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『ローズガーデンと白い花』
瀧澤・直生8946)&天霧・凛(8952)

●始まりは一枚の紙
 瀧澤・直生(8946)は家に来た天霧・凛(8952)が一枚のちらしを見ているのに気づいた。
 それはフルカラーで、景色や人が写っていた。
「何見てんだ?」
 直生は台所から声を掛ける。
 凛は顔を上げると意を決したように、ちらしをテーブルに置いた。
「直生さん、結婚式場の体験企画です!」
「……」
 凛の声は弾んでいる。
 直生と凛、恋愛中であるが、まだ、そこまで考えていない。
 考えていないのと興味があるのは別だろうが、チラシを見ると直生は固くなる。
(結婚を考えている? ただ興味を持っているだけ?)
 直生は凛の出方を待つ。そのため、台所から持ってきた飲み物の入ったコップを、テーブルに置き、自身は椅子に着く。
「ここ、比較的近い所なんですよ」
 住所と地図を見ると、外観だけしか見たことがないあの場所だと分かる。
 住宅街にできた巨大な西洋の城もしくは教会というのがその印象だ。それが結婚式場だということは花屋である直生にも伝わる。
 建物の中はどうなっているのかがこれで分かる。
 バラ園もあり、屋外でもパーティができる施設らしい。
「へぇ」
 直生はそれで終わる。
 目をきらきらさせた凛は不満そうな顔になった。
「直生さーん、行きましょう! 見たいです、素敵です、ドレスも着てみたいです!」
 訴えが来るが、直生は「めんどーくせー」と一蹴した。
 何度か訴えが来たが、その日はそれで終了した。

●根負けと予約
 ことある毎に「一緒に行きましょう」と凛が言う。
 そろそろ予約の締切りが迫るし、上限行っていたら予約はできない。
「直生さーん」
 床の上でくつろ。互いの背中が当たる。
 背後からの凛の声は甘えるような雰囲気。しかし、それは「体験ウエディングに行きたい」という言葉が続く。
 直生はじっと手元の花のアレンジの雑誌を見る。
「直生さんー、聞こえてますよねー」
 凛はしつこかった。
「うっとーしー」
 直生が立ち上がり、振り返る。
 そのため寄りかかっていた凛はコロンと転がる。
 床の上で直生を見上げる凛。丸めた背中でころころと揺れている。
 凛は頬を膨らませている。
「あー、分かった、分かった! 電話してみろ」
 凛は身を起こすと、正座して直生を見上げる。
 その表情は満面の笑みだ。
「予約上限もありますし……そうなったら、直生さんが早く言ってくれなかったせいですよねー」
「まずは、電話しろ」
 直生は予約できない場合はしばらく機嫌が悪いだろうと考えた。そうなった場合、どうするか検討する必要があるのかと電話をする凛を見る。
 凛は早速電話を掛けている。しばらくしてから、満面の笑みの凛が「予約取れました!」と報告してきた。
「花屋の勉強だ」
 直生は自分に言い聞かせる。

 一方の凛は結婚するかどうかは別として、結婚式場を見に行く行為自体が楽しみだ。
「気になっていましたし、バラ園も見てみたいです! ドレス! ドレスも様々あってきれいですし、楽しみです。試着も出きるんですよね……あと、パーティ料理。そう考えると、結婚式って色々なものが詰まっているんですね」
 わくわくしながらチラシを自室で眺めていた。
 花嫁として自分がいる景色が脳裏に浮かぶ。相手の姿もふわりと浮かぶ。
「いえいえいえ、そこまでは……あ、うーん」
 色々考えると頬が赤くなったら、顔が青くなったり、考えが巡る。
 答えを出すには相手がいる話だからと、深呼吸をした。
 まずは結婚式場の見学を楽しむことだ。
 回る考えは止まり、当日晴れるといいなとか、遠足前のような気持ちになってきた。

