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『秘密のはじまり』
矢花 すみれla3882)&ニグレットla3439

「ここだ」

 ニグレット(la3239)に案内され矢花 すみれ(la3882)がたどり着いたのは様々なドレスがかけられた衣裳部屋の一角だった。

 色とりどりの様々なドレスにほぅとすみれから息が洩れる。

「時にすみれ。踊るなら装束が必要だろう。今日はこの中から1着着てみないか?」

「この中から?」

 そう言われても、様々な形、様々な色のドレスはどれも美しく目移りしてしまう。

「どうだ、この装束など」

 迷うようにドレスを手に取っていたすみれが見せられたのは、上品ながらも艶めきを感じさせる1着のウェディングドレス。

 ウェディングドレスとしてよく知られた白や、淡い色使いのそれとは違い、薔薇モチーフの深い紫。

 自分ではけして選ばないだろうそれに何故かすみれの心は高鳴った。

 悪魔を自称するこの女性の持つドレスだ。

 彼女の言葉を信じるのなら、これは悪魔の衣装。

 それ故にこんなにも惹かれるのだろうか、そんなことを思わなかったわけではない。

「……着てみようかな」

 だから、自分からこぼれた言葉にすみれは少なからず動揺した。

「いや、ニグレットさんがそう言うならって意味ね。私が興味あるとかそういうのはないから」

 取り繕うように口にした言葉を気にする様子もなくニグレットは微笑むと、衣装室の横にあるフィッティングルームへとすみれを誘った。

  ***

「どうかな」

 ドレスを纏わせ、姿見の前にすみれを立たせるニグレット。

「凄い綺麗……」

 深い紫は色の白いすみれの肌に映え、布地に縫い込まれたラメが薔薇に煌めく露のようにきらきらと輝いている。

「君ももう大人なのだし、相応しい装いでもしてみようか」

「相応しい装い?」

「ああ。ここに座って、目を閉じて」

 ドレス姿の彼女を椅子に座らせ、ニグレットはすみれの絹のような肌に触れていく。

(すみれ、本当にきみは美しいよ……)

 すみれはこのまま育てばその名の通り、愛らしくも瑞々しいまさにすみれのような女性になるだろうとニグレットは思っている。

 だが、それと同時に華麗ながらもエレガントな大輪の薔薇になる蕾を彼女は持っている。

 それを花咲かせたい。

 だから……

「もういいよ。目を開けて」

「……これが……私……?」

 言われるままに瞳を開けたすみれは言葉を失った。

メイクを施され、髪型を変えられた彼女は別人のようだ。

 勿論、すみれ本人の面影はある。

 だが、彼女がいつも纏う元気で可愛らしい雰囲気はどこにもなく、目の前の鏡に映るのは上品で落ち着いた、それでいて艶っぽさもある大人の女性だったのだ。

 彼女をよく知る人物でも同一人物と分かるのは難しいだろう。

(綺麗……。私でもこんな風になるんだ……)

 こういうと変かもしれないが、すみれは自分を気に入っている。

 バレエで鍛えたしなやかな身体も、真面目で快活と周りから評される自分の性格も。

 自分は『可愛い』部類の者だろうことも自覚している。

 勿論、そんな自分も好きではある、だが、だからと言って美しい大人の女性への憧れがないと言えば嘘だ。

 思わぬ形で目の前に現れた憧れの姿につい見とれてしまうすみれ。

 そっと鏡に触れれば、目の前の女性もまた自分の指に触れる。

 鏡だからこそ当たり前のそれでさえドキドキしてしまう。

(これも私だってわかってるのに……)

 知らず知らずのうちに漏れる甘い吐息にニグレットがクスリとほほ笑んだ。

「気に入ったかい?」

「えっ。あぁ、うん。でも、本当に私なのかなって……」

 戸惑いながらも鏡の中の自分に目が離せずにいるすみれの肩に手を置きニグレットは微笑んだ。

「これは紛れもなくきみさ。いつものきみも素敵だが、今日のきみは一段と素敵だ。ほらよく見てごらん。瞳は黒曜石のように輝いているだろ」

 そう囁いてニグレットはすみれの美しさを説いていく。

 ニグレットの言葉のままに鏡の中の女性を見ていると、本当の自分はこんな風なのではないかと錯覚してしまいそうだとすみれは思った。

「どうだろう、きみの美しさを私に預けてみないか?」

「美しさを……預ける……?」

 意図は読めないが、それもいいのではないかとすみれは思いながらも迷う。

(ここで頷いてしまったら私はどうなるんだろう)

「なんなら契約の代償にしようか」

『契約』

 その言葉にすみれの心は揺さぶられる。

 すみれとニグレットはパトロン契約を結んでいる。

 その契約があるからこそ、すみれはここニグレットの屋敷に住んでいるのだ。

 学費も生活費も彼女の生活にかかわる金は全てニグレットが支払い、バレエのアドバイスをし、彼女が求める知識も与えられている。

 そのことには感謝しているし、彼女の知識やアドバイスは尊敬できるレベルだとすみれは思っている。

 ニグレットの真面目で話の通じるところは好ましいと思っているし、洒脱で洗練された振る舞いと話しぶりは麗しいとも感じている。

(そう言われちゃしょうがないよね)

 パトロンの契約に関し、今まで何も見返りを求めてこなかった彼女がそう言っている。

「わかったわ」

  ***

「契約は成立だ。では、その証拠としてこれを」

 そう言って、すみれの左小指に指輪がはめられる。

「これは?」

 こんなものなくても、と続けるすみれに、祝いの品のようなものさ、とニグレットは微笑った。

「その指に指輪をするのは変化と機会の象徴なんだ。それに、自分のところにやってきた幸せを逃げていくのを防ぐ効果もあるといわれている。私はこれからもっとすみれに幸せになってほしいからね」

「そう……」

 お守りのようなものかな、そう思いながらすみれはじっと自分の指に輝く指輪を見つめる。

「それから、その姿の時は、その姿に相応しい振る舞いをしてもらうよ」

「この姿に相応しい振る舞い?」

「簡単さ、きみが心で思っている憧れの女性としてふるまってくれれば良い。そうだな、なりきれるようにその姿の時のきみに名前もあげよう。ローズブーケ、それがきみの名だ。ブーケとでも名乗るがいいさ」

「ローズ……ブーケ……」

(バラの花束みたいな今の自分にぴったり)

 咀嚼し飲み込むように数度その名前を口にする。

 バラの名を関するニグレットとの繋がりを感じさせ、人の名前ではないようなその名前を口にすると自分も同じ放浪者……いや、悪魔にでもなったような気分になった。

「色とりどりのバラの花束に相応しく、紫以外の色も体験させてあげよう」

 普段とは全く違う衣装、姿、名前、振る舞い……。

 誰にも秘密の自分を持ったようで、今まで感じたことのない胸の高鳴りをすみれは確かに感じながら、すみれ、いやブーケは頷き、艶やかに微笑んだ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 la3882 / 矢花 すみれ / 女性 / 19歳(外見) / 変化の予感 】

【 la3439 / ニグレット / 女性 / 26歳(外見) / 変化への誘い 】
イベントノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年07月02日

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