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『究極のゴリラ、現る』
吉良川 奏la0244

●知ってるかい?
 水無瀬 奏(la0244)は自他ともに認める音ゲーマー(正確にはリズムゲーマーだが)である。
 音ゲーマーと呼ぶからにはもちろん、暇つぶしにきたゲームセンターでキャッキャウフフする、ごく一般的なレベルではない。
 音ゲーをするためだけにゲーセンへやってくる、それが音ゲーマーなのだ。
 もちろんそこには、音ゲーに対する姿勢もまるで違う。
 惜しくもクリアできなかったら、「できなかったー」と笑うのが一般的としたら、筐体に頭を打ち付けたくなるレベルで悔しがるのが音ゲーマーというもの。
 ゲームといえど真剣なのだ。
 そしてそんな音ゲーマーの中でも、息をするように最難関の曲をクリアするような連中を人間を越えた者として、ゴリラと呼ぶ。
 褒め称えている言葉に聞こえはしないので、あまりはっきりと言うものではないのだが……水無瀬 奏も立派なゴリラの一員であった。


●君はまさしく
「ここだね……」

 奏が見上げるのはそれなりに田舎の、それなりに大きい町の、それなりに大きいゲーセンだった。
 言ってしまうと、都会で流行ったものが一ヶ月遅れで入ってくる様な所だ。
 そんなところに奏はいる。
 ライセンサーとして依頼の帰り――とかではない。1人のゲーマーとして、わざわざここまでやってきたのだ。
 緊張した面もちで自動ドアを潜る。
 店内は綺麗で明るく、そして都会のゲーセンから比較すると、果てしなく広い。一階建てのくせして、都会にある五階建てのゲーセンの延床面積よりも広いだろう。駐車場もとんでもない広さで、キャリアーですら悠々留まれるだろう。
 これでもこの町では二番か三番の規模なのだから、さすがの土地事情と言うしか他ならない。
 もちろん、奏は初めてここに足を踏み入れた。
 しかしその足は淀みなく、導かれるように奥へと進んでいく――というより、実際、音に導かれていた。聞き馴染みのある曲は、どの音よりも優先して耳に入ってくるものである。
 広いゲーセンの一角、音ゲーのコーナーへとやってきた奏。
 上を見上げると、このあたりだけ照明が点いていない。これはゲーム画面に明かりが映り込むのを防止するためで、店側の親切である。
 こういう部分に気を配れる店なら当然、筐体の状況もよい。
 機種に少しの偏りや、バージョンの遅れはあるが『良い』ゲーセンだ。
 期待しながらもお目当ての筐体へと向かった。
 ゲーセンの中でもひっそり目なコーナーである音ゲーコーナー。その中でもさらにひっそり、角に置かれている筐体。
 とある大手が初参入し鳴り物入りで2ヶ月前に初稼働。奏も楽しみにして待ちに待っていたが、ちょうど忙しくてずっとできなかった超期待の新作リズムゲーム。
 そこは人で――あふれることもなく。

「やっぱり誰もいないね……」

 たたずむ奏はスマホを取り出し、このゲームについて検索しようとすると、次々と予測単語が出てくる。
『大ゴケ』『世紀のクソゲー』『心折ゲー』『苦行』……
 どれもこれも、悪評ばかりであった。
 そしてどんな新機種も2ヶ月あれば、奏も知っている何でも手を出すマルチなトッププレイヤーがクリア動画をあげるものだが、それが一つもない。
 クリアできていない、わけではないだろう。
 クリア『しか』できていないというだけで、見せるに値しない程度までしかプレイしていないのだろう。

「途中で投げ出すなんてなかったのに……」

 悪い意味でそれほどまでのゲームだと言う事だ。
 当然人気もなく、奏がようやく時間がとれた頃には近辺から消え去っていった。
 しかしそういうものはだいたい、地方の系列店へと運ばれていく。
 その系列店こそ、ここだった。
 空からでなければホイホイ来れないような所だが、それでも奏はここまで来た。ハズレとわかっていながらも、わざわざ。
 でも、しかたない。

