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『時間を経験を感情を、どれだけ重ねても』
フューリト・クローバーka7146)&セシア・クローバーka7248

 小さな音を見つけ出そうと、温かな場所に触れる。
 耳を当てて、目を閉じて、直接聞きたいと思うけれど、きっと気がはやくて。
 名残惜し気にほんの少しだけ離れた後は、愛用の品を手にもう一度。
 そこに居るのはわかっているから、隠れてないで、出ておいで。

「リト、それは違うと思う」
 聴診器を手ににじり寄るフューリト・クローバー(ka7146)にセシア・クローバー(ka7248)がぴしゃりと一言。
 言葉にはするものの身を引くようなことはしていないセシアを前に、反射的に止まるのはフューリトの方だ。
 眠気の勝っているときは昔から聞き慣れた姉の声であっても効果はない、けれど今のように起きているときならば正しく効果が出ているようで。
「殺菌消毒はしてあるよ?」
 その証拠にと自分の頬にあてて見せるフューリト。獣医として衛生管理の概念をしっかりと身に着けている。使用器具のメンテナンス、使用時の処理は一番初めに徹底的に習うもののひとつなのだから、忘れるはずもない。
「なにより使い慣れているからねー」
 壊れても同じメーカーのものを買い直すくらいで、むしろ他の器具だと違和感が先に来てしまうのは少し気にしている。道具が手元にない時に何もできない、なんて事態はよろしくないのだ。世界を飛び回る生活の為に、もっと臨機応変に動けなければ、と思うことはまだまだ多いのだけれど。
(慣れていけばいいだけだよね)
 悩み過ぎないのも続けるこつ、だなんて自覚はなくても知っている。

「そこは心配していないのだが」
 普段から動物の患者に使用している器具に忌避感はないと添えるセシア。
(自分でも言っていただろうに、人間だって動物の中の一部分だと)
 だから動物が診れるなら人間を診れることになんの疑いも持っていない。今までだってこちらに戻ってくる度に家族や近所の者達の体調に気を使っていた様子も見せていたのだから、むしろ信頼している。家族としてのひいき目でもなんでもなく、妹は医者としてよくやっていると思う。
(言葉が足りなかったか)
 不思議そうな妹に謝罪の気持ちを向けてから、再び口を開く。
「道具も知識も経験も、信頼している。だけど姉の私に対して、警戒されているかのような態度はどうなんだ」
 気になったのは態度の方だ。
「私は妹から逃げないのだから、この子だって逃げないだろう」
 そう言って自らの膨らみ始めた腹を撫でる手は優しさに溢れている。全身を預けられるソファーのおかげで変な緊張もなかったというのに、フューリトのこちらを、つまりまだ見ぬ我が子の居場所を見る眼つきが、逃がすまいと鋭さを伴っていたので気になったというのが正しかった。

「そーだった、おねーちゃんの子なんだもんね」
「リトの甥か姪か、まではまだ分からないけどな」
「うん、きっとどっちでも、どっちに似ても可愛いと思うんだけどね」
 あのおにーさんの子でもあるしね、との声は姉だけでなく義兄の容貌も共に褒めているし、義兄の人当たりの良さやそれによる顔の広さも褒めている。
「そうかー……血が繋がってるなら、大丈夫かな?」
「何を今更当たり前のことを」
「子供って、まったく予想がつかないからねー」
「……」
「無事に生まれたって安心しても、目が離せない何てこと、何度も見たし聞いてきたからかな」
 セシアの視線の変化に、フューリトはまだ気づかない。
「血が繋がってるってことは、僕に似たところもあるかもしれないし。予想出来るところもあるかなって思ったらさー……って、あれ? おねーちゃん?」
「なんだ?」
「どうして笑ってるけど笑ってな……あ、ううん、なんでもな」
「血が繋がっていても、予想が出来るなんて思わないことだな」
「待ってー、今そこすっごく聞きたくない気分なんだけど、おねーちゃーん?」
「警戒していても予想外のことが起きるなんて当たり前で、それこそ序の口と言ってもいいだろう」
「えっと……おねーちゃん……?」
 怒っている訳ではないのだと、その声音で分かるのだが。フューリトとしては穏やかな気分で聞いて居られない。
「心配して方々を捜し回った時間も手間も全て無駄にして、健康そのものの顔で眠りこけていただけ、何て数え切れないほどあったのだが」
「うっ」
「全く同じ親から生まれたのだから予想出来ない筈はないと捜索を続けて、結果として子守よりも捜査技術が高まった、なんて。そんな指摘を受けた私も居るわけだしな」
「それは……うん、説得力があるよねー」

