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『紫電一閃 2』
白鳥・瑞科8402

 剣を振るうは艶やかな笑みを浮かべた、グラマラス過ぎる女体のラインが妙にはっきりとわかる修道女。その暴虐の結果と、それを起こすべく滑らかに動く肢体の美しさは凄まじい落差を生み、現実感を狂わせる。

「もっともっと来てくれて構いませんのよ? どうぞわたくしを満足させて下さいな――」

 挑発を重ねる――愉しみながらの戦いはいつもの事。白鳥瑞科(8402)の歩みは止まらない。まだまだ潰すべき神の敵は数多く残っている――どれ程湧いているのでしょうねと苦笑。潰しても潰してもまだ次が来る。まるで害虫――いえ、害虫の方がまだずっとましでしたわ。わたくしが敢えて出なくとも、只人でも対処可能な訳ですものね――それに害虫とされる虫でも神の恵みを齎す為の“道具”となる事もありますもの。比較するだけ害虫に失礼でしたわ。
 そんな益体の無い事をつらつらと考えつつ、瑞科は先へ先へと進んで行く。手応えが無い分、数をこなして満足の足しにしたいと考える。それでも自分にあるのは身一つで両の手だけだから、一度に出来る事には限りがある。剣の一閃やナイフの投擲で間に合わなければ、電撃や重力弾を当たり前の様に併用し殲滅を重ねる。

「――って、おさわりは無理ですわ。身の程知らずな真似をなさりますのね――それ程にわたくしが魅力的ですの?」

 そういう意味じゃない。ただ、この暴虐から逃れたい。無駄とわかっていても敵が瑞科への直接攻撃を試みるのはそれだけの意味なのはわかっている――けれどそれでは詰まりませんので、こう受け取って、軽口を。確と聞かせて、それから一閃。電撃を纏わせた剣の刃で一気に焼き斬り、放り出す。

「――ほら。身の程知らずな真似をなさるから。大火傷してしまいましたわよ?」

 クスリ。
 笑っては見せるが、最早斬った相手に意識を向けてはいない。次が来る。際限無く。白鳥瑞科でなければそろそろ数に圧倒されそうな所。けれど彼女にしてみれば、まだまだまだまだ、物足りない。敵の数多の群れの中、黒と白に包まれた艶やかな肢体が躍動する。軽やかにそして力強く振るわれる剣の刃と紫電の煌き。躍動する度に白と黒の布地が華やかに閃き、その身の豊かな部分は絶妙に揺れている。
 ……この姿を神の敵に晒すのも勿体無い物ですが、わたくしが動く以上はこれは仕方ありません。仕方無いなら愉しみましょう。きっとそうする事こそ神の思し召し。
 そう理屈を付けて、瑞科はその身に纏う艶やかさを一切隠す事無く進む。最早ここまで来れば隠行も不要。この場に居るのは、殲滅すべき神の敵だけ。そう見定めた。
“手加減”の必要。小首を傾げて電撃を調整。生かさず殺さずの境、剣に纏わせ、この場の――空間全体へと凄絶なる紫電一閃。大小乱舞する閃光の後、焼け焦げる血肉の悪臭。その“雷”を何度か与え、心を籠めて苦しませてから最後に重力弾で絨毯爆撃。取り零しの無いよう、念入りに均して圧殺。

 さて。

「……これにて任務達成、で宜しいかしら?」

 言葉に出す事で、瑞科は自分でも再確認。……本日もまた、滞り無く。明日も明後日もその次も。ずっと、ずぅっと同じ事。白鳥瑞科が神の敵を屠り続けるのは、この堪らない高揚を味わう為にこそ。
 ほんの僅かな不快の種は、この場から離れれば事足りる――折角綺麗なままで済んでいる髪や服に悪臭が付いて欲しくないと言うささやかなそれ。
 帰投しながら連絡を取り、後片付けを任せるのは専門の兄弟姉妹。幾ら自分の任務は完遂だとは言え、これは速やかに片付けられねば悪だろう。そんな風に韜晦しつつ、瑞科は一人歩き出す。今度は隠行を行いながら。そうは言ってもそれでも今は、彼女の体は火照った所で――中々に、その姿を隠し切れる物でも無くなっている。
 手応え自体は無いに等しく、数でその不足を補う遣り方。そうであっても任務は任務。神の敵を蹂躙するのは何だかんだで心地好い。その余韻を充分に味わいつつ、瑞科はまだ見ぬ任務に思いを馳せる。

