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『Ex.snapshot 013 日暮 さくら × 不知火 仙火』
日暮 さくらla2809)&不知火 仙火la2785

 対峙するのは“暮れる日”と“明ける日”――まるで一対、のまだ年若く、麗しくもある男女の姿。どちらも構えているのは稽古用の木刀。女性の方は淀みの無い凛とした正眼で、男性の方は自在の必要を見越した脇構え。とは言え両者完全に異なる流派――とは言い切れず、佇まいは何処か重なる。恐らくは同様もしくは近い形の鍛錬を何度も重ねているのだろう。そう見て取れる。
 女性の方はまず儚く消え入りそうな淡い紫の髪と白基調の軍服めいた服装が目に入る。薄紫のその髪は何処か若武者めいた髪型に切り揃えられ、頭後上部で括って長く背に流されている。軍服めいた服装の方はそれこそ日本の大正期辺りを思わせる時代がかった印象――但し合わせているボトムスは黒のスカート。短いその下から覗く脚も同じ色に包まれている為、そちらの素肌は見えない。そして何より淡い金の瞳が、対峙する男性の次の動きを見切るべく――強い強い意志の光を宿らせているのが印象に残る。
 男性の方でまず目立つのは、繊細に煌くその白銀の髪と、鮮やかな赤地のコートの背に大きくあしらわれた華美な鳳凰。その下に見えるのは打って変わって黒の色――鳳仙火の紋があしらわれた黒い着物に、タートルネックやワイシャツと言った洋装を中に合わせて軽衫袴風のボトムスを穿いている。耳朶には黒のタッセルめいた房が伸びている赤い耳飾り――総じて、何処か傾いた風体でもある。とは言え、目の前の女性との対峙は決して不真面目と言う事も無く、燃え立つ様な赤い瞳がじっと女性の次の動きを見定めるべく動かないでいるのは同じ。

 互いに侍――いや、“サムライ”と片仮名で書き表したくなる様な佇まい。

 とまぁ、それなりに張り詰めては居るのだが――場所は不知火邸の道場なので、実はそれ程でも無いのかもしれない。心構えとして真剣勝負ではあっても、今ここではEXISまでは使わない――この後に家主による御近所の子供達への剣術指南予定があったりするので、流石にEXISまで全開で使ったライセンサー同士の“真剣勝負の空気”を残すのは止めておこうと考えてみた訳だ。
 適度な緊張感や剣気が残る分には勿論、清冽の場所たる道場には好ましい。が――ナイトメア相手の実戦で鍛えている『守護刀』の剣同士の真剣勝負で生まれるだろう“それ”は、指南を乞いに来る一般の子供達には少々行き過ぎになりかねない、と自覚はある。
 そんな訳で、今は木刀を使っての稽古の体だ。

 この勝負に立ち合い人は不要。お互いの身一つとそれぞれ構えた木刀だけで対峙する。呼吸を整えつつ摺り足で様子見、見合っていたのは僅かな間。力強い踏み込みと共に、裂帛の気合い――攻め手に出たのは殆ど同時。攻め抜く事で護り抜く――信念としては護り第一であっても、型としては積極的な護りは好まない。それが不知火の家の、『守護刀』の剣術。生半な相手ならばその精妙な撃剣を重ねれば幾らでも撃ち抜けるし相手のそれも躱せる――が、今対峙しているこの相手ではそうも行かない。その切っ先が躱し切れない場合、往なし切れない場合は幾らでも。その度毎に、カァン、と木刀が確りとかち合う高い音が響き渡ってしまう事にもなる。
 その事自体がどうにも未熟。想像の力で事を為すイマジナリードライブを使う実戦ならそこまで気にする事も無い――と言えばそうなのだが、刀同士をまともに打ち合わせるのは本来あんまり宜しくない。信念を通す為には使える技術は全て惜しみなく使って必要な限り攻めに出る――それがサムライガールたる矜持でもあるのだが、基本の所はやはり頭にある。
 そしてこちらの剣撃をそこまで受け止め――攻めに転じて来る辺りが、この相手。暁の濁剣――真っ当な剣筋かと思えば、その型からさりげなく外して来る轟然たる動きも多彩。型から外れていると言っても威力の方は確り乗っている実戦重視の崩し方――逆に言うなら基本が無ければ出来ない崩し方。時折派手な一撃も混ぜて来るのが、らしいと言えばらしくもある。

