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『Ex.snapshot 012 不知火 あけび × 不知火 仙寿之介』
不知火 あけびla3449)&不知火 仙寿之介la3450

 用意した苺は二種類の下拵えをする。潰して混ぜ込む用と、綺麗に切り分けておく飾り用。苺大好きな旦那様なんだから、お菓子のバランスが許す限りはたくさん入れちゃおうと考える。子供達用にもと多めに作る。
 今日作ろうとしているのは、苺入りの淡雪かん。新鮮な苺と卵が手に入り、ちょうど貰い物の寒天がたくさんあったので思い付いた品である。食感はふわふわと優しく、口の中に入れればそれこそ淡雪の様にとろける和菓子。まるで天使みたいな――って、やだ、旦那様のイメージと重なっちゃったかな。てへ。
 そりゃあ元居た世界での事もあるし、何の屈託も無く“天使”のイメージを持てる訳じゃない。でも、私には天使な旦那様の仙寿様――不知火仙寿之介(la3450)ってひとが居るんだから、ちゃんと私だけの“本物”の素敵なイメージもあるんだよ、うん!
 淡雪かん、ってだけじゃなく苺を入れるなら尚更、そーゆー感じになる気がするし。
 苺と言えば仙寿様、だからね! ……あ、息子も苺好きだけど。あとあの子もね。

 淡雪かんはそれ程難しいお菓子じゃない。寒天と水の比率、卵白の泡立て具合がポイントと言えばポイント。砂糖はどの位入れるか、苺とのバランスは。ツノが立つまで泡立てて作ったメレンゲを潰さない様に気を付けて。出来た溶液を水で濡らした容器に流し入れ、冷蔵庫で冷やし固めて出来上がり。苺を入れるアレンジの分ちょっと気を遣う必要はあるけれど……うん、まぁ良し。きっと大丈夫! ……でもきっと仙寿様の方が美味しく作っちゃうんだろうなぁと思う。少し悔しい。でも私も仙寿様の作るお菓子は食べたい。
 ……じゃなくて。今は私が作ってる苺の淡雪かんの方。
 御稽古中の子供達の分もたっくさん作っておくから、御稽古の後に皆で食べて貰うんだ。
 苺も寒天もヘルシーだし、疲れた時には甘い物って言うし、きっと皆喜んでくれる筈!

 仙寿様が居るのは、今は道場。御近所の一般人の子供達に護身術の御稽古を付けている所――サムライガールな私も作り途中の菓子が完成したら子供達の指南に入る予定なんだけど、何だか当の道場だけじゃなく庭の方も賑やかだなーとはちょっと思う。誰かが派手に戦っている――でも、敵じゃない事だけは確信出来る剣気だったから「ちょっと賑やかだな」程度の感覚で済んでいる。
 誰かが手合わせでもしているのだろう。恐らくは道場が塞がっているから。
 それだけならば特に咎めるでも無い。……物を壊したり庭木を台無しにしたりしなければ。
 皆が元気なのはいい事である。



 あけびが菓子を作ってくれると言うのなら、楽しみでしかない。稽古を終えたら、後で皆で有難く頂こう――と。その筈ではあったが、先程少々気になる話を聞いた。
 他愛無い話ではあるのだが、稽古の前に菓子を貰ったと言う話である。
 初めは言葉でではなく幼子達の当の口の端や頬から聞いた。何かつまみ食いでもしたのかと言う腕白な有様で――気が弛んでいるぞと指摘したら、そこで菓子を貰った旨きちんと言葉で聞かされた。そしてすかさず口の端や頬に付いて残った気の弛みを拭うべく、洗顔の為にか慌てて一旦道場から離れもしていたが――どうやら。
 菓子の出元は、八重の娘であるらしい。それも子供達が普通に厚意で貰ったと言うより、どうも一悶着あっての末にせしめた様子。八重の娘と俺の息子は今日はライセンサーとしての任務に出ていた筈なのだが――まぁ、庭の様子を窺うに、予定が変わって時間が空いたと言う事だろう。
 庭でぶつかり合っているのは、任務で不在である筈の二人の剣気。恐らくはEXISも起動させた上での手合わせになっている。剣戟のみならず銃撃の音も聞こえた。それが誰の行った物であるのかは、仙寿之介にしてみればわかり過ぎる程によくわかる。流れ弾を気にする必要も無い。が、それはあくまで自分だからであって慣れない者が聞いたなら――と思いつつ振り返って道場を見るに、木刀を握って素振りをしている幼子達も大して気にしている様子が無かった。いや、寧ろその音がする度の様子は、怖がる所か憧れすら覗かせているかもしれないそわそわとした物で。何だかんだでこの子らももう、不知火の家には慣れたかと微笑ましく思う。
 ならば庭の方について気になるのは、迂闊に物を壊したり庭木を台無しにしたりはしないでくれよ、と言う事位。
 後は、二人の“問答”次第。俺が横から口を挟む事も無い。

