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『ドラマ「コールド・ロータス」シーズン2 第11話「汝、隣人を知れ」』
柞原 典la3876


「Calm down! Calm down!(落ち着いて!)」
 ヴァージル(lz0103)はレヴェルの女性が刃物を持ち出したのを見て両手を出して押しとどめた。
「よく聞いてくれ、良いか、お前がレヴェルであると言う事は曲げられない事実かもしれねぇが、それでも人生やり直しが利く……」
 説得しようとしているヴァージルの脇を、後ろからあっさり過ぎて行った人物があった。ヴァージルが相棒としているライセンサーの柞原 典(la3876)である。彼はつかつかと歩み寄ると、相手のナイフを回し蹴りで吹き飛ばした。悲鳴と金属音。彼はそのまま相手の手を掴み、腕を捻り上げて地面にねじ伏せる。呻いている彼女を冷たく見下ろし、
「やったからにはやられる覚悟はできとんのやろ?」
 彼女は応援に連行された。ヴァージルは眉を寄せて相方を見る。
「お前、もうちょっと加減ってもんを持てよ。あのまま行けば説得で済んだぞ」
「……ぬるいな、兄さん」
 ヴァージルの知らない典だった。紫色の目が冷たい。それにたじろいだヴァージルは、動揺を隠すように言い募る。
「ぬるいって何だよ! 自分は何でもお見通しみたいな顔し……」
 典がもう一度振り返った。目つきは一際険しいし、冷たさが増している。
「ほお、兄さんには俺が何もわからんように見えるんやね」
「そうは言ってねぇだろ! そうかよ! お前は何でもわかってんだな!」

 たったそれだけの売り言葉に買い言葉。それを期に、典とヴァージルは別行動になった。周囲のライセンサーは二人が一緒にいないことに仰天した。理由を聞かれると、二人とも「別にどうもしない」と不機嫌に答えるばかりだった。


 さて、ヴァージルは苛々しながらも、どうしても引っ掛かりがあった。
(人間に対して一切情け容赦がないよな)
 ヴァージルや他ライセンサーには甘いようにも見えるが、あれは単に「御しやすい」というだけなのだろう。ヴァージルと何かで敵対すれば、一切のためらいもなく咲き乱れる赤でもなんでも撃ち込んでくるに違いない。
(何が原因であんなに?)
 原因。そのワードが浮かんだところで、ヴァージルは典の事を何も知らないことに気付いた。自分は昔のことをたまに典に話したりする。でも、典からは一切そう言うことがない。
「……」
 ヴァージルはしばらく天井を睨んでいたが、やがて立ち上がった。

 地方新聞を調べるとすぐにヒットした。西暦と年齢を照らし合わせても間違いない。早い話が、痴話喧嘩の末に刺された、と言う事だが……そんな内容の記事が、年月日を変えて少なくとも、三件。被害者はいずれも、「県内在住の柞原典さん」。
 典はその後で奈良県から転出している。そこから先は追っていない。だが、類似の事件はあっただろう。
 その代わりその前は調べた。高校卒業までは県北の養護施設が住所だった。最初の届け出は……典のライセンスに記載されている生年月日。
 遺棄されたのだと言う。その事実に、少なからずヴァージルはショックを受けた。自分が家庭で育ったから、皆そうだろうと言う思い込みがどこかにあったのだ。
 その後も遡って調べると、典に対する暴行未遂と言うのが何件か見つかった。動機については、「誘われたからやった」というものが多く見られるが……。
(せやから、俺は絶対に女装はせぇへんよ)
 先日、花嫁役の囮を提案された時に、硬い顔で拒絶したのを思い出した。その時に語られた「高校時代の黒歴史」というものも。おそらくは向こうが勝手に理由付けをしている。そう言う事件はいくつも見てきた。思い込みの果ての凶行。「Yes」以外は同意ではないのに。
(それは黒歴史とは言わない)

