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『三組の寄り添う者達』
珠興 凪la3804

 夢に続く道を彼は歩いている。いつか喫茶店を開くその日のために、今日も珠興 凪(la3804)は調理学校で学び、技術を磨いてきた。
「復習も兼ねて、家でも作ってみようかな」
 今日の授業で習った事を、凪は脳裏でなぞる。既存の洋菓子に自分流のアレンジを加えるという内容であった。
 日々一生懸命取り組んでいる努力がしっかりと実を結んでいるのか、凪の提出した課題の品は講師にも他の生徒にも好評だった。だが、それでも夢のためにはまだまだ知識や技術を培っておきたい。
 もっと別のアレンジはないものか、凪は家でも少し考えてみる事に決める。そのために、必要そうな材料を買いに、よく行く店へと彼は足を運ぶ事にした。
 幾つか買い込んだ後、一緒に住んでいる婚約者の好きな食材を見つけてついそれも手に取ってしまう。不思議と、一つアレンジに使えそうなアイディアが浮かんだ。彼が美味しいと笑ってくれる料理について考えていると、自然と良いアレンジが思いつくのだから愛の力というものは偉大だ。
(新しいコーヒー豆も手に入ったし、こっちも試してみないとね。……うん?)
 購入した食材を手に歩いていた凪は、ふと足を止める。通り道にあったゲームセンターに、それは――居た。
 丸い瞳で、こちらをじっと見つめてくる、ふわふわとした何か。デフォルメされた小さくて丸い手は、まるでこちらに向かって手を振っているかのようにも見えた。
 厚いガラス越しに、たしかに凪はそれと目が合った。そう錯覚してしまうくらいには、視線の先でニコニコと明るい笑顔を浮かべているそれから、目を離す事が出来なくなってしまっていた。
 ゲームセンターの入り口前に置かれた、幾つかのクレーンゲーム。その筐体の内の一つの中に、『それ』……愛らしい恐竜のぬいぐるみは積み重なっていたのである。
(わ、恐竜だ! ふふ、可愛いな)
 動物や恐竜が好きな凪は、思わず目を輝かせる。もっと近くで見たくなり、筐体の方へと凪は向かった。
 近くて見ると、ますます可愛らしく思える。見るからに触り心地が良さそうな、ふわふわとした体だ。
(うん、やっぱり可愛い。それに、なんだか少し彼に似てる気もする)
 無意識の内に、凪は首に提げているペンダントに触れる。常に身に着けている婚約指輪の感触が、指先から伝わってきた。
 恐竜のぬいぐるみは、この指輪を贈り合った婚約者に少しだけ似ている気がする。だからこそ、自分はこうやって惹かれて思わず近づいてきてしまったのかもしれない。
「こういうのは僕よりも彼の方が得意そうだけど……ちょっとだけ、挑戦してみようかな」
 思い切って、凪はクレーンゲームへと硬貨を投入した。
 まずは手慣らしに一回試してから、何度か脳内でぬいぐるみを掴む位置と角度をシミュレートする。ゲームといえど、その瞳は真剣だ。
 どうせ取れないなんて、諦める事は決してない。何であれ、目の前にある目標に一生懸命取り組むのが凪である。
「もうちょっとで……あ」
 数度目の挑戦で、クレーンゲームのアームは見事目当てのぬいぐるみを掴んでみせた。
 その上、宙へと浮かんだぬいぐるみは一体だけではなかった。引っかかっているのか、別の恐竜のぬいぐるみも寄り添うようにくっついてきている。
「やった!」
 思わず小さなガッツポーズをしてしまってから、今のは少し子供っぽかったかもしれないと凪はハッと気付き反省する。こんな子供っぽいところ、誰かに……特に好きな人には絶対に見られたくない。
 慌てて周囲を見渡して誰も見てない事を確認し、安堵の息を吐く。それでも隠しきれぬ喜びから、凪は「ふふ」と小さく声に出して笑ってしまった。
 取り出し口から、優しい手付きで彼は二体のぬいぐるみを取り出す。タグの部分が互いの体に引っかかっているのか、ちょっとやそっとでは離れそうにない。
 連なる二体のぬいぐるみを見て、「さくらんぼみたいだな」なんて事を思い凪は微笑んだ。
「あ、そうだ……。さくらんぼを使用したアレンジも良いかもしれないね」
 今日作ろうとしていた料理に使えそうなアイディアを思いつき、凪は脳内でアレンジ方法を考え始める。先程思いついた婚約者の好物を使ったアレンジと掛け合わせると、より良いものが作れそうな気がした。
「あの子と、恐竜さん達のおかげだよ。ありがとう」
 お礼の言葉を口にし、凪は改めてぬいぐるみを見る。凪が最初から狙っていた方の恐竜は、やはりどこか彼の婚約者を彷彿とさせた。
(もう一体の方は……うん、ちょっとだけ僕に似ているかも……)
 黒い体に黒い目の恐竜。モデルの恐竜は幾つか候補があって特定出来ないものの、草食系の恐竜がモデルである事は分かった。おっとりとした優しげな雰囲気のぬいぐるみだ。
(だとしたら、きっとこの子と離れたくなかったんだろうな)
 寄り添うように並ぶ二体のぬいぐるみを見て、そんな事を考えて凪ははにかんだ。自分であれば、絶対に婚約者の手を放したりはしない。このぬいぐるみのように、相手だけどこかへ連れて行かれそうになったら、何を犠牲にしてでも彼に手を伸ばすだろう。
 仲良しな二体を見ていると、なんだか早く婚約者の顔が見たくなってきてしまった。さくらんぼを買って、急いで帰る事に凪は決める。
 相手も、このぬいぐるみを見て、自分達に似てると笑ってくれるだろうか。
 婚約者のリアクションが楽しみで仕方なく、凪の歩く速度は自然と速まるのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
このたびはおまかせノベルという貴重な機会をいただけて、光栄です。
喫茶店を営むという夢に向かって日々頑張る凪さん……今日はそんな凪さんの日常の一コマをイメージして執筆させていただきました。
少しでもお気に召す物語に仕上がっていましたら幸いです。なにか不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、ご依頼誠にありがとうございました。またいつか機会がございましたら、その時は是非よろしくお願いいたします!
おまかせノベル -
しまだ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年06月01日

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