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『マリッジブルーに浸る暇もなく吹き抜けた風の舞台裏』
ユリアン・クレティエka1664

「これなんてどうだろう?」
 キラキラしい衣装を体に当てられるだけでなく、そのまま支えて持っていてと続いている。
「それくらいはいいけど」
 咄嗟に受け取ったはいいものの、ユリアン・クレティエ(ka1664)には理由が全くわからない。
(俺の身体に合わせてるってことは、着るってことで……あれ、でもなんで!?)
 急にシャイネ・エルフハイム(kz0010)が顔を見せに来たと思ったら、そのままピースホライズンに連れて来られた。そして今この状況である。
「シャンゼリゼならまだわかるんだけど」
 ここ最近は打ちあわせの為に何度か通っている。合同結婚式の手伝いで要領がわかっているし、そう苦労もないと思っていたのだけれど。打ちあわせの初回からそれらすべてを裏切られた。
 あれは合同だからこそ大枠が決められていただけで、本来の形で一組ずつ行うならば全てを一から相談し、丁寧に作り上げるものなのだ。どこまでも拘りぬいて最高の思い出となる式を。そう言われて簡単に済ませるような性分でもない。
 何より作り手でもある彼女の目が輝いた瞬間を見てしまったユリアンだ、後悔のないものにするために出来る限りのことをしようと、心も決めた。
「ふふ、結婚式の準備は順調のようだね♪」
 呟きへの返事に顔をあげれば、シャイネが別の衣装を手に戻ってきたところだった。
「こっちも更に力が入るというものだね?」
 そのまま、ユリアンが持つ衣装と見比べて楽しそうにしている。少なくとも、この衣装選びは自分の結婚式に関係があるらしいということはわかった。
「シャイネさん、まさかとは思うけど」
 招待状を渡しに行った際、一曲詩ってもらえないかと頼んだことは記憶に新しい。
「うん、何かな?」
 シャイネがユリアンの体格にあう衣装を探しているのは明白で、そのシャイネの手には、サイズ違いで色違いの衣装も抱えられている。それはどう考えてもシャイネのサイズとしか思えない。
 わからないままでいたかった。しかし、現状が目を逸らすことを許してくれない。
「俺も、一緒に歌うの……?」
 恐る恐る事実確認を行えば。
「大正解♪」
 満面の笑みが返ってきた。
「最近はね? つまりここ数年はって意味なのだけど」
 時間間隔のずれを補足する言葉が付いてくるあたりに配慮が伺える。
「君も知っての通り、僕が外で詩うのは二人分だ。だからね、新しい詩をひとつ、二人で作ろうという話にしてね」
「話になった、ではないんだ」
「そこは僕としては譲れないところだったからね……って、それはおまけの話だから、今はいいだろう?」
 ウインクで誤魔化そうとして来るシャイネに小さく吹きだす。
 実年齢を聞いたのが切欠だったのか、真実はわからないけれど。間にあった薄い壁さえもなくなっているような気がする。
 前なら教えてもらえなかっただろう内心も、随分と気軽な形で聞くことが増えた。
「新郎である親友君に、僕からのお祝いであることは勿論だ。でも新婦だって主役だよね。むしろ花嫁たる彼女こそ主役であるべきだし、君もそう思っているのではないかな? そんな新婦への言葉を籠めるなら……ね、僕だけでは足りないだろう?」
「うん……彼女も、喜んでくれると思う」
「その為の詩を完成させてきたんだよ♪」
 微笑む眼の赤はどこかやさしい。恋というよりは愛、なのだろうと分かるようになった気もしている。
「……切欠になったようで何より、と言えばいいのかな」
「ふふ、きっとそうなのだろうね。気は長いつもりだけれど。……感謝しているよ♪」
 こちらこそ、と返してから話を戻していく。
「でも、どうして俺が?」
「興が乗った結果できた詩が……デュエットなんだよね♪」
「……え……?」
「すり合わせて中間点を取る、なんて妥協は選べなかったんだ。でもユリアン君、彼女を笑顔にするためになら、協力してくれるだろう?」
「それを言われると」
