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『Ex.snapshot 010 ラン・ファー』
ラン・ファー6224

 どうやら随分とのほほんとし過ぎていたらしい。

 考えてみればここの所、斡旋業務が――数多の面白い人と出会う為の崇高かつ至上な趣味の方がどうにも疎かになっていた様な気がする。
 嘆かわしい。私はそこまで忙しかったのか。いや、忙しいのは私ではなく私と出会うべき人達の方だったのだろう。そもそも事務所に電話の一本も来ないのがその証左。以前なら何かあれば“辿るべき伝手”の一つとしてこの顔の広い私の素晴らしい頭脳と見識を褒め称え教えを乞う電話の一本や二本や三本位は結構こまめにあった。それが最近はとんとない。……まぁその間にも親友の鳥姉妹やプリン好きの子分と言った“見慣れた顔”の相手となら何だかんだで趣向を凝らした暇潰しを楽しく行えてはいるのだが。それにしても“新たな面白い顔”との出会いが無いのは――なんか、こう、物足りない。
 要するに、ここ暫くは新しく会う人会う人、皆、“普通過ぎた”のだ。
 つまり。

 ……懸賞に当たって行った豪華客船での世界一周ツアーの先では、“普通”に持て成されただけだったのである。

 勿論それもそれで趣向を凝らした持て成しだったのだろうとは想像出来る。だがそれら全てが――それこそ豪華客船世界一周ツアーと言われて安易に想像出来る範疇内になる事しかしてくれなかったのだ。折角の世界一周ツアー、もっとワンダフルでアメイジングにエキサイティングな趣向を凝らしてくれても罰は当たらないと思うのだが……と、そんな訳でもっと面白くしてやろうと親切にも試みてやったら何故か途中で船から降ろされた。
 まぁ、そんな感じで……ツアーの最中は快適は快適ではあったがちょっと物足りなかったのだ。……ひょっとすると途中下船だったからもあるのかもしれない。残念である。

 が、まぁ。

 正直、草間興信所で実家の如く勝手に寛いでいたり、アトラスで女王様と編集部員のやりとりを鑑賞したりと日常の延長をしていた方が、何だかんだで面白かったりはする。
 要するに、何事を為すにも最早“普通”の範疇では物足りないのだ。私は。

「――……と、そんな訳でな。久し振りに来てやったぞ怪奇探偵草間武彦(NPCA001)。光栄に思え」
「……帰れ」
「御挨拶だな。もっと素直に歓迎して構わんぞ? 久々の来訪なのだからな!」
「ああ。平和な日々だったよ……今お前が当たり前の様にここに来てそこに当たり前の様に座るまではな」

 私が当たり前の様にここに来て当たり前の様に腰を落ち着けたのは、興信所応接間に置かれた草臥れたソファである。ぼろぼろながらも座り心地はなかなかまともだ。場末の昭和感が漂っていて風情がある。

「ふむ。怪奇探偵草間武彦。何度も言っているが私は“お前”では無い。私はラン・ファー(6224)と言う名で“数多の面白い人と出会う為にテキトーに斡旋業を営む者”だと重々承知であるだろうにまだ“お前”と呼ぶか。呼ぶなら素直にランと呼ぶがいい。怪奇探偵草間武彦」
「なら俺の事もわざわざフルネームかつその頭に“怪奇探偵”を付けて呼ぶな。嫌がらせか」
「ん? “怪奇探偵”の称号は私に譲るといつぞや言ったでは無いか。だから譲られた通りにわざわざ私の心の赴くままに使用してやっているんだぞ。なんだ。嫌だったのか。それは悪かったな……では“怪奇探偵の称号を頭に付けるのは嫌な草間武彦”の事は今後どう呼んでやろうか」
「……“普通”に呼べ」
「それはなぁ……“普通”の範疇では物足りないと思ったからこそ今わざわざここに来てやった訳なんでなぁ」

