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『竜の像は非付属品!』
ファルス・ティレイラ3733

「搬入の手伝いって聞いてたけど……これを運べばいいのかな?」
 ファルス・ティレイラ(3733)の眼前には、いくつもの巨大な魔法機械が並んでいた。なんでも屋さんであるティレイラの元に今回舞い込んできたのは、魔法工場の手伝いの仕事だ。
 一見、少女一人では運びきれないサイズと量に思えるが、ティレイラはふふーんと得意げに笑う。
「よーし、竜の姿になって、さくさく済ませちゃうよ〜!」
 気合を入れるようにそう呟くと同時に、彼女の姿は変わる。正しくは、本来の姿へと戻る。
 猛々しい竜の姿になった彼女は、意気揚々と機械を運び始めた。巨大な魔法機械はそれでも大きかったが、竜の力ならこの程度のものを運ぶのは容易い。さくさくと、順調に作業は進む。
 次から次へと魔法機械を運び終えたティレイラは、次は巨大な燃料タンクを設置する仕事に移った。
「それにしても、この機械って何の機械なんだろう……? 魔法機械って事は、何らかの特別な力があるんだよね? うーん、気になるなぁ……」
 元来好奇心が旺盛なティレイラが、自分の知らない魔法機械を見てじっと我慢していられるはずもない。ついつい、作業をしながらも機械の方に視線をやってしまう。ティレイラの瞳は、目の前にある未知に対してキラキラと輝いていた。
「……ちょっとくらいなら、良いよね! 順調に、仕事は進んでるし!」
 誰に言うでもない言い訳を口にしながら、竜の少女はもう我慢ならないとばかりに機械を調べ始める。興味本位でぺたぺたと機器を触り、無邪気にはしゃぐティレイラはすっかり機械の調査に夢中になってしまった。
「本当大きな機械だなぁ。……あ、こっちにあるパイプは何だろう? 機械の中の液体が、ここから出てくるのかな?」
 だとすると、こうやってじっくりこのパイプを観察出来るのは、機械が稼働していない今だけに違いない。
 ますます興味をひかれ、ティレイラはパイプの中を覗き込もうとする。
「え?」
 その時、突然音がした。目の前の機械が、激しく振動をし始める。何が起こったのか分からず、ティレイラは目を丸くするしかない。
 どうやら、ティレイラが機械を調べている事を知らない作業員が、試運転として魔法機械を稼働させてしまったらしい。
(これ、もしかして、やばいかも……!?)
 危機を察しティレイラが逃げ出そうとしたのと、機械から伸びているパイプから魔法の液体が噴き出したのはほぼ同時だった。逃げるのが間に合わず、ダイレクトにティレイラはその液体を浴びてしまう。反射的に前肢で顔をかばったものの、止まる事なく噴射される液体は竜の巨体すらも容易く包み込んでしまった。
「ちょっと、誰かっ! 止めて止めて〜!」
 ティレイラの必死な叫び声は、稼働している魔法機械の出す騒音にかき消されてしまう。
 慌てふためき、竜はもがく。もはや竜としての威厳すら忘れ、彼女は暴れながら訴えた。翼を揺らし、尻尾を振るい、もがき、叫ぶ。
「止めてってば〜! あ、あれ? なんか……おか、し……い……」
 そんな彼女に、容赦なく不幸は畳み掛けるように襲いかかる。
 自身の動きが鈍くなっている事に気付いたティレイラが自分の身体を確認すると、全身にかかった液体はだんだん硬くなり始めていた。
「う、嘘……?」
 膜のように彼女の身体に張り付く液体金属は、ティレイラの絶望する声を無視して硬度を増していく。まるで幾つもの鉛が身体にのしかかっているかのように、彼女は自由に動く事が出来なくなっていった。
(むしろ、私の身体が鉛になってるみたいな感じだよ……!)
 それも、そのはずだ。液体金属は、ティレイラの身体を余す事なくコーティングしていた。その角も、四肢も、翼も尻尾も、顔ですらももはや彼女の身体で満足に動かせる箇所は残っていない。
 ようやく、機械が停止する。だが、ティレイラの叫びはやはり誰にも届く事はない。口すらも固まってしまったティレイラには、声すらもう出す事は出来ないのだ。
 恐らく先程機械の試運転をした、ある種今回のトラブルの元凶とも言える作業員が、しばらくしてティレイラのところへとやってくる。だが、作業員が彼女を助けてくれる事はなかった。
 完全に固まってしまったティレイラの姿は、ただの金属質な竜の置物にしか見えなかったからだ。作業員は、彼女の事をこの機械を使用したサンプルか何かだと勘違いしてしまったらしい。
 ひどく立派な等身大の竜の形のオブジェは、そのせいでしばらく誰にも気に留められる事なく、届かぬ叫びを胸中であげるしかないのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
工場のお手伝い中にトラブルに巻き込まれてしまうティレイラさん……今回はこのような感じのお話になりましたが、いかがでしたでしょうか。
ティレイラさんのお気に召す物語に仕上がっていますように。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、いつもご依頼誠にありがとうございます! また機会がございましたら、お声がけいただけますと幸いです!
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年06月11日

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