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『彼女の在り方』
アルバ・フィオーレla0549

 アルバ・フィオーレ(la0549)は花の魔女である。


 最もよく使うのは色彩の魔法。

 扱いやすさの問題ではなく、色彩の魔法が最も人々の生活に即しているからだ。
 世の中には彩りを意識する事柄が多くあって、それはどんなジャンルにも適応できるものだから。
 花の魔女が使う場合はやはり、アルバとして営む花屋に注文が入った時となる。
 基本は花弁、茎、葉……花が、植物の持つ色彩を一つの作品へと纏めていくのだけれど。
 目的に合わせて、想いに添わせて、最も重視するのは客の望む色であることには変わりなく、花を選ぶその時間、アルバはアルバではなく、求める誰かの代理となる。
 アルバの意識を限りなく薄くして、依頼を受けた時、受け止めた言葉を身のうちで繰り返し、少しでも望みに近づける。
 けれど花を扱い見極めるその身体はアルバのまま。触れる花を全て愛おしむ様子は、その触れ方に全て詰まっている。アルバにとって花は当たり前に寄り添うもので、記憶がなくても、身体が、魂が覚えていることなのだから。

 包み紙やリボンには、あらかじめ色彩の魔法を施してある。
 アルバ自身の服装にも用いられているそれは、花が持つ色彩をうつすもの。
 いわゆる草木染の行程を経なくても、アルバなら自然そのままの色を魔法で移しかえることができるのだ。
 だから、一花一会〜fortuna〜の商品の多くに、自然の色が溢れている。


 香りの魔法は当たり前に行われている。

 特に、色彩の魔法に寄り添い施すことが多かった。
 姿形を軸にして統一された花は、時に香りの重ね合いで不具合を生みだすことがある。
 優先すべき香りを定めて、時に強め、時に弱める。バランスをとるための魔法は、花を扱う上で決して忘れてはならないものだ。
 香りは捉えどころのないものだ。見えないからこそ、知らぬうちに身のうちに潜むもの。無意識下に影響している、なんてことも少なくはない。
 求められる効果は、けれど強すぎてはいけない。アルバは花の魔女だけれど、花屋の店主だ。アルバのもたらす花は、商品は、それひとつで全てを解決してしまうものであってはならない。
 アルバの扱う花達は、花を必要とする誰かの想いを、決意を、優しく支える、手助けするための存在であるべきだから。
 無意識下に強く刻み込むとするなら、嬉しい気持ちだけを望んで。それ以外の感情を呼び起こすような香りは、少しだけ控えめに。
 香りを強めるには、花本来の持つ生命力にそっと後押しをする。
 香りを弱めるには、その香気をエッセンスとしてわけてもらう。
 例えばその花がなす形が花束であるなら。アルバと花束の間に与え合う関係が成立するので、世界のバランスにも影響を残さない。


 無意識に発動するのが姿形の魔法。

 例えば戦いの中で。アルバがライセンサーとして活動する時に発動することが多い。
 花の精を親に持つから、花にとても親しい。外観も、その特性も。アルバにしてみれば思い起こすことは児戯に等しい。
 人を親に持つから、想像も創造も発想も可能性は広がって。そこにイマジナリードライブが作用するのだから、意思は呼吸と同じくらい、くるいなく広がる。
 身を護る意思が描くのは固く閉じた蕾。危ないと、そう思うだけでも柱たるアルバを、守るべき仲間を包むやさしいクッションになる。
 茨の棘はひとりでに、傷を負わせるその瞬間に形を成す。時に柊が鋭利な刃となることもある。
 狙撃の弾は種に似ている。風にのって翻弄することも、破裂の勢いに任せて衝撃をもたらすこともあった。
 なかでもアルバの意思に最も多く答えるのは。
 陽射しを求め笑顔を呼ぶ、癒しのための花。