「……ふ」
 思わず零れた笑い声に、フューリトの視線が驚きで丸くなる。
「大丈夫だよ、リト」
 何の心配もいらない、との想いは言葉にしなくても伝わっているようだ。
「私が生む子なのだから、リトになつかないわけがない。だから隠れるようなこともないだろう」
 セシアは家族を愛している。
 だから趣味と仕事を同じにして、それ以外の能力はどこか頼りなげなところのある家族のマネージメントを仕事にしている。仕事にうちこむ様子は輝いて見えるし、そうやって楽しみ、時に苦労しながらも完成した創作物はどれもとても素晴らしく誇らしい。家族が心おきなく過ごせるように手伝う自分の仕事に、セシアは誇りを持っている。
 生み育ててくれた、共に笑い育った家族だけでなく、恋をして、新しい家族を作る相手として共に歩むことを決めて今だって日々愛を増す夫も、これから生まれる予定の子も、夫の家族だって勿論セシアの家族だ。愛しく思う家族がどれだけ増えても、仕事に充実感こそあれど苦に思うことはないのだと、年月を重ねるごとに実感している。
 そんなセシアに似れば間違いなくフューリトを愛すだろう。それにセシアの夫は家族に向ける感情が、愛の形がとても近しい理想的な夫だ。彼に似るところが大きくたって、なんの不安があるはずもない。
「ああ、少し待ってくれ。そこは少し違う気がする」
 安心したのか、改めてすぐ横に腰を下ろして。聴診器を向けてくるフューリトの腕に軽く手を添えて、誘導する。
「今はここが、特等席だと思う」
 繋がっているからこそわかる、としか言いようがないのだけれど。

 どこか懐かしく感じるのは、どれほど前の記憶を揺さぶられているのだろう。
 導かれるままにそっと当てて、命の音を聞き逃すまいと目を閉じる。
 母の音よりも、きっとこの姉の音を多く聞いていたような気がする。
 だから音の海を泳ぐ、小さな音にも、すぐに気付けた。

「……本当だねー……」
 セシアの示す通りの場所から拾い上げた、小さな鼓動を覚えようとじっと耳を澄ませていた。
(これなら、大丈夫)
 その元気な様子に安堵して、万が一の変化に気付けるようにとしっかり脳裏に刻み込む。
(しっかりさんかな、のんびりさんかな)
 どんな性格をしているのか、今はまだ眠って、泳いで、大きくなるのが仕事の小さな命を思う。
 ずっと傍で見届けることはできない性分だし、そんな仕事を夢にして、今なお駆け抜けているフューリトだ。きっと会う度に大きくなるまだ見ぬ子供を想像しては、つい笑みがこぼれる。
 どんな子でも、この姉なら変わりなく育てるのだろうなとの確信ができた。こうして目の当たりにするまではどこか大変なもののように感じていたけれど。
「そっか。おねーちゃんがおかーさん、って……しっくりきた」
 話して、整理してみればどうということはない。セシアは昔から人の世話をしていることが多かった。中でも一番手間をかけたのがきっと自分なのだろう、という事実とも向き合ってしまったけれど。それは今大事な所ではない。
(母親になる予行練習、みたいになっていたのかな)
 結果として良かったことになるのだろうけれど、流石にそれを口にして胸を張るなんてことはしない。
 各地を巡って、動物の、勿論人のも。親子の形を色々と見て来た。学んだだけでは知らなかったこと、発見は多かった。
 だから育児だとか、母親になることがどれだけ大変な事かを知ったつもりだったし、姉が更に忙しくなることに心配もしていたのだけれど。
「うん、大丈夫だね」
 姉は、フューリトが思っていたよりずっと強くて、頼もしい人だ。
(おにーさんの前では、違ったりするのかもしれないけれどー?)
 にひひ、と笑ってしまったのがいけなかっただろうか。フューリトはセシアに小突かれてしまった。

