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『ダークマターは女子力の香り』
アリア・クロフォードla3269)&野武士la0115

 出会った場所は、意識高い系御用達のカフェとかじゃなくて、生活感なんて欠片もない高層ビル街の真ん中とかでもなくて……ご近所のゴミ捨て場だった。
 落ちてるだけならまあ、そんなこともあるかなーと思っただろう。アリア・クロフォード(la3269)だって15歳。大人の事情もある程度は理解できてるつもりだ。実際に落ちてたことがある父、リオン・クロフォードもしみじみ、『大人ってさ、自分を捨てたくなるときがあるんだよ……』とか言ってたし。
 だがしかし。
 目の前のこれ、落ちてるどころか刺さってるのだ。ゴミ山の中に、頭から。もっとも上半身がちゃんとくっついてればの話だが。
 それにしてもだ。天を突く両脚はどう見ても女性のそれで、しかもすらりと長いいい脚で。
「……」
 無言でうなずいたアリアはそっとゴミを置き、なにも見てない顔で立ち去ろうと――
「うおおおおおおいっ!! ガン無視はないでしょおおおおおおっ!!」
 脚がしゃべった! と思いきや、ずぼーっと宙へ飛び立った脚がくるーっと下を向いてだん! 見事な着地を決めた。
「あ、ぢょっどば――う゛」
 いきなり動いたせいであれこれ問題が出たんだろう。盛大に自主規制をやらかした(大丈夫、上の口のほうです)。
 セイントになんてならなきゃよかった。アリアがそう思ったのは、後にも先にもこのときだけだったりするんだが、ともあれ。

「いやーホーリーライトってほんとに効きますわー。適合者でよかったーっ!!」
 あっはっは! 脚の持ち主である女は大笑い、ぱっしぱっしとアリアの肩をはたく。
 美人さんだけど元気過ぎ? アリアは思いつつ、そっとはたかれない間合へ移動した。よく言えば大らか、悪く言えばガサツ。このタイプはどこでどうテンションに点火し、ぶっ飛んでいくかわからないので、回復を担うセイント的には要注意なのだ。
 離れゆくアリアをちょっとさみしげに見送った女は、はたと気づいて。
「あたし見た目も立場もぜんぜん怪しくないですけど! ほらほら、ちゃんとライセンスあります!」
 胸元からすかっと女が抜き出したのは、まごう事なきSALFのライセンス。そして名前は……
「ノブシさん?」
「ちっがーう!!」
 ガッデームの発音で言い切った女はライセンスに刻まれた漢字3文字を指し。
「ノダケ ツカサ!! 野武士じゃないですから!! 次まちがったらえろいやらしいことしますが!?」
「えっと、グロリアスベース警備班ですか? 私ライセンスナンバー3269のクロフォードですけど今まさに事案が」
「ノー犯罪ノー事案んぅううううう!」
 ……こうしてアリアと野武士(la0115)のファーストコンタクトは無事と言うべきかどう言うべきか、とにかく果たされたんである。


