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『ドラマ「コールド・ロータス」シーズン2 第12話「自分のように隣人を愛せ」(終)』
柞原 典la3876


 某病院。
 ヴァージル(lz0103)は心電図モニターと柞原 典(la3876)の顔を数秒おきに見比べていた。
 手術は成功。容体は安定している。けれど意識が戻るのはいつになるやら……というのが医者の説明だった。ご家族は、と尋ねられて、
「連絡の取れる家族はいません」
 と答えられたのは、つい先日、典の過去について調べたばかりだったから。

 数日前のことだ。エルゴマンサー・グスターヴァス(lz0124)の襲撃に対応していた二人は、彼の撃退に成功した。戻るか、とヴァージルが警戒を解いたその時、後ろで人の動く気配と肉を穿つ音を聞いた。振り返った彼が見たものは、残党らしきマンティスと、その鎌が刺さった典の姿だった。立ち位置で庇われたのだと気付いた。

 マンティスは他のライセンサーの助力もあって撃破。典はすぐに救急車で近くの病院に運ばれた。ありとあらゆる管に繋がれた彼を見送ったヴァージルの手に残ったのは、血まみれになった典の制服ジャケットだけだった。

 右腕から伸びる点滴ルート。点滴筒の中で断続的に落ちる輸液の雫を見ながら、ヴァージルは首を横に振った。洗った制服を畳んで引き出しに入れておく。

 どうして庇ったりなんかしたんだろう。典にとって、ヴァージルは扱いやすいだけの人間であって、死んでも死ななくてもどっちでも良いはずだ。
 いや、典も別に人が死ぬのを見るのが好きと言うわけではないだろうから、ヴァージルを助けること自体はありえるのだが……。
(注意喚起すらなかった)
 ヴァージルが一番死なない手段を取った、という事になる。

 それがどう言うことなのか……考えようとしたまさにその時、スマートフォンが鳴った。

 グスターヴァスが再び襲撃してきたと言う。


 廃墟の中では外からの灯りに頼るしかなかった。遠くで別戦域の銃声や剣戟の音が聞こえる。
 他のライセンサーたちと分断された。グスターヴァスの狙いは自分だったようである。メイスが唸りを上げて執拗に振り下ろされたのを盾で受けた。
 傍に回復役がいてくれないことはわかっている。スキルは防御中心で組みつつ、攻撃の代償としての消耗が激しい相手の自滅を待つ作戦だ。こう言う時にゼルクナイトで良かったと思いつつ、それでもじわじわと消耗は来る。グスターヴァスはタフだった。
「己を愛するように隣人を愛しなさい。あなたもご存知かと思います」
「知ってるよ。耳にたこだ」
「彼は『自分の命の使い方は自分が決める』と仰いました」
 銃を持てば盾で受けられない。盾を持てば銃が撃てない。それでなくても焦燥していたヴァージルは、その言葉でいっそう苛々した。相手を睨み、
「何が言いたい」
「あなたの命の使い方について彼が考えたと言う事になりませんか。自らの命のことを考えるように」
「やめろよ」
 ヴァージルは腹が立った。
「典が他人の在り方に踏み込んでるみたいに言うなよ」
「あなたが求めたことではありませんか?」
「やめろって言ってるだろ!」

「俺の考えてること、勝手に決めんでほしいなぁ、ぐっさん」

 銃声。メイスに銃弾が当たる。二人は驚いて、音のした方を見た。病衣の上に制服ジャケットを着ただけの典が拳銃を持っている。銃口から硝煙が細く立ち上っていた。
「──典!?」
「やっぱ、銃やと兄さんには及ばんなぁ。頭狙ったんやけど」
 嘘か本当かわからない軽口を叩く。
「ど、どうしてここに……」
 ぽかん、として典の顔を見ると、相方は、
「病院禁煙やったから、煙草吸いに来た」
 けろりと答える。その時のグスターヴァスの目ときたら、ドブを大鍋で三日三晩煮込んだ様な異様な気迫を放っている。典はそれを見て「おお、怖い怖い」と笑った。
「……ご本人のお出ましですか」
「なんやぐっさん、俺がおったら言えんことでもあるんか」
「……」
 グスターヴァスは目を細めた。ヴァージルを見て、
「……今日の所はこれくらいにしておいてあげましょう」
「……こっちの台詞だよこの野郎」
 当然、深追いする気にはなれない。グスターヴァスが去って行くと、ヴァージルは典を振り返った。
「痛……」
 典がしゃがみ込む。ヴァージルは慌てて駆け寄った。顔色が悪い。それでなくても白い顔が更に白くなっていた。額に汗が浮いている。傷が開いたようで、病衣に血が滲んでいた。
「大丈夫か? ていうか、お前……」
 ヴァージルは救急治療セットを開きながらその顔を見た。
「なんで俺のこと庇ったの? あれ庇ったんだよな?」
「庇ったみたいやねぇ」
 典は緩い微笑みを浮かべて首を傾げた。
「それが、分からんのやわ。反射的に体が動いとったみたいで、よう覚えてへんのよね」
 気が付いたら病院やったわ、と典は言った。ごまかしているわけではなくて、本当に本人もわからないらしい。ヴァージルは酢を飲まされたような気分になった。彼の命と自分の命を天秤に掛けられるより、もっとタチが悪い気がしている。
 考えてることを勝手に決めるな、と典はグスターヴァスに抗議したが……そもそも考えてすらいなかったようだ。
「俺だ。救急車呼んでくれ。あと、典が入院してた病院に連絡を。脱走で騒ぎになってる筈だ。ここにいる」
 簡単な手当を終えてから、インカムで伝達する。典に背中を向けてしゃがむ。
「戻るぞ。医者と看護師に叱られろ。あと脱走してねぇか毎日見に行くからな」
「なんや色気ないなぁ」
 典は笑いながらそこに張り付いた。頬を肩に乗せて、首に腕を回す。
「兄さん、シールドぼろっぼろやん……」
「え? ああ……」
 そう言えば、徐々に削られてダメージ総計は結構なことになっていた。そんなことを思い出していると、目の前に突然白いものが降ってきて仰天する。鉢羅の白い花びらだ。攻撃する相手がいないから、青蓮のものは混ざっていない。
「……サービス、やで……」
「ありがとう」
 ヴァージルはゆっくり歩きながら降ってくる花びらを見た。
「綺麗だな」
 早くも救急車が駆けつけている。規制線の向こう側。ストレッチャーを押した救急隊が何か言いながら向かってくる。
 典はヴァージルの肩口に顔を埋めた。シールドなどではなく、肉体の方が根本的に回復しないまま通した無茶。疲れ切って、彼はそのまま眠りに落ちる。
 他人の前で眠るときはいつも気が抜けないのか、やや固い顔で寝ている典だが、今の彼の寝顔は一切の無防備で。ストレッチャーに乗せられたその寝顔を見て、ヴァージルは意外な気持ちになる。もっとも、無理を押した後なのだから、そもそも警戒の気力など残っていないのだろうと思ったけれど。
 一緒に乗り込んだヴァージルは、座席に座ると、投げ出された手を取って両手で握った。

 自らのように愛すべき隣人の手を。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
運び方どうするかでだいぶ悩んだんですけど、シーズン2はまだ実務だなと思ったのと、背中の方がひっついてる感じがして良いかな……と思ってやりました。
横抱きはファンフィクがやってくれるので……笑。
真面目に解説すると全然字数足りないんですが、「区切りの回だなぁ」というのはすごく感じました。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年06月29日

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