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『2時間ドラマ「怪談蒐集家・桃李 〜蟷螂様伝説〜」』
桃李la3954

●登場人物
桃李(la3954)
古今東西の怪異話を集めている在野の怪談蒐集家。行く先々で事件に巻き込まれるが、その度に持ち前の頭脳で事件を解決している。
警察が調べても、過去のことはよくわからない謎に包まれた人物。長く伸びた髪、洋装に女物の派手な着物、という出で立ちから、「胡散臭い」とまで言われるが、頭脳の明晰さは折り紙付き。

グスターヴァス(lz0124)
桃李の助手をしているアメリカ人。桃李とはひょんなことから出会い、助手を務めている。頭のネジは取れているが愚かというわけでもない。
何故か前科を疑われるが、照会すると極めてクリーンな人間であることがわかる。

●あらすじ
怪談蒐集家の桃李とその助手グスターヴァスは、怪談を求めてとある温泉宿に滞在していた。ここには山に潜む「トウロウサマ」の伝説があると言う。
二人が住民から話を聞いていると、山中で怪我人が見つかる。鎌のようなもので切り裂かれており、これはトウロウサマの怒りに違いないと怯える住民たち。
「その件、俺たちに調べさせてもらえないかな?」
桃李はそう申し出て調査を始めるのだが……。

●新たな土地へ
「桃李さん、起きてください。もうすぐ着きますよ」
 瞼の向こうから、グスターヴァスの耳慣れた声が聞こえる。桃李はゆっくりと目を開けた。本当は少し前から起きていたけど、助手が起こすまで待っていたのだ。
「やあ、起こしてくれてありがとう、グスターヴァスくん」
「いえ、起きてたのは知ってました。それより見てください、この景色。日本の緑は趣がありますねぇ」
 電車の窓からは、緑の景色が見える。山並みと森、畑だ。青葉が萌える。
「ああ、良い眺めだねぇ」
「ビルが全然ありませんよ」
「そうだねぇ」
 桃李は窓を開けると、枠に肘を突いて外を眺めた。

 桃李は在野の怪談蒐集家だ。ひょんな事から出会ったグスターヴァスを助手にして、津々浦々の怪談を採話している。行く先々で事件に巻き込まれたりもするのだが、その度に探偵の真似事をして見事解決に導いている。
「今回はどんな事件に巻き込まれるかなぁ」
 そうであるから、今回も何か起こるだろう、と彼は予想していた。
「え、巻き込まれること前提なんですか? やだなぁ。今度は大丈夫ですって」
 グスターヴァスの少し困った様な言葉に、桃李は口角を上げて、
「そうだと良いね」

●トウロウサマ
 まず、温泉宿の仲居に話を聞くことにした。まあ、調査ってことは先生ですか。いや、そんなたいそうなものじゃないんだ、というやりとりの後に、相手は話し始めた。

 この辺に古くから伝わる話で、ここの住民は皆知っている。トウロウサマと呼ばれる守り神で、二本の鎌を持っており、普段は山に住んでいるが、夏の終わりになると里に下りて、男の生贄を求めると言うのだ。
「ふぅん? 珍しいね。生贄は大体女の人だと思っていたけど……続けて」
 大昔はそれこそ人柱として男を一人山に放り込んでいたらしいが、最近は形式化して、「蟷螂祭」というものを年に一回執り行うのだそうだ。これで、翌年の繁栄を祈ると言う。ただし、今年は色々とごたごたがあって延期されているのだそうだ。

「トウロウサマ、というのは恐らく『蟷螂様』だろうねぇ」
 仲居が話を終えて戻ると、桃李はさらさらと手帳にそう書き付けた。
「難しい漢字ですね。意味は何ですか?」
「カマキリのことだよ。二本の鎌を持って、夏の終わりになると男の生贄を求める……カマキリの特徴を言い換えてないかな? カマキリの生息地は様々で山だけではないけど」
「ということは、トウロウサマは女性なんですかね」
「もともと、山の神は女性が入ると嫉妬するから男性が入る、なんて言うし……その変形の可能性は充分にあるよね。どうしてカマキリの特徴になったかはわからないけど……その辺も、色んな人に話を聞いたらわかるかもしれない」
 桃李は笑みを浮かべた。前髪で表情が隠れてよく見えないが、グスターヴァスは彼が楽しそうにしているのがよくわかった。
「まあ、男が男を求めないと言う保証もないよね」
「まあそりゃ恋愛は自由ですからね」
「恋愛以外にも、跡取り問題とか、ね?」
「二代目トウロウサマってことですか?」
「あり得ない話じゃない。可能性を限定してはいけないよ、グスターヴァスくん」
 桃李はそう言ってにっこりと笑った。