 典の意思によらないもの。ヴァージルはそれを「傷」と呼ぶ。

 周りが「魔性」と気軽にはやし立てて呼ぶ「呪い」にも似た美貌。典にとっては烙印に等しいのだろう。けれど典は「俺の命の使い方は俺自身が決める」と言い切った。
 それがどれだけ重いことか。
 自分の出自すらわからぬまま、誰にも頼らず身一つで生きてきた。だからこそ決めたことなのだろう。ヴァージルはため息を吐いて首を振った。
 理解はできない。けれど態度の理由に納得はした。


 とにもかくにも、典と話さないといけない。オペレーターに聞いたところ、近郊のナイトメア討伐に向かったという。車で追い掛けることにした。その前に、軽食を買おうとして、コンビニに立ち寄る。
 そこで、制服を見たのか、ライセンサーか? と近寄ってくる人があった。困っているから助けてほしい。ちょっと話を……と、店の裏手に連れて行かれたヴァージルは、そこで殴られて気を失った。


「なんで人を監禁するのはきったねぇ地下室なんだよ」
 目を覚ますや、ヴァージルは毒づいた。なんと言うことはない。レヴェルだったのである。最近こんなことばっかりだ。
 SALFの内情について聞きたいことがある、と言われた。答えるつもりは当然ない。そう伝えると相手は出て行った。ドアの向こうから不穏な金属音がする。絶対ロクなことにはならない。EXISは取り上げられてしまっていた。
(典は来ないだろうな……)
 あれだけ言ったのだから、来てはくれないだろう。そもそも、いなくなったことにも気付かないかもしれない。
 自分がいなくなったら、典はどうするんだろう、と考えて、無意味であることに気付いた。どうもしない。典には何も変わらない。他人の存在で彼の在り方が変わるとはとうてい思えない。一人で生きていくつもりでいるだろうし、ヴァージル一人くらいじゃ変わらないだろう。
 俄にドアの向こうが騒がしくなった。格闘の音が聞こえる。重たいものが投げられる音。
「きったないなぁ。こんな所おったら具合悪なるわ」
 その訛りに聞き覚えがあって……というか、ヴァージルが唯一知っている日本語の方言だ。心臓が跳ねる。ドアが蹴り開けられた。
「典……」
「ほんま、ぬるいなぁ、兄さん」
 呆れ顔だ。恐らく、ヴァージルが囚われた経緯を知っているのだろう。
「何や、また鳩みたいな顔しよって。兄さん平和の象徴か?」
「そうだよ。知らなかったのか?」
 典はふっと口角を上げて笑うと、下りてきてヴァージルの拘束を解いて連れ出した。応援のライセンサーたちが入れ違いに次々と中へ入った。


 暴行を受けたヴァージルは検査のために病院に運ばれることになった。前にもこんなことがあった、とヴァージルは思い出していた。時限爆弾の解体作業。典の機転で自分の命が助かった。
 今度もまた助けられた。
「悪かったよ」
 救急車の出発を待っている間、ヴァージルがよそを見てぽつりと言うと、典も目を逸らす。
「俺は、今更やり方は変えられへんよ。……ずっとこうして生きてきたんやから」
「安心しろ」
 苦笑が出た。
「俺もだ」
 ヴァージルも自分の生き方しか知らない。
 でも、それで良いと思う。
 典も眉を寄せて笑った。パトカーも駆けつけて、回転灯で光が賑やかだ。典の銀髪に反射する。
 やがて、搬送先が決まった。付き添いの方は? と救急隊員が尋ねると、ヴァージルが、
「彼です」
 と、典を指す。典は目を瞬かせていたが、やがて頷き、
「はいはい、お供させてもらいますわ」
 ドアが閉まった。サイレンを鳴らして、救急車は出発する。安心してうとうとし出したヴァージルの顔を、典は黙って眺めていた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
S1第7話では救急車に同乗しなかった典さんが今回は付き添いになると言う、二人の関係の進展(?)が見える回です。
発注文いただいて「人と関係を結ぶこと」についてちょっと考えちゃいましたね。
最後ハグでも良いかな〜と思ったんですけど私の中の監督が「ハグはまだ早い」と言うので。
またご縁があったらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年06月16日

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