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『ドラマ「コールド・ロータス」シーズン2 第4話「偽りの証言をするなかれ」』
柞原 典la3876


 レヴェルの疑いありでこの女性を調べて欲しい。柞原 典(la3876)とヴァージル(lz0103)にそんな指令が下ったのは、十一月の終わりだった。典はあまり気にしていなかったが、ヴァージルの方はお国柄もあるのか、クリスマスをたいそう心待ちにしているように見える。そんな時期。
「アドベントカレンダーは出したか?」
「なんやそれ」
「クリスマスまで何日か数えるカレンダーだよ」
「へぇ、そんなんあるんか」
「……興味ねぇよな……知ってた。それにしても、彼女、美人だな」
 ヴァージルは端末に送られた画像を見て呟く。典がちょっとよそ行きの笑顔を作り、
「出た、兄さんの悪い癖や。顔の良い人間に弱い」
 ヴァージルに顔を近づける。相方が典の美貌に弱いことを知っている。
「そうじゃねぇよ」
「俺と言うものがありながら」
「お前俺のなんなんだよ」
「相方」
「そうだな」
 などと言い合いをしながら、二人はその女性の元へ向かった。


 で、ヴァージルの「悪い癖」が出た。レヴェルの疑いがある女性は大変な美人だった上、人当たりも良く、聞き上手で、ヴァージルは有り体に言えば「恋に落ちた」。誰の目から見ても(当然相手の目から見ても)、彼女に惚れてしまったことは明らかで、典は隣に座って話を聞きながら笑い出しそうになった。
(めっちゃおもろい……)
「ご協力ありがとう。あなたの心根はお姿と同じように美しいですね」
 などと言い出した時には横隔膜が大変だった。
「何震えてんだよ。寒いのか?」
 建物を出ると、未だに笑いを堪えている典にヴァージルが怪訝そうな顔を向ける。
「ふぇっ? あ、ああ。そうやね。今日寒いなぁ」
 と、言いながら典はヴァージルに貼り付いた。
「兄さんぬくいなぁ」
「歩きにくいからひっつくな」
 などと言いつつも放り出さないヴァージルである。しかし、ずっと典の震えが止まらないので(つまり笑いが止まらなかった)、心配して医者に連れて行こうとしたがどうにかかわした。


「は? ディナーの約束したん? あの嬢さんと?」
「うん。もう予約した」
 数日後(要するに彼女の調査のまっただ中)、ヴァージルからそう打ち明けられて、典は目をぱちぱちと瞬かせた。
「ちょうどクリスマスシーズンだし……」
「ほぉーん……」
「言っとくけど、飯食って解散だからな」
「あー、はいはい。そうやね。ほんだら、あの嬢さんの無実、早う晴らさなあかんなぁ?」
「そう。そうなんだよ。だからこれから行ってくる。お前も来いよ」
「はいはい」
 しかし、典は彼女がレヴェルでほぼ間違いないという証拠を掴んでいた。データとして既に典の端末に保存されている。ヴァージルも調べれば辿り付くことだ。どうせ、自分で見つけないと納得しないだろう。だから、典はヴァージルを泳がせておくことにした。
 恋したヴァージルの顔は明るかった。典はその顔が曇るところを想像してくすりと笑う。
「何か良いことあったのか?」
「ん? いや、楽しみなことがあるだけやな」

 ヴァージルは真面目であったから、彼女に都合の良い証拠などは探さなかった。後に禍根を残さぬように無実を証明しようとしたのだ。ないことを証明するのは難しいと言うのに、一生懸命彼女の周辺を調べ、典と同じ証拠に行き当たった。
「……信じたくない」
「レストランまで予約してもうたからなぁ。どないすんの兄さん。ディナーの席で突きつける?」
「いや、看過できねぇ。行こう」
「きさんじやなぁ」