●最初の事件
 翌日、二人が散歩に出ると、人だかりに行き会った。制服警官が野次馬を押しとどめている。
「何かあったんですかね?」
「ちょっと様子を見ようか」
 漏れ聞こえる会話を拾ったところによると、どうやら鎌のようなもので人が斬りつけられたらしい。怪我で済んでいるが、犯人は見ていないと言う。
 トウロウサマだ! トウロウサマがお怒りなんだ! と言う声が上がった。
「どうしてトウロウサマが怒るんだろう?」
 桃李が何気なく言うと、住民の一人が言った。人間の都合で蟷螂祭を延期しているからお怒りなのだと。
「どうして蟷螂祭は延期になっているの?」
 どうやら、この地域を二分する旧家の間で諍いがあるらしい。そのせいで祭の準備が遅れており、延期になっているのだとか。
「ふぅん……」
 桃李は顎に手を当てた。
「……桃李さん、駄目ですよ」
 グスターヴァスがそっと囁いた。
「嫌だな、ちょっと話を聞くだけだよ。グスターヴァスくんも手伝ってくれるよね?」
 彼はにこりと笑った。

●決定打
 ある程度情報を集めると、桃李はある人物を呼び出して、君が犯人ではないか、と告げた。何を根拠に、と狼狽える相手に、
「疑った理由ね」
 桃李はまるで天気の話でもするかのように続けた。
「あの山の中のルートを知っている人はたくさんいるけど、実際に行ける人となると限られてくるんだ。特に膝の痛い人は絶対無理。だからお医者さんに怪しい人のリストを見せて、『この中で膝の痛みを訴えてない人だけ教えてください』って言ったんだ。誰がどう言う症状を訴えてるかは守秘義務で言えないけど、言ってない人なら良いかと思ってね。まあ本当は駄目らしいけど」
 残った人間の中から、アリバイのない人間をピックアップした。それだけである。警察は証拠がないと動けないが、桃李はそうではない。
「まあ、俺は警察じゃないから、君に事情聴取する権利もないんだけど、どうかな? 俺の推理。外れって言ってくれても……」
 桃李が言葉を切った。相手が鋭く光る草刈り鎌を持ち出してきたからだ。
「軽率だなぁ。俺の言うことを何も証拠がないって否定してしまえば、俺だってそれ以上は追求しないのに」
 刃物を出されてもまるで動じない桃李に逆上したのか、相手は鎌を振りかざして飛びかかった。桃李は懐から鉄扇を抜くと、ひらりと身を翻して斬撃を回避。その手首を強かに打ち据えて、鎌を叩き落とした。
「そこまでです!」
 グスターヴァスが駆けつけた。二対一になって、相手は観念したようである。
「駐在さんには話しました。あなたの身辺が調べられるのも時間の問題ですよ」
 桃李を見る。追求しないって言ったじゃないか、と。
「追求はしないけど、駐在さんには話すよ」
 彼は笑った。
「俺は善良な一般人だからね」

 こうして、蟷螂様伝説に端を発した事件は幕を閉じた。桃李はグスターヴァスを伴って、荷物をまとめて列車に乗り込む。
「さようなら。楽しかったよ」
 目を細めて、遠ざかる緑に告げた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注&企画ご参加ありがとうございました。
桃李さんが怪しい人……と聞いて、「これは……探偵をせねば!」と謎の使命感に駆られました。
こう言う伝承+ミステリーが大好きなので、完全に趣味に走ったのですがいかがでしょうか。お医者さんも本当は教えてくれないと思いますがまあそこはサスペンスあるあると言う事で一つ。
それにしてもこれ時代いつでしょうね。令和でも平成でもないのは確かです。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月27日

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