 ……さて。

 そろそろだろうかと道場の入口辺りへ視線を馳せる。根拠は無い。ただ、妻の事なら何となくわかる事はある――と、俺の視線に本当に応える様にして、耳に快い“明ける日”の元気な声が外から飛んで来た。

「お待たせー」

 声だけで無く姿も勿論同様に。稽古着に着替えた声の主は、共に連理の枝に留まる吾が比翼の片割れ。不知火あけび(la3449)その人だ。
 あけびが来てくれたなら、そろそろ組太刀の稽古も始めるとしよう。

 子供達が待っている。



 ここで教える剣術に、流派も型も実は無い。が、それでも基本の基本は共通だから、まず差し障る事も無い。自然体から、刀の握り方構え方。彼我の動きを想定しての有効だろう最低限の体捌き。何より刀の扱いに慣れる事と体力作りを兼ねた素振りは重要。護身が主目的ならばこれで充分に事足りる。“その先”を行くかは各々次第。仙寿之介の――天衣無縫の『頂の刃』。剣の達人たるその動きを見る事が出来るだけでも相当に贅沢な見取稽古にはなる訳で、もし本気で“その先”を求められたならば、教える事も吝かでは無い。
 とは言えそれは、まだまだ先の話である。
 今はまだ、目の前の事。

 組太刀を始めた子供達を時折止め、気になった部分を細かく指導する。変な力の入れ方をしていたり妙な癖が出来ていると見たならそこを直させる。そうしてからまた、組太刀再開。それで本当に直っていれば、また次へと指導に赴く。直っていなければ、もう一度。根気強く、何度でも。置いては行かぬと。皆を見守る。
 そんな仙寿之介の姿を見てまず目に入るのはその“白さ”と背丈だろう。白皙の肌に、繊細に煌く白銀の長髪。背丈もかなり高くある。それでいて、日本の侍の如き出で立ちを崩さず、その所作もまた出で立ちに違わない。淡い金色の瞳に湛えられているのも、その出で立ちに違わぬ落ち着きと清冽さで――総じて違和感がある様で、逆に全てを納得させる剣客らしい佇まいを醸してもいる。
 髪型はよく見たならば少し独特の物だったか。若武者の如く頭後上部で纏め背に流している所までは、然程でも無いかもしれない。が、耳の上になる辺り、左右どちらも一房だけ緩く垂らした上で、その先端を頭後上部に後ろ髪と共に一つに纏めているのは、仙寿之介ならではになるかもしれない。

 あけびもまた、仙寿之介同様、幼子達の指導に入っている。打ち合わせた訳でも無いのに、ごくごく自然に役割分担。組太刀の方は夫に任せて、あけびが看るのは素振りをひたすらに頑張っている――より幼い子供達の方。こちらも同様、指導が必要なら適宜入れる。……元気は満点だけど、そうやってると指痛めちゃうかもだからこうしてみよう。うん。そんな感じ。こっちはどうかなー? おー、いいねー。その調子。頑張れ! 次々とこまめに声を掛け、子供達のやる気を引き出そうとする。
 あけびは元々仙寿之介の剣の弟子だった訳だから、指導の方針も仙寿之介と変わらない。師匠として昔から憧れていてその剣の振るい方も型と呼べる物も信念もずっと見て来ているから、その目も確か。
 そんなあけびの姿は、その“名の通り”の印象が先に来る。瞳の赤色は不知火の如く。あけびの方は紫を帯びた可愛らしい花――その色をした長い髪。更には頭の後ろで丸く纏めた髪にきっちりと木通の簪も差している訳で、本人もその花を意識しているのだとわかる。今は稽古着だから付けてはいないが、普段の洋風にアレンジした着物と羽織を着る時は木通をあしらった帯留とか、そんな小物もよく使っている。
 今は、簪だけ。本当は余り良くないかもだけど、稽古着でもこの位は飾っておきたいと言う建前の下、ここぞとばかりにこの簪を付けている。……子供の頃に旦那様に貰った、大事な宝物。でも大事にするにしたってずっと仕舞っておいたんじゃ勿体無いから、付けられそうな機会があればなるべくたくさん使う。……子供達に稽古をつける今は旦那様との大事な時間。だからこそと言う面もある。

