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『きっと来る』
杉 小虎la3711)& 狭間 久志la0848


 杉 小虎(la3711)は武門の名家のお嬢様である。お嬢様にふさわしく、大変プライドが高く、やせ我慢が得意……というのは彼女をよく知る人物ならば周知の事実である。
 そんな彼女ゆえ、決して得意では無いホラー映画を狭間 久志(la0848)と観に行く事になった時も、盛り上がる彼を前に「他の映画にしません?」と一応小さな抵抗はしてみたものの、「もしかして怖いの?」と久志に聞かれては「そんなことはありませんけど?」とふんぞり返って否定してしまい、結果、ホラー映画を鑑賞するハメとなっていた。
 海外物のホラー映画ならば邦画のじっとりねっとりぞわっとさせるのに対し、どちらかといえばスプラッタ要素が強かったり、物陰からバン! と出てきて驚かせつつ、パニックになって逃げる主人公達を追いかけてくる怪物という作品が多い。
 それならば心を平静にしていれば……と対策を考えていた中、久志がチョイスしたのは、まさかの邦画ホラー。
 しかも、2000年代初頭に一世を風靡した井戸から這い出てくる怨霊で有名なジャパニーズホラーの何作目になるか分からないリメイク版だった。
 有名な作品である為、その大まかなストーリー自体は知っていた小虎は、ゆえに油断していた。
 世の中はナイトメアに侵食され、イマジナリードライブを持たない人々にとって現実とホラーは皮一枚のところにあるのだ。
 結果、ホラーの表現方法は格段にレベルが上がっており、また、五感に訴えるスーパーハイマックス上映という360℃3D描写されるホラー映画は、そりゃもう、いっそ意識を失いたいと願うほどに恐ろしかったのだった。
 しかし、悲しいかな、彼女は杉 小虎。何事も力業(暴力)で解決するのは得意だが、弱音を吐くことは出来ない気位の高さを持つお嬢様。
「怖かったなー。怖さ三千倍だったな」
 とか久志が話している横で気軽に同意も出来ず。
「流石の杉も怖かっただろ?」
「まぁ、こんなものじゃありません?」
 と余裕綽々の表情を作った一方、心の中では見事にorzの如く膝折れていたりするのだが、そんなことは小虎はおくびにも出さない。
「流石杉は杉だな」
 なんて言葉は呆れから来ているの半分、安堵半分といった所だったのだが、そういう所は素直に受け取る小虎。
「それほどでもありませんわ」
 と自分の虚勢がばれていないと信じて胸を張った。

 そして二人はライセンサー御用達のジムへと辿り着いた。

 普段ならライセンサー達で賑わうジムが、今日は誰もいない。
 時間的な問題だろうかと深くは考えずに小虎と久志はいつものトレーニングへと入って行く。
 まずは一通りのマシントレーニングで軽く汗を流した後、空手の型を一通り行う。
 やはり運動は良い。特に武道の型はどれも真剣に行えば行っただけ全身を使い、実戦でもいい動きを出来るようになる。
「そろそろ良い時間ですわね、シャワーを浴びましょうかしら」
「そうだな、俺もひとっ風呂浴びてくる」
 恐怖から解放され、スッキリとした心持ちとなった小虎は久志と別れ、女子シャワー室へと入ると、蛇口を捻った。
 適温が頭上から降り注ぎ、べたつく汗を全て洗い流していく。その心地よさに小虎は両目を瞑って浸る。
 ――突然血のような鉄臭さが鼻についた。
「……?」
 目を開けて驚く。シャワーから振り注ぐ水が赤いのだ。
「!!!!!」
 声にならない悲鳴を上げて、小虎は荷物をひっつかむとバスタオル一枚を巻いた姿でシャワー室を飛び出る。
 ジムには相変わらず人がおらず、小虎は涙目になりながら男子シャワー室へと走った。
「挟間様! 挟間様っ!」
「!?!? ど、どうした、杉!?」
 ずぶ濡れの髪もそのままに、バスタオル一枚というあられも無い姿で訪問してきた小虎の姿を見て、久志は慌てて自分もバスタオルを下半身に巻いて出迎えた。
「どうしたんだ、そんな格好で」
 濡れた髪に滴る雫。普段見ることは無い鍛えられた上半身。だがそれさえ目に入れる余裕無く、いつも通り落ち着いた声音に、小虎はホッと息を吐くと、自分が見た物について話し出す。
「あの、シャワーから、血が!!」
「シャワーから?」
「ジムの、シャワーが、赤くて!!」
「あぁ。赤水が出た?」
「あか、みず……?」
 合点がいったという久志の表情に毒気を抜かれた小虎は脱力したまま久志を見つめる。
「今日は水道管工事があるから、ジムのシャワーは最初赤水が出る可能性がありますって……杉、お知らせ見なかったのか?」
 ……そういえば、そんな張り紙を入口で見たような気もする。
 ……詳しい内容まで見ていなかったが、今日がその日だったのかと今知る。
「水道管工事自体はもう終わってるけど、最初のうちは赤水が出るから、シャワーは最初の10分くらい流しておけって書いてあったぞ」
 指差された先、男子シャワー室の前にも同様のお知らせが貼ってある。
 どうやら自分がちゃんと日程を把握していなかったのが原因だし、説明を聞いて冷静さを取り戻せば、なるほど血液かと思ったのは赤水という水道管工事後に良くある現象であるらしいことがわかり、小虎は両手を付いたまま「なるほど……よく、わかりましたわ……」と項垂れた。
 項垂れて、ハッと気付いた。
「イーヤー!!!」
 小虎は自分のあられも無い格好に今更ながら気付いて、久志に礼を告げる間もなく女子シャワー室へと駆け戻った。
 そんな小虎の背を呆然と見送ると、久志はくつくつと小さく笑って、再びシャワーへと戻った。
 今度こそ身綺麗に洗って、髪もドライヤーでブローして、パーフェクト小虎ちゃんの姿を取り戻すと、ようやく先に水分を取りながら寛いでいた久志の前へと帰り、頭を下げた。
「先ほどは……とんだ失礼を致しましたわ」
「いや、意外な杉の一面を見られたからな、役得と思っておくよ」
「出来れば記憶から抹消していただきたいです……」
 顔を覆って恥じている小虎を見て久志は声を上げて笑う。
「……もぅ!」
「いや、今日という特別な日。大切に心のアルバムに閉じさせて貰うよ」
「何ですの!? その無駄にポエマーな……そんな言葉じゃごまかされませんわ! 忘れて下さいませー!!」
 飛び掛かる小虎を軽々と躱した久志。二人は暫し追いかけっこを続け、最終的に笑い合いながら帰路へと付いた。


「……今日は面白かったな」
 寝巻きに袖を通した久志は部屋の窓から空を眺める。
 金色の細い月は小虎の髪の一筋ように輝いて見えた。

「……今日は酷い目に遭いましたわ……」
 お気に入りのネグリジェに身を包んだ小虎は、ぐったりとしながらクマの抱き枕を抱えてベッドへと転がる。

 二人はそれぞれ、ゆるゆると眠りへと落ちていった。


 そして、幸いなことに、二人は朝まで何の夢も見なかった。




━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【la3711/杉 小虎/女/オバケなんてないさ】
【la0848/狭間 久志/男/水も滴るいい男?】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。
 大変遅くなってしまって申し訳ありません。

 GLDの世界で担当した事のないお二人を描写するにあたり、試行錯誤させて頂きましたが、如何でしたでしょうか?

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またどこかの世界で、もしくはOMCでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。

おまかせノベル -
葉槻 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年07月08日

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