 ……初めの腑抜けだった頃と比べたら充分過ぎる程に力を付けていると思います。最早簡単には倒せない程に。けれど勿論私も負けられません。誰かを救う為の刃であれ――結んだこの誓約に恥じぬ為にも。……木刀のみであってもまだまだ続けます。続けられます。攻められます。銃――は今は用意していませんでしたね。仕方ありません。ならば撃剣の手数です――……

「ちょ、待ったさくら、そろそろ水入りにしてくれって!」
「まだです。決着はついていませんよ――仙火っ!」
「ってそこまでヒートアップする予定じゃなかったよなそもそも!?」
 まず稽古着にすら着替えてねーし!
「任務着のままの方が気合いも入ると言う物でしょう。道場での稽古であっても勝負は勝負です!」
「そーじゃなくてッ」

 カァン、カカカ、カァンッ

 ……そこまで訳のわからぬ文句を付けて来たかと思ったら、最早完全に私の攻め手を木刀で受けるだけの形になっています。また腑抜けましたかこのヘタレ男が――ん?

 ふと攻め続ける動きを止める。反撃は来ない。と言うか。
 道場の入口辺りから複数の無邪気な視線が注がれている事に今更ながら気が付いた。さくらと呼ばれた女性――日暮さくら(la2809)にしてみれば、それに気付くのが遅れた事自体が不覚。敵意が無かったからこそ見逃したか、はたまたこのヘタレ男との対峙に没頭してしまっていたのか。どちらにしても不覚である事には変わりない。いや、このヘタレ男――もとい不知火仙火(la2785)の方が先に気付いていたと言う事なのかもしれない。だとしたら今未熟だったのは私の方だ。腑抜けと思ったのは撤回の必要がある。
 複数の視線の主は興味津々と言った体の――家主の剣術指南を受けに来た一般人の子供達。恐らくは早めに道場に来たらこの現場を目撃した、と言う所だろう。
 そして二人の動きが止まった所でさざめく、痴話喧嘩終わったみたいだぞとか何とか、口さがないざわめき。

 ……。

「違うっ」
「違いますっ」

 殆ど異口同音に仙火もさくらも完全否定。が、効いた気配が無い。直後、やべ、怒った、と子供達はその場から逃走、違います違うのですとさくらがそれを追い掛ける――殆ど反射の領域。仙火も仙火で同じ事をしよう……とはしたが、さくらが先に行ってしまった事でなんかちょっと頭が一旦冷静になった。……否定すればする程逆効果じゃないかこの場面。そうは思っても誤解されたままある事ない事言い触らされても困る訳で、やや遅れながらもどうしたもんかねと頭をかきつつ仙火も誤解を解くべく追い掛ける。
 結果、子供達のその誤解(?)を解くまでには随分と掛かってしまったが――まぁ、何とかはなったのだろう、多分。



 元を質せばさくらと仙火が今道場で立ち合う事になったのは、ちょっとした意見の相違があった事から……なのは確かである。だが断じてその“意見の相違”は“痴話喧嘩”などでは無かった筈なのだ。
 まず、本日さくらと仙火が受けていたライセンサーとしての任務が先方の都合で急遽キャンセルになった事から話は始まる。……まぁ元々、然程危険とはされていなかった任務ではあったのだけれど、同時に戦闘状態になる可能性は否定出来ない様な任務でもあった。だからこそ普段通りに準備を整えて赴いていたのだが――行った先でほぼドタキャンでその任務自体が無くなり、結構長めな空き時間が出来てしまっていたのがまず前提。
 そしてさくらは今日の任務が終わった後に皆で食べようと、自分も仙火も好物としている苺――を使って作ってみた「淡雪かん」を冷蔵庫で冷やしておいた、と言う事情もまた前提である。
 そんな前提がある中、さくらと仙火は不知火邸への帰途に就く。その最中で、任務の後に食べようと作っておいた物がある旨さくらが言い出したのだが、その「物」が何かを明かす前に、仙火が「何の料理を作ったのか」と先回りしてしまった事で話が拗れた。
 さくらは菓子作りはプロ級であるが料理は不慣れである。だからこそ事ある毎に努力もしているのだが、つまり先回りしてその“努力”の方だと思われた訳だ。そして仙火の事であるから先回りしたそこで悪気の無い軽口も混じる。「頑張った成果、楽しみだな」――素直に聞けば聞けるだろうが、それを言ったのが仙火である。料理についてはさくらの上を行き、あくまでただの厚意だったのであろうが――過去、「教えてやろうか?」と言われた時には屈辱を覚えた事もある相手。
 素直に聞ける訳も無い。……と言うか、この流れになった以上、さくらとしてはただ素直に仙火に淡雪かんを食べさせるのは癪である。それで――なら最高の調味料(つまり空腹)を添えましょうと立ち合いを持ち掛け、でも今日は一般の子供達の稽古もあった筈、じゃあ始まる前に邪魔にならない程度に、木刀だけで、その位ならいいんじゃねえか、ではいざ尋常に――と折り合いを付けつつ帰宅、そのまま冒頭の流れに戻る。