 例外だってある。日常的に使う際は意識的に発動させている。
 料理の最中、ほんの一手間。仕込みであったり、仕上げであったり。料理の少しのスパイスに、アルバの技術は魔法と重なる。
 新鮮な野菜サラダは、気付けば花を描いている。薄く長く均一に剥かれた大根は、テーブルの上で大輪の菊に変わる。
 メインやデザートに添えるソースは皿の上で花畑を描き出す。


 薬効の魔法は繊細なもの。

 方法自体は香りの魔法とそう変わらない。けれど、香りだけでなく、五感に、生物に、関わる全てを纏めてしまえばこの境地。
 過ぎれば毒となる表裏一体の魔法だからこそ、あえて区別している。
 必要な効果を強めて、不要な効果を弱めて。けれど適切な具合に整えるには細かな調整が必要になる。
 本気で使えば、それこそ医学薬学の道でも食べていけるだろうその魔法を、けれどアルバはそのためだけには使わない。
 花の魔女は人の身で、アルバの両手は必ずしも広くはない。
 何より魔女だ。求められれば応えるだろう。けれど、抱えきれない程を抱える義務もない。
 その手で届く場所で乞われた手に応えるのは日常で。
 視界にうつりこんだ手を支えるくらいの気紛れを持ち合わせているくらい。
 戦いの中で使う程度には、迷わないけれど。
 毎日を過ごす中で、当たり前のように、見知らぬ誰かのためにまで魔法を広げるかと尋ねられたら。


 扱うのが楽しいのは言葉の魔法。

 花に紐づけられたいくつもの言葉は、それこそ幾通りも。
 逸話や外観に限らず、様々な事象を由来にした花言葉は、種類、色、本数、花だけでなく葉や実に至るまで様々に。同じ言葉を持つ花が複数、なんてことも当たり前。
 名前そのものだって、言語の数だけ受け止め方が変わっていく。
 呪文がなくとも花があれば、それだけでも魔法は成立することがある程で。
 思い付きで、面白そうで、反応が見たくて……時には意図せぬ結果となりながらも、アルバの魔法が今日もまた、小さな変化を生みだしていく。
 花があれば伝わると、そう思う時さえある。
 時にアルバは紡ぐ言葉を持たない。必要な言葉を紡がない、紡げないことさえあると自覚している。
 けれど、花は。
 語る口を持たない。
 ならば花の魔女たるアルバが、言葉を語らなくたって。


 色を移しとった花は、どこか褪せて見える。
(でも、それだけで終わってしまうなんてことはないのだわ)
 サマーニットの為に用意したいくつもの糸玉を籠の中に積み上げれば、期間限定のオブジェができる。
 未完成の可愛らしい糸玉を眺めながら、アルバは茶葉の缶を開けた。
 茶葉と解した花弁をあわせてポットの中へ。それだけでも香りは甘く、望ましい温度の湯で抽出すれば更に、部屋中に香りが広がる。
 ガラス製のポットの中で、ゆらり、くるり、舞う様子を眺める。砂時計など無くても、タイミングを外すなんてことはない。
(……そろそろなのだわ)
 砂糖とは別の瓶をあけて、取り出すのは小さな、飴玉のような丸い粒。ほんのりと色がある中から一粒を選び出して、カップに落とす。
 飲み頃の紅茶を注ぎ込めば粒も溶けて、より香りの増した一杯の完成だ。
 傾ける前に、まずはアロマを。それだけでアルバの心に沸き立つものがある。
 ゆっくりと口に含めば、フレーバーが身の内に沁み渡るように、巡りはじめる。
 誘われるようにしてアルバの思考も計画へと動き出す。何を編もうか、誰に編もうか。
 例年よりも糸玉は多い。贈れば笑顔をくれる友人も増えたから。
 香りを伴う湯気は淡く、けれど確かに5本の薔薇を描いていた。


 アルバ・フィオーレにとって、花の魔女とは。
 目指すもので、過去のよすがで、自由なもの。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【アルバ・フィオーレ/女/24歳/羽翼騎士/花であり、魔女であり、境界はみあたらない】
おまかせノベル -
石田まきば クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月29日

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