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『映画「ヒドゥン・フォーカス」』
神取 アウィンla3388

●登場人物
アウィン・ノルデン(la3388)
製薬会社の社員。
表向きは総務部だが、実は社内調査のスペシャリスト。機密情報の漏洩があった場合、誰がどこに漏洩したか、目的は何か、を調査する。
年上の恋人がいるが、彼女には本当の仕事のことを秘密にしている。結婚を考え始め、いつこの仕事について明かそうか悩んでいる。

グスターヴァス(lz0124)
アウィンの上司。
表向きは頭のネジが抜けた総務副部長だが、社内調査をとりまとめるやり手。本人も昔は社内調査を行なっていたそうだが、ある事件があって以来一線を退いた。
社内調査のことになると冷酷。

●あらすじ
社内の機密情報がリークされた。上司のグスターヴァスから内偵の指示を受けたアウィンは調査を開始。しかし、情報と漏洩先を知ったアウィンは疑問を覚える。

●レストランにて
「研究情報が漏洩?」
 レストランの外で、アウィン・ノルデンは通話していた。ちらり、と窓の方を見ると、恋人が紙ナプキンを折り畳んでアウィンを待っている。その前には手つかずのスープ。悪いことをしている。胸が少し痛んだ。
『ええ、同業他社の情報を抜いたところ、うちの情報が混ざっていましてね。先にうちから漏れたと見て良いでしょう』
 電話の相手は上司のグスターヴァスである。最初に「今お時間よろしいですか?」と礼儀として尋ねるが、アウィンが良くても良くなくても話し始める。今日は恋人とディナーだと雑談の中で話していたのだが……覚えていても、こちらが優先と思っているのだろう。仕方ないことだが。
「我が社の情報戦略は、倫理的に問題はないのですか」
『ありません。話すと決めたのは先方なので』
 すごい理屈だ。この上司の倫理観には毎度舌を巻く。もちろん褒めていない。
『今回は君にお願いします。詳細は明日』
「わかりました。では」
 通話を切る。ホーム画面には、今日の日付との下に「土曜日」と表示されていた。スマートフォンを内ポケットにしまい、ふう、と息を吐く。その瞬間だけ、二十四歳のアウィンは一気に老け込んだ様に見えた。首を横に振り、頬を叩いて、まるで何事もなかったかのように笑顔で席に戻る。早かったね、大丈夫だったの? と問う恋人に、
「ああ、上司から確認の電話だったよ。すぐに済んだ」
 実際には、確認の形を取った命令だ。けれどそれはおくびにも出さず。
「冷めたんじゃないか? すまなかった」
 少しぬるくなったスープは、水を差されたアウィンの心境を代弁しているようだった。

●違和感
 アウィン・ノルデン。大手製薬会社の若き総務部社員……と、周りからは思われているが、実際には社内調査を請け負う部署の一員だった。情報漏洩、人材の引き抜き……そう言ったものの事情を調査する。多くの場合は新製品や研究内容の漏洩だ。
 日曜日。社員なんて誰もいない建物の総務部に入ると、上司のグスターヴァスが、やはりスーツで待っていた。いつもの笑顔で、
「おはようございます。早いですね」
「あなたこそ」
「恋人さんのご機嫌は損ねずに済みましたか?」
「そう思うのでしたら、連絡の時間を考えていただきたかったですね」
「早い方が良いと思いまして。盛り上がった時にお邪魔する方が失礼かと」
「本題に」
「こちらが資料です」
 アウィンが水を向けると、グスターヴァスもそれ以上の無駄話はしなかった。資料に目を通し、
「──これは、少し妙では?」
「あなたもそう思いますか」
 グスターヴァスは頷いた。アウィンは目を瞬かせ、
「この会社は、とっくにこの程度の開発を進めている。今更うちの情報を盗む必要などないのでは?」
 規模としてはアウィンの会社の方が上だが、この分野の薬剤では有名で、業界の先を進んでいる会社だった。おかしい。
「他に漏れた情報は?」
「わかりません。先方も、それ以上は何も知らないようでした。自分の会社がうちから情報を盗んだこと自体も知らなかったようですね。さも自社の情報の様に出してきたそうです」
「そうですか……」
 アウィンは顎に手を当てた。何かが引っかかる。ゆっくりと顔を上げ、
「他に本命の情報がある」
「私もそう思います」
 グスターヴァスはにっこりと笑う。アウィンは眉を上げて頷いた。
「わかりました。実際に向こうが得ようとした、あるいは得た情報が何か、調べます」
「よろしくお願いします。進捗は私に」
 毎回そう言うが、この仕事でグスターヴァス以外にアウィンたちの報告先があるのか。聞いたことがない。

