ相手は中性的ながら少年と記憶しているが、明らか自分より早く到着していただろう相手は見るからに少女である。
 しかし印象深い金色の瞳や表情、言葉遣いはそのままで――……。
 ???
「今日のクロ君は『純情可憐なびしょーじょ』!」
 美少女=clover(la0874)。
 白を基調とした春物ワンピースをまとった美少女は、紛うことなく去る冬に死闘を交わした相手であった。
「これはまた、難儀な……」
 世界の理に反した『元・エルゴマンサー』ライカ(lz0090)は、額に手をあてて深々と嘆息した。
「ちょーっと前の仕事でね、重体になったんだー。これはボディメンテナンス中の代替なの。似合う?」
 ベンチに腰かけていたcloverは、白い足を伸ばしてパタパタさせる。その度に花弁のようなワンピースの裾がひるがえり、目のやり場に困るというもの。
「可憐な美少女の自覚があるのなら、相応に振舞え」
 やれやれ。呆れながら、ライカはポケットから左手を差し出した。
「お手をどうぞ、お嬢様。本日のご予定は?」
「なんだ、ノリノリじゃん」
 cloverは砕けた笑いのあと、恭しく手を取って、上品な振る舞いで立ち上がる。
「変な感じ。ライカが近いね」
 本来のcloverの身長は、170cmほど。154cmのライカを見下ろす形だ。
 今もほんの少しだけライカより高いけれど、ぐっと近い。
「へへ、これがライカの視界かー」
「存分に堪能するがよい」
「俺たち、カップルに見えると思う?」
「令嬢と従者ではないのか」
「え。なに。何か気にしてる?」
 憮然とした反応は、どこかライカらしくない、ような気がする。
 小さな違和感を、cloverはそのまま問うた。
「服装を間違えたとは思ってる」
「ライカ、それ以外に服あるの? え、見たいんだけど」
 どういうお店行くの? 好きなブランドある? あっ、何なら今から
 cloverのマシンガントークを、ライカは両手で制し。
「わしのことは今はどうでもよい。用事があって呼び寄せたのじゃろう?」
「あっ。そうだった!!」

 ――時はきた 約束を果たすべし

 よくわからぬ文面の連絡と待ち合わせ指定。
 ライカが赴く義理はあるようなないような、ともあれ特に予定もないので来てみればこれである。
 話の本題に入らぬまま時間が流れてゆく。それを無為ともいわないけれど。
「買い物に付き合ってほしいんだ」
 にこーっ。
 日に向かって咲く花のようにまばゆく、cloverは笑んだ。




「重体とかあると、結構お金かかるんだよね……。クロ君てば、人間にすっごく近く作られた超高性能ボディだから」
 目的地はあっち。
 ざっくりと指して、2人は歩き始めた。歩きながら、cloverが今回の経緯を語る。
 お金もかかるが、時間もかかる。こうして代替ボディが必要なくらい。
 より人間に近く作られたボディは、男性型は男性らしく。女性型は女性らしく。
 重体による能力減少も重なって、普段以上にかよわいのが現状。
「俺、一応居候の身だし……追い出されたら行くとこないし。修理ばっかで迷惑かけらんない」
「ふむ」
 居候先に、居たい。その願いを、ライカは理解する。
「……というか、借金が増えてヤバイ……節約しなきゃ……」
 cloverの肌が、白を通り越して蒼白になる。明朗な声がガクガクと震えだす。
 借金。
 そのワードに、ライカは眉根を寄せた。
「おぬしらは、ナイトメア狩りで充分に稼いでいるのではないのか」
「ライカ、ちゃんと聞いてた? クロ君の修理代、すっごくお金がかかるの」
 損傷次第では報酬も吹き飛ぶの。
 ちなみにライカに焼かれた時もマイナス行ったの。
「…………」
「だから、責任取って貰うって言ったでしょー」
「想像していたより、生々しいのう……」
「現代に生きてるからね、クロ君は!」
 ふふん、とcloverはご機嫌に鼻を鳴らして胸を張る。
 小柄な体にバランスのとれた胸は、cloverの大好きなサイズより慎ましいが自分のものであると思えば いや、今はそういう語りをするところではなくて。
「というわけでさ。ライカ、お米何キロ持てる?」
 ナイスバルクを目指すかのような質問へ、ライカの表情がスッと消える。
 ……お米?
「今日、お米の特売日なんだ。俺、今の状態だと5キロくらいまでしか持てない」
 特売日……
「元とはいってもエルゴマンサーだし、100キロくらいいける?」
「いや、それは無理だ」
 我に返り、無茶振りには即答を。
 確かに人の行き交いが多い街だとは感じていたが、意識してい見ると年齢層は『遊ぶ若者たち』とは少し違う。
 よく言えば『生活感のある街』だ。
 そして向かう先に、郊外大型ショッピングセンターの看板が見えてきた。あそこか。
「たしかに、なんかライカってあんま腕の力とかなさそー……細いし」
「わしが力仕事をする必要はなかったからのう」
「優秀なワンちゃんたちが荷運びしてたの?」
「そんなところじゃな」
 エルゴマンサー・ライカは、狼型のナイトメアを好んで引き連れていた。
 その身体能力と知能は高く、同等のエルゴマンサーまであと一歩、というところまで育て上げた個体もいた。すべて、過去の話だが。
「それでもいいや、俺ひとりじゃ無理だったもん。持てる限り、お米を買うよ!!」
 張り切るcloverの背を追いながら、ライカは不安げに己の両の手を見つめた。
 肉体労働。それはこの体になってから、実に縁遠いものである。
 しかしcloverの背負うものを聞いた以上、無下にもできない気持ちにはなっていた。

