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『『私』との出会い』
矢花 すみれla3882)&ニグレットla3439

(昨日のは何だったんだろ)

 そう思いながら、矢花 すみれ(la3882)は、自室をこっそり抜け出す。

 紫のウェディングドレスを纏い、ドレスを身に纏っている間は『ローズブーケ』となる契約を交わしたのが昨日の夜。

 しかし、目が覚めるとニグレット(la2429)はいつもと同じ調子だった。

 いつも通り、共に食事をし、ダンスを見てもらい、談笑して過ごした。

 それは、いつも送っている『矢花すみれ』としての日常で、昨夜の出来事はニグレットの気まぐれだったのではないかと思えてくるのも無理はなかった。

 一夜の幻や夢だったのではないかと言う気持ちも頭をもたげてくるが、契約の時にもらった指輪が自分の左小指で幻や夢ではないと主張してくる。

(幻とか夢じゃないのは分かるけど……)

 もう一度ドレスを着て『ローズブーケ』になれば、この気持ちが消えるのではないか、消えなくても何かわかるのではないかとこっそりと衣裳部屋に身を滑り込ませる。

「あった」

 数多くあるドレスの中から昨日を見つけ出す。

 バラをモチーフにした深い紫のドレスは窓からこぼれてきた月明かりにきらきらと光っている。

「やっぱり綺麗……」

 そっと手に取ろうとした時、パッと部屋の電気が点いた。

「あの時の気持ちが忘れられないのかな」

 振り返ると、そこにいたのはニグレット。

「そんなことないけど……ただ、なんとなく……もう一度見たくなって……」

 驚きを隠せないすみれにニグレットは微笑み、気にすることはないさとすみれの前までやってくる。

(あの時と同じ……)

 彼女の微笑みの中に、あの時と同じ雰囲気を感じ取ったすみれは昨日のことが彼女の気まぐれではなかったのだと気が付いた。

「折角だ、今日は違うドレスを着ようか」

 そう言って、ニグレットは純白のウェディングドレスを手に取った。

 ボリュームのあるプリンセスラインのそれには背中に大きなリボン。

 目立った装飾はそれだけで昨日纏ったのよりだいぶシンプルだが、サテンのような上品な光沢の生地が白薔薇を思わせた。

 シックで大人向けのデザインに『ローズブーケ』が着たら凄く似合うんだろうなと、すみれは思う。

(これを着ればまたあの時みたいに……)

 昨日確かに感じた高揚感と少し背徳的な期待感が自分を包み込んでいくのがすみれには分かった。

「わかったわ」

  ***

「さあ、鏡を見てごらん」

 ニグレットの持ってきた全身鏡に映る自分。

 それは、艶やかさを纏った大人の女性『ローズブーケ』であるはずだった。

 だが、そこに映るのは『矢花すみれ』だった。

 似合わないわけではない。

 しかし、そこに大人の艶やかさはなく、少女が背伸びをして大人の服を着ているような、具体的に何がとは言えないが、とにかく何かがかみ合っていない、そう確信できるだけの圧倒的な違和感があった。

 化粧をしていないからかとも思ったが、していたとしてもその違和感はぬぐえないようにすみれには感じられる。

「……どう……して?」

「どうしたんだい、君が着たドレスは……あぁ、これだったかな」

 その声に、すみれがニグレットの方を見ると彼女が同じドレスを手に取り、体に当てている。

「ニグレッ……」

 何の魔法だろうか、すみれの前には彼女の面影を残しながらも上品でどこか艶を纏った大人の女性、『ローズブーケ』が立っていた。

 突然のことに声も出ない。

 さっきまで、目の前にいたのはニグレットだった。

 だが、今立っているのは確かに『ローズブーケ』なのだ。

「いらっしゃいな」

 優雅な仕草と声で招かれるままにすみれは一歩『ブーケ』の方に足を踏み出していた。

 そっと背中に手を回されるのが分かったが、もう一人の自分だからだろうか、嫌な感じはしなかった。

『ブーケ』は優しく微笑むと、すみれの可愛らしい唇を指でなぞり、そっと唇を近づける。

「あっ……」

(……キスされるんだ)

 そんな予感、いや、確信めいた思いがあった。

 すみれは目を閉じ『ブーケ』に体を預ける。

 女性同士でとか、自分と口づけることへの嫌悪感はなかった。

「すみれ……」

『ブーケ』は愛おしそうに名前を呼び優しく唇を触れ合わせる。

 ほのかに香るバラの香りと体温の温かさと、女性特有の甘さが心地いい。

 そんな風にすみれは思った。

 女性とのファーストキス。

 こんなことをする日が来るなんて思いもしていなかった。

 自分であって自分でない人物がその相手だなんて考えたこともない。

 だが、理想だと思う大人の女性との口づけに違和感は何も感じなかった。

(結婚式みたい……)

 唇を重ねながら、ふとすみれはそう思う。

『ブーケ』との結婚式。

 心から『ブーケ』を求め、『ブーケ』と共に生きていくことを誓い、『ブーケ』になることを望むことを誓う儀式。

 そんな風にすみれは感じていた。

(私は私。『ブーケ』の姿の時だけ、『ブーケ』になるだけ)

 今までの自分を捨てるわけではない。

 すみれはすみれとして生き、夜のひとときだけ、ドレスを纏っている間だけ、すみれではなくなるのだとすみれは悟った。

 すみれとニグレットと『ブーケ』だけの秘密。

 3人だけの甘美な秘密のひととき。

(もっと味わってみたい)

 そう思いながらすみれは『ブーケ』の背に手を伸ばすのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 la3882 / 矢花 すみれ / 女性 / 19歳(外見) / 少女の私 】

【 la3439 / ニグレット / 女性 / 26歳(外見) / 大人の『私』 】
イベントノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年07月06日

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