●真相
 調査の結果、一つの結論に辿り付いたアウィンは、リークしたであろう社員を終業後の会議室に呼び出した。秘密の話を聞かれないための、防音の会議室に。
「つまり、あなたが本当に流したかったのは新薬などではなく、我が社の人事情報だった。違うか? 向こうはうちからごっそり引き抜くつもりだったんだろう。見返りにいくらもらった?」
 だから、ダミーとして本当は相手方に知られても良い情報を流した。こちらとしては研究内容だから、機密と言えば機密だ。
「認めるなら、上に処分の軽減を掛け合──」
 アウィンがそう言って自白を促したその時だった。相手が猛然と飛びかかって首を掴む。いかにアウィンが鍛えていようとも、不意打ちには抗しきれず、床に倒れる。凄まじい勢いで首が絞められた。
「──ぐっ……!」
 恋人の顔が脳裏に過ぎった。自分だって身体に難があるのに、アウィンの身体を気遣ってくれる恋人の顔。死ねない理由がそこにある。手首を掴んで引きはがそうとするが、相手も必死だ。酸素が足りない。遠のき始めた意識の向こうで、ドアの開閉音がする。
 間髪入れず、抑えた銃声が響いた。アウィンを押さえつける手から力が抜ける。相手が横によろけて、彼はそれを振り払った。咳き込みながら、銃声の主を呼ぶ。
「副部長……」
「ご無事で何より。ああ、死に損ないましたか。運が良いですねぇ」
 グスターヴァスがサイレンサーを付けた銃口を、倒れた相手に向ける。相手は気絶しているようで、動かない。けれど呼吸をしているのはわかった。まだ生きているが、出血が酷く、すぐにでも救急車を呼ばないといけない。アウィンは上司の手首を掴んだ。
「待ってください」
「おや、情けを掛けますか」
「必要ありません」
 グスターヴァスの目にはいつも光がない。音がほとんどしない中でそれを見ていると、段々自分が相手にしているのが「何」なのかわからなくなる。
 気付かれないように息を吸い、
「我々は製薬会社の人間です。人の命を救う仕事をしていると思っています。彼も喋らないでしょう。私に暴行した彼を、部下思いのあなたが過剰防衛で撃った……どうです? あなたもそれで無罪を勝ち取る程度の根回しは可能では?」
「……」
 グスターヴァスはしばらくアウィンの目を見ていた。やがて、下がっていた口角が上がる。
「良いでしょう。君の信念に免じて、見逃します」
 アウィンは息を吐くと、救急車を呼んだ。

●エピローグ
 数週間後、表向きの給料明細とは別に、調査業務の報酬明細が届いた。
「おや?」
 アウィンは目を瞬かせる。見慣れない項目があったからだ。

『迷惑料(レストラン)』

 少し考えてから、心当たりに思いつく。苦笑して明細を畳んだ。
 次の約束はいつにしよう。予定を確認する。
 行きたいところはまだたくさんあった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注&企画ご参加ありがとうございました。
会社員設定なら「上司」には敬語かな〜と思って今回は敬語で描写いたしました。「普通」の会社員かどうかは疑問が残りますが……何もないときは普通の仕事もしているだろう、ということでひとつ。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年06月15日

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