 『この場所に居たい』

 そう彼が願うのならば。自分にできることがあるなら、多少なりとも手伝ってやりたいとは思う。




 正面玄関から入ると、フードコートからの喧しいとも形容できる香りが漂ってくる。
 幼子を連れた母親たちが談笑していたり、ドリンクだけで長時間ねばっている学生たちがいたり。
「せっかくだから色々見て回りたい気もするけど、まずはお米っ。買い逃しないようにねっ」
 そう言うclover自身が、周囲を興味深げに見まわしている。

「あそこのシュークリーム、新作出てるっ!」
「見てーっ! フルーツサンドすっごく美味しそ――!!」
「ソフトクリームの季節限定だよ! 今試さないでどうするの!?」

「少し落ち着け」
 そわっそわするcloverの手を、呆れかえった顔でライカが握って食品フロアへ引っ張っていった。




 季節の花々が彩るフラワーショップに見惚れつつ、いざ本日の目的地へ。
「はっ! このプリンは……っ!! いつも高くてなかなか手が出せないやつ! 何で?! 安いじゃん! 買うっ!」
 特売は米だけじゃなかった!
「米は」
「先に米袋を担いだらプリン持てなくなっちゃうから! 今!!」
「……まあ、選択権はおぬしにあるしな……」
 米の売り場は、ここを過ぎて左に曲がる。
 大きく重いものを買う前に、小さく魅力的な商品を陳列し誘導するとはスーパー恐るべし。
 ある意味で、人類の心理を深く学びピンポイントで突いている場ともいえる。
(ナイトメアは、こういった部分を学ぶべきであったろうな……)
 ライカはそこから抜けた存在だが、いつかは気づいただろうか?
 ただ『食事する』だけでは得られぬ物事は、人の世界に溶け込んでから多く知ったような気がする。
「無洗米って便利ー☆ って思った時期もあるんだけどさ。美味しさとか栄養分が少し抜けちゃうんだって。だったら普通のお米がいいよねぇ」
「決まった銘柄はあるのか?」
「うん、これこれ。お気に入り! ちょっと固めに炊くのがコツでね、しっかり噛むと旨味が増すんだよー」
 『特売』とPOPが下がった区画から、cloverが5キロ袋を持ち上げる。
「……うん。限界。ライカは?」
「……、…………」
「無理しないでいーよ!!!!?」
 10キロ1つが限界でした。




