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『Problematic gum』
ファルス・ティレイラ3733

 風船ガムにも魔法道具として使われる場合がある。
 それがファルス・ティレイラ(3733)が師として仰ぐ女性の店に最近入荷してきた新作アイテムだった。

 ――触っちゃ駄目よ。

 師はそう言い残して、仕入れの打ち合わせで店を後にしてしまった。
 要するに現在ティレイラはお店番を任されていて、ついでにと店内の掃除や商品の入れ替えなどを行っていた最中であった。
「ほんとに……それだけだったのにぃ〜〜」
 彼女は現在、窮地に立たされていた。
 商品サンプルとして棚に置かれていたその魔法の風船ガムを床に落としてしまい、あろうことか勢いで踏んでしまった。すると魔法が作動してしまい、あっという間にティレイラの体を足元から全て包んでしまったのだ。
「いや〜〜っ、やっぱりベタベタする……ああ、髪の毛が……ッ」
 すっかり全身が風船ガムに飲み込まれてしまったティレイラは、慌てながらそれを破こうともがいた。
 当然ながら、質感はガムなので指先触れるとベタベタしてしまう。
 それに嫌がっていると、髪が浮き上がって毛先が巻き込まれて、さらに状況は悪化した。
「うう、さすがお姉さまの見込んだ商品……全然破れないよぉ……」
 手で無理やりに引き裂こうとすると、指先に嫌な感触が纏わりついてくる。ならばと得意の炎の魔法を使ってみるが、燃えそうであるのに逆に火のほうが『ジュッ』と音を立てて聞けてしまった。
「炎も駄目なの……? じゃあ……!」
 ティレイラはそこで気持ちを入れ替えて、本来の姿である竜へと変容する。店内であることを考慮して、翼はあまり広げないようにと努めつつだ。
 少女の姿とは違い、大きさも異なる為にガムの膜も耐えられずに破れてしまうだろうと思ったのだ。

 ――だが。

「あ、あれ……っ、ガムも一緒に広がった……!? うそでしょ……」
 ティレイラの予想を大きく裏切ったガムの幕は、彼女の変容に合わせるようにして一緒に伸びた。
 そして竜の体に沿って、ぺたりと貼りついてくる。
「あぁ、やだこの感触、気持ち悪いよぉ……っ」
 彼女は徐々に迫ってくるその感覚を嫌がりながら、前足の爪を思い切り膜へと立てた。
 破れてほしい、との希望でそうしたが、やはりビクともしない。
 こんなに鋭い爪なのに。例えば人間の皮膚などは、掠めただけでも避けてしまうほどの鋭利な武器ともなる自慢の爪が、今は何の役にも立たない。
「うう〜、この姿でも破れないなんて……、っ?」
 足掻きつつ上を向いてそう言葉を紡いでいると、ガムの膜がしっとりと迫ってきた。
 部位が当たった先から貼りつき始めているのだとそこでようやく理解したティレイラは、青ざめた。
「あ、あぅ……」
 膜は彼女の開いた口にも音もなく貼りついてきた。
 そうして、言葉を発することが出来なくなってしまう。

(……息はとりあえず出来るけど、これじゃ助けも呼べないよ……)

 もだもだとした動きのままで、ティレイラは店内の壁掛け時計へと視線をやった。
 師が出て行ってから、まだ30分ほどしか経過していない。
 打ち合わせ場所はここから一時間ほどかかる、と事前に聞いていたために師が帰ってくるのはまだ先だろう。

(ど、どうしよう……お姉さま……っ)

 そう思いながら手足をばたつかせていると、膜の伸縮がまた変化した。
 ベタベタとした感触は相変わらずだ。
 それにまた嫌悪感を感じて、思わず背中の翼を少しだけ広げてしまった。
 すると自分の翼の飛膜が魔法の膜にぺたりと貼りついてしまい、ますます良くない状況へとなっていく。
「うぅ……っ!」

(あぁ、この感触……ほんとに嫌〜〜!!)

 ティレイラは改めてそんな言葉を心で叫んだ。
 魔法のガムの効力が完全に消えてなくなるまで、彼女はその後もしばらくは嫌な感触と付き合わなくてはならなかった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ライターの涼月です。いつもありがとうございます。
魔法アイテムは時として扱いが難しいですね。
特にティレイラさんは…。

そんな事を思いつつ楽しく書かせて頂きました。
少しでもお楽しみいただけますと幸いです。

またの機会がありましたらよろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年06月01日

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