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『好きなもの×好きなもの』
不知火 楓la2790)& 桃簾la0911

(――ん?)
 ある日図書館を訪れた不知火 楓(la2790)は鴇色の髪に目を惹かれて、目的のエリアに向かう足を止めた。テーブル席に腰を下ろす彼女はこちらからは背中しか見えないのだが、長い髪を三つ編みにして垂らし、それが、椅子の背もたれの隙間からまるで尻尾のようにはみ出ている。服は――殆ど隠れていて判別し難いが、制服を着ているように思えた。楓の知る彼女ならばそれを着る歳は少し過ぎている筈だ。だが着ていてもおかしくない。
(どうしたものかな)
 広いようでいて案外狭い世界である。親しい人と会うこともままあった。しかし約束もしておらず、彼女の趣味の一つに図書館巡りが挙げられると知っていると邪魔ではないのか、という考えがちらりと頭の隅を掠める。親友だからこそ、敢えて話し掛けないという選択肢も生まれるし、自分は急ぐ用事もないので突発的に彼女と共に過ごしてみたい気持ちもある。まあ煮え切らない状態のままいるのも性に合わないので楓は微動だにする気配がない背中から視線を外し、とりあえず自分の用件を済ませることにした。帰ってきた後もまだその場にいるようなら声を掛けてみる。そう決めて、途方もない数の本棚の間を縫って向かう。そうして目的のエリアに並ぶ本から適当に見繕い、それを胸に抱えて元来た道を引き返した。途中で先程見かけた学習コーナーを覗くも彼女の背中はなくて、若干の後悔を巡り合わせと割り切り、受付に向かった。
(そもそも本当に桃だったか分からないし)
 ともうすぐ受付というところで若干話し声が聞こえる中、静かだがよく通る声が楓の耳朶に触れた。
「……楓?」
 と訝しげに呟いた声が楓が振り返り、目と目が合った拍子に表情ごと柔らかくなって、こう続ける。
「やはり楓でしたか。一瞬見間違いかと思いましたよ」
「あー、今日はかなり暑いからね」
 上品には違いないが案外感情表現豊かな彼女――桃簾(la0911)本人だ。素直に表れる喜色にむず痒さと一度はスルーした罪悪感を覚えながら、楓も微笑んで応える。自らの身体に視線を落とせば、ワイシャツにジーンズとシンプル極まりない服装だ。肩にかかる長さの髪も後ろで一つ結びにしてあった。その為に露出する首はメッシュ生地のスカーフを巻いて隠すという初夏仕様だ。まだ梅雨前だというのに、真夏日になるのは勘弁してほしい。桃簾はやはり制服を着ていて、半袖と丈の短いスカートの組み合わせに黒のアームカバーとハイソックスで露出を減らしている。
「そういう桃も今日は中々涼しげな格好だね」
「流石に歩きで厚着は厳しいですから。まあ、外に合わせるとここで凍える羽目になるのですが」
「図書館とかの公共の施設って何故か凄い冷房効いてるよね」
 まさに冷えて一度室外に出ていたという桃簾と隣に並んで、彼女が座っていた席へと戻る。平日の昼間なのもあってひと気が少ないからこの程度の雑談は許容範囲だろう。それでも声を抑えている為内緒話をする気分になる。対面に座る際、ふと彼女が読んでいた本の表紙が目に入った。少なくとも簡単に共通項を見い出せないジャンルの雑多っぷりだ。と、偶然に見えたのが予想外だったので凝視してしまい、
「今日は特に調べたいこともないので、一つの本棚から無作為に一冊を選ぶ形をとりました」
 と視線の意図を察した桃簾が答えて、少し恥ずかしそうに笑う。
「何にでも興味があるっていいことだと僕は思うよ。僕も本を読むのは嫌いじゃないけどそんなに色々は読めないしね――ある種の才能って言えるんじゃないかな」
「それは褒め言葉ですよね?」
「勿論」
 にっこりと笑顔で即答すれば桃簾は納得がいったようで「ありがとう」と微笑んで返した。
「確かに努力をしているわけではないですから才能……かもしれませんね。ところで楓は今日は何をしに此処へ?」
「ちょっと調べ物をしに。国とか文化とか大体同じだからつい忘れるけど、僕も放浪者だからね。近代史はほぼ新しく覚え直さなきゃいけないんだよ」
 ぼやくように言い、肩を竦める。楓が目の前に置いたのはまさにそういった内容のものばかり。とはいえライセンサーになった時点でこの世界で生きるにあたって必要な知識は身につけた。大学も公認育成校なので放浪者だからと特別待遇もある。しかし大切な人のついででも、世界を守ろうと思ったからには調べてみるのも悪くないと考えたのだ。
「なるほど。現状については関係者の声を聞く機会もありますが、少し昔の話となるとそう上手くはいきませんね……」
 何だか小学生の頃、天魔の大戦について調べさせられたことを思い出す。本格的な侵攻から三十年余り、事実上の決着がついた時代に当時久遠ヶ原学園の大学部に在籍していた父と御家人の血筋に生を受けた同じ陰陽師の素養を持つ母がいる身としてはわざわざ資料館に見学しに行くのに「何だかなぁ」と思った記憶しかない。
「まぁ、これは後でじっくり読むからいいんだけど……桃はどう? これから用事とかある?」
「いえ、特には。わたくしもそろそろ疲れたので残りは借りて帰ろうと思っていました。……ふふ、何かして遊びますか?」
「といっても遠出する時間はないけど。折角会えたんだし何か一緒に出来たらなって思ってね」
 まるっきり思いつきなので特に深く考えていない。近場で、気楽に出来ることとは何だろう。と考え込んでいると桃簾が何か思いついたように両手を合わせてみせた。
「それなら、楓。わたくしに付き合ってみませんか? 興味深い話を聞いたので是非に」
「うん? まあ、桃なら悪いことはしないだろうし、大丈夫かな。それで何したいの?」
「それはですね――」
 楽しげな声に何と提案されても付き合おうと思う。一通りの計画を聞くと楓は勿論と頷いた。