「詩とメロディ、振りつけは勿論だけど。早着替えも必要になるから覚悟してね♪」
「衣装の方向性から、動き回る予感はしていたけど。どうして早着替えになるのか」
「なぜ君だけを呼んだと思っているんだい。彼女へのサプライズに決まっているじゃないか♪」
 徹底的に秘密にするために、結婚式事業とはゆかりの無い店で衣装を調達する必要があるらしい。此処はピースホライズン。様々な文化が集まるおかげでジャンルにも事欠かないのがいいところ。
「とにかくだ。ユリアン君に似合って、着脱しやすい、動きやすいものを重視して絞り込んでいるけど……実際に試着もしてもらうからね♪」
 長くなりそうな気配に後ずさりかけたけれど、どうにか踏みとどまった。
「あ、でも一緒に詩うんだから、着替えとかはシャイネさんも一緒だよね」
「僕は主役ほど注目される予定はないからね、先に出てしまえば着替えにも余裕があるんだよ」
「……なんだか不公平に感じる」
 自分の結婚式でもあるのだから、わかってはいるのだけれども。
「流石に冗談。そこまで薄情ではないつもりだから、直前の着替えから呼吸を合わせて、協力体制で行こうじゃないか」
「よかった……」
「とにかく衣装だね。決めたら、早速練習用に借りた小ホールに行くからね」
「練習! そうだった。まさか一日で覚えろなんてことは……ないよね?」
 今この時点で、結婚式当日まで半月をきっていたりする。打ちあわせは殆ど終わっているけれど、結婚式だけが結婚ではない。細々とした準備はまだ残っていることを思い出す。
「大丈夫、僕は今日から当日までスケジュールをあけてあるし、空いてる日がある限り、練習はいくらでも付き合うからね♪」
「はは、頼もしいね」
 そう答えはしたものの。旅から戻り、落ち着く先を決めて。以前よりも余裕をもって過ごせていた日々が突如慌ただしくなることを覚悟するユリアン。
(それも充実しているからこそ、なんだよね)
 隠し事は得意な方ではないと思う。けれど、彼女と、喜ぶ彼女を見たいと望む自分の為にもここは頑張りどころだろう。
「それにしても、俺だけ素人なんだけど」
 詩も歌も踊りも、監修者を含めてその道に携わってきた者の手が入っている。そしてユリアンがその笑顔を見たい新婦たる彼女もまた、音楽に秀でた存在で。
 どんな出来でも楽しんでくれて、喜んでくれるだろうけれど。
「全く触れていないわけではないと聞いているよ?」
「それって誰から……え、いや、まさか」
 確かに音楽は子供の頃から身近だった。しかしこの友の前で自ら音楽に携わったことはなかった筈だ。
 繰り返しになるが音楽と言えば、婚約者である彼女を筆頭に、その交友関係の友人知人が思い浮かび……その中に自身の妹も含まれると思い浮かべたところで。
 今朝、件の妹が彼女と買い物に出掛けるのだと伝えに来たことを思い出す。
 彼女と二人で空いた日があるのなら、デートに誘って来いと背中を押しにくるような妹だ。
「タイミングがいいな、と思ってはいたんだ……」
 その違和感に気付かなかったのは不覚だった。
「素敵な思い出の一頁を彩るんだ。成功率を上げるに越したことはないからね?」
「……シャイネさんってさあ」
「うん♪」
「結構……」
 腹黒い、とはっきり口にしてしまってもいいものだろうか。
「隠さなくてもいいって、とっても幸せなことだよね♪」
「……そっか、はは……」
 どうやらそれもお見通し、ということらしかった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【ユリアン・クレティエ/男/21歳/疾風影士/どれだけの時を経ても吹き続け止まらない風に乗せて】
【シャイネ・エルフハイム/男/18歳/猟撃士/いくつもの差を取り払ってなお変わらない想いを詩に】
おまかせノベル -
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2020年07月06日

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