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『きっかけは突然に』
日下 葵葉la3792)&黄昏 空la0099

 重さ、バランス、手触り。日下 葵葉(la3792)はシミュレーターが再現した神罰銃「バニッシュメント」を握り込み、そのリアリティにうなずいた。しかし同時に、そうだからこそ思ってしまう。
 ここまで再現する必要、ある?
 今、彼女はビルの玄関口の際から内を窺っており、彼女が内部確認のため突き出したミラーは10秒と保たず、奥に居並んだレールワーム群の“豪雨”で蒸発させられていた。
 もっともミラー健在時にも、粒子ビームで削られたビル壁のコンクリが煙幕となり、葵葉になにも見せてはくれなかったのだが。
 脇を行き過ぎるビームから視線を切って、彼女は分厚い壁へ背を預けた。10秒でいいから時間をくれる? 次の一手、考えるから。
 心を据える中、今日このシミュレーションに臨んだ理由を思い出す。そう、ここへ来たのは計るためだ。
「銃とスキル、それを尽くす私は、果たして、戦局を覆すに、足るだけの、ものか」
 と、うそぶいた彼女の向こう側――逆の玄関口の脇にある黄昏 空(la0099)が、通信で言葉を投げかけてきた。
『アオは独りじゃないから』

 葵葉の返事は『わかってる』、無駄なく事務的でもない、状況的にはもっともふさわしいひと言だった。
 まあ、葵葉はすごく空気読むからね。いちばんいい返事を選んでくるのはあたりまえなんだけど――
 深く吸い込んだ息を腹の底へ押し詰め、空は壁に預けていた背を押し離す。一気に立ち上がり、ストライクシールドが腕にきちんと固定されているかを確かめて。
 ――全面的に頼ってもらえないのは、オレがまだ弱いからだ。
 玄関口から内へ突入した空。ロードリーオーラを燃え立たせた体は、当然のごとくレールワームの視線とビームを引きつけるが、それこそは彼の思い通りである。
 アリーガードで葵葉を狙うビームの射線へ割って入り、葉を食いしばって衝撃に耐えた。その体へ突き立ったビーム、実に46。耐え抜けたのはイマジナリードライブにより、盾として具現化された決意の固さあればこそ。
「っ、はぁ!」
 人の体はダメージに対抗すべく硬直するようできている。つまり、その硬直時間をどれだけ短くできるかが勝負。なればこそ空は、自らを解(ほど)くために詰めていた息を押し出し、噛み締めた奥歯を無理矢理引き剥がしたのだ。そしてさらに。
「行くよ!」
 声音を紡ぐことでさらに口を引き開け、新たな空気を吸い込みつつ、前へ転がった。敵の視線を切るためであり、さらに引きつけるためでもあり、そして。
 支援射撃という型から踏み出し行かんとする葵葉の“路”を空けるために。


「一旦止めます」
 シミュレーターから出力した映像データをプロジェクターへ映していた係員――アルフレッド(lz0011)が言い、再生を止めた。
「……聞いてなかった。思考まで、ナレーションつく、なんて」
 フードの奥からじんわり抗議する葵葉。今ひとつどれくらい怒っているのかわかりづらいのだが、持ち上げた両手をゆらゆらさせているところを見ると、そこそこな感じなのかもしれない。
「シミュレーターでは思考もイマジナリードライブに乗ってしまうので……カットもできますけれど?」
 答えようとした葵葉をほんの少し先回り、空が「そのままでいいよ」。
「お互いの考えてることがわかれば、意識とか認識のズレが確認できるし、ほんとにまずい内容はカットしてくれるだろうし――してくれますよね?」
 そう言われてしまうと、葵葉だって止められない。実際ツーマンセルを組んでいる同士、思考の方向性は合わせておきたかったし、止めてしまえばやましいことを考えているのだと宣言することになってしまう。
「止めなくて、いいから。一気に、終わらせて」