 ◆◇◆

「それでは後は若いお二人で」
 意味深な笑みを浮かべた家政婦のエツコはそう言うと、お辞儀し姿を消した。横を見れば軽く会釈し返した楓と目が合う。その唇が不思議な曲線を描いていたので一般的にもずれた発言だったのだろう。日頃世話になっているし、先程まで率先して準備を手伝ってくれたので感謝はすれど文句をいう気はない。そのエツコのエプロンを着けた楓がワイシャツの袖を捲った。
「僕はサポートに徹するから、とりあえず桃のやりたいようにやってみて。もし分からないことがあれば教えるし、間違ったら止めるよ」
「はい。お願いしますね、楓」
 うん、と楓は真面目な表情から一転、相好を崩す。桃簾も軽く袖をたくし上げて、作業に取り掛かることにした。折角なら料理を教えてもらうほうがいいかもしれないが、前に雑誌だか料理番組だかを見た際興味を持ち、メモを取ってあったことを思い出したのだ。楓以外にもそれを好む者は何人か思い浮かぶが、どうせなら、親友である彼女と共に楽しみたいと考えた。それにただ渡されるよりも自作を食べるほうがより美味しく感じるものだと桃簾は身を以って知っている。
 テーブルの上にはスーパーに立ち寄り買ってきた、材料と調理器具が揃っている。まずは所狭しと並んだそれらを使って、フレーバーを複数作ることにした。基本的なものなら桃簾も分かるし、逆に楓も未経験のものは感覚的な作り方になる。メモに詳細は書いていないからだ。楓ならスマホで調べられるが無粋だと彼女が拒んだのだった。楓は楓で別の物を作りながら、
「それは卵黄だけ分けて――うん、そんな感じだね」
 と手順が混ざって間違えそうになるのを止めたり、
「垂らすことを考えたら味は濃くないほうがいいかもしれないね」
 とその都度アドバイスをくれる。桃簾も人に教わったりレシピを見て自分で作ったりもするが、道具の扱いに慣れているとは言い難かった。生地をオーブンの中に入れて手が空いたら掻き混ぜ方も詳しく教わる。そうして一通りの準備が済んだら、いよいよ仕上げ時だ。
「えーっと、製氷機はここでいいのかな?」
「そうです」
 答えると、冷蔵庫の前に立った楓が製氷機を引き出し、ボウルの中に幾らかの氷を放り込んだ。少し後ろで数を確認して適度な量になると礼を言って受け取った。万が一触れようものなら絶対に壊れるので電化製品には気後れしてしまう。
 少し前に氷に塩をかけて冷却するアイスの作り方を覚えて以降、今でも時々実践している。電化製品デストロイヤーの異名を持つ桃簾は自分で冷蔵庫に触れることが出来ない。なので少なくとも冷やして取り出す二回の工程が必要になる通常の作り方より一回で済むこの方法を重宝していた。出来たてをすぐに食べられるのもいい。様々な味のタネ入りの小型容器を氷水に塩を加えたボウルに浮かべ掻き混ぜる。後は二人で分担し時間をかけるだけだ。最初は和気藹々と近況を話しながらやっていたのが、次第に集中して無言になった。