●当日
 結婚式場に到着すると、何組かいた。係の人が来るまで待つことになる。
 直生はなんとなく緊張する。
 凛は直生の腕を取り、周囲を見渡している。非常に楽しそうな表情で、目が輝いている。
(楽しそうなのはいいけどな)
 思わず笑みが漏れた。
 凛が周囲を見るさまは、観光地に来た子どものように少し賑やかだ。
「凛、落ち着け」
「あ、すみません。いや、ちょっと、緊張もしますし、見てみたかった所だったので、つい」
 凛が一瞬だけしょげる。
「あー、それは俺も分かる」
「ですよねー。あ、直生さん、嫌だ嫌だといってましたけど、実は興味津々だったんですね」
 直生は「そういうことでいい」と溜息をついた。
 結婚式と花は密接な関わりがあるから気にはなるのだ。しかし、結婚式相談会みたいな状態で来ることは想定していなかった。
 ふと、脳裏に浮かんだ追加の言葉「まだ」。「いずれ」は考えていたのだろうか。
 隣にいる凛を見ると、心臓が一瞬、大きく鳴った。
「どうかしたんですか?」
「なんでもない。開場だそうだ」
 直生は自分の声がうわずっているのに気づいた。
 顔が赤いのではないかと思うが、自分が写る物がなく見えない。
 建物に入る途中にある、バラが目にとまる。小ぶりのバラで、かすかに香りを届ける。
 それを見て、心を落ち着けた。

 凛は直生の挙動がおかしいのに気づく。
(なんでしょう? やっぱり来たくなかったんですね……)
 申し訳ないことをしたのかもしれないと思う。でも、興味があるので来たかったし、女友達や弟のどっちかを連れてくるところではない。
(でも、直生さんと、が自然だと思いますが、ちょっとこう、恥ずかしいような緊張もなくはないのです)
 直生の視線が建物や植物に行っているのを見て、凛は心の中で「同じかもしれませんね」とつぶやく。

 直生と凛は披露宴で出される料理の試食をする。
 和風、洋風など何種類かジャンルがあり、それが前菜・メーンにデザートなどと分れている。
 料理を見ていると凛の頬はほころぶ。
「色々な種類があります。洋食が一般的でしょうか」
「そうだな。でも、それにこだわることないし、おいしいと思えるものなら、いいだろう」
「そうですよね!」
 試食ということもあり、皿一つ一つに載るようにはない。
 ワンプレートにいくつか載っていても、目で楽しませる物になっている。
 試食のところでは、料理の一覧表や特に力を入れているところや、デザートの写真などパンフレットの資料が提供される。
「これ、見てください! パティシエの仕事って感じですよね」
「手が込んでるなぁ……」
 直生も感心する。
 各種試食を済ませ、おなかが一杯になったところで、庭の散策に出る。
 庭に出ると、式を挙げるチャペルが見える。若干高いところにあるのか、緑地やバラ園の上に見える。
 式場のメーンの建物から出ると、外で飲食できるような場所になっている。
 広い所を抜けると、大輪のバラが咲いている通路になる。その正面にチャペルがある。
「わ、わあああ」
 凛が思わず歓声を上げる。
「確かに、すごいな」
 チャペルが美しく見える配置だろう。
 それに、季節によって違うバラが咲くようになっているし、別の花も植わっている。
「ですよね!」
 凛は楽しそうに直生の前を歩く。
 足取りは軽く、ふわりふわりと駆ける。
 直生はまぶしそうにその様子を見る。
 チャペルの前に先に着いた凛は、手を振って待っている。
 直生の足取りは徐々に速くなり、最後は走っていた。
「いそがなくてもよかったんですよ」
「いや、なんとなく」
 凛の手を取り、チャペルの入り口を見る。
 扉は見学用に開いており、そのまま二人は入った。
 光が差し込むチャペル。
 その光の中にいる凛は一層きらめく。
 直生の目には何か美しい光景が映った。
 その光景が鮮明になる前に「あ、そろそろ試着の時間ですね」という凛の一言がある。
 その結果、直生は現実に戻された。