 そう。元を辿ればそんな他愛無い話でしかなかったのだ。
 それが何故こんな事になってしまったのかと今更ながら溜息も出る。結果としてさくらの作った苺の淡雪かんは全て子供達に振る舞う事になってしまった。
 家主とその息子である仙火、そしてさくらが筋金入りのイチゴスキーである事は何だかんだで不知火邸を出入りする者には知れていて、ここで菓子を作るとなれば苺を使った物、となるのはまず恒例と言っていい位に多い。が、それでさくらが任務の後に食べようと事前に作っていたとなれば――痴話喧嘩どうこう言い出す子供達にしてみれば、仙火の為にだと邪推して二人を囃したくなるだろう事は想像に難くない。と言うかさくらが子供達に追い付きあっさり捕まえつつも事の次第を改めて釈明する中、当の苺の淡雪かんの存在が知れた時点で実際そうされた――ので、これまた反射的に皆の為に作った物です、と言い張る羽目になって結果。
 子供達は上手い事さくら手製の苺の淡雪かんを丸々せしめる事が出来た、と言う訳だ。
 どうも釈然としないが、何と言うか、ボタンを掛け違った様な妙な感じになってしまった気がする。

「何でこうなっちまったんだろうな……」
「言わないで下さい。また作ればいいだけの事です。……新鮮な苺が手に入る機会があれば」
「悪いな」
「何がです」
「いや……俺のせいの様な気がして」
「……何がどう仙火のせいなのです?」
「あー、それは……だな」
「謝るなら何を謝るのかはっきり自覚した上で謝って下さい。そして謝るべき事は何もありません」
「まぁ、そうかもしれねぇんだけどな」

 と、そうは言ってもやはりさくらの反応に微妙な険がある――なら、思い当たる事が無くも無い。ただ、仙火が思った通りのその理由だったとしたら、蒸し返して一から説明したら却って怒られそうな気もする。
 ……さくらが「任務の後に食べようと作っておいた物」が「苺の淡雪かん」。だが仙火がその話を聞いた時、物自体は何かを聞く前に菓子では無く料理の方と受け取った反応をした。そしてその後、さくらは物自体は何かを明かさないまま、最高の調味料を添える、などと突っ掛かって来た。だから多分その辺の事で少々複雑な乙女心に障った――のだろうと薄々察しは付いている。
 まぁ、仙火としてはその突っ掛かられた時点では、単に日常通りの「勝負」の延長だとばかり思っていた感じだったのだが。

「まだ幼い前途ある子供達の糧となるのならそれもそれで苺の幸せです」
「俺は食いたかったけどな。さくらの作った苺入りの淡雪かん」
「……もう遅いです」
「だよな。あー何か色々不完全燃焼だな。もっかいやるか?」
 今度は理屈抜きで。
「いいですね。望む所です。ですが道場は使えませんから……」
「庭先でいいだろ」
「……道場で木刀のみで、と決めたさっきの“子供達への気遣い”は何処に行ったんでしょうか」
「考えてみればそれもあいつらを舐めてる事になる気がしてな。あれだけやらかす連中だぞ?」
「……かも、しれませんね」
「決まりだな」

 ちらりと見交わす、金色と赤色。
 その時にはもう、頭にあった筈の諸々の屈託は既に何処かへ行っていて。
 後に残るのはただ、剣に生きる宿縁のサムライ二人のみとなる。





 ――今度こそは、常の得物で。





 いざ尋常に――勝負!

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 日暮さくら様、不知火仙火様には初めまして。

 今回はおまかせノベルの発注有難う御座いました。
 そして果たして初めましての当方で本当に良かったのかと思いつつ。初めましてから大変お待たせを。

 おまかせとなるとキャラ情報・過去作品から思い付きそうなキャラ紹介的な日常、がまず思い付く所なのですが、気が付いたらこんな事になっておりました。
 時系列は同時発注だった仙火様の御両親版ノベル前にあった事の様な形になっております。
 致命的な読み違え等無ければ良いのですが……如何だったでしょうか。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
 では、またの機会が頂ける事がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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グロリアスドライヴ
2020年06月29日

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