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『A very Merry Christmas』
ジャック・J・グリーヴka1305


 聖輝節まであと数日となり人々の心が浮ついていたこの日、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は心地よい疲労感に包まれていた。
 午前中から貴族同士の腹の探り合いを兼ねた一流レストラテの新作料理の品評会に参加し、午後からは南方大陸との新たな流通ルート開拓に向けて商売敵である豪商達と狸の化かし合いならぬ、魑魅魍魎の化かし合い会談を行い、ギリギリの所で黄金商会にとって有利となる条件で契約をもぎ取る事が出来た。
 疲労は半端なかったが、万事上手く立ち回れたその達成感もあった。
 そして、今日の報告を“サオリたん”にしたところ『私、今日はフィッシュ&チップスが食べたい気分なの』という告白を受けて(なお、時々ランダムで彼女が食べたい物が表示されるのだ。先日は筑前煮だった)、軽く祝杯も兼ねて第三街区の片隅にある居酒屋に立ち寄ると、サオリたんお望みのF&C“を一緒に”食べて、彼女にはジュースを。自分はエールを傾けながら今日の疲れを癒やしていた。

 サオリたんとのデートを楽しんでいるジャックの耳に、ふと聞き覚えのある声が飛び込んで来たため、その声の主を探し顔を上げ――
「げ。エリオット」
 思わず声を上げてしまった。
 ジャックのよく通る声に、それでもエリオット・ヴァレンタイン(kz0025)は無視を決め込み、共にいた男性を出口へと促す。
「おい! 何無視してんだよ!」
 別に会話がしたかった訳でも無いし、知っていれば多分無視も決め込むことが出来ただろうが、エリオットにあからさまに無視されるという、この態度が頂けない。
 サオリたんに断りを入れて、ジャックは席を立つとエリオットを追いかけた。
「てめえ、俺様を無視してんなよなっ……あれ?」
 エリオットの肩を掴んで振り向かせると、隣に居た男性が驚いた顔でジャックを見ていた。
「……あ、あなたは……」
 見覚えがある。変装はしているが、隠しきれない品の良さ。眼鏡の奥の先見の明がある鋭い眼光。確か、最近急成長を遂げている港町の町長……そこまで思い至って、ジャックが商人の顔に戻りかけたその時、男が人差し指を唇に当てて「シー」と笑んだ。
「もう馬車は来ているのだろう? 僕は行くから、君はお友達ともう少しゆっくりしたら良い」
「いえ、友達じゃありませんから。せめて外までは送らせて下さい」
「大丈夫だよ」
 男の口調が少しだけ硬化したのに気付き、エリオットは小さく頭を下げた。
「我が儘に付き合って貰ったのは僕の方だからね。今日は有り難う。じゃあ、また」
 男は足早に店を出ると、来ていた馬車に乗り込んで行った。
 それを店内から見送り、そして小さなため息を一つ零したエリオットにジャックは「今のって……」と問いかけた所で、強く睨まれた。
「お前の席は何処だ?」
 その勢いにジャックはチラリと視線を向ける。そこに鎮座している“サオリたん”の等身大抱き枕を見つけたエリオットの瞳は一瞬にして虚無の色を宿したという。

