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『シスター・イン・ザ・ナイトメア(1)』
白鳥・瑞科8402

「そろそろ着替えて現場へと向かわなくてはいけませんわね」
 そう独りごち、聖女は教会ではなく私室へと向かった。
 彼女は、部屋にあったワードローブから慣れた手付きで一着の衣服を取り出す。それは、白鳥・瑞科(8402)が普段日常生活で身にまとうシスター服とは違い、特殊な素材で作られている特別な修道服であった。
 そっとその指が、生地の肌触りを確かめるかのように衣服をなぞる。身体にピタリと張り付く程に薄い生地だが、この服は見た目以上に頑丈な素材で出来ており、ありとあらゆる衝撃を吸収する耐衝撃性があった。
 ただ教会で祈りを捧げる時に身にまとうだけならば、不要であるはずの頑丈さ。だが、今の瑞科が着るのは、これくらい頑丈な服でなければならない。
 なにせ、彼女が今から向かうのは――戦場なのだから。
 着替えを始めた瑞科は、先程彼女が所属している組織である「教会」の拠点にて、神父から聞いた依頼の内容を思い出していた。

 ◆

 緊急性の高い任務だと拠点に呼び出された瑞科は、手渡された資料に一瞬だけ目を通す。その僅かな時間に、聡明な彼女は資料に記されていた重要な点を全て記憶してみせた。
「人々を悪夢へと引きずり込み、恐怖し弱った魂を食らう悪魔……。このような方に、慈悲など必要ございませんわね」
 そう言い肩をすくめた瑞科は、敵のその残忍な手口に軽蔑し、悪魔にとって有利な場所にわざわざか弱い人間を誘い込む卑劣なやり方に呆れ果てているようだった。
「この任務、お引き受けいたしますわ。わたくしが直々に裁きを与えてさしあげましょう」
 任務について詳細を話そうとした神父を遮るように、聖女は迷う事なく頷いてみせる。
 神父も、瑞科の実力を知ってはいる。しかし、今回の相手は人の魂を自らの世界とも呼べる悪夢の中へと引きずり込む事が出来るのだ。
 夢の中へと閉じ込められてしまえば、さすがの瑞科といえど全力で戦う事が出来なくなる可能性があるのではないか、とどうやら神父は心配をしているようであった。
「神父様はお優しいですわね。けれど、心配する必要はございませんわ。今宵悪夢を見るのは、わたくしではなく――この悪魔の方ですもの」
 彼女の魅惑的な唇が紡ぐ言葉は、いつだって丁寧だ。けれど、その言葉の裏には敵に対する侮蔑の感情が混ざっていた。
 確かな実力に裏打ちされた絶対の自信を持つ瑞科は、ひどく傲慢な性格をしている。他の者に対して加虐的な振る舞いや、小馬鹿にしたような態度、時には小悪魔のような言動をし惑わす事さえあった。
 敵に対しては、そんな彼女の態度は顕著なものとなる。大した力もない悪魔が我が者顔で弱者をなぶる様は、瑞科にとって何よりも醜いものに映るのだろう。
「ご安心なさってくださいませ。わたくしが、この程度の相手に負ける事なんて絶対にありえませんわよ」
 聖女はそう言い切リ、思わず見とれてしまいそうになる程美しい自信に満ちた笑みを浮かべるのであった。

 ◆ 

 瑞科の身にまとった修道服は両脇に深いスリットが入っており、少女の動きに合わせて揺れニーソックスの食い込んだ美脚を覗かせる。
 服の上から見ても分かる程、聖女は魅惑的な体つきをしていた。修道服の下に着ている黒の光沢のラバースーツもまた彼女の完成されたボディラインを崩す事なく、寄り添うように瑞科の肌に張り付き彼女の身体を覆っている。
 腰につけられたコルセットも、彼女の持ち前の魅力を損なう事は決してない。むしろ、ただでさえ魅力的な箇所をいっそう強調し、少女をより完璧な存在にする手伝いをしてくれていた。
 その上、腰回りを守るために軽量の薄い鉄が仕込まれており、機能性にも長けている。美しさと強さを兼ね揃えた、戦闘シスターに相応しい衣装であった。
 修道服の上に羽織るのは、白色のケープだ。次いで、どこまでも真っ直ぐで穢れを知らぬ彼女によく似合う純白のそれと揃いの色のヴェールを瑞科は頭につける。
 窓の外は、もう真っ暗だった。星一つない闇の世界。
 件の悪魔は、この時間帯に出没する事が多いのだという。恐らく、悪しき心を持つ怪物にとっては最も活動のしやすい時間帯なのだろう。
 けれど、瑞科がその闇に対し恐怖を感じる事はなかった。上機嫌な様子で着替えを進めていく彼女にとっては、悪魔にとって有利な時間に戦う事などさしたる問題ではないのである。むしろ、ハンデにしては足りないくらいだとさえ聖女は思っていた。
 今まで瑞科は、「教会」に所属する戦闘シスターとして数々の任務を勝利へと導いてきた。優秀な瑞科に与えられる任務は、他の戦闘シスターではこなせない危険なものも多い。
 この世界そのものを壊滅させる事が出来る程の力を持った悪魔と、たった一人で対峙しなければならない事もあった。
 けれど、瑞科はその都度、完璧な動きで任務をこなしてみせた。圧倒的な実力で敵を殲滅し、時には悪戯に相手をなぶり、徹底的なまでに蹂躙する。それでいながらも、彼女は自らの身体に傷を負った事すらない。
 指一本触れさせる事すら許さずに、華麗に敵を倒す。そして、他の誰も届かない高みから他者を見下し、笑みを浮かべる。それが許される程の実力を、瑞科は確かに持っているのだ。
 それ故、ロンググローブをはめる彼女の手に迷いはなかった。
 瑞科はグローブに包まれた手で、愛用のブーツを手に取った。ロングブーツが、彼女の膝までを覆い隠す。
 着替えは終わった。しかし、忘れてはいけないものがある。
 聖女は先程修道服を手にした時と同じような手付きで、愛用の武器を取り出した。瑞科にとって使い慣れたこの武器を携える事は、彼女が服を身にまとう事と同じくらい瑞科の日常に溶け込んでいるのであった。
 それほど、聖女の日々は戦いにまみれていた。世界のために、悪を倒す日々。けれど、瑞科がその生活に不満を抱いた事はない。
「わたくしの手で、今日も皆様を救ってさしあげますわ」
 それどころか満足げな笑みを浮かべ、聖女は意気揚々と現場へと向かうのであった。


東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2020年07月07日

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