 空が、拓いてくれた。
 驚かない。あなたが絶対、そうしてくれるって、わかってた、から。
 胸の内で唱えた葵葉は口を開き。
「集中、深化」
 そのひと言で日下 葵葉というスイッチが切れる。空(くう)、あるいは空(から)となった彼女は、“それ”を為すばかりのものとなる。
 世界は、動く。――私が、のぞまなくとも。
 攻撃と命中を引き上げる代わり、回避と移動を引き下げる起動式を発動させた彼女は次いで、無造作に踏み出した。
 私は、動く。――世界を、置き去りにして。
 ……1歩は機動術で加速した10歩に置き去られ、10歩もまた50歩に置き去られていく。命中を半分にまで落とす代償に移動を大きく高める機動術の発動である。
 葵葉の突撃に気づいたレールワームどもがあわてて振り向くが、ビームの再チャージにはまだ数秒かかる。どうしようもなかった。
 その間に群れの横合いへ回り込む葵葉。敵がどこへ逃げようと意味はない。起動式と機動術、相反するスキルを掛け合わせることで両者の弱点を埋め、高速移動からのピンポイントショットを成した“神速の強襲”からは。
 横腹を穿たれて悶絶するレールワーム。その後頭部をシールドから展開した刃で突き抜いた空が、その身を割り込ませて敵の戦列をかき乱した。
 ただ、彼は能力的な分類では攻撃型で、防御も物理寄り。故にビームとは噛み合わせが悪い。
 だからって退く? ――ありえない。だってオレは、覚悟決めてここにいるんだから!
 苦しくとも痛くとも辛くとも、歯を食いしばって耐え、その歯を押し広げて前へ踏み出し続けてきた。考えること、そして人との距離感を測るのが苦手で、つい勢い任せで……ということもままやらかすのだが、それではだめだと今度こそ思い始めてもいて。
 自分にそれを自覚させてくれたのは、戦友と呼べる相手――葵葉だ。
 視界に映っていなくとも、今葵葉がどこにいてなにをしかけようとしているかがわかるし、逆もまた然りのはず。そう信じられるからこそ、空は自分の役割に集中できるのだ。
 うん。この縁だけはノリとか勢いで切っちゃだめなんだ。よく考えて大事に守って、保つ。
 シールドの面をななめに傾げてビームを流し、合金が焦げるキンとした金臭さのただ中、盾刃を八相に構え、
「黄昏流武神術――武神一閃」
 蒼光まといし刃をふわり、斬り下ろした。
 とまどうように空を見たレールワームの首がずるりとずれ落ちる。斬るべき一点を見定め、なぞるべき軌跡に刃をはしらせる……ただそれだけの神業を成した空は、踏み出しかけた足を一度止めて方向転換。葵葉の前へ跳び出した。
 背を焦がすビームの熱に顰んだ顔を押し下げるのは、葵葉に欠片ほどの不安も与えぬがため。
「アオ、行って!」
 ちゃんと考えて動くよ。アオが次に踏み込む場所と狙う箇所。あの術と式の組み合わせ、落ちた回避力だけはカバーできないから。
 襲い来るレールワームどもにシールド越し、不敵な笑みを向ける空。
 オレは盾だ。でも、盾の役目は守るだけじゃないんだよ。

 空が敵群の目をまとめて奪ったことで、葵葉は数秒の自由を得た。
 それで、十二分。
 壁へ横蹴りを打ち込んだ反動に乗り、葵葉は上体を倒し込んで駆ける。本当に倒れ込む寸前で体勢を保つには、それこそ速度が必要だ。
 加速して、加速して、加速して――床へ突いた肘を支点に宙返り、腹筋のバネを使って跳ね上がる。
 見えた。
 宙を回転する中で見たものは、空へビームを吐きつけることに集中するレールワームどもの背。
 しかし彼女は弾を撃ち込むことなく床へ転がった。一転、二転、三転。四転しきる寸前――ここ。
 果たして撃ち出されたレールガンが横に並んだレールワームを串刺し、息の根を止めた。
 先の目測でしっかりイメージができていたからこそ。照準のつけなおしは必要なかった。とはいえ一瞬先に状況がまるで別のほうへとひっくり返っているのが戦場だ。それを弁えていてなおこんな賭けに出られるのは――下がった回避のツケを丸投げてしまえるのは、相棒が空という少年であればこそ。
 代償は、最高の戦果を、彼の奮迅に、捧げる、こと。
「このまま押し上げるよ! アオ、サポートよろしく!」
 格闘術を応用しているのだろう盾捌きと足捌きで、空は重心を据えたまま敵を押し退け、踏み込んでいく。
「了解」
 平らかに答えておいて、葵葉は空のバックアップについた。
 そしてレールワームが全滅するまでの14ターン、葵葉と空はスイッチしながら全力で戦い抜くのだ。


