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『サンシャインビーチで会いましょう』
桃李la3954)&マーガレットla2896


 夏。日差しが強くなり、地表に出ているものはもれなく日光を受けてその表面温度をじりじりと上げて行った。家屋は中の温度も高まっていく。
 桃李(la3954)は、室温が一定まで上昇したところで、脳裏に海の情景が浮かんだ。久しぶりに海に行こう。そう思い立って、海水浴一式を持って家を出た。

 海水浴場は混み合っていた。皆、暑いと海に来るのだ。
 シックな和柄の水着を穿いて、長い髪をなびかせながら砂浜を歩く。かんかん照りの眩しい砂浜。そこを、細いけれど決してひょろ長いだけでない、適度に締まった白い身体が、美しいぬばたまの黒髪をたなびかせて歩く様は衆目を引いた。桃李も視線は感じていたが、いつものことと気にしていない。

 色んな海水浴客がいた。もちろん、人間だけではない。防水機能を備えたヴァルキュリア、放浪者、そして……エルゴマンサー。
「あれ?」
「……お前か」
 エルゴマンサー・ヴァージル(lz0103)である。シンプルな水着に灰色のパーカー、適当に買ったらしい、まるで似合っていないサンダルを履いている。購入資金の出所はどこだろうか。桃李には関係のないことだから聞きはしなかったけれど。
「あれ、珍しい所で会ったね、ヴァージルくん」
 ヴァージルが喜び勇んで「よ〜し! 海に行くぞ〜!」とはしゃいで来たとは到底思えない。彼が海に来る理由。親しいと言われている人魚エルゴマンサー・サイレン(lz0127)のことが頭に浮かんだ。
「人魚とか見てねぇよな」
 案の定、サイレンのことを持ち出された。
「え? サイレンちゃんとはぐれたの? 迷子?」
「レンが迷子なんだよ」
「それで、探しているのかい?」
「まあそんなところだ。あいつ、陸に上がると良いことがない」
「それは大変だねぇ」
「お前は? 一人か? 色男」
「色男? ふふ、それは褒めてくれてるのかい? 一人だよ。サイレンちゃん探すなら、手伝ってあげようか?」


 マーガレット(la2896)は途方に暮れていた。
 森生まれ、神殿暮らしの彼女、海を見たことがない。放浪者のマーガレットはこちらの世界に転移してきてからも、忙しくて海に行く機会がなかった。
 海の近くに住んでいるらしい友人に誘われて海に来たのは良いものの、その友人は急な任務で本部にとんぼ返りした。マーガレットに両手を合わせて、せめてあなたは楽しんでね。クラゲとナンパには気を付けて、と。
 既に水着には着替えていた後だったので、海の過ごし方でも学ぼうかと浜辺を歩く。白い肌が日光に眩しい。慣れない露出に少し恥ずかしさを覚えていた。つばの広い帽子を、磯風で飛ばないように押さえながら人混みの中を縫う。普段着ている、白と緑のワンピースに似た雰囲気の水着の裾をなびかせながら。
 波打ち際、小さく水面を蹴立てて歩いていると、そこのお嬢さん、と呼び止められた。最初、自分のこととは思わなかったマーガレットだが、もう一度呼びかけられると同時に肩を掴まれた。驚いて振り返る。一緒に遊ばないか? そう言って笑いかける男が二人。
 クラゲとナンパに気を付けて。友人はそう言った。知らない男に声を掛けられても相手にしないように、と。
「あ、いえ、結構です」
 丁重にお断りするが、向こうは引き下がらない。良いじゃん、一人でしょ? と。
「一人ですけど……」
 何て言ったら帰ってくれるのだろうか。マーガレットが困っていると、
「おい」
 別の声が掛かった。見れば、金魚鉢に入ってぷかぷか浮いている人魚である。年の頃は十代後半。薄紅のロングヘア。前髪も長くて目が隠れている。
「なんか見てて腹が立ったから口挟むけど、やめろ。そのきったない手を離せ」
 男たちは、その言葉に怯むどころか、女の子が増えたとばかりに喜んだ。放浪者の子? 君も一緒に来る? と。しかし、人魚は機嫌を損ね、
「はー? おまえ言葉が通じないのか? どっか行けって言ってるんだよ」
 そんな強がらなくても、ちゃんと誘ってあげるから。にやにやしながら返された言葉に、人魚は本格的に怒ったようだった。
「わたしに喧嘩を売ったな? 向こうでお話しするか?」
 彼女が怒ってもまだ男たちはにやにやしている。マーガレットが少し怖い、と思い始めたその時だった。
「何をしているのかな?」
 涼やかな男の声が掛かった。マーガレットはその人の顔を見て、
「桃李さん」
「あっ、ジル!」
 初夢で一緒にカレーを作った(?)桃李が男の手を捻り上げていた。その隣では、もう一人を別の男が成敗している。
「お前なぁ、ぼーっと歩いてんじゃねぇよ……歩いてねぇけど」
「おまえどこをほっつき歩いてたんだ」
「お前がどっか行ったんだろ」
 ジルと呼ばれた金髪の男は人魚と話しながら更に腕をねじ上げた。悲鳴が上がる。
「……加減がわからんな」
「ああ、ヴァージルくんそれはやりすぎだよ」
 桃李が朗らかに言うが、そう言う桃李が押さえた男だってもう自発的な行動が取れない程度に痛がっている。マーガレットが目をぱちくりさせている間に、知らない男どもは逃げていった。
「マーガレットちゃん、久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです。桃李さんもお元気そうで何よりです」
「知り合いか?」
 金髪の男が桃李をじろりと見る。顔立ちは良いが、表情のせいで台無しだ。
「うん」
 桃李は頷いた。
「夢で一緒にカレー作ったんだよね?」
「はい……」
 それ以来、本部で会うと何かと話すような間柄になっている。不思議な雰囲気を纏っていて、楽しいことが好きな人、というのがマーガレットからの桃李への印象だ。
 ヴァージルと人魚は、夢でカレー作ったってどう言うことだよ、と言い出すかと思ったが、
「……そうか」
 納得したようだった。
(納得していただけるなんて……)
 マーガレットは謎の感動を覚える。
(良い方々なんですね)
 実際はこの二人も初夢で他のライセンサーとカレーを作ったので、こいつらもか……と思っているだけだったりする。


