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『影を出て、「面倒」を潰しておこうと思った後の話。』
黒・冥月2778






 ――……「私達に手を出すからには当然覚悟の上だよな?」





「……そう。私は本来ただの暴力装置として戦うのが役目で、交渉等のややこしい頭脳労働は「あの人」の担当だったんだ。……なのに何なんだろうな。今のこの状況は」

 相手に話す、と言うより殆ど自問気味に語れば語る程、思わず盛大に嘆きの溜息も出る。
 新しい体の試運転がてらノインと霊鬼兵の姉妹二人を影内に残し、近場にあった高いビルの屋上に直で出てから後の事。事前に影を使って確かめていた動きからして想像通りだったと言えばそうなのだが、どうにも半端な遣り方で「虚無の境界からも霊鬼兵の身からも外れながら、力を持ち続けた人造魂」たる「ノインの魂」を狙っていたと思しき組織の構成員数十人の男女が――もう本当に余りにも無防備過ぎて、黒冥月(2778)としてはどうにもうんざりした訳だ。
 まず、その場への集合の仕方が無防備過ぎた。標的の狙い方も素人同然、それでいて「ノインの魂」に「オリジナルの霊鬼兵(つまりは自動的に虚無の境界も含む)」、それから「私」――と、地雷の踏み方も只事じゃない。つまり標的を探す感度はそれだけ鋭いのだろうが、反面、この手の組織にしてはそれら情報を有効に活かすだけの手段が――実力行使に出る為の暴力装置が見当たらない。構成員と思しき誰も彼もが一捻りで終わりなレベルとしか思えない。楽だ。楽過ぎる。……いや寧ろこれでは体が鈍る。

 何者だとぎゃあぎゃあ騒がれても答える必要を感じない――と言うか、大して殺気も籠めていない一睨みで誰も彼もが勝手に黙った。単に喧しい黙れと言いたかっただけなのだが――そこまで言葉で要請せずとも勝手に察してやってくれた訳である。つまり、暴力装置としてはこの人数で私一人と比較対象にもならない訳だ。……と言うかこれじゃこいつら、一応一般人の筈なアトラスの編集部員にも劣るな? おい?
 まぁ、そうであってもこの組織がどうにも面倒だと言う事に変わりは無いが。

「……全滅に一秒も要らない雑魚が身の程を弁えないからこうなる」

 敢えてぱちりと指を鳴らす事で注目を集めつつ、影を用いて当たり前の様に全員の動きを封じる――やはり抵抗の欠片も無く一秒も要らない。そして別に本来影を用いるのに何の予備動作も要らない訳でもあるが、今の場合は威嚇がてら「こうしたらこうなる」とわかりやすく見せ付けてやる必要は感じた訳だ。……こいつらの鋭さと鈍さが同居するちぐはぐさからして、その辺わかりやすくやってやった方が通じ易かろうとの判断である。
 そんな「気遣い」が必要な時点で、面倒極まりない。
 ……そしてまぁ、駄目元ではあるが。

「一応確認だ。他の仲間に虚無の幹部クラスと対等に戦える奴は居るか?」

 訊いてはみるが、返事が無い。
 ……ああ、こっちの一睨みで声が出ないのだったか。なら幾らか緩める必要があるか――いや。
 この位の一睨みで――威圧とすら言えない様な威圧ですら免疫が無いとなると、聞くだけ無駄か。そんな貫目を持つ仲間が居る訳が無い。

 ……つまらん。
 さっさと潰して戻――

 ――む?

 思わず一旦停止。
 理由は、影内――つまりはノインと霊鬼兵の姉妹二人の方の様子。





 ……。





 ふむ。



 影内の様子。
 そして目の前には鋭いんだか鈍いんだかちぐはぐな――ある意味“丁度良い”かもしれない連中が居る。

 こうなると……“それ”も“あり”かと思わなくも無い。
 ここが思案の為所か……だから、考えるのは私の役目では無いのだが。いや、だからこそその辺りを丸投げられる相手かどうかの嗅覚も利くのだろう。そう思っておく。
 そんな訳で改めて、連中の代表格に見える奴を見た。

