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『あなたの力に』
浅黄 小夜ka3062)&鬼塚 陸ka0038

 手元の端末を操作し、鬼塚 陸(ka0038)は通信アプリの画面からメッセージを確認する。
 一分前と表示された通信ログには大きな猫のスタンプが手を上げたポーズで元気よく表示されており、その上に『着きました!』と文字が描かれている。
 ふ、とリクは零れる笑みを一つ、さてどこだろうかと周囲を見渡す。

 待ち合わせ場所はとあるビルのエントランス。
 別段派手ではないが金はかかってるのだろう重厚な内装で、ガードマンが立つ両開きのガラスドアを潜り、リクの待ち合わせ相手が姿を表す。
 少し大人びただろうか。全体的に上品で慎み深い装いでありながら、髪飾りにあしらわれた和柄、バッグに下げられた黒猫のキーホルダーが浅黄 小夜(ka3062)という個人を主張する。

「お久しゅうなぁ、リクのお兄はん」
「ああ、小夜ちゃんもお久しぶり」
 小夜は確か去年高校を卒業したはずだ。もうちゃん付けも卒業するべきだろうかと考えながらも、少しだけかつてが名残惜しくて、とりあえず咎められるまではこのままでいさせてもらおうと考え、リクは口を噤んだ。

 …………。

 今回の待ち合わせの経緯は、リクが人手を必要としていた事だった。
 リアルブルーへの帰還は感慨深さを多く伴っていたが、その余韻に浸らせてくれるほど、世界は落ち着けてるとは言えなかった。
 戦後の混乱はこの上なくドロドロとした思惑が渦巻くような始末だったが、議会乱入で顔が割れてる手前、リクは我関せずを込めこむ事も出来ない。
 やりたい事をやったのだ、見放さない程度には面倒を見るべき、リクはそう捉えている。

 無関心を決め込んだ場合、リアルブルーはその内自身の利益を最大にする声を抑えられなくなるだろう。
 その先に待っているのは碌な展開ではない、利益をちらつかせつつ、危惧もそれとなくほのめかして、二つの世界のために、リクは上手く立ち回る必要があるのだ。

(……めんどくせー)
 自分は外交官ではない、そんな思いが未だ少年らしさを残すリクの思考によぎる。
 しかし現実としてリクはクリムゾンウェストを知り、戦いを知る数少ないリアルブルーの人間であり、大精霊リアルブルーとの契約者でもあった。
 戦いなど碌なもんじゃない、それを実感として語れる数少ない人間なのだ。戦いが起きた場合、侵略に反対する事を示す抑止力でもある。

 何より、クリムゾンウェストの脅威は即ち自分の大切な人の故郷の脅威でもあるため、手を抜くという選択はリクにはない。万が一の時は故郷に反旗を翻すだろうなぁと思いつつ、その日が来ないように上手くごまかし続けようと考えていた。
 そのためには絶えずリアルブルーを安心させる必要があり、その人手として呼ばれたのが小夜という話だ。

 待ち合わせていたビルのエレベーターで階を上がり、事前に使用申請を出していた小型な会議室に入る。
 机の上には予め積んでおいたお茶が二本。
 他に人間はいないから適当に座ってもらった。

「悪いな、本当は俺が自分で行くべきなのに」
「いいえ、お兄はんは多忙でしょうから」
 何でも頼ってくださいね? と小首を傾げられてリクは暫し打ちのめされた。
 年下の女の子に包容力で包まれようとしている、兄貴分としての面目は軽く潰れかかっており、なんかこう人間としてダメになりそうな沼に触れてしまった錯覚すらする。
 立ち直るための時間を体感で五秒ほど使い、リクは努めて平静を装い、話を続けた。

「わかった、じゃあ今回の話なんだけど――」
 話のしやすさは同じエージェントに就いているためか、それとも元から顔見知りなのが利いているのか。
 この会議室を使えたのだって同僚同士の打ち合わせ名目で申請したからだ。
 危険な事をさせるつもりはないが、それでも用心してしまうのは戦士の習性とでもいうべきか。
 小夜が行動する時に変な待ち伏せをされないように、情報漏えいをしないよう気を使ってしまう。

 ……人間不信になっているかな。
 少しだけ自問したが、そんな事はないだろうと結論付けた、だって、此位の警戒はただの普通、疑心暗鬼のうちに入らない。

 説明と検討を重ねながら、これが危険な案件でも、きっと小夜はリクの頼みなら真剣に聞いてくれただろう事を思考の隅で感じていた。
 なるべくそういう事はさせたくないなと思う気持ちと、小夜ならなんとかしてくれるという信頼がごちゃまぜになってリクの思考を引っ張る。
 信頼と庇護。
 小夜に対してこの二つで選択を求められたのなら、果たして自分はどうするだろうか。

「俺は――」
 深く吸い込む吐息。結論は出ていたのに、それを認めてしまう事に暫し時間と覚悟を要した。
 自分はきっと――罪深さを感じながら、小夜に望みを託してしまう。
 託して、心配して、罪深さを埋め合わせようとするように自分の出来る支援をかき集めて。
 決定的な瞬間、逸る気持ちで端末を走らせ、小夜からの成功報告をメッセージの中から探すのだ。