「いいバディですね」
 真っ先に感想を述べたのはアルフレッドだった。
 不利な戦局を見切り、それを覆せる一点へ冷めた弾頭を撃ち込んでみせる葵葉と、気を抜けばすぐ崩壊するだろう最前線の楔となって敵を押し止め、斬り払う空。
 互いが互いを信じて支え、さらには互いの尽力を無駄にせぬため自分を尽くすことのできるバディは、まさに黄金よりも価値あるものだ。
「戦術的成功度は後日レポートでご報告しますが、おふたりの連携の起点が日下さんではなく、黄昏さんであるのは興味深いところですね」
 ピックアップした映像を元に言うアルフレッドへ、葵葉はいつになく、しみじみと言葉を返す。
「初めて依頼で会ったとき、ゼルクナイト、かと思った」
 空のメインクラスはスピリットウォーリアで、防御や回避は犠牲になる能力だ。だというのに空は仲間を、そして葵葉を背にかばい、文字通りに命を削って護り抜いた。
「そのとき、から、私の“前”と“先”は、彼に預けた」
 これはイマジナリードライブのナレーションがつかない今だからこそ思えるのだが――横に在る歳下の少年を、葵葉は少なからず意識していた。勢い任せの奥に繊細な濃やかさを潜め、自分の問題だけでなく、他人の問題まで抱え込み、背負い込もうとする、強く儚い有り様を。
「アオと会ったころのオレはさすがに無理してたかな、とは思うんだけど……実は今も思ってるよ。アオに頼って無茶しすぎてるって」
 空は決まり悪げに頭を掻く。
 オレは最初からアオがいてくれるからこそだって思ってたけど、アオも「オレだからこそ丸投げできる」って思ってくれてるんだな。
 どことない不安をずっと抱いていたのだ。自分は葵葉をうまく支えられてるのか? 結果、自分が思う以上に葵葉と彼は支え合っていて、預け合っていて。
 いいよな、こういう関係。
 それだけじゃなくて、そう思える相手がアオだってことが、オレはたまらなくうれしいんだ。思ってること知られたのは、さすがに恥ずかしいんだけど。それもアオ相手だからいいかって――それにアオもきっと、同じように思ってくれてる気がするし。
 なにやら噛み締めているらしい空へ苦笑を送り、葵葉は息をつく。
 流れ的に言えば、この後はご飯でも食べながら感想戦と反省会になるだろう。憎からず思っている相手に手料理で女子力アピールするチャンスでもあるし。
「ところで、あなた……」
 と、アルフレッドへ向けられた視線、その重圧によろけかけ、アルフレッドはなんとか踏みとどまった、「なんっ――で、しょう?」。
「……料理、できる?」
「少しだけですが。うちはチームリーダーが料理担当ですので」
 あのアフロね。頭の隅に焼きつけ、強くうなずく。
「なあ、アオ。なにがどうなって」
「なにも、どうも、してない」
 ああ、言い含められるって、ゆっくり時間かけられるほうが怖いんだなぁ。空は挙げた手をそっと下げるよりなかった。こういうときは空気を読んで行動すべきなのだが、そもそもこの場を支配する空気の正体がなんなのかわからない。
 難しいな、空気読むって……。
 一方、葵葉は必死で無尽に沸く不安と戦っている。
 女子力アピールチャンスなど、最初からないのだ。なぜなら彼女は料理ができな――しないから。コンロで、お湯を沸かすのは、得意よ? そのお湯で、レトルトパウチ、あたためるのも、ね。
 うん、悲しくなってきた。
 ちなみに今は6月で、ジューンブライド真っ盛り。空とはまだそんなことを語り合える関係ではなかったが、これから先、同じ道を並び進んでいくつもりなら、家庭料理くらいはひと通り身につけておかなければ。
 依頼も、人生も、八割、準備で決まる。
 ぐっと思い定め、葵葉は切り出した。
「これは、依頼。アフロに紹介して」
 思い詰めたあげく天獄、あるいは獄楽へ踏み込むことを決めた葵葉と、どうやらそこそこ以上に巻き込まれることとなるのだろう姫ポジションの空。ふたりの新たな物語が、ここに幕を開ける(かもしれない)。


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2020年07月03日

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