「まったく、何を考えているのやら」
「秘密だよ?」
「無理に聞き出そうとまでは思わないさ」
「怒ったりしたら胎教によくないもんねー」
「おや、怒らせるようなことを考えていたのか?」
「そうじゃないけど。怒るってのはひとつの例かな。嬉しいとか、楽しいとかのいい感情なら大丈夫だと思うけど。気持ちを高ぶらせるのって、よくないと思う」
「それは医療的見地からかな、リト先生?」
「動物達の出産に立ち会ったりもするし、生まれて間もない仔を診ることもあるからね、経験測、かも?」
「……参考までに。もしそういった、アクシデントに近い状況になったらどう対処しているんだ?」
「落ち着く香りを嗅がせるとか、何か口にかませて、暴れたりとか怪我するのを防止する……とかかな」
 そんなときにサポートしてくれるのが、樹医として共に巡っている義妹だとのことで。セシアがなるほどと頷く。
「上手くやっているんだな」
「もっちろんだよ! 動物と植物、自然にとって欠かせない、むしろ当たり前の組み合わせだからね」
 互いが影響しあって怪我や病気に至るなんて例は少なくないし、なにより先の話のように協力がしやすい。

「おねーちゃんがさ、恋人を連れて来たって時は驚きが強かったけど」
「急な話……には見えた、か」
 セシアにとっても、関係の始まりは穏やかと言えるものではなかった。しかし突然の申し出ではあったものの、その後。お互いへの想いは穏やかに育めたので、こうしてフューリトの見解を聞いて初めて“そういえば”となる。
(それだけ、今の関係が、家族の形が。私にとって当たり前になっているということか)
 とても、幸せな今を手に入れていると思う。改めて、我が子を撫でるように腹を撫でている間にも、フューリトの声が続いている。
「今はその時以上に、おにーさんに感謝してるんだよー。おねーちゃんが幸せになるのは勿論だけど。僕の夢に素敵なパートナーが出来たんだからね」
「私にとっても有難い存在だからな……何よりも、リトがひとりでふらふらしないという安心感で」
 それまでだってハンターとしてやっていたので不安とまではいかないが、世界を渡り学びに行くと言われたあの時、ついていく選択肢を考えたこともあるセシアである。
「……改めて、感謝しないといけないな」
「おねーちゃん、なんだか僕に失礼じゃない?」
「これまでの事を思うと、な」
 一度途切れさせていた話を蒸し返すように様子を伺う。
「……うっ」
「こうして顔を見せに戻ってくるおかげで、不安はないよ。ただ、心配を止めることはできない」
「ちゃんと手紙も書くよ?」
「そうだな、もう少し増やしてくれてもいいんだぞ?」
「それは確約できないかなあ。いつも予定が決まっているわけではないし」
「ああ、知っている」
 ただ、そう伝えておくだけでもしたいと思っただけだ。
 他の家族とは違って、どこかひとところに留まらない仕事をするのだろうと昔から予感はあった。だからはっきりとフューリトの言葉で告げられた時は、遂にその時が来たのだと思ったのだ。
 家から居なくなるのは妹だけだった。
 ハンターになったのだって妹が先だった。
 自分はいつも探したり、連れ戻したり。とにかく追いかける側だった。
 けれどずっと同じ形ではいられないのだと、自分も、妹も知って、理解できるような大人になった。
(けれど、家族であることは。これから先も変わらない)

「それにしても、赤ちゃんの居場所がわかるって凄いよね」
 心音をすぐに捉えることができた、と改めて驚く声にセシアが視線を向ければ、何やら考える様子のフューリト。
「繋がっているからだとは思うが」
「おかあさんパワーって奴なのかなー。それ、家族パワーにも利用できたらいいのにね!」
「家族パワー……?」
「そしたら僕の居場所がすぐに分かって、おねーちゃんにすっごく便利だし!」
「ふむ……それは、確かに昔から欲しかったな……」
「えっ、本気にしちゃってる!?」
「冗談だ」
「おねーちゃんってばー!」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【フューリト・クローバー/女/16歳/聖医導士/変わらずに「約束」を抱く】
【セシア・クローバー/女/19歳/魔符術師/いつだって「幸運」を願う】
おまかせノベル -
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2020年07月06日

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