▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『父はさておき子は育つ』
東海林昴la3289

 きのおもきのおのきのおもきのおのきのおのきのおもいったけど、きょおもびょいんにいった。
 オレのじみよわふーぜんのしびしびってせんせえにゆわれた。
 わかんないからおとんにきいた。
 へんじはない。しかばねのよおだ。
 せんせえとはなしてるおかんにきこうとしたら、おとんがびょいんからオレのこともってった。
 ばくそくでたのしかったです。


 まあ、前置きの日記は心で読み取ってもらうとして。
 東海林昴(la3289)は今、父親である東海林聖と並んで川岸に座り、水の流れをながめていた。ちなみに水の色は、街中だからしかたないのだが見事なまでの茶色。
「なんでおかんにきいたらだめなんだ?」
「おかんに息子の寿命の話させんのは酷だから……ってのは置いといて。おとんマンと確認するぞー」
 青ざめた顔を無理矢理笑ませ、聖は6才になったばかりの息子へ右手の人差し指を立ててみせる。
「……おとんマン、なんではだかじゃないん」
「それはおとんマンとおかんウーマンのオトナの事情だから気にしちゃダメぇ!!」
 無邪気な疑問を大人げなく封殺、聖は父の強健を発動させ、昴に指を立てさせた。
「昴はなんで今日、病院に行きましたかっ?」
「まったくおもいあたることありませんな!」
 元気に答えた昴に、聖はため息をついて。
「いっこしかないだろ思い当たることー。昂がおままごとで食べちゃったやつぅ」
「あー、あれなー」
 やっと思い至る幼児だった。

 ちなみに昴、毎日3つ歳下の幼なじみと遊んでいる。付け加えておけば、この幼なじみは幼児ではなく、幼女である。
 日々のスケジューリングは大まかに運動系半分、文化系半分といった感じで、前者は昂、後者は幼なじみがリードしている感じ。
 あの年代の3歳差はそれこそ、大人と子どもほどの差があるもの。なのに、一方的に昂が合わせて面倒を見るというわけではなく――最初はそうだったのだとしてもだ――お互いがお互いのいる毎日を当たり前としている。
 聖が幼女の親と顔見知りであることもあるが、互いの子どもがここまで気の合う様子を見せてくれば、自然と「将来はもしかしてもしかしたら」と期待し合い、いざそうなったときのための話に興じたりもするわけで。
 そんなこともあって、聖は妻といっしょにほくほくと息子たちを見守ってきた。そう、3歳になった幼女が料理上手の母を真似て超簡単調理をするようになり、父から引き継いだダークマター製造力を開花させるまでは。

