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『すべてをさらう青嵐(4)』
水嶋・琴美8036

 とある豪邸の裏庭に、風が吹く。
 メイド服のスカートが揺れ、ニーソックスに包まれた美脚を惜しげもなく晒しながら、水嶋・琴美(8036)は目の前にいる敵を見据えた。
 その視線の先にいるのは、彼女が仕えている主人の元に何人もの刺客を送ってきた敵企業のトップだ。
 むろん、今まで襲撃してきた刺客は全て琴美が撃退したのだが、主人に危害を加えようとした者を許す事など出来るはずもない。
「あなたを守ってくださる部下は、一人もおりません。観念してくださいませ」
 すでに、敵企業の警備は全員琴美の手により倒されている。あとは彼女が、得意の格闘術で今目の前にいる相手を倒せば、今日の琴美の任務は完了する。
 しかし、どうしてか相手は……笑った。気が狂ってしまったというわけでもない相手の様子に、琴美は小首を傾げる。ツインテールが揺れ、黒色の瞳が訝しげに細められた。
 聞いてもいないのに、相手は語り始める。この企業は、とある組織の末端に過ぎないのだという事実を。
 すでに、琴美が襲撃してきた時点で敵は組織へと増援を依頼する連絡を入れており、もうすぐこの館にいた警備達以上に優秀で膨大な数の仲間がここに来るのだという。
 敵の口にした組織の名は、いわゆる裏では絶大な力を誇り畏怖されている組織のものだった。その名を聞くだけで震え上がる者も居るという噂もあるほどに、強大な組織だ。
 しかし、琴美は「その組織のお名前は私も存じております」と一言口にしただけで、さして気にも留めなかった。
 最初、敵は彼女が裏界隈に精通していないのだと思った。だから、恐ろしい組織の名を聞いても逃げる素振りすら見せず落ち着いているのだろう、と。
 増援が到着した後にこの可憐な少女が圧倒的な武力に叩きのめされ絶望する様を想像し、敵は笑みを深める。
 けれど、次いで彼女が口にした、琴美の反応が薄かった本当の理由を聞いた瞬間、相手の表情は固まった。
「けれど、その組織はもう存在いたしません」
 琴美がなんでもない事のように口にした言葉の意味を、敵はしばしの間理解する事が出来なかった。彼女はそんな相手を見下ろし……否、見下しながら、くすりと見る者を魅了する愛らしい笑みを浮かべ、続きの言葉を口にする。
「前から悪い噂を耳にしておりましたから、この館にくる途中についでに『お掃除』しておきました。あなた以外に、その組織に所属している方はもうこの世にはおりません。だから当然、増援がくる事もないのです」
 買い物帰りに少し寄り道をした事を話すかのように、琴美の口調は軽やかで楽しげだった。こうやって一日に複数の敵を殲滅する事など、彼女にとっては寄り道をする事以上によくある事なのだろう。
 組織が潰れ増援もこない事を知り、相手はくずおれる。そんな敵を見ながら、その組織とやらに大した実力を持った者が存在せず、そこでの戦闘は準備運動にすらならなかった事を琴美は思い返していた。
「だからこそ、この館の方達には少しは楽しませていただけたら、と期待していたのですけど……見事に裏切られました。これ以上、ここにいても時間の無駄ですね」
 ふわりと、ミニスカートが揺れる。風すらも置き去りにする速さで、彼女は相手を射抜くように蹴り飛ばす。
「それでは、おやすみなさいませ」
 礼儀正しく頭を下げそう呟いた琴美の言葉は、倒れ伏した相手にはもう聞こえてはいなかった。

 ◆

「任務は成功ですね」
 満足げな様子で、琴美は呟く。歩く彼女の足取りは軽い。任務を達成した高揚感が、少女の豊満な胸の奥を震わせていた。
「しかし、少々物足りませんでしたね。次の任務では、もっと強い敵と戦えればいいのですけれど」
 今日だけでも数え切れぬほどの敵と戦ったというのに、彼女の顔に疲労の色はなかった。それどころか、少女はまだ見ぬ次の任務へと思いを馳せ心を躍らせている。たとえ今すぐに別の任務に向かえと言われたとしても、琴美は喜んで頷くであろう。

 ふと、少女は何かの気配を感じ足を止めた。どこか遠くで、風の音がしたような気がしたのだ。
(今夜は、嵐になりそうですね)
 風の流れと、肌をなぞる気配から琴美はそう推測する。しかし、どうにも違和感があった。
 先程聞こえた風の音は、まるで人為的に何者かが嵐を起こそうとしているかのような、不自然な音だったのだ。
 琴美は、端正な眉を僅かに歪める。しかし、すぐに少女は常の自信に満ちた笑みを取り戻した。
「……気にする必要ありませんね。たとえどのような敵が現れようとも、何を企んでいようとも、私なら絶対に負けませんもの」
 彼女の自信が揺らぐ事は、決してない。圧倒的な力を持つ自分に敵うどころか、対等に渡り合う事の出来る相手すらどこを探してもいないに違いないと少女は思う。
 事実、彼女は今回も危険な任務をたった一人で成し遂げてみせたのだ。
 これからも、きっと自分が味わうのはこの勝利の味だけだろう。琴美は、ご機嫌な様子で主人の元へと帰るのであった。

 ◆

 誰もいなくなった敵企業の館に、風が吹く。嵐のような強い風。まるで誰かが操っているかのように渦巻くそれが、琴美に倒された敵達を飲み込んでいく。
 暴風はやがて巨大な館すらも飲み込み、自らの糧とする。館のあったはずの場所には、もう何も残ってはいなかった。
 この風を操っているのは、琴美ではない。
 歴戦の戦闘メイドである彼女ですらも気づく事は出来ていなかったが、身を潜めながら琴美の戦う様をずっと観察していた者がいた。
 自分の強さを過信し、負ける事などありえないと思いこんでいる琴美。そんな彼女が、その慢心により敗北し、痛々しく無様な姿を晒す様に、その者は思いを馳せる。
 プライドも自信もへし折られた彼女が、辿るかもしれない死よりもひどい末路。彼女をその末路へと導ける程強大な力を有している者がこの世界にいる事を、琴美はまだ知らない。
 今日彼女が倒した者達とは比べ物にならない程の、悪であり強者は琴美の事を秘密裏に狙っていた。自信に満ちた笑みを浮かべ、背筋を伸ばし真っ直ぐ前を見て歩く彼女を、死すら生ぬるい地獄へと引きずり落とそうとその者は考えている。
 彼女の積み重ねてきた勝利の栄光を、全て塗りつぶす程の絶望を。
 メイドが初めて味わう敗北の味を特別凄惨なものにすべく、悪しき者は画策し笑うのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
戦闘メイドな琴美さんの今回の任務のご様子、こんな感じのお話となりましたがいかがでしたでしょうか。
お楽しみいただけましたら幸いです。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、この度はご依頼誠にありがとうございました。またいつか機会がございましたら、是非よろしくお願いいたします!
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年06月24日

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