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『ここから先は、二人連れ』
レオーネ・ティラトーレka7249)&セシア・クローバーka7248


「どうしたんですか……」
 ヴィルジーリオ(lz0278)に問われて、レオーネ・ティラトーレ(ka7249)は顔を上げた。
「何が……?」
「精彩に欠きますよ」
 レオーネの独身最後の夜。二人はトランプでスピードの勝負に興じていた。いつぞやの依頼の際にレオーネがヴィルジーリオに教えたゲームで、度々機会があれば遊んでいたのだ。いつもはレオーネの手さばきに舌を巻いているヴィルジーリオだが……だからこそと言うべきか、今日はやや手つきにぎこちなさを感じていた。
「緊張していますか。言っておくが俺の方が緊張している。人前式の証人代表だぞ。良かったのか、俺で」
「ああ」
 素の出た友人に笑いつつ、レオーネは溜息を吐いて口を開いた。
「……本命ほど手を出すの躊躇う……」
「うーん」
 ヴィルジーリオは腕を組む。レオーネが場に手札を重ねた。
「ちょっと、中断じゃないんですか」
「すまん」
 レオーネが札を出しながらぽつぽつと語るところによると、セシアとはキスどまりなのだという。
「失礼ですが、以前の恋人さんはどうされてたんですか?」
 今でもレオーネの心に深く刻まれている、かつての恋人のことを何気なく持ち出すと、
「……最後まで。いや、それでも両手埋まるほどは」
「それ以外は」
「ははは」
 これは笑ってごまかしているな……と、ヴィルジーリオは完全に司祭モードになって観察した。レオーネもその視線に気付いたらしく、
「何だか取り調べみたいだ」
「別に追求しようとは思いませんよ」
「じゃあ告解?」
「あなたの心が救われるなら、どうぞ」
 レオーネは苦笑して、ヴィルジーリオが出した札の上に自分の札を置いた。
「初夜が心配だ。主に俺の理性が」
「とかなんとか言っといて、相手がちょっとでも嫌そうにしたら、あなたぱっと中断するでしょ」
「そう見えるか?」
「全自動理性が働きそう」
 本人には言ってないが、ヴィルジーリオはレオーネがノー理性で暴れる(色んな意味で)ところがまったく想像できない。いくら本人が「自分の理性が心配」と言っても、ザ・理性を目の当たりにし続けた友人としては、「大丈夫では?」としか言いようがない。肩を竦めて、スペードのジャックにハートのクイーンを乗せた。
「想像できません」
「ははは……いや、想像できてもあんまり想像しないでくれ……」
 というか理性があることを疑われるならともかく、理性がなくなることを疑われるってどう言うことだ。レオーネは言葉にしがたい複雑な心境で手札を見た。ジョーカーがからかうように笑っている。片目をつぶって、彼はそれをクイーンの上に乗せた。


 そして、翌日。結婚式場のガーデンレストラン。朝から既にスタッフが忙しなく駆け回っている。喧噪というほどではないけど、どこかざわついた空気。それから時計の針は進み、会場に招待客が通される。
 時間になって、レオーネは妻となるセシア・クローバー(ka7248)を花嫁の控え室へ迎えに行った。控え室を開けると、当然だが、そこにはウェディングドレスを纏ったセシアが立っている。白いデコルテが眩しい。手元には、レオーネの妹が作った薔薇のブーケ。色は緑色。
(君は緑の人だ)
 彼女の周りには緑が溢れている。萌える緑をはぐくむ日差しのようなひと。地上の星。
 瑞々しい美しさの花嫁に、彼女にしか見せない顔で笑いかける。
「お待たせ。行けるかい?」
「大丈夫だ」
 セシアはやや緊張しているように見えた。普段落ち着き払って、妹がいなくなっても「昼寝だ」とすぐ探しに行くような彼女なのに。そのギャップが少し面白くて、そして愛おしい。
「お手をどうぞ」
「ありがとう」
 スタッフに案内されて、二人は生け垣の通路を通って、アーチをくぐり抜ける。その瞬間、セシアが目を丸くした。声こそ出さなかったが、口が開かれる。
(わあって思ってるな)
 青い花に彩られた会場。セシアのブーケと同じく、レオーネの妹が準備した。一面の青。その先にある青空へ、バイオリンと歌声が響いている。音が意思を持つかのように会場を駆け巡った。