「事情が変わった。選択肢をやろう――お前達が狙った奴が大事で仕方無い虚無の幹部に引き渡されるか、私の手足となって死ぬ程コキ使われるか」

 暗闇の中で考えろ。
 因みに私は“その幹部”より強いぞ。

 それだけを伝え、動きを封じるのに使った影をそのまま用いて全員を影内に取り込み、沈めておく。当然の如く無抵抗――と言うか抵抗を試みてはいるのだが全く意味を為していない。ああ勿論、沈めた先はノインと霊鬼兵の姉妹二人の居る影内空間とは別の空間だ。……と言うか、沈める為に作った空間は最低限の作りにしかしていない。つまり互いの顔もまともに見れないだろう、光が一切届かない上に足場もあやふやな影の中に放り出してある形だ。
 拘束自体は解いたが、この手の何の頼りも無い暗闇に何の刺激も無いまま長い時間放置するだけでも拷問にはなる。ここで視覚と食事を断って極限まで心身を追い込み、数日後に判断を迫るとしようか。少々甘いかもしれないが、この位で話が済んでくれれば幾らか面倒が減る。
 正直、連中には何が起きているのかもわからないだろう――いや、逆に影に囚われたと“鋭い感覚”の方ですぐに察知するか? どちらになるかわからんな。まぁいい。後は待つだけだ――……





 ……――っておい。





 流石に早過ぎないかと思うが、影内の様子を意識的に窺うなり、「あんたの下に付く」と殆ど即座に降伏された。まだ数分も経っていない――と言うか、こちらが初めに様子を窺ったのを察してすぐ降伏して来た感じだったのが……何と言うか、呆れた。骨が無いにも程がある。
 口先だけで何とか出来る相手とでも思ったか? と返してやろうと思ったが――中の連中の発汗度合い、いや口調に焦りからして、まぁきちんと理解はしているだろうと察しも付いている。……無駄に心身を消耗させられる前にと判断した訳か。幾ら鈍くともここまですれば流石にその位の予想は付いたと言う事か。
 いや、もしくは何か私に付く事での利でも思い付いたか。
 さておき、ひとまず元通りのビル屋上にそいつらを放り出してみる。もしまだ反抗的な奴でも居るならいつでも戻してやるが――と思ってはいたが、居並ぶ連中の皆が皆まぁ、しおらしい。……つまらん。

「……随分と決断が早いな?」
「あんた程の力ある相手の下に付けるなら願ったりだ……それで我々に何をしろと言う」
「物分かりもいいな。ふむ、そんな世渡りか――まぁいい。私には専門外の話なんだがな……霊圧……と言う言い方でいいかもわからんが、そんな様な物を防ぐ様な技術に心当たりは無いか」
「……? ……それがあんたに必要な事なのか、それだけの亜空間を自在に操れるのに……?」
「? 関係あるのか、それが」
「……空間を遮断すれば霊圧も何も無いだろう……?」
「ああ……まぁ、それもそうか」

 何処かの最新型霊鬼兵な小娘が武器にする怨霊やら悪霊への対策はそうなるな。考えてみれば。

「だが今はそれとは異なる技術を必要としていてな……それに使うのは私じゃない。そうだな……個人用の目立たず日常的に使える様な耐霊圧の防護壁、とでも言えばいいか、そんな感じの技術を探してる。どうだ?」
「……。……特定の人物への霊的な干渉を遮りたい……って事か?」
「ああ、多分そんな感じだ」
「詳しく聞かせてくれ」
「あるんだな」
「状況がわからないと何とも言えない」

 だから詳しく聞かせてくれ、と言う話になるらしい。まぁ、然もありなん。この手の霊絡みな話はややこしくなるとこれまでの経緯で身に沁みている。

「ならお前達に聞かせていいか依頼主に確かめて来よう」

 結局、話はそこに収まる訳だが――さて、どうなる事やら。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 黒冥月様にはいつも御世話になっております。
 今回も続きの発注有難う御座いました。御手紙も有難う御座います……終わりが近いと言う事で御手数をお掛けしまして。残り少ないのでなるべく巻きでと努めているつもりなんですが……次こそはもう少し早められればと思いつつ。

 内容ですが、やけにすんなり行かせて頂きました。この組織、霊的感覚だけが鋭くてそれ以外は一般人と言う訳で、ちょっと根本的な感覚がズレている感じにしてみた次第です。
 そして有難くおまけで今回分最後の項をやらせて頂いた訳ですが、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次はおまけノベルの方で。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年06月15日

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