「では早速戴きましょう」
「うん。どんな味になるのかが楽しみだね」
 キッチンから自室へと移動して、リビングのテーブルに完成した品を並べる。一つは牛乳と砂糖だけで作ったアイス、もう一つは楓が作ってくれたスポンジ生地やクッキーを挟んで層を作ったアイスパフェ。バニラやチョコ、抹茶に苺と色々重ねて出来た。そして最後に何種類かのリキュールもある。これは飲み物とは別にアイスにかける用に買ってきたものだ。
 桃簾はアイス教徒を自称し、またアイスの女神などと呼ばれることもある程の無類のアイス好きだ。お菓子は別腹などというが桃簾の場合はアイスは無限大、である。一方の楓は酒とパフェが好物で普段は然程物事に頓着しない彼女もそれらの為に無茶なことをしでかす執心っぷり。そういう二人の好物を掛け合わせた食べ物があると知っていたが、試したことはなかったのでこの機会にと一緒に作ってみた次第だった。
 部屋で飼っている二匹の猫はしつけの甲斐あってアイスには興味を示さずにテーブルの足を軸に回転したり、知育玩具で遊んだり――オクトがコリオスについていったかと思えば立場が逆転し、引き取ってそれなりに成長しても根は変わらず。楓も桃簾のときとは別件で引き取った猫が家にいるのと、野良猫も来るので慣れていた。一応は船君と名付けられた猫はこの二匹とはまた違った気性なのだという。まるで人間のようなエピソードに、微笑ましい気持ちで一杯になった。
 手を合わせて食べようとしたが、ふと思い立って、楓を呼び止める。
「写真を撮ってもいいですか、楓」
「写真? ああ、いい出来だしね」
 見た目も彩り豊かになるよう拘ったので確かに美しいが、そうではなく。鞄に入れてあった使い捨てカメラを桃簾はアイスではなく楓に向けた。音がしてから自分が被写体だと気付いた彼女は目を丸くする。
「楓とのいい思い出が出来たので」
 と桃簾が理由を述べれば楓は擽ったそうに笑って、小さく相槌を打つと頬を赤らめた。そしてすぐ気を取り直したようにこう言う。
「やっぱり甘い系のリキュールにはハズレがないね。でもこれ、油断したらすぐ酔いが回っちゃいそうだから一応桃は気を付けてね」
「ふふ、心配せずとも大丈夫ですよ。ちゃんと適量は守ります」
「うん、それならいいね」
 酒呑みだが滅法強くもある楓は少量ずつかける程度問題にならない。桃簾はそれなりというところだが、幾ら親友しかいないといえど恥を晒すわけにいかず、酔いを感じたらすぐに自重するようにしている。味は普通のアイスと変わらず、しかし仄かに感じる特有の苦味がかえって甘味を引き出していて美味しい。味の濃淡の調整はジュースに応用するとよさそうである。一手間加えソース状にすればより美味しく食べられるだろう、と多めに酒をかけたアイスを食べて考えた。
 楓は最初に用意した分を完食しアイスは終わりに、桃簾はエツコに頼んでおかわりもした。楓は酒、桃簾はアイスを堪能しつつ談笑し、いつの間にか随分と時間が経っていた。
「さて、と。そろそろ帰らないとね」
「そうですね……楓、今日はわたくしに付き合ってくれてありがとう」
「どういたしまして。桃とこれだけ長く一緒にいられて楽しかったよ」
 少し戯けた口調だ。けれど本心だと分かるから桃簾も微笑んだ。玄関まで見送ろうと立ち上がれば、楓も二匹の猫をひと撫でして立つ。
 その日久し振りに自室から出てきた保護者の悟に「何かいいことあった?」と慈愛に満ちた笑みで言われたのは、ここだけの話である。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
二人きりでのご発注は初めてだったのでどんな話を
書こうか色々と考えたんですが、前に教えていただいた
情報を活かせるものはこれかなと思ったのでまったりと
お二人の好きなものを堪能する日常的な内容にしました。
写真から桃簾さんの生まれ故郷では人物画もないという
ところに触れようかとも思いましたが余裕がなく無念でした。
桃簾さん(というか保護者さん)のコスプレコレクションで
楓さんのファッションショーを、とも一瞬だけ考えましたが
コスプレ衣装力(?)がないのでやめた裏話も……。
今回も本当にありがとうございました!
おまかせノベル -
りや クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年06月18日

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