 とりあえず身元ははっきりしたことだし、これなら心配もないだろう。ということで、アリアは士を家へ連れてきた。ゴミに刺さってたわけだし、自主規制もやらかしてるのでシャワーくらいは使わせてやるべきだろう。
 それに、深酒の後はこれでしょ! なレシピも心得ているアリアだ。セイントとしてだけじゃなく、料理好きとしても、このまま帰すわけにはいかないんだった。
「そんな気ぃ使ってくれなくても大丈夫ですよぉ。飲んだ次の日はね、1杯の水があればいいんです。そしたらシングルモルトでトワイスアップ――酒と水を1対1で割る飲みかた。氷は使用しない――決められますからね」
 身ぎれいにした後、ダイニングテーブルへだらだら突っ伏しもだもだ言う士を、アリアはぷんすこ叱りつける。
「かっこよく言ってもダメですよ。野武さん、お酒に飲まれちゃったからあんなとこに刺さってたんでしょ」
「う。いぇすでございます、まむ」
 それにしてもアリアの手際は見事なものだ。ただ慣れているというだけでなく、作業順の見極めがいい。作りながら片づけ、次に必要なものをそろえて、無駄なく仕上げていく。
「赤出汁大丈夫ですか? お酒飲んだ後は甘くないお味噌のほうがいいって父から教わったんですけど」
 大丈夫と返しておいて、士はあらためてアリアを見た。
 料理ができて気づかいも利く、これぞ女子力って感じよねー。実はこの子、すごいかわいいし。んー、見倣わなくちゃ。
 なんてぼんやり考えている間に、アリアは火を止めたしじみ汁へ味噌を溶かし込んで仕上げ、細い輪切りにしたオクラを絹ごしの冷や奴にすりおろし生姜といっしょに乗せて、ポン酢を回しかけた。
「はい、できましたよー」
 アリアが鍋からよそってくれた汁を「いつもすまないですねぇ」と受け取って、いざいただきますを決めようとした士だったが。
「っ!?」
 凍りついた。
 なぜならお椀に入っていたものは、どろでろと粘りつく艶のない“黒”であり、こぽこぽ泡だってたから。
 これなにマジック? イリュージョン? あたし引っかかっちゃった? だってクロフォードさん、普通に作ってたよね? よそった瞬間こんな黒になるとか、タネとしかけはなくちゃありえないでしょ!
 士はそっと首を伸ばし、コンロの上にある鍋を覗いて……絶望した。
「くろっ!」
 普通に出汁をとって普通に具を煮て普通に味噌を溶いた、それだけな味噌汁はどこにもなくて、あるものはただただ黒い、言ってみればアd−クマター。
「ん? お味噌やっぱり白のほうがよかったですか?」
 そうじゃない。そういう問題じゃない。言葉を発することもできないまま、ただかぶりを振る士へ、アリアは酸味を利かせて食べやすさを実現した冷や奴もおすすめする。
「これも冷たいうちにささっと食べちゃってくださいね!」
 ポン酢のせいじゃありえない墨黒に染まった四角がぷるり。士を誘う。オイシクメシアガレガレガレガガガガガレレレレレ――
「いーやーっ!!」


 昔話をしよう。
 アリアが料理に目覚めたのは3歳になったばかりの頃――やさしくて料理上手な母、仁菜に憧れたことがきっかけだった。
 魔法のような手際で素敵なご飯やおやつを作ってくれる母。すべては夫と娘においしいものを食べてほしいから。そう語る母の料理する姿を穴が空きそうな勢いで見て手順を学び、おままごとの中で自分の振りを修正、改良、研鑽した。なぜかって? それはアリアにも、おいしく食べてほしい人がいたからだ。
 それは3歳上の幼なじみ。元気でちょっと頭悪くて、でもとびきりやさしくて強い男の子。もっとも身近な“他人”だからこそ気にしてしまうのは、それこそ必然の流れってものだろう。
 たべらんないどろだんごつくってるばあいじゃないの! おかあさんみたいにおいしいものでえがおにしちゃうんだから!
 こうして母に手伝ってもらいながらのお菓子作りを開始したアリアだったが。幼なじみがかなりの頻度で入院するせいで、なかなか食べてもらえる機会がなくて。思ってたよりも実は体が弱かったようだ。もちろんこれは凄絶な誤解である。
 で。代わりにリオンが平らげることになり。彼は青い笑顔で娘へ言ったものだ。
『アリアの料理は、個性的、だぜ……』
 息絶えた夫をそっと床へ転がし、仁菜は娘をぎゅっと抱きしめて。
『個性は大事なんだけど、基礎はもっと大事だよ。母さんもがんばるから、アリアもがんばってお料理お勉強しようね。ね? ね?』 
 今にして思えば、ちょっと必死だったような気はするが――リオンの緊急蘇生にかかった仁菜とよくわからないまま蘇る父を見て、アリアはとにかくがんばろうって決めた。
 仁菜としては、リオンから娘へ遺伝してしまったダークマター製造特性を封じるべく、正しい料理を教えたかっただけのこと。ただ、彼女の数多の努力は「がんばる!」ってきゅっと拳を握り締めたアリアにはまったくの逆効果だったこと、特に記しておこう。
 ギフトという天からの授かり物は、神ならぬ人がどうこうできるものじゃない。たとえどんなに邪魔されたってほころぶことは止められず、ついには咲き誇る様を見ていることしかできないものなんである。

