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『ここは皆のものだから』
吉良川 奏la0244

 何の任務もない、ごくごくありふれた休日。
 水無瀬 奏(la0244)はショッピングモールで買い物を楽しんでいた。目的は任務に必要なものを購入すること。……そして何か新しいペンギングッズがないかどうか確認すること。馴染みの雑貨屋、アクセサリー屋。並んでいるペンギングッズはどれも持っているものだった。
(これはゲーセンに行くしかないみたいね)
 プライズへの期待を寄せて、奏は右に曲がる。アロマのお店やリクルートスーツのお店を通り過ぎた突き当り、そこに行きつけのゲーセンがあった。まずは店頭のUFOキャッチャーをチェック。大きなぬいぐるみ。でもペンギンではない。次、店内に入って探す。小さなペンギンは見つけたけれど、これもまた持っている。
(今日は収穫なし……あれ?)
 奏はゲーセンの片隅に人だかりが出来ていることに気づいた。そこは各種リズムゲームが並んで居るところで、奏もよくお世話になっているコーナーだ。何かあったのかと、奏はそこに近づく。と、何度か対戦をしているうちに顔なじみになった青年が居ることに気づいた。
「こんにちは、純さん。何があったんですか?」
「ああ、水無瀬」
 青年――純が困り顔で奏を見る。彼の周りも同じような顔した人達(中には泣きそうな表情の人も)居て。
「あれ、見てくれ」
 純が指し示した方を奏は見た。最新のリズムゲーム。六つのボタンとスライドバーで操作するもの。二つの座席があるのはリズムゲームにしては珍しく同時プレイが出来るから(もちろん一人で遊ぶことも出来る)。奏はネットでプレイ動画を見たことがあった。早くプレイしたい、と思っていた。そのリズムゲームを男がプレイしている。ゲーセンでは別に変わった光景ではない。男が最後の曲をプレイし終わって――。
「え?」
 奏は眉を潜めた。
 男が立ち上がらない。
 硬貨の投入口に、またプレイ料金分のお金を入れる。いわゆる連コイン。待っている人間が居ないなら別にしてもいい。だが、まずは後ろを振り返って大丈夫かどうかを確認するのがマナーで――今、男はそれをしなかった。
 そうか。この人だかりはそのせいか。
 皆このリズムゲームをやりたいのに、男が占領しているのだ。
「ちょっと!」
 奏は男に近づいた。男はボタンに添えた手を動かさないまま、奏を見る。
「何だあ?」
「連コインするなら周りを確認して下さい」
「ああ? そんなことしなくてもいいだろ」
「やりたい人が居るかもしれません」
「……お前、俺を邪魔する気か?」
 男がすごむ。だが奏はひるまない。
「はい。ここは貴方だけのゲーセンではありません」
「おう、じゃあこのリズムゲームで勝負しようぜ。あんたが勝ったらこの席譲ってやるよ。まあそんなことはないけどな! そこに居る兄ちゃん同様返り討ちにしてやる」
 男が下品に笑う。奏は拳を握った。
「負けません」
 奏は男の隣に座った。追加プレイ料金を入れる。
「ルールは簡単。どっちがハイスコアを出せるか」
「分かりました」
「曲は選ばせてもらうぜ」
 男がボタンを操作する。選んだ曲は奏も知っている曲だった。他のリズムゲームでもプレイできる曲で、途中で何度もリズムと速さが変わるのだ。それについていくのが大変で、奏も他のリズムゲームでその曲をプレイする時は、集中してやらないとクリアが出来ないのだった。
 そんな曲を初見のリズムゲームでプレイする。
(大丈夫。出来る)
 曲が始まる。最初はアップテンポ。流れてくるボタンを奏は押す。同時押し、隣合うボタンをまるで階段を昇るように押してそれからまた降りるように。突如出現する矢印に合わせてスライドレバーを操作。曲調が変わる。スローテンポの曲。逆に押すのが難しいところ。
 奏は集中した。
 耳に入ってくる曲とゲーム画面、捜査する自分の指先、それら以外の情報をシャットアウトする。
 的確に――正確に奏はリズムを刻んだ。
 一瞬、画面が止まる。
 そこから曲がまた転調する。自分の汗で指が滑る。
 奏は隣の男のことなど全く気にせずに全力で最後まで曲をプレイした。
 画面に出るCLEARの文字。結果は――。
「なっ……俺が、負けたぁ!?」
 画面に表示された男のスコアより高いスコア(その差は約一万点)を奏は叩きだしていた。わなわなと震える男に対して奏は笑いかける。
「約束です。その席を譲って下さい」
「お……覚えてろ……!」
 お決まりの捨て台詞を吐いて、男が逃げて行った。わあああ、と歓声が上がる。
「流石だな、水無瀬!」
 笑う純に奏は同じ表情を返した。そして立ち上がる。
「次の人、どうぞ」






━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
この度はおまかせいただきありがとうございました!
リズムゲームで人助けをする奏が浮かんだのでその話を書きました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
おまかせノベル -
絢月滴 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年06月15日

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