 シュークリームとフルーツサンド、春期限定さくら&いちごソフトはカップで。
「んまぁ――い!」
「そいつは何よりで」
 フードコートの椅子に向かい合って腰かけ、cloverとライカは買い物後の一息タイム。
 さすがに、米を買って直帰は体がつらかった。
 cloverは来店時にチェックした限定物を一通り。
 ライカはドーナッツとホットの紅茶。
「いいの? 奢ってもらって。嬉しいけど。ていうかライカの私生活なぞなんですけど」
「ミステリアスな美少年は鉄板じゃろう」
 衣食住はどうしているのか、金銭面はどうしているのか、まったく謎。
 エルゴマンサーとしてのちからは失って、愛情込めて育てた手勢ナイトメアも壊滅したことだけは確か。
 そんな彼のを存在を、恐らくSALFも把握していなくて、知っているのは連絡先を交換したcloverただひとり。
 とりあえずスマホを持っていることは確か。契約とかどうしてんだろ。
「重体は、そんなに頻繁なのか?」
「うえ?」
 口元に付いたフルーツサンドのクリームを指で拭ったところでライカから質問され、cloverは間の抜けた声を返した。
「わしが燃やした時は、ずいぶんと根に持っていたじゃろう。今回も、相手に請求すればよかっただけではないのか」
「クロ君だって、立派なライセンサーですよ。いつでも炎上してるわけじゃありませんし相手が生き延びてるわけでもないですから」
 一般人をかばって咄嗟に動いた、その瞬間に囲まれた。
 頑健なシールドも数の暴力には耐えきれなくて、味方の援護が追いつく前に壊れてしまった。
「……なるほど」
「あの時、あの瞬間に動けるのは俺だけだったんだ。小さな女の子だよ。守るしかないじゃん」
「それで自身が壊れては世話がない」
「だって――……」
「代えがきかぬくらい壊しつくされる場合もあるじゃろ。そういうのを相手にしておる」
「……。ライカ、心配してくれてるの?」
「まさか」
「シュークリーム、半分たべる?」
「要らぬ」
 意外だ。心配してくれていた。
 自分で誘っておいてなんだけれど、ライカは妙なところで律儀だと思う。
「かつての同胞がクロ君を破壊するたび、わしはこうして呼び出されるのかと思ってな」
「あっ、知ってる! 連帯責任っていうやつだ」
「そうなるのかのう……」
 ライカが、がくりとうなだれてドーナツを齧る。ふわふわの髪のつむじが見える。
「冗談だよ。重体じゃなくても、遊びたくなったら呼ぶし」
「呼ぶのか」
「来てくれるでしょ?」
「……そうさなぁ」
「約束、だもんね♪」
 それはとても一方的とも言えるし、しかしなんだかんだ来てしまうライカであるし。
 愉快気に、cloverは手を伸ばしてライカの髪をかきまわした。




 華奢な二人、それぞれに限界量の米袋を持ちながらなんとか駅へ到着。
「今日は色々助かったよ、ありがとーっ!」
「……10キロ上乗せじゃが、大丈夫なのか?」
「うん。お迎え来るから!」
 ったら最初から『お迎え』と一緒に買えばよかったのでは、とライカは思ったが、特売は時間制限もあるから仕方なしか。
「はい、これさっきのプリンっ! 今日のお礼に一個どーぞ♪」
 保冷材でしっかり冷やしているから大丈夫。
 ライカの震える手に、小さな紙袋がonされる。
「どこへ行くにも、それなら邪魔にならないでしょ?」
「……まあ」
「それじゃあ今度、また遊ぼうねー!」
「ああ……、……ああ?」
 荷物を置いて、cloverが手をブンブン振る。
 生返事をしてから、ライカは我に返る。
(やれやれ、調子の狂う……)
 そんなcloverが相手だから、ライカの運命も狂ったわけだが。





 ライカ、今度は何処へ行こうか!





【紅蓮の猟犬、約束の白 了】

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
大変お待たせいたしました……! お待ちくださいまして、ありがとうございました。
『if・ライカが光落ちしていたら』お届けいたします。
・ナイトメアとしての力を一切失い、ひとでもナイトメアでもない生命体
・SALFはそのことを把握していない
・衣食住、収入や食生活などは一切不明
という設定でお送りしております。
種として敵対する理由がなければ、それが許されるのなら、こんな感じのライカです。
お楽しみいただけましたら幸いです。
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2020年05月25日

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