 で。時は今現在に戻る。
「ちょっと待ってください! なんていうかその、黒くないです!?」
 士の必死な訴えに、アリアはぐいっと胸を張って。
「個性です!」
 父から受け継ぎ、母によって濁されたワードを高らかに唱えてみせた。
 うん、自信ありまくりね! でもこれ絶対必殺だから! ラブが始まる前にあたしのストーリー終わっちゃうから!
 なんとしても襲い来る死の運命を変えなければ! そこで士はまだ白いままな豆腐を指して、言ってみた。
「ちょっとそれ、なんにもしないであたしにくれます?」
「? どうぞ」
 アリアは首を傾げながらも豆腐をお皿に移し、士へ渡す。みるみる黒くなっていく四角いダークマターをだ。
 触るだけで侵されてく!? どゆことクロフォードさんほんとにニンゲン!?
 焦点を失くしかけた目でアリアを見れば、その顔は期待を映してキラキラ輝いてたりして。
 裏切れない! あたしはそんな目した女子、裏切れないのよ!
 無駄な意気を燃やしてしまうのは、女子力の権化を自称する士のいいところで、結果的には悪いところなんだが。ともあれ彼女は覚悟を決めた。
 いっぱい手ぇかけてくれたのより、少しでも手ぇかかってないもののほうが安全、な気がするわよね。
 とりあえず醤油をもらって今もらった冷や奴にかけ、いただきます。箸を向かわせた。うん、触感は豆腐! ってことは食感も――
「……さん。野武さん?」
 アリアの声が近づいてきて、やっと届いた。
 食感を感じる前に意識をぶっ飛ばされてまっすぐ崩落、突っ伏していたらしい。
 がばと顔を上げた士は思いなおした。クロフォードさんが触ってから時間が経ってるもののほうが毒素抜けてるってことない?
 残念、そんなことはまったくなかった。
 昏倒してのけぞった勢いで目を醒ました士は、今飲んだ味噌汁の味を思い出そうとして、まるで思い出せなくて。
「お酒、まだ体に残ってるみたいですね」
 やれやれと肩をすくめたアリアが魔法のように取り出したのは、士が2回斃れている間に作ったらしい梅酢締め鰯のカルパッチョ風サラダだった。
 梅干しも鰯も肝機能回復に役立つ食材だし、オイルを控えてさっぱり仕立ててあるので、酒飲み女子には黄金レベルの価値がある料理である。うん、すべてが黒く塗り潰されていなければ。
 しかし、士に逃げるという選択肢はなかった。倒れるときは前のめり。死して屍拾う者なし。それが女子の心意気!
「よぉし、酒! 酒持ってきてください! クロフォードさんの個性、あたしが迎え酒といっしょに全部いただいちゃいますからね!」
「まだ飲むんですか……お酒って料理用の日本酒しかないですけど。あと味醂?」
「上等ですとも! 酒があったら大概なんとでもなります!」


 士の幼なじみだという女性がやってきて士を回収、詫びの言葉と迷惑料をたっぷり残していった後、アリアはほうと息をついた。
 野武さん、すごくいい食べっぷりだったなぁ。綺麗なのに気取らないし飾らないし、それがかっこいいし! それに幼なじみさんも綺麗だよねぇ。私の幼なじみとはぜんぜんレベルがちがう感じ。
 そこまで思ってみて、ぽん。頬を赤くして。
 私だって野武さんみたいにいい女ーってレベルじゃないけど! これからだから! いろいろ育っちゃうんだから! って、別に幼なじみのことなんてなんにも意識してないんだけど!
 ロップイヤーをぱたぱたさせながらぴょんぴょん跳ねる様は本当にかわいらしくて。幼なじみが見たらきっと、赤い顔を逸らして本音じゃありえない悪態をつくだろう。
「私ももっといっぱいがんばって、野武さんみたいないい女になる!」
 あ、お酒はほどほどにしとかなきゃだけど。
 母=仁菜は、アリアが生まれてからは隠しているが相当にアレなので、彼女もそこそこ以上にやらかす可能性はあるんだが、それはさておき。
 気合を入れて、幼なじみに振る舞う新メニューの開発へ取りかかるアリアだった。
 ちなみに幼なじみの命が尽きるのは2日後のことである。

 一方の士は幼なじみに両脚を抱えられて引きずられゆく。実に無体な有様だったが、タダでは終わらない。その胸元にはしっかりとアリアからもらったお土産が抱えられていて……うん。黄泉路を独りで下るのは寂しいからね。いっしょに逝きましょ? 黒い獄楽の底の底に。


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2020年06月10日

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