 人魚の方はサイレンと名乗った。
「放浪者の方ですか? 私もそうなんです」
 マーガレットがそう言って首を傾げると、サイレンは金魚鉢に入ってぷかぷか浮いたまま、
「まあ、そんな感じだ」
 実際にはヴァージルもサイレンもナイトメア上位種のエルゴマンサーである。だが、この人の集まる海水浴場で、「わたしはおまえたちの敵だ」と名乗るわけにもいかず、サイレンはお茶を濁す。どう見ても人間のヴァージルは黙って切り抜けるつもりらしい。二人の正体を知っている桃李ですら、それを伝えるつもりはない。
 桃李はマーガレットが稀に見せる純粋培養的な天然を面白がっている節がある。このまま黙っておこう。その方が面白いし……そう思って、薄く笑みを浮かべているのであった。
 お気に入り、のラベルを貼るところまではいかないが、このエルフの女性を気に入っている彼、楽しんで欲しいと思うのは正直なところである。
「私、海に来るのが初めてで……」
「あれ、そうだったのかい?」
「はい。あ、泳げはするんですよ」
「海のことならわたしに聞いていいよ。クラゲに気を付けろ」
 サイレンが友人と同じ事を言う。胸を張り、
「まあわたしには毒なんて大して効かないんだけどな」
 もしかして:リジェクションフィールド。
「折角だから、海を満喫しないとね」
 桃李が言うと、サイレンが我が意を得たりとばかりに頷いた。
「そうだ。桃李よく言った。マーガレットは海を満喫しろ。するべきだ。何か人類がする海遊びはないのか」
「ビーチバレー」
 ヴァージルがぼそりと呟く。地球で人類を多く捕食している彼は、何故か異様に人間の文化に詳しかった。
「ああ、良いね。ちょっと待ってて」
 桃李はふらりとその場を立ち去ると、海の家でビーチボールを購入して戻って来た。四人がある程度動けるところに移動して、ボールを膨らませる。
「桃李さん、ビーチバレーって何ですか? ビーチで踊るんでしょうか?」
 マーガレットが首を傾げた。
「そっちのバレーじゃなくて、バレーボールのバレーだね。これをね、地面につかないように手で弾き飛ばすんだよ。ここに線を引いて……この線から向こうに落とせればポイントが入る。そうだね、折角だからグッパーでチーム分けしようか」
 そして、桃李・サイレンVSマーガレット・ヴァージルというチーム分けになる。
「よろしくね、サイレンちゃん」
「わたしはこの金魚鉢あんまり早く動けないから、おまえ馬車馬の様に動け」
「はいはい」
「よろしくお願いします」
「ああ……」
 ぺこんと挨拶するマーガレットと、気まずそうに応じるヴァージル。そんな二人を見て、桃李はほくそ笑んでいた。いちいち反応が良くて面白いヴァージルと、純粋培養のマーガレット。組ませたら面白いと思っていた。別に仕組んだわけじゃない。わけじゃないけど、面白いことになりそうだ。