 彼女はヴァージルが提示した証拠を見て、彼を見上げた。
「俺はあなたを信じたことを後悔してないし、今でも信じてる。自分の良心に従って全て話してくれることを」
 彼の言葉に、彼女は俯いて、そうねと答え、自分の所属を認めた。


 数時間後、SALF本部。
 ヴァージルがつくねんとしてソファに座っている。燃え尽きた彼の分まで手続きを終わらせた典は、それを見つけると足を速めて歩み寄った。
「泣くな、兄さん」
「嬉しそうだな」
「そお? 心外やなぁ。俺、薄情者に見える?」
「お前は他人の不幸が蜜の味だろ」
 涙の跡が残る目元を拭う。典はその隣に座ると、ヴァージルの頭をくしゃくしゃっと撫でて微笑んだ。
「俺から余所見するからやで?」

 紫色の虹彩が意地の悪い光を湛えている。けれど笑顔は極上と呼んで差し支えがなく。
 耽溺しそうになる。その膝に泣いてすがりたくなる。離れないでと。恥も外聞も捨てて。
 良い匂いがする。急に白い肌がなまめかしく見えてしまって、ヴァージルは己の感性があらぬ方に向かって行く自覚に身震いした。

「……なぁんてな。ま、どのみち、これに懲りたらお利口さんにしとき」
 微笑みはそのまま、手を下ろす。魔法が解けたようだ。ヴァージルは、まだ漂ってくる魔性の気配を振り払うように首を横に振り、
「美味いもんでも食わないとやってらんねぇ……俺は行く」
「え? レストランキャンセルしてへんの?」
「うるせぇな! 一人はキャンセルしたよ!」
「ギリギリまで信じてはったんやなぁ」
 その背中を典は見送り……自分も立ち上がった。


 さて、典には一人分キャンセルしたと言ったが、あれは嘘だ。本当にギリギリまで彼女のことを信じていたし、今からでも覆す証拠が出やしないかと期待している。
 そんなことはあり得ないということは重々わかっている。彼女は間違いなくレヴェルであり、それは現在のこの世界では罪人を意味する。
 到着してから来られなくなった旨を伝えれば良い。そう思ったけど、入り口で、席に通されて、連れのことを聞かれて、
「あー……後から来ます」
 としか言えなかった。情けないのは百も承知だ。どのタイミングで言うべきか。メニューを開く。
 メニューの文字列はまったく目に入らなかった。何度も前菜の欄に視線を往復させて、一度メニューを閉じようとしたその時、給仕がやって来た。お連れ様がおいでです、と。心臓がバスケットボールみたいに跳ねた。
「一人にして堪忍なぁ、兄さん」
 屈託なく笑う典が、向かいの席に腰掛けた。制服からスーツに着替えている。ヴァージルはぽかん、と口を開けて、
「は?」
「兄さんのことやから、ほんまはキャンセルしてへんやろな思うてな。キャンセル料もったいないし、せやったら俺がお相伴しようかなぁって」
「……お前の分はお前が出せよ」
「なんでや。兄さんの寂しいディナーを華やかにしたる言うてるんやで」
「よく言うぜ……」
 笑いがこみ上げてくる。
「ほんだら乾杯しよ。シャンパンでええな?」
「良いよ。どうせ俺もお前もいい歳だからそんなに食えないだろうし、奢ってやるよ」
「お、言うたな。いっちゃん高いもん頼んだろ」
「残すなよ」
 二人はメニューを挟んでくすくすと笑う。

 向かい合って笑う二人の間で、窓越しにクリスマスツリーの電飾が賑やかな光を放っていた。

 きっともうすぐ雪が降る。

 少し早いのだけれども、

「メリー・クリスマス」

 シャンパンのグラスが軽く鳴る。今日は、相棒と呼べる人と楽しく過ごそう。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
来ない人の代わりに相方が来るって言うバディあるある回でした。
典さんの魅了シーンはもうちょっとがっつり書きたいと思いつつ、がっつり書くほどだと逆にヴァージル戻って来れなさそうとも……笑。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月25日

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