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『七色夕焼逢瀬時』
神上・桜la0412

 特に予定もなく街に繰り出せば、彩り鮮やかな紙飾りが方々に飾られていた。
「そろそろ誕生日だったのじゃな」
 七月七日の七夕が近づくにつれて街には緑色鮮やかな笹が増えていく。その日は神上・桜(la0412)の誕生日でもあるものだから、毎年賑やかに過ごせる良い日だと思ってもいる。
 実家で暮らしていた時だって、毎年贈り物を多く渡されていたくらいだ。
(今は家出の身じゃったな)
 補導されてはたまらないので声に出してしまうようなことはないのだけれど。
 外見的には幼女に分類される桜である、どこで誰が聞いているとも限らないので、下手に口を滑らせてはいけないと、念のために持っていた扇子で口元を隠した。
(案外のんびりできているのは、良い事なのじゃろう)
 今のところ実家からの追跡は躱せている筈だ。連絡もないのだからそういうことなのだろうと勝手に結論付けている桜。
 しかしライセンサーとしての活動もしている桜は特別隠密行動をとっているわけではない。むしろ精力的に動いていると言っていい。
 活躍を聞いて、実家の方では元気なら問題ないと放任されている……という可能性がある筈なのだけれど。自分に都合のいいことだけを考えている桜がそれに気付くことはあるのだろうか。
 いつかあるかもしれない事実との対面が来るまでは、真実は桜の両親のみぞ知る、ということなのだろう。
「まあ、我は可愛い美少女であるのじゃからな、そういった名声は届いてしまっているかもしれぬのう」
 くふふ、と笑みを抑えきれぬままの桜は気付いていない。通行人がさりげなく桜を避けているという現実に。

「折角じゃ、短冊行脚とでも行こうではないか♪」
 七夕飾りを目印に、機嫌よく歩きはじめる桜。イベントが近いおかげで、そこかしこに“ご自由にお書きください”と短冊とペンが置かれているのはこの時期独特の光景だろう。
「神仏巡りに比べれば、ずいぶんと気軽に願えるのは良い事じゃな」
 老若男女種族問わず誰しもに開かれた機会だ。願い事も公開されるわけだけれど、桜は全く気にしないようだ。

『美少女こそ癒し』
 堂々と書き上げた一枚を、踏み台を利用しながら取り付ける桜。
「最初だからこそ、圧倒的事実を示すべきなのじゃ」
 セイントでもある桜は治療方面のスキルも習得しているが、それとは少し話が違うらしい。
(我のような可愛い美少女が施すヒールには隙もないからのう)
 シールドの修復だけでなく視覚的癒しが付随することの絶対的優位性を信じている桜である。つまるところ意図としては。
『全ての者は難しいかもしれぬ、しかし癒すことで力となるなら、それこそ受けた者は皆我の虜になるも同じであろう?』
 といったところだろうか。

『自由業』
 少し迷った時間は、自営業や自律という言葉も共に思い浮かんだからだ。
 書きたい内容そのものは、家を出た時からずっとはっきりしている。ただ、どの言葉が最も求める結果に近いかを検討していたに過ぎない。
『継がねばならぬと決められた道など言語道断なのじゃ、我は我が好んだ道を進むのじゃ!』
 そうして出てきた今がある。拠点を定め、仲間を募り、桜自身も任務に奔走して力をつけてきている。今、ライセンサーとしての活動はある意味では、求めていた生活そのものではないだろうかと思うこともあるくらいで。
「なれば、それが長く続くようにと願いたくもなるものじゃろう?」
 それが一種のフラグだという事実を、桜に教えてくれる存在は残念ながら今近くには居ないのだった。

『突撃一番』
 常日頃戦いに向かう際に考える一つの終着点のことである。
『先手必勝隙こそ作れ、戦いを制するのは如何に早く戦況を見極めものにするかじゃ、つまり意表をつくことが究極ゆえに、今後の戦いを、その成果の好転を願うべく宣誓じゃ!』
 望む通りにことを運ぶには、下準備の必要性だってわかっている。今は全てをつつがなく進めやすくするための学ぶ時間だとは理解している。
 状況が違っても、同じ結果へと導くことは難しいと知っている。
 すぐに叶うとは思っていない。けれどいつか必ず成就させるため、自分自身が忘れないための言葉としてしたためる。
「目立ってこそじゃろう」
 笹の隣には脚立があって、出来る限り高い場所にと足をかける。
「星達からよく見えるよう、いつかの時を見逃さぬようしっかりと括りつけなくてはならぬし」
 地上へと戻る際、高い位置から見下ろしたせいで恐怖心が芽生えたことには、必死に見ないふりをした。

『重量級浪漫』
 願い事、というよりも桜の好むものをひけらかすための手段になっているような気配ではある。しかし桜に同道者は増えていないため、ツッコミは不在である。
『迅速なる戦線展開のためのキャリアーじゃからな、仲間達を届けながらも主砲をぶちかます浪漫に勝るものはないのじゃ、ここぞという時に決めたいものじゃのう?』
 先の脚立からの光景が怖かったから、その反動というわけではない筈だ。
 運用しているキャリアーを思い出せば、まさに実家に居るような安心感があるのも偶然だ。
「本格利用をするには、それこそ大きな戦時ではないといけない、というのがのう」
 娯楽室なども備えているため、許されるならば日常的にその内部で生活したいと考えていたりするのだが、これはむしろいつも通りの思考だろうか。
「ふむ、帰宅もそろそろ考える頃合いじゃな」
 くるりと来た道を戻ろうと身を翻す桜の視界に、裏道に飾られた笹が見えた。慣れぬ場所ではあるが、そこにも店があるようだ。
「締めはどうしようかの?」

『淑女体型』
 誰の目にも触れぬように、そっと文字列は内側へと向けておく。
 これまでの短冊とは違って、この一枚だけは切実さが籠もっている。紙に走らせた文字に籠もるものも、もし比べることができたなら、その圧の濃淡で違いがはっきりとしたことだろう。
 短冊を付け終えて、一息。吐息を零すのと同時に自分の身体が視界にうつる。
『我は埴輪型ではないのじゃ、将来性と夢と希望の詰まった身であるがゆえにの。そう、淑女に相応しき将来がまっているのじゃよ……じゃよ!?』
 桜自身が明言しない限り、今の外見になってからどれほどの年月が経っているのか、正確なことはわからない。
「どのような服も似合う美少女の我だがのう?」
 所謂成人女性向けの服装には向いていない、というのが明らかなのである。
「正統派美少女として不動の地位は得ておるが、時には隣の芝生に手を伸ばしたくもなるものよ」
 そういうことにしておこう。

 厳選した五枚の短冊は、結局のところ、どれも願掛けではない。
(願わずとも、既に叶っていることが多いのもあるのじゃが)
 星に向けて祈り願う、その風習そのものは良いものだ。けれど自由を求める桜としては、星に叶えてもらうのではなく、自らの力で掴み取りたいと思ってしまうのだ。
「年に一度を待たずとも、橋を架けると努めてみてもよいと思うのじゃ」
 自室としている教室に戻る前に、少しの寄り道。
 古ぼけた校舎を利用するにあたり、水や電気も使えるように手配してある。そのうちのひとつ、水飲み場の蛇口をひねり、繋がるホースを空へ構えた。
「天の川の方角は、どちらじゃったかの」
 まだ日は落ちきっていない、淡い紅の空色が全てを染める中。水飛沫が跳ね返し、架けるのは。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【神上・桜/女/10歳/天罰天使/我が道こそ可愛さと美少女の極みというものじゃ♪】
おまかせノベル -
石田まきば クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年07月06日

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