 次の任務はどうなるだろう。倒すべき敵は強者か弱者か――今度こそ、少しは手応えのある敵であって欲しいと思うのは贅沢か。……いや、どちらでもいい。この高揚を味わえるのなら同じ事。どんな相手であっても瑞科に掛かれば等しく弱者。その圧倒的な力に敵う者など何処にも居ない。
 瑞科は心を躍らせる。馳せて見るのは未来予想図。どんな任務を前にしようと、瑞科は決して失敗しない。増してや敗北などは有り得ず、全て容易くこなすが絶対。
 それが白鳥瑞科の自負にして矜持。
 決して覆らぬ絶対の行く末である。

 事実、それに疑いを抱かれる事は無いだろう。その圧倒的な強さは自認しているだけでは無く客観的事実でもあり、彼女は「教会」内でも最強と呼ばれて久しい。今後も負ける事など有り得なく、その美しく艶やかな体に触れる事すら――どんな敵にも出来ないであろうと確信されている。





 ……いる、が。





 それに本当に、疑いは無い事なのだろうか。
 確信出来るのだろうか。
 絶対、と。
 決して覆らぬ絶対の行く末であると。
 言い切れるのだろうか。

 ……本当に?

 それは確かに、白鳥瑞科の華麗さも美しさも比類無い。それでいて誰より、強くも在る。男や人外すらも容易く圧倒。本来不利条件になるだろう女性である事実も、彼女にとっては何の障害にもならない。
 敗北など有り得ない。そう思われる程に圧倒的な実力を持ち。誰もが舌を巻く程のその聡明さで数多の兄弟姉妹を援け。数多の敵を当たり前の様に出し抜いて来た。
 その事実がある限り、誰であろうと彼女の苦戦や敗北など、全く予期する筈も無い。

 けれど。

 誰も疑わぬからこそ、その落とし穴は大きく、深い。
 それは慢心であると、誰も言えない。
 自信と傲慢は紙一重。

 ……例えどれ程優秀であったとしても、苦戦や敗北の可能性が有り得ないなどとは――それこそ有り得ない。

 いつ、思わぬ形で足許を掬われるかもわからない。
 幾ら聡明であっても、その視界の隅にすら入らぬ、思考の端にすら上らぬ事柄は確実に存在する。

 ……例えば、弱者の思いを想像し寄り添う事。

 それが必要などとは考えた事も無い。
 考えられない。

 ……ほらもう既に、瑞科に出来ない事が存在している。

 彼女に謙虚であれとは、誰も言えない――もし果敢にも誰かが言ったとしても、当の本人の耳に入らない。瑞科にすれば、ただの戯言にしか聞こえない。聞き入れる価値も無い、ただの悪としか。

 それで全てが通用して来た。
 全ては瑞科の実力が故。
 瑞科のする事に間違いは無い。
 彼女に任せれば問題は無い。
 だからこそ許される――彼女の個性として受け取られるその傲慢。
 もし、それがただの傲慢であると、誰かが指摘し、彼女もそれを受け取めるだけの心根があったなら。
 それは今以上に、彼女の強さ完璧さに、信頼が増す事だっただろうに。

 その可能性は、今のままではそれこそ決して、叶わない。
 なればこそ、暗い暗い落とし穴は依然としてその足許に。

 そう。
 これまで彼女が神の敵に思う様続けて来た様に。
 その逆に。

 ……彼女の方が、される側。

 いつか、完膚無きまでの敗北を喫し。
 サディスティックにボコボコに蹂躙されて。
 見る影も無く、痛々しく無様な姿を晒し。
 プライドと自信を圧し折られ。

 死より酷い末路を追うかもしれない。





 その可能性は、消えない。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 白鳥瑞科様にはいつも御世話になっております。
 今回は発注有難う御座いました。
 そしてまたも大変お待たせしております。

 あと流してしまって申し訳無く。ほぼ同内容を底にしたお任せを連続で同時にお預かりして、となると流石に当方の頭で別の物語を作るのは難しかったので、一件ずつで失礼させて頂きました。
 と言う訳で、今回のお届けの後でならまたお受け出来ますので。
 もしまだお気が向かれる事がありましたらお気軽にどうぞ。

 内容については如何だったでしょうか。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
 残り期間も少なくなってしまいましたが、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年06月29日

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