「いくよー」
 桃李が軽くサーブする。ヴァージルがレシーブして、
「向こう側に叩き落とせ」
「はい」
 マーガレットが落ちてきたボールを両手で軽く弾いた。叩き落とす、にはほど遠かったが、用は果たした。桃李がレシーブすると、ボールは高く上がった。
「くらえジル!」
 サイレンがアタックを決める。
「そう言うスポーツじゃねぇ! ドッジボールじゃねぇんだよ!」
 ヴァージルがスライディングして、くるぶしでレシーブ。マーガレットへ、
「おい、トスしろトス。向こうに落とさねぇで真上だ」
「真上……こうですか?」
 マーガレットが桃李の真似をして軽く上に上げる。ヴァージルがそこへ駆け込んで、アタックを決めた。
「わーははは!」
 しかし、サイレンが移動することによって、金魚鉢に当たってボールが弾き返される。金魚鉢レシーブである
「おい! レンふざけんなよ!」
「まあまあヴァージルくん。ビーチバレーは身体のどこでも受けて良いってルールだから」
 桃李が間に入る。
「まあ、そうなんですね。という事は、ビーチではないバレーはもう少し厳しいのでしょうか」
「厳しいというか、ルールは結構違うみたいだね」
「金魚鉢が身体に入るのかよぉ!」
「陸上ではこれがないと困っちゃうから身体の一部みたいなもんだよ! はーっはっはっは!」
 豪快に笑う。マーガレットはその姿を見て、
(可愛い方ですね)
 手を口に当ててくすくすと笑う。そんなマーガレットを見て、桃李は彼女が楽しんでいるらしいことに満足している。

 ビーチバレーは思ったよりも盛り上がった。サイレンが反則すれすれのことをやってはヴァージルが怒ると言う漫才みたいなことをしながら、誰も点数なんて数えていなかったので勝敗は決しないまま。マーガレットはずっと笑っていたし、桃李もエルゴマンサー二人のやりとりを面白がっている。
(誘って正解だったなぁ)
 三人とも。

 やがて、陽の光に色がついた。橙色。もうすぐ日が沈む。
「ああ、そろそろお開き、かな?」
「そうしてくれ……」
 ヴァージルがぐったりして言った。
「ヴァージルさん……大丈夫ですか?」
 マーガレットが気遣わしげ声を掛ける。ヴァージルは手を振った。
「大丈夫だ……おい、レン帰るぞ」
「仕方ないな。じゃあな二人とも、楽しかったよ。夜の海は危ないからね。おまえたちも帰れ」
「ありがとうございました」
 マーガレットがぺこんと頭を下げる。
「じゃあな」
「うん、サイレンちゃんもヴァージルくんも」
 桃李は手を振った。
「またね」

 水平線に日が沈む。桃李はビーチボールから空気を抜くと、午前の様なことがあると危ないから、と言ってマーガレットを途中まで送って行った。傍から見れば美男美女が連れ立って歩いているように見える。誰もちょっかいはかけなかった。
「楽しかったです」
 マーガレットはほう、と息を吐いた。無自覚ながら、かなりはしゃいだようだ。
「それは良かった」
 桃李はにっこりと笑う。

 昼からの良い天気は夜も続いた。空を見ると、夏の星々が輝いている。
 夏のある一日が終わろうとしていた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
夏だ! 海だ! 海って何するの!? フナムシに怯える!? くらいしか経験がないので、私が個人的に憧れているビーチバレーなんかどうかな! と言う事で。
お二人とも普段露出ないから水着になったら普段のお知り合いはちょっとどぎまぎしたりするのかな……とか思っちゃいますね。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
イベントノベル(パーティ) -
三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年07月09日

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