●そして未来
「いや、俺はいい」
「いいじゃないですかー」
「大体、男なんてタキシードだけだし、どれ着たって一緒だろう」
 服の試着、直生が拒む。
「いえいえ、違いますよ。ほら、係の人が持っているの見てください」
「いや、同じだ」
「え、ええ?」
 凛は説得をどうするか考える。
(花の違いは細かくても分かるのに、服は駄目です?)
 興味の問題かと考える。説得はしても服選びは係の人に任せればいいのだ。
「駄目です! 私だけ着るなんて、寂しいじゃないですか!」
 凛の気持ちは真っ直ぐ直生に向かった。
 直生はしぶしぶうなずく。
「ということでお願いしますね」
 係の人に託して、凛はウエディングドレスの説明を受けに向かった。
 今回試着できるのは限られているけれども、追加料金どういうのが着られるかなど説明を受けるのだった。
 試着できるのでも十分問題ない。しかし、色々見ていると、あれもいいな、これもいいなとなってくる。
「くぅう、よくできたシステムです」
 悔しそうに言う凛に、係の人はお礼を述べる。
 試着できるドレスを選び、化粧や髪型を軽く整えられる。デコルテが見えるため、ショートカットやアップにしたほうがいいとのことだった。

 一方で、直生は興味がないとばかり係に丸投げ。
 係の人は苦笑いだったが、適宜用意してくれた。
 それに直生は腕を通す。タキシードを着ると何か身が引き締まる。
(制服と同じ?)
 直生は鏡に映る自分を見て、眉間にしわが寄っているのを目の当たりにする。
(そりゃ、係のやつは苦笑するな)
 係の人に先導され、待合室に出る。
 凛はなかなか出てこない。
(どれにするか悩んでいるのかそれとも、着るのに時間が掛かるのか)
 扉が開き、白いドレスに身を包んだ凛が出てくる。
 裾捌きがたどたどしい。表情は着られて嬉しいのと、どこか不安が見られる。
 直生は思わず、見とれた。
「なんでそんな顔してんだ?」
「……だって、直生さん……あ、直生さん、似合ってますよ?」
 凛は言おうとしたことを止めてから、直生を褒めた。
「お前もな」
「……似合ってます?」
 心配そうな顔で尋ねる。
「似合ってる! 似合ってるから」
 面と向かって言うのは恥ずかしい。
 言った瞬間、凛の表情が一気に花開いた。
「ありがとうございます!」
 その時の表情は、幸せとうれしさで一杯になっていた。顔だけでなく、全身からその気持ちは見て取れた。
(きれいだな……つきあって来て、よかったかな……)
 直生は凛を見つめる。
 白い布の洪水に、花とは違う布の匂い。凜自体が今は白い花のようだ。
 ブーケの形も浮かぶ。凛が今着ているドレスならばどういった物が合うのか。
 どんな花があるといいのか。季節はいつだろうか?
 直生の中では凛と花が合わさり想像が広がっていく。
 凛は直生の腕を取り、鏡の前に立つ。
「体験会とはいえ、六月、ジューンブライドですね」
「え? ああ、そうだな」
 凛のはじける笑顔に直生の脳裏には様々な光景が浮かぶ。

 それは白昼夢か。
 それとも、ここの延長の想像か。

 しかし、係の人に言われ、元の服に着替える。
 まるで夢から覚めるようだった。

 結婚式場のロビーで落ち合って、帰る。
「花の飾り付けはうちの店でやるかな」
「え?」
 直生の言葉に凛は驚いた。
 結婚は全く意識されていないのかと思っていたからだ。
「好きに飾り付けられるし」 
 直生の目には、グリーンと白や薄い黄色の花など、様々な物が浮かぶ。
 どこからかバラの香りが漂う。
「ブーケも作らないとな」
 直生がぽつりつぶやく。
 凛は聞き間違いかと少し考えた。言葉の意味を理解すると歓喜の変な声がでそうだった。
「楽しみにしています!」
 凜は変な声が出そうだったことや、直生の気持ちが嬉しいやらで顔を真っ赤にした。
 それを見られないように両手で覆う。
「どうかしたか?」
 直生が顔をのぞき込む。
「……え、あ、ええと! 嬉しいです」
 手を外して直生を見つめる。
 凛の表情を見て、直生の心臓が鳴り響く。
「あ、ああ。楽しみだな」
 直生は微笑み、凛を引き寄せ抱きしめた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 モデルとなった結婚式場はあるのですが、さすがにバラ園はありません。
 さて、直生さんと凛さん……じわじわ……。
 白昼夢も予知夢に入るかしらと思ったりしつつ、このようになりました。
 いかがでしたでしょうか?
 発注ありがとうございました。
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2020年07月07日

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