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『秘密のバックヤード』
リーベ・ヴァチンka7144

 当カフェでは様々な作品達、動物達が織りなす癒しの空間をお楽しみいただけます。
 是非、そのやさしいひとときを。心ゆくまでゆっくりとご堪能くださいませ。

 店舗の内外を問わず散りばめられた作品のジャンルは統一されていない。
 しかしちぐはぐな印象は与えない。オーナーでもある家主によって決められた内装はとてもシンプルなもので、それが作品達の魅力を阻害しないのだ。
 勿論配置だってそれぞれの特徴を生かせるようになっている。美術品の類は店の内外を問わずインテリアとして活用し、実用品は訪れる者達が実際に試せるようになっている。
 座席をひとつとってみても、複数がけならば統一された一式を揃いで試せるし、座り仕事向けの事務用の椅子ならばカウンターや、似た目的の椅子と一緒に配置されている。革張りのソファは家族向け、特に小さな子供連れに好評だ。
 テーブルだって引き出しつきのものであったり食卓だったり様々だ。丈夫に作るならば大工や鍛冶、彩るなら木工や塗装の技術。
 卓上を彩るクロスだって染めや織りに拘りが見えるし、緻密な刺繍が施されたものもある。
 果汁を涼やかに見せてくれるグラスも、香り高い紅茶のポットとカップも、料理を支える皿だってひとつひとつにだって、未来ある若手職人達の技術の粋が詰まっている。

 しかし作品の中で最もよく人目を集めるのは、ペット達の為に考えられた品ばかりだ。
 ギャラリーを兼ねたペットカフェであるために、そこかしこにオーナーの家族である動物達、幻獣達が思い思いの時間を過ごしている。
 しかし彼女達は来訪する客の邪魔をすることはない。
 料理上手なユグディラが盛付けをしている様子を見ることもできるようにガラス張りのキッチンとなっているし。運搬の得意な動物達がワゴンを引いて客席の側まで届けてくれたりもする。
 満席で待つしかない客の為に、気紛れな鳥達がダンスを披露して子供を笑顔にするなんてことはしょっちゅうで、ふれあいを望む客達に応えてくれることもある。 
 常連限定の裏メニューなら、タイミングさえ合えば食事にもともにとれるらしい。指名した動物が食べられるメニューと同じものを注文しなくてはならないのだけれど。
 幸運にも同席を許された客の元に届けられるのは、注文したメニューと、ほぼそっくり同じように盛り付けられたペット用のメニュー。種族や体格によって量に差もあるけれど、お気に入りの動物と一緒に同じ料理を食べる、という癒しの時間を楽しみたい者には非常に好評だ。
 ただ注意事項がある。彼女達用に盛りつけられた食事には必ず特別なトッピングが施されており、それが客用メニューと間違えない為の目印になっている。
 それが彼女達には何か特別な意味を持つようで、そのトッピングをうっかり落としたり、まして同じものを求めたりしてはならない。
 過去に一度、興味本位でそのトッピングに手を伸ばした客は存在した。しかしその客は以降、一切裏メニューの注文が通らなくなってしまったらしい。
 それだけでなく。オープンテラス席近くで放牧状態になっている大型種の動物達も、以降その客の側に近寄らなくなったとか。


「確かに簡易化には配慮したが……!」
 オーダーシートを運んでくるホール係の数は、全体を見ればそう多くはない。
 何せ人語を解せなければ客の要望にはこたえられないのだ。だからこそ鈴蘭型妖精のベル達、パルム達、もっちゃりかっぱ達にしか任せられない仕事だ。しかし、彼女達は総じて小さい。
 最初こそ、難しい仕事を割り振ってしまったかと不安もあったリーベ・ヴァチン(ka7144)だけれど、いざカフェをオープンしたところ、予想を大幅に裏切られることになった。
 繰り返すが彼女達は小柄で、飛べる飛べないはあってもその動きははやいものではない。しかしここはペットカフェでもあるのだから、彼女達のその様子もおつかいを見守るような気持ちで楽しんでもらえるだろうと、この店独特の美点になるだろうと思惑もあった。
 メニュー数はあまり多くせず、メニュー名も似たものを採用しない。それぞれに通し番号を振っておけば数字だけでも意味合いが通じるようにはしていた。
 だからオーダーシートは、メニュー番号とチェック欄しかないシンプルなもので、○でも×でも△でも、とにかく印をつけられるように開店準備期間に練習だけはしてもらっていた。
「次は5番、ホットサンドだな」
 順番通りにメニューが完成するよう采配をしながらも、新たなオーダーシートを受け取り、下ごしらえ済みの食材の準備へと入る。
 視界の端でホールへと戻っていくもっちゃりかっぱの移動速度は本来のものとは違っている。なぜなら彼女達の移動を、同じくホール係兼運搬担当の柴犬達が背に乗せているからだ。
 なおパルム達の移動はゴールデンレトリバー達が、ベル達の移動はコリー達が手伝っている。種族ごとに統一性を持たせていることにも驚きだが、どうやら彼女達はお互いに二体しかいないという特殊性を有効に活用することで、カフェ内での人気を別格なものへと押し上げてもいるらしい。
「この次は指名メニューか」
 完成した料理を新たなワゴンに慎重に乗せていく。指名されたのは別のもっちゃりかっぱで、トッピングはきゅうりの星型ピクルスとなっている。
 トッピングは彼女達の種族ごとに違うものが用意されているのだが、全てが長期保存可能な保存食だ。
 それも、料理ができるリーベやキッチン作業を担えるユグディラの作ったものではない。オーナーであり彼女達の想い人であり、リーベの伴侶である彼の作ったものに限られる。
 そもそもこのトッピングは裏メニュー専用というわけではなかった。
 このカフェの運営をリーベと獣女子である彼女達で担うにあたって、オーナーである彼が職人達の育成に力を入れるようになるにあたって。彼お手製の食事を毎食当たり前に食べられる環境から変わっていく現状に心を荒ませないための、女性陣一丸となって協力し交渉し勝ち取った証だったりするのだった。
「ちゃんと記録しておく」
 じとりと、客には絶対に見せない視線をリーベに向けてくるもっちゃりかっぱに返してから、業務日誌のメモ欄に指名された彼女達の名前を記載していくリーベ。
 カフェの運営に貢献した、というアピールを行うためには恋敵でさえも使うのが彼女達獣女子である。
 現状は彼が望んだことだ。彼の望む店を、運営を任せられたのだから。それを全力で盛り上げるという点で皆の意見は同じだけれど。彼に直接褒めてもらったり撫でてもらう機会はそれとはまた別カウントということなのだ。
(伴侶なのだからそれくらい譲れ、ときたものだ)
 しかし実際のリーベに彼を縛る権利も思惑もない。彼を自身の花嫁として自分色に染め上げる宣言も、努力も。当人に真正面から向けているけれど……彼が彼女達を家族として愛していることは変わらない事実なのだから、リーベに断る必要はないのだ。むしろ譲れ、と断りが入るだけ進歩しているのかもしれない。
 彼女達に認められぬまま結婚したとしたら。問答無用でリーベは夫婦の時間を削られていたのかもしれない。
「結局、対等な恋敵で、家族、か」
 自分の欲と、彼の考える幸せを。リーベだけでなく彼女達もが考えてすり合わせた結果が、今だ。
 言葉にしてみて、改めて現状の濃密さに笑いが零れた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【リーベ・ヴァチン/女/22歳/闘征狩人/母となっても変わらない予感は胸に、立場を、関係を守り続けている誇りがあるから】
おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2020年07月06日

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