 一通り稽古を済ませて、皆で道場に感謝の一礼。それから――じゃあおやつタイムにしよっか、苺の淡雪かん作ったんだよ! とあけびが言い出したら、何か子供達の反応が変だった。おや? と思いあけびは仙寿之介の事も見る。と、偶然だな、と淡い苦笑が返って来た。なになに、どういう事、何かあったの――あけびからのそんな真っ直ぐな疑問を受け、子供達はその反応の理由を、改めて仙寿之介とあけびに話し始める事にした。

 随分と微笑ましい、不知火邸の子供達と稽古に来た子供達の間にあった一幕の事を。



「――……同じお菓子作ってたなんて偶然だねー。あ、寒天たくさんあったから同じ事考えてたのかな?」
 あと子供達に私のよりそっちの方が美味しかったのかもって反応されちゃったのがちょっと悔しい。
「ふむ。あけびの作ったこの……苺の淡雪かんも充分に美味いが」
「うん。子供達もたくさん食べてくれたしね! でもそれでも! ……確かにあの子はお菓子作り上手なんだけど! 主婦としては負けたくないの! 仙寿様にもっ」
「……俺にも、か?」
「うん。仙寿様お菓子作るの上手いから」
「あけびの手料理は美味いぞ」
「仙寿様のお菓子はいつも絶品なの」
「……あけびの喜ぶ顔が見たいと思って作っているからな」
「私だって仙寿様に喜んで欲しくて作ってるしっ」
「ああ。知っている」
「私だって知ってる……でも私の方が強くそう思って作ってるんだからっ」
「済まないがそこは譲れないな。お前への想い、お前にも負けるつもりは無い」
「むぅ。仙寿様狡い」
「ただの本心だ。受け止めてくれないか」

 話を聞きつつ稽古の後のおやつタイムも終えて、御稽古に来た子供達を帰して後。
 あけびと仙寿之介の二人はまだ道場の濡れ縁に居た。苺の淡雪かんをお茶請けに、暫し庭を見て寛いでいる。庭。姿は時折しか見えずとも、二つの剣気は今以って力強く躍動している――随分と長い立ち合いだが。

「元気だねー」
「そうだな。……にしても。折角の苺を自分達では食べ損ねたとはな。何をやっているのか」
「本当。痴話喧嘩って言われたら動揺しちゃって……なんてねぇ。可愛い」
「動揺する事など無いだろうにな……それで次は庭で、か」
「ま、その辺りの流れで何があったのかは御稽古に来た子供達にはよくわからなかったみたいだけど。でも凄いってはしゃいでたねー」
 庭でのあの子達の戦い振り。
「ああ。子供達の手本になれる程になったのだな。あいつも」
 喜ばしい事だ。
「だね。……うーん。まだ戻って来そうにないかな?」
 私の作った苺の淡雪かんの方。二人の分持って来ちゃうのまだ早いよね。
「折角冷やしてあるのだものな。……まぁ、もう少し気長に待っていてみようか」

 時折剣気が止まる。止まっては動き出す。どうやら位置取りも少しずつ変わって来ている。ここまで長引いて来ると、不知火の忍としての力量も物を言っているかもしれない。
 ふと、仙寿之介の足元に柔らかな黒い毛並みが触れる。なあ、と甘える様に鳴く声。つ、と立てられた尻尾の先は白。するりと寄って来ていたその毛並みの持ち主は、縁あってここに住まう事になった尻尾の先だけが白い雄の黒猫――船君だった。
 流石仙寿之介の愛猫、猫の身にすれば庭に満ちる剣気でとても落ち着かぬだろうに、普段通りで気にした風が無い。

 いや。

 船君が仙寿之介の足元で甘えて寛ぎ出すのと、二人の剣気が止むのがほぼ同時。……つまり船君は、庭での激しい立ち合いの決着を見越した上で、寛ぎに来た様だった。

「流石だね船長。自分の“庭”で起きてる事はよくわかってる!」
「ふふ。お前も不知火の家の一員だものな。船君」
「……っと、じゃ、今度こそ淡雪かん持って来るよ。二人も呼んでゆっくりしよう」

 折角出来たたまにのお休みなんだから、ここは皆で一緒にね。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 不知火家御当主夫妻様には初めまして。

 今回はおまかせノベルの発注有難う御座いました。
 そして果たして初めましての当方で本当に良かったのかと思いつつ。初めましてから大変お待たせを。

 おまかせとなるとキャラ情報・過去作品から思い付きそうなキャラ紹介的な日常、がまず思い付く所なのですが、気が付いたらこんな事になっておりました。
 時系列は同時発注だった仙寿様の息子さん版のノベル後にあった事、の様な形になっております。
 致命的な読み違え等無ければ良いのですが……如何だったでしょうか。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
 では、またの機会が頂ける事がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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グロリアスドライヴ
2020年06月29日

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