「ゲーマーとして、やっぱ一度は体験してみないとね」

 動機を改めて口にした奏は意を決して、その筐体の前へ。
 スマホを置いてクレジット投入。プレイヤーデーターの登録を済ませると、機器の確認をする。
 ゴールポストのようなフレームの四隅に、カメラのようなセンサーが赤く光り、奏の動きを察知していた。
 足下は全体がセンサーになっているのか、踏んだところが光る。
 あとは正面に、全身サイズのモニターがあるだけだ。
 とてもシンプルに説明すると、音楽に合わせてダンスをするゲームである。昔から似たようなものはたくさんあった。
 しかしこのゲーム、モニターには音楽に合わせた映像があるだけで、他のゲームには必ずある『譜面』が流れてこないのだ。
 キャッチフレーズは『自由に踊れ!』。
 音楽に合わせて自分の好きに踊ればいい――はずなのだが、どうにも曲ごとに『正解』があるらしく、その『正解』以外ではまともな評価が付かないという。
 つまり譜面があるのに譜面は見えない。
 まさしく、無理ゲー。

(でもダンスなら自信あるしね!)

 振付師の名前は出ているので、その人の傾向を調べ上げ対策は十分に練ってきた奏。
 自信に満ちたまま曲が始まり、そして終わった。
 いきなりSSSは無理にしても、かなり良い判定が出たのではないかという満足感。
 ドキドキのランク判定。

「C……」

 それしか言葉が出ない。
 まあまだ一回目なのだ。

「……身体をほぐしただけだし」

 もうワンクレジット(一曲ので100円取られるあたりも不人気の理由)が投入されて、同じ曲に挑戦。
 先ほどとは振り付けをところどころ変えて、完走。
 さあ二回目の、ドキドキランク判定。

「D……」

 下がった。
 どこが理由で下がったのかすらわからないが、とにかくどこかがダメだったのだろう。
 無言の三回目。四回目。五回目……結果はCとDをいったりきたり。
 正解に近づいているのかどころか、上達しているのかすらわからない。何を楽しめばいいのか、さっぱりわからないゲームである。
 しかし奏は諦めない。
 腕の角度、ステップの歩幅、ターンの速度、事細かに調整して何度も繰り返す。
 順番待ちもいないので、遠慮なしの連コイン。6時間経過して、もはや万札が消えていた。
 常人ならすでに気力が尽きているし、体力も尽きる。しかし奏は気力体力ともに、まだまだ十分あった。
 しかもようやく、クリアの文字とBと言う評価がちらほらと。
 Bでも快挙なのだが、奏は満足するはずもない。
 選曲画面で一度、天を仰いだ。

(あの振りは、たぶん正解だね。あそこの振りはむしろあっちかな。ステップは大きめ……うん)

「次はいけるよ」

 宣言すると、後ろがどよめく。
 いつの間にか両腕を組んだ同士達が、見守っていた。
 見られていると意識した奏は萎縮するはずもなく、動きはこれまで以上に指の先まで神経を巡らせ、さらにメリハリをつけてみせた。
 その結果が――SSS。
 世界ランキング1位の文字。

「やっ――」

 た、と続く言葉はギャラリー達の雄叫びによってかき消され、ゲームセンターの音よりも大きな拍手がいつまでも続いていたという。
 後日、奏に無断で投稿された動画のタイトルにはこう、記されていた。



『究極のゴリラ。伝説はここから』

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
この度のご発注、ありがとうございます。
気まぐれで開けておいた窓が、まさか埋まるとは思ってもいませんでした。
決して折れない心とアホ毛、超真剣なゲーマーでありプライドも見せてみました。まさしくネタとしてこのような感じで書いてみましたが、いかがでしょうか?
もしも不備等ありましたら、お申し付けください。
それではご縁がありましたら、またよろしくお願いいたします。
おまかせノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年06月04日

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