 黒いスーツのヴィルジーリオが、司会進行役の位置で他の列席者に合わせて拍手していた。彼女と笑い合いながら進んで行く。正面に辿り付き、列席者の方を向く。
「それではこれより、レオーネ・ティラトーレとセシア・クローバーの結婚式を執り行います」
 元々の職業柄なのか、ヴィルジーリオはやや慣れているようにも見えた。だが、その顔に緊張の色があることに、レオーネは気付いている。
「ここにいるご列席の皆様が、二人の結婚の証人となります」
 温かい視線と首肯。誰もが二人を祝福している。
「これより、新郎新婦が結婚の誓いを立てます。新郎よりどうぞ」
 それを合図に、レオーネは呼吸を整えて、誓いの言葉を口にした。
「友に友愛と敬愛を、家族に親愛を」
 セシアに視線を送り、
「共に天の星を見つめる地の星華へ揺るぎない愛を」
 その後をセシアが引き取った。
「天空の星は遠くとも地上にて星の瞬きを共に刻めるよう」
「晴れの日も、雨の日も、二人で歩んでいくことを誓います」
 拍手が響いた。それに混ざって、ぐす、と鼻をすする音が聞こえる。ちらと振り返ると、案の定ヴィルジーリオが目頭を押さえていた。
「続いて、指輪交換です」
 今日この日のために用意された結婚指輪。彼女の小さな手を取る。
(こんなに小さかったのか)
 地上の星として燦然と輝く彼女の存在感は、レオーネの中であまりにも大きい。だから、彼女が小さく見えると意外な気がしてしまう。白く、柔らかい手、その薬指にそっと指輪をはめた。約束をするように。
 はめられた指輪を見て、セシアの金色の瞳がきらりと光った。けれどそれも一瞬のことで、一拍の間を置いて、彼女も指輪を取った。レオーネの薬指に通してくれる。
 きちっとはめられた時に、指輪が光ったように見えた。それはある意味では本当で、会場の光を反射したのだ。けれど、この瞬間の輝きはレオーネの目に焼き付く。
「それでは誓いの口付けを……」
 レオーネはやや鼻声気味の司会者に歯を見せて笑うと、セシアを見下ろした。少しだけ、屈むように顔を近づける。花嫁は緊張と恥じらいの混じり合った、なんとも愛らしい表情で目を閉じると、踵の高い靴から更に背伸びをしてレオーネに口付けた。
 いつも微笑みを湛え、利発で理性的な言葉を紡ぐ彼女の唇が、引き結ばれてレオーネの唇に触れた。レオーネも目を閉じる。ゲストの拍手が聞こえ、セシアが踵を下ろした。レオーネは笑みを深めると、自らも彼女に口付けをして、
「今夜俺の理性は試さないでくれよ?」
 そっと囁く。
「なん……もう……」
 セシアの顔が真っ赤になった。その姿がとても愛おしくて、頬にもう一度口付ける。
「結婚誓約書への署名を」
 ヴィルジーリオが誓約書を開いて二人の前に出した。レオーネ・ティラトーレ。セシア・クローバー。二人がサインをすると、最後に証人代表としてヴィルジーリオがサインした。
「ここに、二人の婚姻が成立したことを証明いたします」
 目をうるうるさせながら赤毛の証人が誓約書を列席者に見えるように持ち上げる。拍手が響いた。セシアを見ると、彼女もこちらを見上げていた。

 君を愛している。
 俺の地上の星。
 冬の終わりを告げ、春の温かさを運ぶ緑の人よ。


 セシアは緊張していた。前の晩、男どもの会話など露ほども知らない。ただ、今日の式をつつがなく終わらせることを考えている。
 姉夫婦が作ってくれたドレスを着て、レオーネの妹が作ってくれたブーケを持つ。一人で緊張しなくて良い、と言われているようだった。
 お綺麗ですよ、とスタッフが安心させるように言う。セシアは謝意の意味で頷いた。
 時計の針は進みが遅いようで、早かった。新郎が……レオーネが迎えに来る。
「お待たせ。行けるかい?」
「大丈夫だ」
 その青い瞳を見て、落ち着くような、また緊張するような。
 レオーネは柔らかい笑みを浮かべた。腕を出して、
「お手をどうぞ」
「ありがとう」
 腕に手を添える。