 2人が席に着いた頃、ようやく居酒屋の中は平時の喧噪を取り戻していた。
 そして2人はエールを頼み直し、揃って口を付けた。
「……悪かったな。で、聞いても?」
 時折忘れそうになるが、ジャックは出来る商人だ。エリオットが居酒屋にいるという驚きで大声を上げてしまい、なおかつ相手が変装していた為気付くのが遅れたが、気付いてしまえばこれは何か事情があるのだろうと邪推するに余りある。
「ここのフィッシュ&チップスが食べたいとの事でお付き合いしただけだ」
「……へぇ」
 確かにここのF&Cは名物の一つで、ジャックもサオリたんのためにここを選んだぐらいには味が良い。
「本当にそれだけだ。ただ、今の彼には敵が多い。護衛と話し相手を兼ねて俺がお相手していただけだ」
 ……なんだか恋人に対して言い訳をしているような変な空気を察し、エリオットはエールをあおった。
「へぇ……黒の騎士ってのは暇なのか?」
 知人が何人か黒の騎士にいる。彼らは皆、エリオットを慕って志願していったのだが……
「違う。昔、個人的に世話になった縁があるんだ」
「へぇ、俺様に詳しく聞かせろよ」
「断る」
 商人としての顔をちらつかせ始めているジャックから何とかして話題を躱そうとしたエリオットは、思考を巡らせた結果、禁断の一言を口にした。
「ところで、お前は今日もその……“彼女”とデートだったんじゃないのか?」
「そーなんだよ! サオリたんもここのフィッシュ&チップスが食べたいって言ってさぁ!!」
 ……分かってはいたのだ。“彼女”に触れれば、ジャックの話題はそちらへ向くだろう事は。そして、その結果、帰れなくなる可能性が高くなることも。
「そういや思い出すな。あれはいつの聖輝節だったか……お前とここでこうしてサオリたんの素晴らしさについて語り合ったよなぁ!!」
 決して語り合ったりしていない。
 一方的にジャックが“特別講義”と称して1人語りしただけだ。
「っかーーーー! やっぱりてめえもサオリたんの魅力に……」
「いや、俺は」
「そう。残念ながらサオリたんは俺様と相思相愛の仲だからな……てめえがどれほど望んでも所詮片想いよ」
 可哀想にな……という同情の目線がエリオットに振り注ぐ。そんなエリオットの瞳は再び虚無に飲まれそうになっている。
「ソウダナ。お前達の仲を裂く気は無い」
 ほぼほぼ棒読み状態の台詞だったが、ジャックは気付かずうんうんと感極まった表情で頷いている。
「俺様を泣かせんじゃねぇよ! そうだな……てめえみたいな堅物だったらチオリ先輩とかお似合いなんじゃねえかって思ってたんだよ」
 チオリ先輩とはサオリたんの先輩として登場する才女だ。物知りで優しくフォローしてくれる辺りは公私ともにエリオットとお似合いではないかとジャックは考えたのだが。
「いや。俺には(ゲーム内恋愛というのは)早いようだ」
「……まさかの、熟女系……枯れ専……!?」
 まあるく断っただけにもかかわらず、勘違いによる衝撃に撃たれたジャックの顔にエリオットは首を傾げる。
「お前が何を言っているのか良くわからないが……俺は女性(というか恋愛)に興味がない」
「な、んだと……!?」
 確かにオモテにはなるエリオットだが、これまで特定の誰かとお付き合いをしているとか縁談の話しが持ち上がるなどいうことはジャックの耳にも入ったことはない。
 まさか、同性愛者だったとは……こいつぁ驚いた、と心底驚きつつ、まぁそうなると確かにエリオットの立場からして堂々と公開するわけにも行かないわな……しかも、枯れ専って更に罪深いっていうか何て言うか、え? もしかしてプラトニック系? え、嘘、本人も枯れてるの? こんな若さで!?
 酔いも手伝って、ブワァッと涙目になったジャック。エリオットの両肩を強く掴んでうんうんと大きく頷いて見せる。
「てめえも苦労してたんだな……飲め! 飲もう!! 今日は俺様が奢ってやる!!」
「??? いや、俺は……」
 何故急にジャックがこんなに男泣きし出したのかさっぱり分からないエリオットは困惑したまま、エールのジョッキを打ち鳴らした。

 ――結果。何年かぶりに“人前で眠るエリオット”というレアイベントが発生したとか何とか。
 そしてこの日以来、ジャックがエリオットに恋愛絡みの会話をすることも無くなったという。




━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1305/ジャック・J・グリーヴ/男/満ち足りた聖輝節を】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。
 大変遅くなってしまって申し訳ありません。

 どうしてもあの聖輝節が好き過ぎて葉槻流に再現してみました。
 お二人の愚直さと残念っぷりが再現出来ていたら幸いです。

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またどこかの世界で、もしくはOMCでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。

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ファナティックブラッド
2020年07月08日

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