「昨日も一昨日もその前の日も、おままごとであの子のアレ食べちゃって病院だよ?」
「うむ」
「なんで胸張るんだよ。……おとんお医者さんに言われちゃったんだ。このままじゃオレの大事な昂が死んじゃうって」
 正直、なぜ昂が未だに死んでいないのか不明だという。もしかすれば生まれ持った才能というか耐性なのかもしれない。ただ、そこまでして備えてきた理由はなんだ? 幼なじみと出逢うため? だとすれば実にロマンティックな話だが、親としては複雑な思いが勝る。
 思い悩む聖をよそに、昂は河の流れを渋い目で見やり。
「しぬかー」
 口の端を上げ、それはもう据わった笑顔を聖へ振り向けたのだ。
「でもさ。ただいきてるより、そっちのがぴちぴちいきてるよな」
「いやいや男の生き様とか悟っちゃだめだから! 昂まだ6歳だから!」
 だめだこいつオレの息子過ぎるぅ! あとぴちぴちって言われるとなんか魚みてーでアレだから生き生きとかにしとけ! っていうか死ぬな! オレより生きろそこそこ長くぅ!
 息子をひしと抱きしめ、余計なことまで考えて、聖は息子の体温を全身で感じ取る。オレの大事な大事なむしゅこたぁぁぁん! オレが絶対っ! 死なせねーからっ!
「よし、今日からオレが昂のこと鍛えるぜ。まだ千照流は早ぇかなって思ってたんだけど」
 盛り上がる父の腕からよじよじ這い出した昂は、ばんと踏ん張って
「けっこうです!」
「え?」
 盛り上がる父の腕からよじよじ這い出し、昂は両脚を踏ん張ってばん! くわっと振り向いてポージングびしっ!
「もぉならってるから!」
 と、聖のスマホが彼の妻ならぬ相方――かつて心身を共鳴させてひとつとなり、この世界へ攻め来た侵略者と対した存在――Le..からの着信を告げ。
『……ん、今日から、ガチで……ヤるよ』
 無慈悲にぶつ切れた。
 いや、確かに彼女は戦いが終わった後もいっしょにいるし、昂をかまってくれていることも知っているのだが、まさか千照流をこっそり(?)昂へ教えていたとは知らなかった。というか、それよりもなによりも。
「ヤるのヤの字ってナニが当てはまるんすかねぇ!?」
「ころす?」
「わかってるかー。昂はアタマいいなー。オレ、泣けてきたわ……」
 膝から崩れ落ちた聖に「じゃ、オレいろいろいそがしいから!」と言い残し、昂は駆け出した。
 おとんはオレのことすきだよな、ありがと。オレ、おむらいすがすきだぜ?
 男親の愛は大概の場合、儚い……。


 行きつけの公園に着いた昂は、周りに誰も遊んでいないことをきちんと確かめ、拾ってきた木の枝を手に構えを取った。
 Le..から教え込まれた千照流は、まだ基礎どころか形ばかりのものに過ぎない。しかし言葉の足りない師匠が演じた型を必死でなぞり、それを打ち込み稽古や掛かり稽古、特に地稽古の中で整えてきた。
 オレはつよいおとこになる! あいつのおかしたべてもはらがぶっこわれない、つよいおとこにだ!
 強さの定義がおかしい。そうツッコむ者はこの場になく、そもそも師匠のLe..も気にしない――過程はどうでもいい、正しい結果へ到達できさえすれば。というのが彼女の方針である――ので、昂は最初から変わらぬ信念を胸に励むばかりだ。
「たぁっ!」
 大上段に掲げた枝を、一気に振り下ろす。枝の先が下を向いてしまわないように。
 Le..にさんざんしばかれて、得物の先が下がってしまえばがら空きの上体を打たれるばかりだと知った。守りの剣は常に残しておかなければならない。それに。
 まもりはこおげきにつながる!
 残しておいた枝先を前へ突き込み、前へ踏み出した右足で勢いを踏み止めて横回転。真一文字に薙ぎ払った。
 得物を中段に保っておけば、その後上中下、いずれにも攻めを展開できる。上段や下段の構えも「かっこいい」と思うのだが、今はLe..の鬼攻めを弾ける中段構えへ集中しないと。
「ちゅーだんだったら、はらもまもれるしな!」
 父が見たらもういろいろな意味で号泣必至な据わりっぷりであるのはさておき、気づいてほしい。構えで腹は守れない。そう、守れないのだ。


「あ、もうやくそくのじかんだ」
 公園の時計が16時を告げて、昂は枝を抱えたまま跳び出した。車や自転車、歩行者に注意しつつだ。
 きょお、オレはちょーつよくなった! はらもぐーぐーいってる。いけるっ!
 昂が向かう先には幼なじみの幼女が待ち受けている。新作のお菓子を用意してだ。
 今日は――今日こそは――ダークマターを完全消化して安全昇華させてみせる。

「オレの大事な大事な大事な昂があああああああ!!」
 聖の絶叫響く中、本日2回めの病院送りとなった昂は決めたものだ。
 きょおはまけたけど、あしたオレ、ちょーちょーちょーつよくなる!!
 とはいえ、明日もほぼほぼ今日と同じ展開となることは確定しているんである。


おまかせノベル -
電気石八生 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月28日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.