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『Ex.snapshot 011 ジャン・デュポン』
ジャン・デュポン8910

 その方は、とてもお若く見える方でした。
 話す言葉の含蓄は、とてもそんなお若い方だとは思えない程なのですが。

 どうやら、本職の神父様や牧師様……でも無い様なのです。
 ですがそんな事は些細な事だと思える程に、我々の心の支えになって下さっている方なのですよ。

 我々にとっては、名をジャン・デュポン(8910)と仰られるこの方こそが、唯一の信頼出来る導き手なのです。



 じゃんのおにーちゃんのこと?
 すっごくやさしいおにいちゃん。いえにいられなくなって、さびしくなったときもいっしょにいてくれる。
 ひょっとすると、てんしさまかもしれない。
 だって、じゃんのおにーちゃん、いつもはかくしてるけど、せなかにつばさがあるんだよ。
 すごくきれいで、まっしろで、おおきな。

 あっ、これないしょだっていわれてたんだ。あなたもないしょにしてくれる?



 綺麗な白金の髪なのよね。手櫛で梳くと気持ちいいのよ、あれ。
 え? 違う? ジャン・デュポンの話を訊いてるんだって? そうよ。だからジャンの事だけど。

 そうねぇ……いっつも笑ってて、真顔になった所なんか見た事無いの。
 信じられる? あれだけ何度も会ってるのに、わたしまだジャンの瞳の色も知らないのよ?
 誠実そうな見た目はガワだけ。すっごいわよ。中身は。ああ、そのギャップがいいって事もあるかしら。
 ええ。相当数の女が騙されてると思うわよ。……ううん、女だけじゃなく男もかしら。ふふ。

 貴方も気を付けなさいね?



 っ……知らん。ジャン・デュポンなんて聞いた事無ぇ! 他を当たれ……っ!

 ……って、――、んなっ……てめ、そこまで……何が聞きたいってんだ畜生。くそっ、仕方ねぇな、話す、話すよ。だからあのジャンって野郎に余計な事は言うんじゃねぇぞ。わかったな!?

 あ? おいそりゃ誰のこった? 信頼篤い神父だか牧師――って流石にそりゃ無ぇだろ。ああ、そうだな、その……遊び人って方がまだ納得行くな。つっても俺ァ別に現場見た訳じゃねぇが――あの野郎は化物だ。……あん? 翼があるからかって? 何の話だ。頭沸いてんのか?
 化物は化物だよ。あの野郎に廃人にされた奴を何人も知ってる。どんな薬物使われたんだか知らねぇが……ああ、確かにバカやった連中ばっかだったがな。どう調べてもあの野郎の名前がチラつくんだ。てめえも悪い事ァ言わねぇ。野郎の事調べてるってんなら、早いとこ手ぇ引いた方がいい。

 ……忠告はしたからな?



 待ち合わせの相手はあの女だった筈なのに、そこに居たのが糸目のあの男でね。

 流石に美人局か何かだったのかと思ったよ――まぁ、それでも全く構やしなかったが。“所有者”が来てくれたならそいつを潰せばあの女は簡単に手に入るって事なんだからな――あれだけ従順ならあの女はいい売り物になる。だからつまりそれを実行した――実行しようとした訳だ。“従業員”連中で寄ってたかって男をフクロにしてやるつもりでな。
 なのにな、どうにもそれが上手く行かねぇんだよ。どいつもこいつも野郎をタタキに行った側から戦意喪失って感じでな。何が起きたんだって困惑したさ。全然訳がわからねぇ。殴るに殴れねぇ。まるで人間じゃねぇ何かを相手にしてるみたいだった。それで最後には“従業員”連中が皆、わけもわからねぇままでその場にへたりこんじまっててな。
 残ったのは俺だけだった。正直、何が起きてるのか全然わからねぇ。ただ、俺はやっちゃならねぇ事をした、手を出しちゃならねぇ女に手を出してたって事だけは理屈抜きでよくわかった。こうすりゃこうなるって常識が完全に破壊されたって感じだったな。

 おう。それをやったなァ、勿論ジャン様だ。
 ……様? ああ。ジャン様だ。そう呼ぶ事の何が悪い。強え奴に付くのは当たり前だろ。何吃驚した様な貌してやがるんだ。俺がこんな事をあっさり話せている時点で、おかしいとは少しも思わなかったか?
 ああ、もう周辺は“従業員”連中で固めてあるよ。逃げられない。

 あんたは余計な事を嗅ぎ回り過ぎた。誰からも忠告されなかったのか? された? それでこれかよ。度し難いな。別人の事だと思った? だから大丈夫だと?