 会場のアーチをくぐると、一面の青にセシアは息を呑んだ。
(わあ……!)
 育種家の彼女が準備したのだろうか。そう言えば、昨夜一緒に過ごした時、楽しみにして欲しいというような事を言っていた。なるほど、これは力作である。
(彼だけの空の青)
 高い所に飾られて、日を浴びた青が眩しい。空の中にくっきり浮かんでいる。
 拍手と両親の演奏の中を、彼と進んだ。列席者の中に友人の姿を見つけ、
(あれは驚いていると見た)
 篝火の如き赤毛の証人代表はよく目立つ。本職が司祭だと言うだけあって、それほど緊張しているようには見えなかった。だが、その彼を見て新郎はにやっと笑った。
「それではこれより、レオーネ・ティラトーレとセシア・クローバーの結婚式を執り行います」
 いよいよ始まるのだ。セシアはブーケを握りしめる。
「ここにいる列席者の皆様が、二人の結婚の証人となります」
 式は人前式だ。レオーネはこちらの世界に移住し、セシアと結婚するに際して改宗をしていない。誓うのは神ではなく、証人たる友人たちに。まずは誓いの言葉から。
「友に友愛と敬愛を、家族に親愛を。共に天の星を見つめる地の星華へ揺るぎない愛を」
 レオーネがこちらを見た。揺るぎない愛を君に誓うよ、と。
「天空の星は遠くとも地上にて星の瞬きを共に刻めるよう」
 私があなたを幸せにしよう。たとえ、空の星が隠れても。暗がりで一人にしない。
「晴れの日も、雨の日も、二人で歩んでいくことを誓います」
「続いて、指輪交換です」
 指輪が差し出された。ドレスと同じく姉夫婦の作である。青い瞳が涙の湖面に映した、天の星にも似ている煌めき。その指輪を互いに送り合う。陽光にきらりと光る。
(なんだか、笑顔みたいだ)
 レオーネの指にきちんとはめると、レオーネの目も指輪の光を受けて光った。未来を見て笑っている。
「それでは誓いの口付けを……」
 既に感極まっている司会を見て彼が笑った。セシアを見下ろす。彼女の緊張は最高潮だ。だいたい、キスそのものも数えるほどしかしていないし……自分からしたことがない。
 ヒールの高い靴を履いても、まだレオーネの唇に自分の顔は届かなかった。彼が少し顔を下ろしてくれる。更に背伸びをして、彼の唇に誓いを届けた。目をつぶって、拍手を聞く。
 やがて、踵が床を叩いた。レオーネからも短く口付けをされ、
「今夜俺の理性は試さないでくれよ?」
 囁かれる。今夜……その言葉の意味を理解して、セシアは自分の顔が真っ赤になったことを自覚した。相当カラフルな花嫁になっていることだろう。
「なん……もう……」
 今度は頬に。火に油だ。顔がますます熱くなる。でも、止めてくれ、なんてことは言えない。思わない。
 最後に結婚誓約書へのサインを求められた。緊張して、文字が震えそうだ。レオーネの方はさらさらと手を動かしている。二人が署名すると、証人代表も署名した。
「ここに、二人の婚姻が成立したことを証明いたします」
 ヴィルジーリオが婚姻成立の宣言をする。温かい拍手が、春の雨のように降り注いだ。セシアはレオーネを見上げる。彼もこちらを見ていた。

 あなたとこれからを分かち合おう。
 この世界で愛する奇跡はあなただけに。
 共に生きよう。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。この度はご結婚おめでとうございます。
書きながら、自分が友人の結婚式に出たときのことを思い出してうるうるしていたのはここだけの話です。楽しんで頂ければ幸いです。
思えば、私も新郎、新婦ともに、初めてお会いしたのはファナティックブラッドの(以下略)。
末永くお幸せに。またご縁があったらお会いいたしましょう。
どうぞお元気で。
イベントノベル(パーティ) -
三田村 薫 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年06月08日

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