 つまりここで“普通”に“草間”と呼ぶのは私が嫌だ。つまらん。

「……」
「どうした、黙り込んで。腹でも壊したか? ……そうだな。例えば私がここに来る前にアイスでも食い過ぎたとかあるかもしれんな……いや、食い過ぎる程にアイスがあるなら何故私に箱で送って来ない」
「誰も腹を壊しちゃいない。じゃなく。何の話だ」
「忘れたか。以前ここに来た時にしかとそう言い残してあった筈だが」
「以前……。ああ、曲解するな。あれはここにあるアイスの差し入れを見て、自分の所にも送って欲しいと言っていただけのただの願望だったろうが」
「なんだ。覚えてるんじゃないか。流石探偵、記憶力はなかなかと言った所か……。して、つまりアイスは今はここには無いのか?」
「要するにアイスが食いたいだけなんだな……」
「よくわかったな。天晴だ」

 と、私は材質不明の扇子を開いて扇ぐ。その目の前に、透き通った小皿がどうぞとばかりに差し出された。小皿の上には喫茶店の如く卒無く盛り付けられたバニラと思しきアイスクリームが載っている。
 その小皿を差し出していたのは、草間零(NPCA016)。この草間興信所が“普通”の範疇で間に合わない理由の一端(主に霊鬼兵的な面で)であり、逆に曲りなりとも“普通”の生活を送れている功労者でもある(主に掃除やら家事面で)

「おお、零では無いか。これはアイスだな。義兄と違って何と気の利いた持て成しをしてくれるのか。感無量だぞ」
「有難う御座います。宜しければどうぞお召し上がり下さい」
「うむ。ちと量目が少ない気もするが、勿論おかわりもあるのだろう?」
「はい」
「なら重畳。頂こう――む?」

 有難く当のアイスを一匙掬い口に運ぶが、軽く驚いた。
 見た目通りの味がしない。と言うかやけにフルーティで賑やかな味がした。美味である。但し――何味なのかと言われると果てしなく困る人外魔境の味。

「時に零」
「はい」
「これはバニラアイスでは無いのか?」
「あっ、これは――」

 先日、南国で行方不明になってた雪妖さんを捜してくれって依頼がありまして、その解決のお礼にと頂いた物ですね。御本人が能力で作られた創作アイスだそうです。

「……」
「ランさん?」
「……どうした? ラン」
「っはははははは! やはりな。やはり豪華客船世界一周などよりもここに来た方が余程面白い! 今度是非その依頼人だか依頼で助けられた側だかわからんが、とにかく紹介してくれ。会ってみたい!」
「いや……それは構わんが……豪華客船世界一周?」
「なんだ。懸賞で当たったと言わなんだったか。承知だとばかり思っていたが」
「……それで土産の一つも無い様な奴に振る舞うアイスは無い。返せ。……勿論皿に残ってる分だけな」
「何を言ってる。このアイスの方が豪華客船世界一周の土産などよりも余程価値があるぞ。そもそも私は途中で船を降ろされたのでな、ありきたりな土産を買うタイミングは逃がした。土産は無いぞ」
「……」
「何だ。その同情する様な目は」
「ランさん……」
「……悪かった。好きに食え」
「? 何だかよくわからんが。有難く頂こう。この私の胃袋にはまだまだ余裕がある……そしてこのアイスは中々腹に優しいのでは無いか? 幾らでも入る気がするぞ?」
「それは……そうかもしれません。“普通”のアイスじゃないですからね」
「……いややっぱり待て、少しは遠慮して食え」
「何だ、武士に二言は無いと言う言葉を知らんのか」
「誰が武士だ」
「ああ、探偵だったな。“怪奇探偵の称号を頭に付けるのは嫌な草間武彦”」
「もう勝手にしろ。どうせその内長くて面倒臭くなってくるだろ」
「よくわかったな。そろそろ飽きて来た」

 さて、中々に楽しい“普通”を逸脱したアイスも馳走になった訳だし。
 そろそろ“普通”の呼び方に戻してやるとしようか、有難く思えよ、草間。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 ラン・ファー様にはいつもお世話になっております。
 今回はおまかせノベルでの発注有難う御座いました。大変お待たせしました。

 何だかとってもお久しぶりな気がします。
 内容ですが、折角なのでとラン様に滔々と喋り倒させて頂きたい、とこんな感じになりました、が。この調子でやってるととにかく文字数が足りない場面が進まない、と言う状況になり結果、草間興信所に来て座って草間兄妹相手に駄弁りつつアイス食べただけの話になってます。
 如何だったでしょうか。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
 そろそろ残り期間も少なくなってしまいましたが、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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東京怪談
2020年06月22日

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