 あーもういいや、あとはイイ具合に適当に痛め付けてからジャン様に献上すりゃあ、少しはあんたみたいな間抜けでも役に立つだろ。ジャン様の腹の足しにな。



 ふぅん、ジャーナリスト、ね。
 人々の真実を暴くのが仕事……違う、真実を公に知らしめるのが仕事? 同じ事だろう? 言葉にするのも忌まわしい程汚らしい真実しかこの世界には存在しない。人々に触れれば触れる程よくわかるよ。
 キミだってそうだ。ずけずけと恥ずかしげも無く何処にでも首を突っ込んで何の関わりも無い他人の事を嗅ぎ回るなんてね。それだけで浅ましいって自覚は無いの?
 キミみたいに独善的な正義感に凝り固まってるなら、どんな風に思い込んだ記事を書いてしまう物なんだろうね。……完全なノンフィクションは存在しない。人の手を経た時点で、それは書き手の妄想が必然的に混じっているからね。

 うん。人々の信頼を得ている神父様だか牧師様みたいな人。それは確かにボクだねぇ。……あの人達は元々罪人だから。ちょっと話を聞いて優しくしてあげれば信頼させるのは簡単なんだよ。言わば下拵えの段階かな。信頼させるのが簡単過ぎるから、もっと深く心酔させてからじゃないと裏切っても上手く感情が動かない。まだあんまり美味しくないから、熟成させて時期を待っているだけだよ。あそこはただの牧場さ。
 ボクの翼を見てしまったあの子だけはちょっと例外だったかな。酷いDVを受けていてね。それでも真っ直ぐに育ってた心の綺麗な子だ。ただ……口が軽過ぎるのが駄目なんだよね。まぁ、手塩に掛けて黒く塗り潰したら多分美味しくなるだろうから、そうするのも一興だけど。

 時々脇を甘くしてるのは、キミみたいな迂闊な子を引っ掛ける為、かな。薬物? ははは。裏社会の視点で見ればそうも見えるのかな。ボクが全部感情を喰らったならその人は、確かに薬物中毒か何かで廃人になった様に見えるかもしれないね。
 ああ、今キミを“そんな風”にした子達については廃人になんて見えなかった? それはね――確かにまだ薄味だったんだけど、折角だから食べた後にちょっとだけ“寵愛”を授けてあげたんだ。ボクの手足になる様にね。“こういう時”に、便利そうだったからさ。早速役に立ってよかったよ。
 まぁ、飽きたらすぐに捨てるけど。結構大変なんだ。“これ”の維持。

 見えるかな? これが御所望の翼だよ。綺麗だろう。ああ、ある意味では光その物でもあるからね。直視したら目が潰れてしまうんじゃないか? ふふ、冗談だ。何だいその貌は。化物? 何だ。結局キミも同じ事を言う訳か。つまらないな。碌な味になっている気がしない……ああ、もう一回念入りに可愛がってあげようか。そうしたら少しは美味しくなるかもしれないよね? うん。そうしよう。

 ほら。キミはボクだけを見ていればいい。
 もっとじっくり、ボク好みの“味”になる様に、ボク手ずから苦しませてあげるから。











 どうだろう。……うん。いい貌になって来たかな。今キミの中ではどんな感情が渦巻いてる?
 じゃあ、そろそろ――いただきますに、しようかな。

 そう、ごはんの時は、きちんと行儀よくしないとね。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 ジャン・デュポン様には初めまして。
 今回はおまかせノベルの発注有難う御座いました。
 果たして初めましての当方で本当に良かったのかと思いつつ。初めましてからお待たせを。

 内容ですが、おまかせ、となるとキャラ情報や過去作品から想像してみたキャラ紹介的な日常、がまず思い付く所でして、今回は周りからジャン様を語らせる流れにしてみました。また、結構勝手をしてしまってもいるので、色々読み違えてない事を祈りつつ。
 如何だったでしょうか。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
 では、そろそろ残り期間も少なくなってしまいましたが、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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東京怪談
2020年06月22日

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