「お兄はん」
 リクを葛藤から揺り起こすような小夜の呼びかけ、何も言ってないのに、小夜は何もかも見透かしたような目で、リクに向かって微笑みを向ける。
 自分は何も言われてないのだけれど、リクに心配されてるのは伝わってる、そのように。
「任せてくださいね」
「……ああ」

 思いの外重くはならなかったリクの吐息とともに、作戦会議は一段落した。
 時間申請はいつも通りにしていたはずだが、かなり余っている。小夜が相手だと話が早い気がするのだが、多分気の所為ではないだろう。

 時間もお茶も余ってる以上、緩やかな世間話がぽつぽつと流れる。
 こうして穏やかな時間を過ごせる事が感慨深くて、……リクは自分が生きて戦後を過ごせる事なんて考えてなくて。
 ちょっとだけ面倒な事は増えたと思っているけれど、生還の余韻がひたすらに味わい深い。

 約束が在った、転移直後の一番最初の頃に、リアルブルーに帰ろうとリクは小夜と約束を交わしていた。
 それを忘れたことなんてなかったけれど、決戦が近づくにつれ、リクは自分がその約束を反故にするだろうと感じていた。
 夢を叶えるために、命を手放す事になっても仕方がないという諦観。自棄になっていたのでも、命を賭けようとしていたのでもなく、ただ両親がそうしたのと似たような感じで、自分の事を見放していた。
 申し訳無さはある、しかし在り方を揺るがすものではない。かつて不安に揺らぐ少女だった小夜はもう一人前になって自分の道を歩き始め、想いを寄せる相手も、自分以外に頼れる人も見つけていた。
 だから、自分が見守っていなくてももう大丈夫。
 そう思って一人で手を離そうとしたのに、まさか向こうから追いかけてきて掴まれるとは思っていなかった。

 結果、生還も帰還も叶う事になって。小夜が誰かの側に並び立ったように、自分も大切な人を見つけて。
 通信アプリのIDは交換していたから、二人はリアルブルーへの帰還が叶った後もちょくちょく連絡を取るような関係を続けていた。
 頻繁にとは言えない、リクは立場上口を噤むべき時間や事柄もそこそこ多かったし、小夜は小夜で学業に追われる時間が多かった。

 リアルブルーに戻ってきた、とか。次はいつ戻れそう、とか。
 どこに行った、何を見て、何を感じてきたか。
 時にはやるせなさの滲む言葉が並ぶ事もあったけれど、もう足を踏み外しそうな危うさは感じなかったから、小夜は安心して、リクの相談に真摯に向き合う事が出来た。

 リクがそうなったように、小夜もまた卒業のちにエージェントを志す事は伝えていた。
 学業も研修もなんとか修めて。
 エージェントとしての小夜に折り入って頼みがあるとリクに相談を持ちかけられた時、小夜は強い喜びを感じていた。
 リクが頼ってくれる、彼の力になれる。
 転移直後に見守ってくれていた事を忘れたことなどない、そうじゃなくても、度々相談に乗ってもらって、いっぱい言葉をもらっていた。
 話を聞いて、ちゃんと自分に出来る事だと確かめて、喜び勇んで飛んできたのが今日の話。
 頼ってくれない事を心配していた時期もあったくらいだ、頼ってくれる事に安堵すら浮かぶ。

 これもきっと、彼の手を取ってくれた誰かがいたからで。
 少しリクに彼女の話を向けてみれば、少し照れくさそうな顔が見れる。
「……両親には会わせた」
 手が早い、小夜にはまだ出来ていない事だ。自分の両親にもきっと感づかれてはいると思うのだけれど、ちょっと前まで小夜は高校生だったから、保留状態が続いていた。
 多分、きっと、そろそろ自分たちも考えていいんだと思う。
 ほのかな不安に、それ以上の期待を含んで語れば、リクはいつかのように優しい兄のような眼差しで見守ってくれる。社会的なバックアップが必要ならいくらでも力になるのだと語り、落ち着いたら会社を立ち上げるつもりだけれど、小夜ちゃんも入らない? とリクからの言葉が向けられた。

「会社……ですか?」
「うん」
 リクは多くは語らなかったけれど、きっと未来のために必要な事だろう。
 リクの力になる事に惜しむものなどない。でも少し考えて、小夜はほぼ頷かないつもりで、保留を返答した。
「うちに出来る事があったら言って欲しいと思ってます」
 その時に必要なら部下でもなんでもなるだろう。小夜はリクを慕っている、慕ってる上で、リクとは対等な仲間で在りたいと思っていた。
 だって、何かあった時に立場に縛られたくなかったから。
 リクのお兄はんに何かあった時、小夜だけはただの小夜として、真っ先に駆けつけたいと思っているから。

「そっか」
「堪忍なぁ」
 リクにどうにも出来ない事が発生したら、小夜の事を思い出して欲しい。
 リクが密かに考えたのと同じように――小夜はきっとやり遂げて見せるから。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
大変おまたせしました。
この二人ならではの作戦会議というのが……書きたくて……。
普通にお茶させようとも考えたのですが、ちょっと殺伐気味なこんな感じになりました。
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2020年06月16日

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