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『幸せだった二人のお話』
桃李la3954

 グロリアスベース内・SALF本部――に近い場所に存在する、とある研究所。
 長い黒髪に碧眼、金を散りばめた様な瑠璃色の瞳が大層お気に入り……という胡散臭さ漂う飄々とした優男、桃李(la3954)が訪れた。
 建物に入り、受け付けにてIDを提示するとすんなり中へ通された。

「来ましたよ」
「…………また随分な色男が来たわね。こんな依頼を受けるものだからどんな変わり者かと思ったけれど」
「そうですか?」
「ええ。まあ、皮肉ではなく『顔面』偏差値は高いと思うわよ」

 真っ白な室内――三十代半ばくらいの女医? 研究者? と桃李は対面して椅子に座って話す。

「依頼内容は確認してもらえたのよね?」
「はい。しっかりと目を通しました」
「内容が内容だからね…………一応確認。貴方にはこれから一人のライセンサーの男性……少年と言って良いわね……の、記憶を追体験をしてもらいます」
「ほう、追体験」
「……とある依頼で全滅したライセンサー部隊の情報を得るのが今回の目的。唯一の生存者……と言うべきか否か……」

 女医は言葉を濁す。……つまるところナイトメアの討伐に赴いたライセンサー部隊が不意を受けて全滅、生存者は一人……居るには居るが、話せる状態ではない。
 襲撃したナイトメアの情報を得たいのだが難しい……そこで、『とある研究』を行っているこの目の前に居る女医か研究者かに白羽の矢が立ったらしい。
 女医の研究内容は『脳から直接記憶、情報を読み取る』というもの。だがまだ研究段階であり、現時点で機械を使ったスキャンを行うと脳は焼き切れて死んでしまうそうな……恐ろしい。
 ゆえに、脳と、もう一人の人間――IMD適正のあるライセンサーが望ましい――とリンクさせ、記憶の追体験を行い、情報を取り出す……という方法ならば一応可能。
 …………うん、まあ、お察しかもしれないけれど、『唯一の生存者』は『脳だけが』生存しているということだね、うん。

「この脳……生存者の少年を除き……他のライセンサー達の遺体は原型を留めていなかった……、そしてこの依頼には『彼』の恋人の少女も参加していた…………意味は解るわね?」

 桃李は首肯する。

「経歴を見るにこのカップル二人は小学生からの付き合いだったみたいね……とても悔やまれるわ……。つまり、“そこら辺の記憶”も見る可能性があるけれど、覚悟はOK?」
「OK」

 桃李は即答。

「……ふん、なら良いわ。じゃあこのヘッドギアを頭に付けて、そこのベッドに横になって頂戴」

 桃李は言われるままにする。

「楽にしてね。普段家で眠る感じで良いから。何かあればモニターしているこちらが強制的に覚醒させるから安心して」
「わかりましたよ、早く始めちゃってください」
「いいのね? それじゃあ――『リンク・スタート』」

 ***

 桃李が目を閉じると、ふよふよとした浮遊感の後、突然意識が飛ぶ感覚――目を開ければ、ここは――

(?? ここは…………小学校の……? 図書室??)

 気付けば図書室の扉の前に立っていた。そして脳に記憶が……自分はこのとき、小学四年生であり、日付は二月十四日……バレンタインデー。

 自分は扉を開ける…………と、少し離れた本棚の前に、もじもじとした様子の、可愛らしい少女の姿があった。頬がほんのり赤らんでいる。
 そしてこちらを見つけると、パッと笑顔になって、歩み寄って来た。自分は後ろ手に扉を閉める。

「●●くん! 来てくれたんだ! 嬉しい! それで……ね、あの、その……これ、ハッピーバレンタイン!」

 差し出された、綺麗に包装されたチョコレートらしきものと、あとは今どき珍しい便箋。……どう考えてもラブレターです。本当にありがとうございました。

「がんばって作ったから、ちゃんと食べてね。それとその手紙…………家に帰ったら、読んで」

 ***

 真っ赤ないじらしい少女の顔が視界に入った後、場面転換。
 どうやら自分の家……の自分の部屋……学習机に着き、先ほどのラブレターを読んでいる…………それにはどうやって『彼女』が『彼』のことを好きになったのかが可愛らしい丸文字で綴られていた…………。
 しかし自分には解る。この二人は既に『相思相愛』であった。

 ***

 また場面転換。それは翌日らしく、自分は彼女の手紙での告白に、直接彼女へ返事をし、二人は晴れて小学生にして付き合うことに……恋人同士になった。ちょっと早くありませんかね。

 …………それからは場面転換が続いた。残りの小学生生活と、中学、高校…………付き合い始めてからずっと二人はとてもとても仲睦まじい様子だった…………。
 そして二人は高校生のときに受けた身体検査でIMDの適性が判明し、高校卒業と同時に二人でライセンサーとして登録、活動を始めたらしかった。

 ***

 また場面は飛ぶ……暗がり、辺りには悲鳴と、泣き叫ぶ声と、絶望の叫び……。そして――自分の目の前で、“彼女が大型の熊型ナイトメアに喰われた”。
 絶叫と共に視界が真っ赤に染まる――。

 ***

「大丈夫!? ねえ大丈夫!?」

 桃李が気付けば白い部屋……。戻って来た……? ようだ。

「はぁ……はぁ……、はぁ……はぁ……、大丈夫……です……よ……」
「すごい汗。これで拭きなさい」

 タオルが差し出された。気付けば全身びっしょり、汗だくだった。

「……全部モニターしていたから事情は解ったわ。なるほどね……そういうことね……。それと、やっぱり“見てしまった”わね……。あっ、貴方……」
「あれ? 俺――泣いて――」

 桃李はしばらく涙が止まらなかった。……これからはもう、他人の記憶を覗くのは止めようと心底思った……。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
大変お待たせ致しました。大幅に遅れてしまい、誠に申し訳ありません。

今回は「不思議で悲しいお話」という内容にしてみました。
楽しんでいただければ幸いです。

この度はご発注ありがとうございました。
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グロリアスドライヴ
2020年06月26日

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