『見果てぬ夢の空』

狭間 久志（la0848）

　――夢を、見ていた。

　鋼の翼を駆り、大空を飛ぶ夢――

　それは彼にとって……かけがえのない喜び――……

　愛機と共に数々の戦場をくぐり抜けた日々――

　戦いが終結してからも愛機をなけなしの自費で買い取り、暇を見つけては空を掛けるのが、彼の楽しみだった――

　……慣れ親しんだ愛機に乗り、蒼穹を駆けることが彼にとって最大の楽しみだった――……


　……。

　…………。

　………………。



「…………夢か」

　彼――狭間 久志(la0848)は自室のベッドで覚醒し、目覚める。

　また……同じ夢を見ていた。“この世界に来てから”何度も何度も見た……同じ夢。

「……………………」

　久志は額に手を添える。

　少し思案した後、室内を見渡す……見慣れた部屋、自室であるが……一向に慣れない……。

　……いや、慣れないというか、“この世界自体”への違和感を拭えないのだ――……

「……少し出るか」

　久志は寝巻きから着替え、軽めの朝食を摂り、支度をし、街へ出掛けることにした…………。

　＊＊＊

　…………特に用事も無く、久志はぶらぶらと街中を歩く――。

　狭間 久志……彼はこの世界とは違う、異世界からやって来た放浪者だった。

　久志が元居た世界は、今居るこの世界によく似た、侵略者の脅威がある世界……。

　侵略者――異世界からの侵略者であるナイトメアとは違い、元居た世界の侵略者は異星体、という異なる点はあったが……。

　総じて元居た世界とこの世界は似ていると思う。まあ元居た世界よりやや未来の時間軸ではあったが、科学水準などは同程度、文化などもあまり変わりはない。

「…………」

　……元の世界で久志は、対侵略者用に開発された人型機動兵器――正確には可変戦闘機、その旧型機を独自に限界まで強化、カスタマイズし、数多の戦いに参加、激戦をくぐり抜けた歴戦の傭兵であった。

　しかし。

「…………」

　久志はふと、自分の手のひらをじっと見る……。

　――放浪者である彼、この世界に自分の意思とは関係なく転移して来た際には……元居た世界で生き抜く、侵略者と戦うための力……鍛え抜いた肉体……、それと、前述の限界まで強化した愛機――

　それらを全て失っていた――……。

　そのことが判明した際には酷い喪失感を覚えたものだ…………絶望と言っても良い…………。

　だが……久志にはその代わり――と言うにはあまりにもわりに合わない――に、適合者……ＩＭＤという、この世界の侵略者――ナイトメアと戦う力があった。

　元居た世界で、侵略者である異星体との戦争が終結するまで傭兵で生計を立てていた久志は必然的に、傭兵と非常に似た、ライセンサーという職業に就くことになった。

　そして、科学水準が元居た世界と同水準であるこの世界にも『人型機動兵器』――鋼の巨人、アサルトコアが存在した――。

　ライセンサーはこのアサルトコアを駆り、生身では対応出来ない敵と戦うことになる。

　この事実を知った際に久志は……一時的に喜びと言える感情を持ったかもしれない……。元の世界で慣れ親しんだ人型機動兵器がこの世界ににもあったのだ……。

　更に言えばアサルトコアにも飛行能力がある。この点も喜ぶべきだったのかもしれない――……しかし、違った。

　アサルトコアの限定的な飛行能力と、可変戦闘機で大空を飛ぶ感覚とでは、まったく違った…………。

　やはり『違う』のだ――“ここは元の世界ではない”ことを、久志は改めて思い知らされた。……やはり自分はこの世界にとって異物なのだ……。

　またしても大きな喪失感を、久志は胸に抱えることになってしまった――……。

　だが――

「…………」

　久志は開いた手をぎゅっと握り、拳を作る。そして再び歩を進めた。

　＊＊＊

　やって来たのはグロリアスベース内に存在する、ライセンサーのアサルトコアを保管・整備する格納庫――。

　……自分は全てを失ったが、別に得たものがある。

　久志は新たな翼――ではないが、鎧――自分の手足である、アサルトコアの機体を見上げる。

　自分は――このＩＭＤの力と、『新たな愛機』と共に戦い続ける。歩みを止めてはいけない。自分の目的は『元居た世界に帰る』ことなのだから――。

　久志はそのように、改めて心に誓うのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お待たせ致しました。遅れてしまい、大変申し訳ありません。
今回は「少し切ない久志さんの心情」という内容にしてみました。
楽しんでいただければ幸いです。

この度はご発注ありがとうございました。

おまかせノベル

とりる

グロリアスドライヴ

2020年06月15日